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【過去最高益】サイバーエージェント社長・藤田晋氏の”次の一手”は?

財界オンライン 2022年5月10日 7時0分

インターネット広告、ゲーム、メディアで過去最高益を更新
「大きな成長を遂げるために必要なパーツがメディア事業。『ABEMA』は10年かかりで育成していく」
サイバーエージェント社長 藤田 晋 Fujita Susumu

「ほぼ想定どおりの地盤を固めながら成長を遂げているという状況です」─。先行投資の続くインターネットテレビ事業『ABEMA』の現状について、こう語る藤田晋氏。ゲームやドラマなどエンターテイメント市場が国境を越えて広がる中、世界での成長も見据えた経営が求められている。国内で成長してきた同社は、今後、どんな成長を目指しているのか─。


動画配信『ABEMA』は
想定どおりに成長

 ─ コロナ禍で企業も変化を促されました。改めて、コロナ禍の影響から聞かせて下さい。

 藤田 コロナ禍という意味では、プラス面とマイナス面、両方ありました。プラス面は、世の中のデジタルシフトが一気に進み、巣ごもり需要などが生まれたことです。一方のマイナス面は、先行き不透明ということで広告主の出稿控えが生じ、広告事業が少しマイナスになったことです。プラス、マイナス、トータルで見ると、われわれとしては、少しポジティブに働いたかなという感じです。

 ─ 社会のデジタル化の進展は大きな変化でしたね。

 藤田 そうですね。例えば、ハンコやファックスの廃止などがなかなか進まず、日本全体のデジタル化も遅れていましたが、リモートワークの推奨によって、意識が変わる大きなきっかけになったと思います。

 ─ 藤田さんは1998年に会社を設立して、もうすぐ25年になりますが、振り返っていかがですか?

 藤田 同じ時期に設立されたGoogle やFacebook(現Meta)は世界的な大企業になっていますので、そこに対するコンプレックスのようなものはあります。

 ただ、世界規模の企業になるのは、そう簡単なことではないので、やれる範囲で結果を出してきたという感じです。

 ─ 現在の事業は「メディア事業」「インターネット広告事業」「ゲーム事業」の3本柱ですが、改めて各々の事業ついて聞かせて下さい。

 藤田 はい。インターネット広告事業は市場の拡大とともに長期にわたって順調に成長を遂げている事業で、十分な利益を出しています。今も右肩上がりの成長が続いています。

 ─ ネット広告が最大の広告メディアになりましたね。

 藤田 ええ。広告事業の形はいろいろ変えていますが、みんなが接するメディアがどんどんネットになっているので、自然な流れかなとは思っています。

 ─ インターネットテレビ『ABEMA』はサービスを開始して6年目になります。

 藤田 テレビの未来を創る、テレビの再発明を目指して取り組んでいる事業です。

 われわれの戦略としては、広告事業が連続性のある成長をする一方、ゲーム事業はどうしても浮き沈みが出てしまう。

 その中で、大きな収益を上げられる、世界的に成功しやすい事業というのはメディア事業だと思っています。グーグルやフェイスブックもそうですし、日本でもヤフーや楽天がそうです。

 そこで、われわれとしては大きな成長を遂げるための必要なパーツとしてメディア事業があり、「これは」というものがあれば時間がかかっても、大きく投資をしてやり切るという考え方です。ブログサービスの『Ameba』もそういう考えで取り組んできたものです。

『ABEMA』はもうすぐ6周年になりますが、10年がかりで立ち上げようと始めたものなので、そういう意味では半分が経過して、ほぼ想定どおりの地盤を固めながら成長を遂げているという状況です。

 ─ 若い世代はネットメディアに関心がありますが、熟年世代へのアプローチはどう進めていますか?

