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成算はあるか?〝迷途知返〟を看板に日本市場に再参入する【韓国・現代自動車】

財界オンライン 2022年3月18日 18時0分

一度道を間違えたら、正しい道に戻って改める─。こんな言葉を掲げて約12年ぶりに日本に再参入することを決めた韓国の現代自動車。かつて日本に参入したときは業界の耳目を集めたものの、結局は撤退に追い込まれた。そんな同社が2度目の参入を決めたのは2つの潮流があるからだ。電動化とデジタル化だ。だがその波に乗って既存の日系メーカーや中国勢も攻勢に乗り出している。

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空白地帯だった日本への再参入

 迷途知返(めいとちへん)─。日本再参入に当たり、現代自動車社長の張在勲氏は、このキーワードを掲げる。「一度道を間違えた後に、正しい道に戻って改める」という意味の諺だ。

 現代自動車グループは系列の起亜自動車と合わせた世界販売台数では約666万台(2021年)を達成し、コロナ禍でも台数を前年比で5%増加。米GMを抜いて世界4位につける。主要市場の米国が好調で、シェアの半分をスズキが占めるインドでも急速に台数を伸ばしている。そんな同社にとって日本は空白地帯で、数年前から再挑戦に向けた機会を窺っていた。

 しかし、同社にとって日本は鬼門だった。冒頭の言葉を発したのも、日本市場での苦い経験があるからだ。01年に日本の乗用車市場に参入した同社は05年には韓国の人気俳優のペ・ヨンジュンさんをテレビCMに起用するなどして攻勢を強めた。

 ところが日本の消費者からは「日本車と比べると、内装や装備が物足りない」「店舗や整備工場が少ないのでメンテナンスに困る」「韓国のクルマに興味はない」といった声が上がった。実際に現代自動車の車の売却価格は低迷。例えば、300万円の新車の日本車の場合は約3年経つと200万円弱の値がついたが、現代自動車の場合は100万円以下だったという。

 当初、低価格を目玉にし、部品の管理業務をヤナセに任せるなどしていたが、フタを開けてみると個人向けの台数は伸びず、「沖縄県のタクシー会社や韓国の大使館関係者といった法人顧客が多かった」(輸入販売業者)。累計販売台数も約1万5000台に留まり、09年には乗用車販売から撤退した。

 足元で使われている現代自動車の車両は僅か600台ほど。張氏は「お客様の声にしっかりと耳を傾けることができていなかった」と敗因を分析する。そんな現代自動車が、なぜ今になって「挑戦すべき市場」(同)として再び日本に参入するのか。

 背景には2つの社会的な変化がある。1つ目の変化が電動化だ。前回の参入時とは違って、排ガスを出さないゼロエミッション車(ZEV)の存在感が飛躍的に高まっている。21年の日本の国内販売台数は約444万台。そのうちEVの販売台数は前年比で4割増となった。ただ、台数そのものは2万台超と全体の1%にも満たない。未公表だが、その半数以上は米EVのテスラと見られる。

 そこで現代自動車は今回の日本参入ではガソリン車は扱わず、電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)というZEVだけに絞った。具体的には、SUV(スポーツ多目的車)のEV「アイオニック5」(479万円から)とFCVの「ネッソ」(776万円から)だ。航続距離はアイオニック5では1回の充電で走れる距離は618キロ、ネッソは1回の水素充填で約820キロ走れる。もちろん、「今更ハイブリッド車でトヨタの牙城は崩せないという判断もあったのだろう」(日系自動車幹部)。

 それでも日本政府が環境規制を強め、急速充電器の整備や電動車の購入者に補助金を充てる流れが強まることで「環境車の需要が望める」(日本法人マネージングダイレクターの加藤成昭氏)と見立てた。特に現代自動車のFCVの世界シェアは21年通年で過半数を占めており、トヨタ自動車を上回っている。



米テスラを意識?

 そして2つ目の変化がデジタル化だ。現代自動車は今回の参入に当たって販売店(ディーラー)は設けず、オンライン販売で完結させる。日本でも「時間と場所の制約を受けずにクルマを購入するシーンが増えている」(同)からだ。特に「米テスラのオンライン販売が日本でも広がり、若い人を中心にクルマ購入に対する意識が変わっている」(アナリスト)点が大きい。

 さらに、新たな販売方式として採用したのがディー・エヌ・エー(DeNA)系のカーシェアサービス「Anyca(エニカ)」との協業。購入する前にEVやFCVの乗り心地などを体験してもらうための機会を用意する。「使用していない間はカーシェアに供することで収入が得られる。新たなファイナンスプランの開発にもつなげたい」とDeNA幹部は利点を語る。

 ただ、日本勢も黙っているわけではない。国内での個人販売はしばらく先になるが、春先にはトヨタがサブスクリプション(定額課金)サービスで同社初となる量産型EV「bZ4X」を投入する。日産自動車は3月から500万円台のSUVのEV「アリア」を販売するほか、SUBARUもSUVのEVの販売を予定している。

 さらには中国勢も中国第一汽車集団が大阪市内に日本初の販売店を設置済み。22年夏にはSUVのEVを投入し、同年中には東京都内でも店舗を設けるなど、リアルでの進出で日本に攻勢をかけようとしている。

 その中で現代自動車が抱える独自の課題としては、点検・整備などのメンテナンス拠点をどれだけ広げていけるかがある。同社は今夏に横浜市内に直営拠点を設置するが、基本的には「全国の整備工場と協力していく」(加藤氏)考え。23年以降に主要都市に広げていく計画だが、「どれだけの協力整備工場を確保できるかがポイント」(前出のアナリスト)だ。


期間限定で原宿駅近くにオープンしている「ヒョンデ ハウス 原宿」

 自動車業界はまさに群雄割拠の様相。電動化の進展でソニーグループをはじめ、アップルなど異業種の参入も取り沙汰される。人口減少や若者のクルマ離れが顕著になりつつあるが、「ヒュンダイ」を「ヒョンデ」と改めた現代自動車の再参入など、多様な電動車の投入で国内市場が活発化するかもしれない。

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