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【サイバーエージェント・藤田晋】の事業観『何が起きてもの気持ちで、しかし思い詰めずに』

財界オンライン 2022年4月19日 19時0分

インターネット事業を牽けん引いんして20数年。この間、リーマン・ショック、大地震、そして今回のコロナ禍、ウクライナ危機といくつもの環境激変を体験しながら成長。創業は1998年で同時期に米Google(グーグル)も誕生。「グーグルやフェイスブック(現Meta)は世界的な凄い会社になった」と藤田晋氏は相対評価し、「ある意味、コンプレックスというか、そういう気持ちはありますが、自分のやれる範囲内で何とか結果を出してきた」と自らを総括。コロナ危機の真っ只中、2021年9月期に史上最高益を出し、営業利益も1000億円台に乗せた。世界は大荒れで、今後、「何が起きても、の気持ち」で経営に臨むが、「あんまり思い詰めないように」と心の平静を保つことを心掛ける。ネット広告、メディア、ゲームが3本柱だが、テレビ朝日をパートナーにしてのインターネットテレビ『ABEMA』(アベマ)のように、今は赤字でも近い将来、有望な事業への投資も続く。藤田氏の『未来を創る』戦略とは─。
本誌主幹
文=村田 博文

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米グーグルと同時期に創業して25年目

 まず、このコロナ禍の2年余をどう総括するか?
「コロナ禍では、プラス面とマイナス面の両方あります。世の中が一気にデジタルシフトで進んでいって、巣籠もり需要とか、そういうのがプラス。一方、先行きが見えない中で、広告主の出稿控えというか、広告で少しマイナスが生じたので、プラス、マイナスの両面があったと。われわれにとってはちょっとポジティブに働いたかなという感じです」

 コロナ禍2年目の2021年9月期の営業利益は史上最高益を達成。それまで、300億円台で推移していた営業利益が同期は1043億円と、その前期の3倍以上に拡大した(21年9月期の売上高は約6664億円で売上高営業利益率は15%強)。
 また純利益(21年9月期)は株式売却益もあって、前の期の6倍になる415億円強という好決算であった。

 今期(2022年9月期)は反動減の見通しだが、売上高は約6300億円、営業利益は約850億円(四季報)という見込み。コロナ禍は続き、ロシアによるウクライナ危機がさらに続く中で、先行き不透明感は増す。
 そうした環境変化にどう対応していくかは後に触れるとして、少なくともウクライナ侵攻前(2月末)まではデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れが追い風となった。

「いや、これはちょっと不謹慎ですけど、神風くらいの勢いでしたね。それまでなかなか日本全体のデジタル化が進まなかったのが、一気に動き出した。ハンコ廃止とか、FAX離れの動きとかもそうですね。なかなか動かなかったものが、リモートワークをきっかけに、いろいろなものが動いて、デジタル化が進みました。意識が変わる大きなきっかけになったと思います」と藤田氏は語る。

 藤田氏は1998年3月、インターネット事業のサイバーエージェントを創業。1973年(昭和48年)5月生まれの藤田氏が24歳のときであった。
 藤田氏が生まれた1973年は第1次石油ショックが起きた年。石油価格が高騰し、日・米・欧の先進国経済は大変な打撃を受けた。戦後、高度成長を続けていた日本は以後、安定成長・低成長経済へと移行していく。
 それから20年余経った1995年(平成7年)、世の中にインターネットが登場。それまで米軍の命令指揮系統に活用されていた〝分散型処理〟コミュニケーション機能が民間に開放されたのである。

 それから3年後の1998年春、当時24歳の青年だった藤田氏はサイバーエージェントを設立。以後、藤田氏の経営者としての歩みはインターネット革命のそれと重なる。『21世紀を代表する会社』─。これが、創業時の藤田氏が掲げたキャッチフレーズである。創業から24年が経ち、今年は25年目の節目を迎える。これまでの歩みの手応えはどうか?