 藤田 実は、将棋、麻雀、格闘技、相撲などの専門チャンネルは、中年以降の男性がもっとも属性が近いんです。

 それから、ゴルフ中継もテレビのような〝枠〟が存在しないので、『ABEMA』がやれば初日から全試合をフルで放送できます。

『ABEMA』で将棋が人気になったのも、朝から晩までずっと中継できるからなんですね。NHKも将棋の対局を放送していますが、全対局を放送することはできません。

 そうしたネットの特性を活かして、11月にはサッカーワールドカップのカタール大会の全64試合を無料で中継します。

▶【サイバーエージェント・藤田晋】の事業観『何が起きてもの気持ちで、しかし思い詰めずに』

 ─ 今後も投資を続けるということですね。『ABEMA』はテレビ朝日と共同で手掛けていますが、経営者として、テレビ朝日会長兼社長の早河洋さんをどう見ておられますか?

 藤田 もともとコンテンツに強い方なので的確なアドバイスをいただきますし、われわれに任せる上でも理解があります。

 テレビの将来を危惧する方は多いですが、逃げ切り世代とも言われ、本気で何とかしようしている人は少ないと思います。

 早河さんは本当に何とかしようとしている責任感のある経営者だと思います。でなければ、ネット企業と組んで事業をやろうとはしないと思います。


『ウマ娘』が大ヒット
高度化するスマホゲーム

 ─ 最高益に貢献したゲーム事業の今後の展望は?

 藤田 インターネットゲームは、2008年頃からソーシャルゲームという形で始まって10年以上経つわけですが、年々、コンテンツが高度化しています。

『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』など据置型の家庭用ゲームの世界もそうですが、最先端のグラフィックを取り入れて、とんでもない制作費をかけている。

 それと同じことが今、スマホゲームの世界でも起きています。

 多額の制作費、制作年月、それを作るクリエイターやエンジニアの高度な技術力が必要になっていて、ちょっとやそっとの資本力の会社では対応できなくなっています。

 昔は学生ベンチャーでも参入できましたが、今は大きなプロジェクトで、ノウハウも人材も資金もないとできない事業になっています。

 われわれは、スマホゲームも家庭用ゲームと同じようにコンテンツの高度化が進み、いずれ生存競争というか淘汰が起きると想定しながらやってきて、今、それがうまくハマってきたと。

『ウマ娘 プリティーダービー』は馬を擬人化して走らせるというゲームですが、ものすごいクオリティで作られています。開発費も多額の費用をかけていますし、制作年数も5年近くかけています。

 スマホゲームは出して終わりではないので、運営体制も想像される以上の人数で。やってみるとわかると思いますが、簡単に当てたゲームではないことがわかると思います。

 ─ 人・モノ・カネを投資してきた事業だと。

 藤田 そうです。

 ただ、先程お話ししたように、CDやDVDのようにパッケージにして売って終わりではないので、ゲームをリリースした時点から売上が伸び、ピークアウトした後も、そう簡単には売上がなくなるわけではありません。

『パズル&ドラゴンズ(パズドラ)』や『モンスターストライク(モンスト)』などは今でも結構な収益を上げていますし、息が長い事業なんです。

 ─ 息が長いというのもネットゲームの特長?

 藤田 そうですね。「運用」と言うのですが、ゲームを運用して新しいキャラクターを追加したり、イベントをやったりしながらユーザーに遊び続けてもらうので。

 会社組織(子会社のCygamesが企画・開発・運営を担当)でやっているので、長く続けられるのは経営の見通しが立てやすいということもあります。

 ─ その代わり、当たりはずれも大きいと。

 藤田 はい。ただ、当たりづらくなっているので、競合が撤退したり、競争環境としては、かつてよりもずいぶん楽になったところもあります。

 ─ 今後は、コンテンツの力を高めるためのM&Aも必要になってくると思います。

 藤田 ゲームの世界では、マイクロソフトが米ゲーム大手のアクティビジョン・ブリザード社を約8兆円で買収したり、ソニーが米ゲーム大手のバンジー社を約4100億円で買収しています。

