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久保利 英明の【わたしの一冊】『ルース・ベイダー・ギンズバーグ  アメリカを変えた女性』

財界オンライン 2022年4月3日 7時0分

『最強の87才』が米国にもたらした憲法意識  
 米国史上2人目の女性連邦最高裁判事を務め、『最強の87才』という映画にまでなったルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)は2020年9月に87才で癌により亡くなった。

 女性の権利のために奮闘したリベラル判事としてグッズが大人気になったが、ただのポップカルチャー・アイコンではない。

 本書は彼女自身が選んだ弁護士時代の弁論と共に、連邦最高裁判事として自ら執筆した法廷意見や反対意見を収載している。また、最晩年の記念講演や対談により、その思想と人生と現在を示している。彼女は指名承認の上院公聴会で「(連邦最高裁の裁判官は)憲法が目指す〝より完全な国家〟を絶えず実現するため、政府とその政策に関する問題に最大限に幅広く、最大限に深く参加することが必要」と陳述した。

 RBGはその覚悟を27年間貫いたのである。

 保守派といわれる現連邦最高裁長官ロバーツ判事もしばしばRBGの意見を支持した。彼は「政治部門(大統領と連邦議会)は国民のために活動し、司法は国民のためではなく、憲法のために活動するのである」と述べている。

 RBGの同僚であったブライヤー最高裁判事(83)は今年1月に退職の意向を表明した。その記者会見で、彼は内ポケットから使い古した米国憲法の小冊子を取り出し、「私はこの憲法を肌身離さず持ち歩いている」と述べた。バイデン大統領は3月1日、ロシアのウクライナ侵攻を激しく批判した「一般教書演説」において、同判事を称え、後任として指名した女性・黒人のジャクソン判事がブライヤー判事の優れた遺産を引き継ぐだろうと述べた。彼女はRBGの遺産も引き継ぐであろう。

 私は13年間衆参選挙の全てについて「一票の格差」を違憲として選挙無効訴訟を提訴してきたが、違憲国会議員は居座ったままだ。国家の基本原理である憲法を守る意思と行動における「日米裁判官の格差」に愕然とせざるを得ない。


久保利 英明  日比谷パーク法律事務所代表、弁護士 https://kubori.jp/

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