「同じ時期に設立されたグーグルとかフェイスブックなどはもう世界的な凄い会社になっていますよね。やはりそこに対するコンプレックスというか、そうした気持ちはあります。でも、仕事はそう簡単ではないので、やれる範囲で何とか結果を出しているという感じなんですけど」という藤田氏の今の心境。

『企業は人なり』と言うが、企業も人もいろいろな出来事に見舞われ、時には危機と呼ばれる事態にも遭遇する。
 藤田氏の来し方を見ても、生まれたのが先述の通り、第1次石油ショックのとき。
 創業した1998年は国内でいえば、金融危機に見舞われた時期。前年末には都銀の1つと四大証券の内の1角が経営破綻。翌98 年には旧日本長期信用銀行と旧日本債権信用銀行が破綻するなど、日本経済が〝失われた10年〟といわれたときである。

 何事もプラス・マイナス(明と暗)、動と静と対照的な現象が伴うものだが、危機と呼ばれるときは、その対象が際立ってくる。今はコロナ禍に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻が世界を揺さぶる。
 藤田氏は経営者として、創業から今日までの20数年間をどう総括するか。
「日常的に嬉しかったり、苦しかったりの連続です。上場して21年が経ちますが、3か月に1回決算がやって来る。何か、あんまりシーズンオフみたいなことがないし、区切りがなくて、嬉しかったとか、苦しかったというのが断続的に続くんですよ」

 同社の創業以降、世界はITショック(2000年、日本では2001年)、リーマン・ショック(08年)、東日本大震災(11年)、そして今回のコロナ禍、ウクライナ危機と様々な危機に見舞われてきた。
 藤田氏は現在48歳。この5月で49歳を迎えるが、これまで外部環境の諸々の危機を経験してきたことも踏まえ、これからも、「何が起きても、というふうに思って」経営に臨んでいるという心情を明かす。

 そして、自分の性格にも触れ、「責任感は強いほうですけれども、あんまり思い詰めないようにしています。適度に趣味をいつも持っています」と語る。

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ネットテレビの『ABEMA』をやり抜く!

 同社の経営の3本柱は祖業のネット広告とゲーム、メディア。全売上に占める比率はそれぞれ45%、39%、11%という数字。
 ネット広告は手堅く収益をあげ、ゲーム分野では、前期は特にスマホゲームの『ウマ娘 プリティーダービー』が大ヒット。ゲーム事業で前期の営業利益は前々期の6倍もの964億円をあげた。全体の営業利益の9割を占める程の好調ぶり。
 さすがに、今期はその反動もあって、営業利益は減少する見通しとなっている。

    
 <サイバーエージェントが入るAbema Towers(アベマタワーズ)>

 3本柱の中で、メディア事業は赤字が続く(前期は151億円の営業赤字)。2016年4月に動画配信サービス『AbemaTV』(現ABEMA)を開始。24時間稼働の日本初のインターネットテレビという触れ込みでスタートした。以来6年が経ち、『ABEMA』の累計赤字は1000億円とも言われるが、年間の赤字幅は徐々に縮小しつつある。「テレビの未来を創るというか、テレビの再発明を目指してやっている事業」と藤田氏は同事業に執念を燃やす。

 前述のように、ネット広告は連続性のある成長を実現している。現に、日本全体のネット広告費は2021年に2兆7052億円(前年比21.4%増)となり、既存のマスコミ4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告費(2兆4538億円、前年比8.9%増)を初めて抜いた。
 ネット広告は着実な伸びが期待できる半面、ゲーム事業はどうしても浮き沈みが伴う。そうした中で、今後大きな収益事業として期待されるのがメディア事業という藤田氏の読みである。

「グーグルやフェイスブックもそうだし、日本のヤフーや楽天もそうなんですが、メディア事業で大きく成長するというのが、われわれとしても最後の必要な部分だと思っているんです」
 藤田氏はメディア事業の可能性についてこう述べ、「ABEMAを始めて5年、もうすぐ6年なんですけど、本当に10年掛かりで立ち上げると決めて始めたもの。そういう意味では、半分経過して、ほぼ想定通り、地盤を固めながら成長を遂げている」と総括。もともと、藤田氏は中長期視点で事業を捉え、手を打っていくタイプの経営者。短期志向で事業を突如止めたり、売ったり買ったりする人ではない。

 日本初のメディア文化を創る─。「そのために頑張ってきたんですけど、やはりメディアというのは視聴習慣だと思っています。朝起きて新聞を読むとかね。もう同じ事をやり続けて、普及するまで辛抱強く頑張るというのが基本戦略です」と言う藤田氏である。

