コロナ禍で多くの外食企業が営業赤字に陥る中、営業黒字を維持しているのが全国に361店舗を展開する中華料理店「大阪王将」。同店を運営するイートアンドホールディングス(HD)は単なる外食企業ではない。餃子やチャーハンなどの冷凍食品の製造も行う食品メーカーでもある。また、店舗運営でも独自路線を敷く。ものづくり企業を自負する同社の〝街中華ビジネス〟とは?
冷凍餃子でシェア第2位
「当社は二十数年前から餃子の具材と皮を製造する工場を構えている。外食企業の中でもメーカー志向が強く、その思想がコロナ禍でも冷凍食品事業で強さを発揮している」─。
こう語るのは中華料理店「大阪王将」などを全国で運営するイートアンドHD社長COO兼イートアンドフーズ社長の仲田浩康氏だ。
コロナ禍で苦しむ外食企業は時間短縮営業に伴う協力金で最終損益が黒字に転じるケースはあるが、本業の儲けを示す営業損益で黒字を維持するケースは少ない。その中でイートアンドHDは2022年2月期第3四半期業績で売上高228億円、営業利益約6・3億円と、共に前年同期を上回っている。
なぜイートアンドHDは営業黒字を維持しているのか。その要因は「食品事業」だ。仲田氏は「関西、関東第一、関東第二の計3カ所に冷凍食品の製造工場があるが、足元では生産が追い付いていない」と話す。冷凍食品が好調な背景には、コロナ禍で食事を自宅で済ます〝おうち時間〟の増加がある。
主力商品の「大阪王将 羽根つき餃子」が伸長しているほか、昨年2月から販売開始した新商品「大阪王将 羽根つきスタミナ肉餃子」もヒット。今年10月には関東第三工場を稼働させる予定。最新設備により冷凍餃子の製造スピードが約2倍になるなど、生産体制がより効率的になる。
コロナ以前の同社の売上高は外食事業が6割、食品事業が4割だったが、足元では「食品事業が6割を超える」(同)ほど。営業利益も約8億円と奮闘。外食で培ったノウハウを生かした商品の磨き上げを進めており、今では油や水、さらにはフタも使わずに羽根つき餃子が焼ける商品もある。
実は冷凍餃子の市場は年々拡大しており、21年は600億円を超える見込み。そのうち同社のシェア(21年3月―22年2月)は36・3%と第2位。冷凍水餃子(同)に至っては市場シェア58・2%と首位だ。ラーメンやチャーハン、焼売なども含めた冷凍中華カテゴリー全体で見てもシェア第2位。「コロナ禍で外食が厳しいときに冷凍食品が伸びている」(仲田氏)。
そもそも同社が冷凍食品に参入したのは1993年のこと。外食以外でも「大阪王将」というブランドの餃子を家庭でも味わえるようにと始めた。生協向けに提供販売を開始したが、当時は外部の工場に製造を委託していた。
そんな中で現会長CEOの文野直樹氏から「冷凍食品事業を大きくして欲しい」との要請を受けた仲田氏の入社(2000年)は転換期となった。量販店向けに冷凍食品の販売を開始し、自社工場に冷凍食品の製造ラインを構築。その後は冷凍餃子に業界で初めてタレをつけ、それがヒット。さらにタレを2つつけるようになったのは、顧客からの声を形にしたもの。外食企業ならではの視点と自社製造の強みを生かしていった。
食品事業では業界独特の商習慣があり、外食のそれとは全く違う。小売業出身の仲田氏はそれを熟知しており、消費者に受け入れられる「値ごろ感」も肌感覚で分かっていたことも、商品開発の成功に影響している。
通常、外食企業は株式の銘柄コードで9000番台が与えられることが多いが、同社は「2882」。食品製造業に与えられることが多いコードとなっているのも、同社の立ち位置が示されている事例と言えるだろう。
地域の特性に合わせた店舗展開
「大阪王将」はコロナ危機当初、一時は都心の繁華街の店舗を中心に危機的な状況に陥った。しかし、その苦境は他社よりは小さく済んだ。なぜなら「コロナ禍以前より、店舗には持ち帰りのカウンターを設けるなど力を入れていたため、ダメージは比較的少なかった」(同)からだ。
しかも、「地域の実情に合わせ、『個店』のようにマネジメントしている」と仲田氏は語る。全店が同じメニューで同じ価格を貫くチェーン店の常識とは一線を画す「マイクロマネジメント」を導入。同社では各店舗で同じメニューでも価格が異なり、その店独自のメニューがあったりする。
仲田浩康・イートアンドホールディングス社長COO兼イートアンドフーズ社長
さらに同社からの指定食材以外は食材の調達も店舗に任せている。東京・両国国技館近くの店では餃子、王将特製油淋鶏、自家製鶏チャーシュー、炒飯の上に目玉焼きをのせた「両国横綱定食」があり、キッズプレートを提供する店舗もある。
これらの施策で地域住民の支持を得たこともあり、外食事業も営業黒字をキープ(2022年2月期第3四半期業績)。ただ、コロナ禍で人々の生活様式が変わったこともあり、今後の出店戦略では都心の繁華街ではなく、「乗降客数が数万人規模
の帰着駅近くの生活立地に出店していく」(同)という。
他社にはない冷凍食品事業と地域に密着した外食事業の二本柱の経営─。それを支える工場への投資は大きく、生産設備の増強、増産体制の構築について常に取り組んでいる。
