「社長就任後、5つのM&Aをしてきました」─。1918年創業の老舗企業・東海カーボン社長の長坂一氏はこう語る。脱カーボンの時代に事業を拡大。とかく悪者にされがちなカーボンだが、サステナブルな社会の実現になくてはならない素材だ。100年続いた事業の改革を、どう成長につなげてきたのか─。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
鉄、タイヤ、半導体、車…
成長するカーボン事業
「4つのメイン事業があり、いずれも今後、成長していくと見ております」─。
こう語るのは東海カーボン社長の長坂一(はじめ)氏。1918年の創業以来、カーボンで世の中に貢献。脱カーボンの時代でも成長を遂げ、長年1000億円前後だった売上規模を倍増させている。
2016年度決算は売上高886億円、営業利益11億円。それが、18 年度には売上高2313億円、営業利益730億円と約3倍に拡大。
この急成長をカジ取りしてきたのが、15年に社長に就任した長坂氏だ。
長坂氏は、慶應義塾大学商学部卒業後、1972年東海電極製造(現・東海カーボン)入社。
「主に黒鉛電極とカーボンブラックと原料に従事。主要製品の営業をやってきた」プロパーだ。
社長に就任すると「『今のままではどうにもならない。構造改革をせざるを得ない』と意識改革も含めた構造改革を進めてきた」。
社長就任直後は経営基盤を固めるため、徹底的な合理化を推進。その結果、15年度1049億円あった売上高は16年度に886億円、営業利益は41億円から11億円まで縮小。だが翌17年には売上高1063億円、営業利益111億円に急回復させた。
「自分でも付いているなと思うのですが、17年後半から経済がアップトレンドで動き始めた。16年の1年間で膿を出して身軽になり、17年の後半から時流に乗れた」と振り返る。
そして「約100年近く黒鉛電極とカーボンブラックの2本立てで走ってきたが、ポートフォリオを拡充」していった。
東海カーボンの主力事業は「黒鉛電極」「カーボンブラック」「ファインカーボン」「精錬ライニング」の4事業。それに「工業炉関連」、摩擦材や負極材などの「その他」事業が加わる。
「黒鉛電極」は鉄スクラップを電気炉で溶かし、リサイクルする際に必要な消耗品。
鉄は〝高炉法〟と〝電炉法〟で作られるが、電炉法は高炉法に比べ、CO2の排出量が約4分の1。大手製鉄メーカーも脱炭素の流れで高炉法から電炉法への切り替えを進めるなど、「カーボンニュートラルの関係で中長期で見るとかなりポテンシャルが高い事業」だ。
「カーボンブラック」は主にタイヤに使われる素材。使用量はタイヤの重さの約3割を占め、耐久性を10倍近く高められる必要不可欠な素材だ。
「ファインカーボン」は半導体などに使われ、旺盛な半導体需要があり、「精錬ライニング」はアルミニウム精錬の効率化に使われる消耗品で「クルマの軽量化でアルミ製品の需要が増え、成長が見込まれている」。
「黒鉛電極」「カーボンブラック」」「ファインカーボン」は古くからある既存事業だが、「精錬ライニング」は19年に参入した新規事業。
長坂氏はM&Aで既存事業の強化と新規事業育成を推進。〝両利き〟の経営で会社を成長させてきた。
需要はあるが、利益が出ない
黒鉛電極事業
「社長になる前から、自分なりにアメリカに生産拠点を持ちたいという考えを持っていた」と語る長坂氏。
基盤強化がいち段落すると、17年アメリカの黒鉛電極製造販売会社『SGL GE(現・Tokai Carbon GE)』社を買収。また18年には、米カーボンブラック製造会社(現・Tokai Carbon CB)を買収。
さらに、18年には世界トップのCVD-SiC(炭化ケイ素)量産技術を持つ韓国企業を連結子会社化(現・Tokai Carbon Korea)。