新旧産業の橋渡し役として

 確かに、『ABEMA』事業は、新しい産業を創造する1つの事業領域としても注目されている。
 今を時めく動画配信サービスだが、これに火を付けたのは米・ユーチューブやネットフリックス、アマゾンといった外資勢。日本国内でも独自の勢力をつくらなければと素早く動いたのが藤田氏であった。
 これらの有力外資勢と渡り合うには、動画配信の中身、つまり質のいいコンテンツをどうつくり、配信していくかが大事な課題になる。そのコンテンツをつくるパートナーとして、テレビ朝日が浮上した。

 また、2007年、米アップルのアイフォン(iPhone)発売以来、スマートフォンは人々の間に急速に浸透し、動画配信サービスを求める視聴者も「テレビデバイスからスマートフォンに移る」と読んだ藤田氏は、『ABEMA』事業を構想した。
 藤田氏は、テレビ朝日の放送番組審議会の委員を5年ほど務めた経験もあり、会長の早河洋氏に提携を持ちかけた。
 日本国内のテレビ放送は1953年の開始以来、60年以上の歴史があり、成熟している。若い頃、名プロデューサーとして、報道番組をはじめ、各番組作りに手腕を発揮してきた早河氏は、この藤田氏の提案を前向きに受け止めた。
「映画からラジオ、そしてテレビの時代に代わり、テレビが様々なコンテンツを生み出してきたのは事実。しかし、昨今は若者のテレビ離れが進んでいるといわれ、いいタイミングでインターネットテレビという全く新しいことに関われる機会になった」という早河氏の対応であった。

 藤田氏の経営者としての資質で注目されるのは、日本のネット事業の創業者の1人でありながら、既存産業と対話ができる
というところ。
 言ってみれば、新しい産業と旧来の産業の橋渡し役である。

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グローバル展開へ、峰岸真澄氏の手腕に学ぶ

 創業から25年目、サイバーエージェントも新しいステージを迎えている。
 ゲームの世界も、投資金額がケタ外れに以前より大きくなり、グローバル市場でヒット作が生めるかどうかが試される。「グローバルに当てたら、もうケタが変わってくる。われわれももちろん狙っていますけど、これといったヒットはまだ出せてないですね」
 グローバル市場の開拓はこれからの課題だ。

 経営のグローバル化で参考になる例として、藤田氏が挙げるのがリクルートホールディングス。「僕はリクルート出身の会社で働いたこともあるし、組織の作り方とかも影響を受けているので、リクルートの成長の軌跡というのは、大いに参考にさせてもらっています」

 どういう点が参考になるのか?
「かつての企業イメージと全く裏腹なんですけど、いま技術力とグローバル経営で会社を伸ばしていることですね。これほど変身できる会社って、なかなかないですよね。国内の市場だけでほぼ100%売り上げを立てていたところへ、峰岸さん(真澄氏、現リクルートホールディングス会長、1964年生まれ)がCEO(最高経営責任者)になられて、こんなにも変えられるんだというのは、勇気づけられますね」

 リクルートホールディングスは1963年(昭和38年)の設立。創業者・江副浩正氏(1936年生まれ、故人)が就職情報誌の『企業への招待』(リクルートブックの前身)を発行したのが事業の始まり。
「広く言うと出版社からの出発。いま大手出版社は軒並み苦しんでいると思いますが、リクルートだけが結果的に成長している」という藤田氏の分析。

 これも、時代の変化に対応したからということか?
「もう明らかに変革していますよ。今の事業はある種、紙のメディアを否定するようなサービスですから。自らを変え、M&A(合併・買収)もやってのけてきた。自ら拡大していますよね」
 リクルートホールディングスは求人情報検索エンジンの米『インディード』を買収し、いま海外事業の売上高は全体の45%にまで急上昇。
 同社の売上高は2023年3月期で2兆7000億円、営業利益3500億円、純利益2585億円という見通し。

「峰岸さんは自己宣伝しない人ですが、本当の中興の祖だと思います」と藤田氏。
 リクルート社も危機をくぐり抜けてきた企業。かつてのリクルート社は1990年代、子会社である不動産会社の負債増に苦しんだ。それに足を取られて、一時期、流通のダイエー(その後イオングループ系列になる)の傘下に入った。
 しかし、その後、リクルート社は本業(人材サービス)で利益を出し、自力で負債を返済、ダイエー傘下から離れた。逆にダイエーはその後業績不振に陥り、イオングループに取り込まれた。

 峰岸氏は社長在任(2012―2021)中に、グローバル展開の基礎を構築。現社長・出木場久征氏(1975年生まれ)は米テキサス州・オースティンから経営の采配を振るう。