 高いレベルのゲームを作って運用していこうとしたら、買収額もその規模になりますし、そのレベルの会社も限られているということだと思います。

 グローバルに当てたら、収益も桁が変わってくるので、われわれも、もちろんそこを狙っていますが、まだこれといったヒットは出せてはいません。

 ─ 最近、制作会社を買収していますね。

 藤田 はい。それは映像制作会社になりますが、ゲームも含めて、世界トップクラスのコンテンツを制作できれば、世界の人に見てもらえる状況になっています。

 例えば、BTS(韓国のアイドルグループ)の所属事務所の決算は増収増益で、韓国のアーティストであっても世界的にトップクラスのクオリティがあれば、世界中の人がコンテンツに課金してくれます。

 マーケットが大きくなっていることは確かです。

 ─ その意味では、今後、グローバルが主戦場になる?

 藤田 そこが短期での拡大に大きく寄与する部分だと思っています。リクルートがインディードの買収で海外売上をものすごい勢いで伸ばしたように、マーケットが大きい海外の売上比率を上げることは大きいと思います。


新経連で学んだ
声を上げることの重要性

 ─ AI(人工知能)には、どう取り組んでいきますか?

 藤田 今、実業に生かしている部分で言うと、広告の効果向上があります。今まで、クリエイティブ制作は人間の感性に委ねてきましたが、広告事業をやっていると過去の成功事例のビッグデータが得られるので、AIによってクリエイティブの部分も効率化されてきています。

 AIの専門部署を持っているのでチャットボットのような事業もやっていますし、インターネットが普通になったように、AIもわざわざAIと言わないぐらい当たり前に使っています。

 データを活用して、より効率的にビジネスを展開するところに負けてしまう時代なので、すべての領域でAIを活用するようにしています。

 ─ ところで、日本には経団連、同友会、商工会議所、それから楽天の三木谷さんが代表を務める新経済連盟があります。藤田さんは新経連のメンバーですが、活動を通じてどんなことを感じますか?

 藤田 新経済連盟は今年で設立10年になりますが、参加してきて思うのは、声を上げる重要性です。最近で言うと、政府はコロナの水際対策で鎖国対応を取りましたが、産業界が鎖国解除を求めることで、総理としても「産業界からも言われているので」と動きやすくなる面があったと思います。

 それから、何より、成長において重要な規制改革の必要性です。イノベーションが起きると、それを拒む既得権益勢力みたいなものが出てくるので、イノベーションを阻害しない環境にしていくために声を上げることは大切なことだと感じています。

 ─ 最後に、会社を経営してきて嬉しかったこと、苦しかったことは何ですか?

 藤田 そうですね。いま上場企業になって22年目、3ヵ月に1回決算がやってきて、シーズンオフみたいなことや区切りもないので、嬉しいことや苦しいことが断続的に続いています。大きな事業を黒字化させた次の期は、より高い成長を問われてくるので、終わりがないというのが正直なところですね。

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 前期は好決算でしたが、その発表後、株価は暴落していたので何が嬉しくて、何が嬉しくないのかも判断が難しいですね。

 ─ ロシアによるウクライナ侵攻など、何が起きるかわからない時代ですね。

 藤田 そうですね。ただ、過去にもギリシャ危機やリーマンショック、自然災害など、いろいろ経験してきたので、何が起きてもそう簡単には揺らがないようにとは思っています。

 ─ 大変な時期、藤田さんを支えているものは何ですか?

 藤田 責任感は強いほうですが、あまり思い詰めないようにはしています。仕事の一方で、いつも適度に趣味を持つように心掛けているのでバランスは取れているのかなと思います。

 ─ 最近の趣味は、どんなものですか?

 藤田 少し前は麻雀にハマっていましたが、昨年から馬主になり、今は愛馬が走るレースがある週末が楽しみなほどハマっています。仕事に結びつくこともあるので、良い循環になっています。



ふじた・すすむ
1973年5月福井県生まれ。97年青山学院大学卒業後、インテリジェンス入社。98年サイバーエージェントを設立して社長に就任。2000年マザーズ、14年東証一部に上場

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