誰からも愛される〝街中華〟で、どれだけ大衆の胃袋を掴むことができるか。同社のものづくりの精度が試されることになる。
冷凍餃子でシェア第2位
「当社は二十数年前から餃子の具材と皮を製造する工場を構えている。外食企業の中でもメーカー志向が強く、その思想がコロナ禍でも冷凍食品事業で強さを発揮している」─。
こう語るのは中華料理店「大阪王将」などを全国で運営するイートアンドHD社長COO兼イートアンドフーズ社長の仲田浩康氏だ。
コロナ禍で苦しむ外食企業は時間短縮営業に伴う協力金で最終損益が黒字に転じるケースはあるが、本業の儲けを示す営業損益で黒字を維持するケースは少ない。その中でイートアンドHDは2022年2月期第3四半期業績で売上高228億円、営業利益約6・3億円と、共に前年同期を上回っている。
なぜイートアンドHDは営業黒字を維持しているのか。その要因は「食品事業」だ。仲田氏は「関西、関東第一、関東第二の計3カ所に冷凍食品の製造工場があるが、足元では生産が追い付いていない」と話す。冷凍食品が好調な背景には、コロナ禍で食事を自宅で済ます〝おうち時間〟の増加がある。
主力商品の「大阪王将 羽根つき餃子」が伸長しているほか、昨年2月から販売開始した新商品「大阪王将 羽根つきスタミナ肉餃子」もヒット。今年10月には関東第三工場を稼働させる予定。最新設備により冷凍餃子の製造スピードが約2倍になるなど、生産体制がより効率的になる。
コロナ以前の同社の売上高は外食事業が6割、食品事業が4割だったが、足元では「食品事業が6割を超える」(同)ほど。営業利益も約8億円と奮闘。外食で培ったノウハウを生かした商品の磨き上げを進めており、今では油や水、さらにはフタも使わずに羽根つき餃子が焼ける商品もある。
実は冷凍餃子の市場は年々拡大しており、21年は600億円を超える見込み。そのうち同社のシェア(21年3月―22年2月)は36・3%と第2位。冷凍水餃子(同)に至っては市場シェア58・2%と首位だ。ラーメンやチャーハン、焼売なども含めた冷凍中華カテゴリー全体で見てもシェア第2位。「コロナ禍で外食が厳しいときに冷凍食品が伸びている」(仲田氏)。
そもそも同社が冷凍食品に参入したのは1993年のこと。外食以外でも「大阪王将」というブランドの餃子を家庭でも味わえるようにと始めた。生協向けに提供販売を開始したが、当時は外部の工場に製造を委託していた。
そんな中で現会長CEOの文野直樹氏から「冷凍食品事業を大きくして欲しい」との要請を受けた仲田氏の入社(2000年)は転換期となった。量販店向けに冷凍食品の販売を開始し、自社工場に冷凍食品の製造ラインを構築。その後は冷凍餃子に業界で初めてタレをつけ、それがヒット。さらにタレを2つつけるようになったのは、顧客からの声を形にしたもの。外食企業ならではの視点と自社製造の強みを生かしていった。
食品事業では業界独特の商習慣があり、外食のそれとは全く違う。小売業出身の仲田氏はそれを熟知しており、消費者に受け入れられる「値ごろ感」も肌感覚で分かっていたことも、商品開発の成功に影響している。
通常、外食企業は株式の銘柄コードで9000番台が与えられることが多いが、同社は「2882」。食品製造業に与えられることが多いコードとなっているのも、同社の立ち位置が示されている事例と言えるだろう。
地域の特性に合わせた店舗展開
「大阪王将」はコロナ危機当初、一時は都心の繁華街の店舗を中心に危機的な状況に陥った。しかし、その苦境は他社よりは小さく済んだ。なぜなら「コロナ禍以前より、店舗には持ち帰りのカウンターを設けるなど力を入れていたため、ダメージは比較的少なかった」(同)からだ。
しかも、「地域の実情に合わせ、『個店』のようにマネジメントしている」と仲田氏は語る。全店が同じメニューで同じ価格を貫くチェーン店の常識とは一線を画す「マイクロマネジメント」を導入。同社では各店舗で同じメニューでも価格が異なり、その店独自のメニューがあったりする。
仲田浩康・イートアンドホールディングス社長COO兼イートアンドフーズ社長
さらに同社からの指定食材以外は食材の調達も店舗に任せている。東京・両国国技館近くの店では餃子、王将特製油淋鶏、自家製鶏チャーシュー、炒飯の上に目玉焼きをのせた「両国横綱定食」があり、キッズプレートを提供する店舗もある。
これらの施策で地域住民の支持を得たこともあり、外食事業も営業黒字をキープ(2022年2月期第3四半期業績)。ただ、コロナ禍で人々の生活様式が変わったこともあり、今後の出店戦略では都心の繁華街ではなく、「乗降客数が数万人規模
の帰着駅近くの生活立地に出店していく」(同)という。
他社にはない冷凍食品事業と地域に密着した外食事業の二本柱の経営─。それを支える工場への投資は大きく、生産設備の増強、増産体制の構築について常に取り組んでいる。
誰からも愛される〝街中華〟で、どれだけ大衆の胃袋を掴むことができるか。同社のものづくりの精度が試されることになる。