そして19年にドイツの炭素黒鉛メーカー(現・Tokai COBEX)、20年にフランスの炭素黒鉛メーカー(現・Tokai CarbonSavoie)を買収し、精錬ライニング事業に参入した。
ポートフォリオ改革には、黒鉛電極事業の浮き沈みを和らげる狙いがある。黒鉛電極は成長事業でありながら、高収益を上げる一方、赤字事業にもなるからだ。
実際、20年2月に発表した22年度の業績目標は売上高3000億円、営業利益540億円だったが、21年度の業績は売上高2589億円、営業利益246億円。業績に大きく影響したのは黒鉛電極が営業赤字に陥り「鳴かず飛ばずの状況」だからだ。
だが、今年1月にも日本製鉄が約880億円かけてタイの電炉を買収するなど需要はある。
しかも、高炉から電炉への置き換えが進めば、電炉の規模も拡大する。電炉が大きくなれば必要とされる黒鉛電極もハイグレードのものが求められる。
現在、大型電炉で使われる黒鉛電極を製造できるのは世界に3社。東海カーボンと昭和電工と米国のグラフテック社だけだ。
にも拘わらず収益の出ない現状を打開しようと「売価の回復と高付加価値化」で収益改善を図っている。
規模を求める理由
「長年、売上高は1000億円前後。仮に利益を10%と考えると、売上げを3000億円にしたら利益も3倍生まれる。利益が拡大すれば、次の投資もできるし、従業員の給与も上げられる。その意味で、売上げ規模も大事だと考えました」
長坂氏が社長になって痛感したのは、事業規模が小さいと「顧客や取引先企業と渡り合えない。新興の競合とも戦えない。投資家からも相手にされない。経験と技術力には自信はあったが、それだけでは通用しない」という現実だった。
そうした思いから、長坂氏はM&Aによる規模拡大でプレゼンスを高めつつ、ポートフォリオの分散で収益の安定化を図ってきた。
今や売上げも社員も海外が国内を上回る。30年までにCO2排出量を25%削減、50年までにネットゼロを目指す。規模拡大で社会的責任も高まる中、カーボン事業で社会に貢献しながら、カーボンニュートラルの実現も進めていく。
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本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
鉄、タイヤ、半導体、車…
成長するカーボン事業
「4つのメイン事業があり、いずれも今後、成長していくと見ております」─。
こう語るのは東海カーボン社長の長坂一(はじめ)氏。1918年の創業以来、カーボンで世の中に貢献。脱カーボンの時代でも成長を遂げ、長年1000億円前後だった売上規模を倍増させている。
2016年度決算は売上高886億円、営業利益11億円。それが、18 年度には売上高2313億円、営業利益730億円と約3倍に拡大。
この急成長をカジ取りしてきたのが、15年に社長に就任した長坂氏だ。
長坂氏は、慶應義塾大学商学部卒業後、1972年東海電極製造(現・東海カーボン)入社。
「主に黒鉛電極とカーボンブラックと原料に従事。主要製品の営業をやってきた」プロパーだ。
社長に就任すると「『今のままではどうにもならない。構造改革をせざるを得ない』と意識改革も含めた構造改革を進めてきた」。
社長就任直後は経営基盤を固めるため、徹底的な合理化を推進。その結果、15年度1049億円あった売上高は16年度に886億円、営業利益は41億円から11億円まで縮小。だが翌17年には売上高1063億円、営業利益111億円に急回復させた。
「自分でも付いているなと思うのですが、17年後半から経済がアップトレンドで動き始めた。16年の1年間で膿を出して身軽になり、17年の後半から時流に乗れた」と振り返る。
そして「約100年近く黒鉛電極とカーボンブラックの2本立てで走ってきたが、ポートフォリオを拡充」していった。
東海カーボンの主力事業は「黒鉛電極」「カーボンブラック」「ファインカーボン」「精錬ライニング」の4事業。それに「工業炉関連」、摩擦材や負極材などの「その他」事業が加わる。