〝経営のカタチ〟はどんどん変わっていく。

 今後、サイバーエージェントがグローバル市場での展開に注力していくとして、日本の立ち位置はどうなのか?
「日本のマーケットは中途半端に大きいとも言えるので、それで皆ドメスティックになって、国際競争で負けてしまうという状況になっていると思うんです。これからどうグローバル市場と国内市場のバランスを取っていくかをじっくり考えていきたい」
 まだ本格的にグローバル進出を手がける状況ではないが、グローバル展開をしていくためにも、「やはりメディアサービスを当てないと」と藤田氏は『ABEMA』事業を何とか軌道に乗せていきたいとホゾを固める。

人材をどう育てていくか

 今後、同社は人材育成をどう進めていくのか?
『就職学生の人気企業ランキング』調査の総合ランキングを見ると、サイバーエージェントは某調査で『28位』となるなど、理系、文系を問わず人気が高い。
 大学新卒者で同社を志望する人材の水準も上昇。藤田氏はユーモアを交えて、「いま活躍中で、昔からいる社員もいま受けたら受からなさそうだし、僕自身も大学生の時に受けたら、受からなそうだなと。でも、そうした選考状況でいいのかなという気もしています」と語る。

 人材募集で各企業の採用担当者が頭を痛めるのも、「特異な発想の持ち主で変わった人を採りたいと思っても、それはほとんど成功しない」ということ。
 ユニークな人材が欲しい─と思っても、結局は各企業とも早く内定を出したい人材、欲しい人材は似たような結果になっているという現状。

 藤田氏の目から見て、活躍している人材とは、どういうタイプなのか?
「学生時代の評価なんか大して当てにならないですけど、どちらかというと、確率が高いのは、就職活動の時もいろいろな会社から高く評価されている人。そうした人のほうが活躍するケースが多いですね」

では、そうやって獲得した人材の可能性をどう掘り起こすか。また、経営者の考えや企業人としての使命感を浸透させるトップダウンと、現場からの提案を上げていくボトムアップとの関係はどうあるべきなのか?
「ABEMA だけはかなり細部まで入り込んでトップダウンをやっていますが、会社全体としてはかなり任せてしまっている」
 技術革新のスピードが速く、迅速な意思決定で各現場も行動しなければならず、会社全体としては〝現場に任せる〟のが基調ということ。

 ただ、サイバーエージェントグループの将来を決めるメディア事業の『ABEMA』はトップダウンでやるということである。
 2016年に『ABEMA』がテレビ朝日との提携で事業を出発させた時、テレビ朝日・早河洋氏は『ABEMA』へ送り出す社員たちに、「すべて藤田社長の指示に従うように」と言い渡している。
 それ位、関係者は『ABEMA』の将来に賭けているということである。
 もっとも、藤田氏は、「逆に、社外取締役でいま入ってくれている元ネスレ日本社長の高岡浩三さんなどは、そんなに僕が強い指示を出していないので、ビックリしたと言う位ですけどね(笑)」とも話すが、要はバランス感だ。

 ただ、藤田氏もトップとしての時間の8割を『ABEMA』の采配に割いてきたのは事実。
 事業開始から6年経ったいま、「これを5割以内に落として、サイバーエージェントグループ全体の舵取りに使うことを最近決めました」と語る。『ABEMA』の経営で一定の成
果をあげるようになったという藤田氏の判断である。その時々で、トップの時間の振り分けも決まるということ。

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人と会って、話して物事は動いていく!

 いま産業界では人手不足に備えて、AIやCG(コンピュータ・グラフィックス)などの技術の活用も盛んだ。
「わが社の入社式もバーチャルスタジオでやりました。結構大きなスタジオで僕があたかもリアルの入社式で挨拶しているように見えるんですが、実際には、ただの緑のバックの所でやっているだけですけどね」
 サイバーエージェントらしい入社式ということだが、藤田氏本人は、「でも良し悪しですね。やはり皆んなが同じ場所に集まる良さもありますが、コンピューター越しに1人ひとりが近く見えるという感じもいいですね」と本音を明かす。

 ポストコロナはコロナ前には戻らないものの、一方、何でもオンライン化というのもいかがなものかという藤田氏の認識。
「物事には、いい面とそうでない面の両方があると」
 コロナ禍では、人と人との対話も少なくなった。
「人に会って、話して、何か物事というのは動いていくんだなというのを実感しています」という昨今の藤田氏の思いだ。

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