「黒鉛電極」は鉄スクラップを電気炉で溶かし、リサイクルする際に必要な消耗品。
鉄は〝高炉法〟と〝電炉法〟で作られるが、電炉法は高炉法に比べ、CO2の排出量が約4分の1。大手製鉄メーカーも脱炭素の流れで高炉法から電炉法への切り替えを進めるなど、「カーボンニュートラルの関係で中長期で見るとかなりポテンシャルが高い事業」だ。
「カーボンブラック」は主にタイヤに使われる素材。使用量はタイヤの重さの約3割を占め、耐久性を10倍近く高められる必要不可欠な素材だ。
「ファインカーボン」は半導体などに使われ、旺盛な半導体需要があり、「精錬ライニング」はアルミニウム精錬の効率化に使われる消耗品で「クルマの軽量化でアルミ製品の需要が増え、成長が見込まれている」。
「黒鉛電極」「カーボンブラック」」「ファインカーボン」は古くからある既存事業だが、「精錬ライニング」は19年に参入した新規事業。
長坂氏はM&Aで既存事業の強化と新規事業育成を推進。〝両利き〟の経営で会社を成長させてきた。
需要はあるが、利益が出ない
黒鉛電極事業
「社長になる前から、自分なりにアメリカに生産拠点を持ちたいという考えを持っていた」と語る長坂氏。
基盤強化がいち段落すると、17年アメリカの黒鉛電極製造販売会社『SGL GE(現・Tokai Carbon GE)』社を買収。また18年には、米カーボンブラック製造会社(現・Tokai Carbon CB)を買収。
さらに、18年には世界トップのCVD-SiC(炭化ケイ素)量産技術を持つ韓国企業を連結子会社化(現・Tokai Carbon Korea)。
そして19年にドイツの炭素黒鉛メーカー(現・Tokai COBEX)、20年にフランスの炭素黒鉛メーカー(現・Tokai CarbonSavoie)を買収し、精錬ライニング事業に参入した。
ポートフォリオ改革には、黒鉛電極事業の浮き沈みを和らげる狙いがある。黒鉛電極は成長事業でありながら、高収益を上げる一方、赤字事業にもなるからだ。
実際、20年2月に発表した22年度の業績目標は売上高3000億円、営業利益540億円だったが、21年度の業績は売上高2589億円、営業利益246億円。業績に大きく影響したのは黒鉛電極が営業赤字に陥り「鳴かず飛ばずの状況」だからだ。
だが、今年1月にも日本製鉄が約880億円かけてタイの電炉を買収するなど需要はある。
しかも、高炉から電炉への置き換えが進めば、電炉の規模も拡大する。電炉が大きくなれば必要とされる黒鉛電極もハイグレードのものが求められる。
現在、大型電炉で使われる黒鉛電極を製造できるのは世界に3社。東海カーボンと昭和電工と米国のグラフテック社だけだ。
にも拘わらず収益の出ない現状を打開しようと「売価の回復と高付加価値化」で収益改善を図っている。
規模を求める理由
「長年、売上高は1000億円前後。仮に利益を10%と考えると、売上げを3000億円にしたら利益も3倍生まれる。利益が拡大すれば、次の投資もできるし、従業員の給与も上げられる。その意味で、売上げ規模も大事だと考えました」
長坂氏が社長になって痛感したのは、事業規模が小さいと「顧客や取引先企業と渡り合えない。新興の競合とも戦えない。投資家からも相手にされない。経験と技術力には自信はあったが、それだけでは通用しない」という現実だった。
そうした思いから、長坂氏はM&Aによる規模拡大でプレゼンスを高めつつ、ポートフォリオの分散で収益の安定化を図ってきた。
今や売上げも社員も海外が国内を上回る。30年までにCO2排出量を25%削減、50年までにネットゼロを目指す。規模拡大で社会的責任も高まる中、カーボン事業で社会に貢献しながら、カーボンニュートラルの実現も進めていく。
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