ウクライナ危機で資源価格が高騰。世界で資源の奪い合いが起きる中、使用済みパソコンやスマートフォンから出る廃電子基板のE-Scrap(都市鉱山)が注目されている。140余年の歴史を持つ非鉄金属大手・三菱マテリアル社長の小野直樹氏は「天然鉱石の賦存は偏在しているが、天然鉱石から取り出された金属が使用された製品は世界で満遍なく使われている。一度取り出して使われたものを回収して使える状態にしていくことは、経済安全保障上も必要なこと」とE-Scrapの必要性を語る。世界情勢が変化する中、三菱グループのルーツでもある同社の役目、そして今後の事業展開はーー。
▶【あわせて読みたい】【金属?それともゴム?】「生物模倣技術」で開発された三菱マテリアルの『金属ゴム』
経済のブロック化で
地域ごとの循環型社会に
─ コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻など、想定外の危機が起きる時代です。すでに資源高騰の影響が出ていますが、経営への向き合い方から聞かせて下さい。
小野 ロシアによるウクライナ侵攻がこれからの企業経営に与える影響は大きいと感じています。地政学的なリスクは各地にあり、それがどういう形で表出してくるか分からないことを今回、思い知らされました。
世界は1つと思ってきましたが、今後はビジネスを展開するエリアをある程度狭く考えていく必要があるかもしれません。
また、「経済のブロック化」とも言われますが、経済が地域ごとに分断されていく傾向は強くなるのではないかと思います。
わたしたちは主に非鉄金属を扱っていますが、経済安全保障も含めて、原材料をどう調達するかは、重要なテーマになってきます。
これまで天然鉱石から必要な金属元素を取り出してきましたが、天然鉱石の賦存は偏在しています。一方、天然鉱石から取り出された金属が使用された製品は世界で満遍なく使われていて、こちらは偏在していない。
そうなると、一度取り出して使われたものを回収して使える状態にしていく。いわゆる資源循環、リサイクルという方向に行くのは間違いないですし、経済安全保障上も必要なことだと思います。
─ 三菱マテリアルとしては、リサイクル、資源循環にどう取り組んでいますか?
小野 廃電子基板から金・銀・銅その他諸々の金属物を回収するビジネスをやっています。
日本だけでなく、ヨーロッパやアメリカにも集荷拠点を設けて世界中で事業を展開しています。ただ、廃電子基板を集められる地域は今後、限定されてくる可能性があると思っています。
経済のブロック化が進むと、地産地消になっていくと予想されるので、それに合わせて、地域ごとに循環型社会を創っていくことも必要なのだと思います。
例えば、EUにはEU独自のルールがあって、EU圏内でモノを作って消費し、使い終わったら資源を取り出して再利用して循環させていく。
そうなると、一度域外から入ってきた資源は、なるべく外に出さないようにして循環させていく、という考え方が広がる可能性はあると思います。
ただ、今回のように地政学リスクが露わになり、カーボンニュートラルの動きにブレーキがかかる可能性があるように、世の中の動きには波があるので、大きなトレンドを見間違わず、変化適応力で乗り越えていくことが大切なことだと思っています。
─ 地産地消の流れがあるとのことですが、資源ナショナリズムは強まっていますか?
小野 わたしどもは銅をメインに扱っていますが、銅の産地として有名なチリでは、鉱業の税制を見直して税金として銅から得られる収益を高めるべきであると議論されています。こうした動きは他の国でもあり得ますので、日本にすでに存在している資源をなるべくたくさん使えるようにして、地政学的リスクを和らげることが必要だと感じています。
─ どれくらいの量をリサイクルで賄えるものですか?
小野 日本国内には様々な製品が存在していますが、それをリサイクルして使うにはコストがかかります。資源価格が今のように高騰するとリサイクルの優位性も高まります。しかしながら、値段は高くても社会的に意義があるという理由だけで全部リサイクル材料を使います、とはなりません。そこには経済合理性が働くはずです。
それから、もう1つ重要なポイントが脱炭素です。
天然の鉱石を採掘して、長距離を輸送して日本に持ってきて製錬するプロセスで排出されるCO2の量と、国内にある廃電子基板を集めて処理して出てくるCO2の量を比較して、より環境に優しいかを判断していくこともますます重要になってきます。
都市鉱山(E-Scrap)のリサイクルで
世界トップクラス
─ ところで、今、銅の需要はどうなっていますか?
小野 例えば、クルマが電気自動車にシフトすると、ガソリン車に比べて1台あたりの銅の使用量は3.5~4倍になると言われています。
そういう意味では、銅をいかに供給していくか。先ほど申し上げたとおり、天然鉱石だけでなく、一度使われたものを回収してリサイクルした原料をミックスして銅を作っていく必要があります。
わたしたちのE-Scrap(都市鉱山)の処理量は、すでに世界でトップクラスですが、次のステップとして、取扱量をさらに増やしていきたいと考えています。
─ 改めて「E-Scrap」について教えてください。
小野 E-Scrap は使用済みの家電やパソコン、スマートフォンなどから出る廃電子基板のことです。それには貴金属も含めて多くの金属が含まれています。
具体的に説明すると、コンピュータやスマートフォンの「ボード」と呼ばれる緑色のプラスチックの上に半導体やメモリーなどが配置されたもので、金銀銅などが、天然鉱石よりはるかに濃集されています。
ただ、扱いにくい元素も入っているので、それをうまく取り除くことが技術的な課題になってきます。
例えば、鉛やスズなど、銅の中に入っていたら困るような元素をきちんと取り除いて、分けていくことが必要です。
それらの工程は銅の製錬所だけではできないので、わたしたちの場合、宮城県の細倉にある鉛を扱う子会社や、スズは昔、鉱山のあった兵庫県の生野などに回して、グループ全体で金・銀・銅を取り出しながら、鉛やスズなど他の元素の仕分けをしています。
─ リサイクルをするには、様々な拠点が必要になると。
小野 そうですね。
あと、廃棄物を扱う量が増えるほど設備にかかる負荷が大きくなるので、設備の手当をしっかりすることも大切です。
実際に操業しながら、そうしたノウハウを積み上げてきた経験値は大きいと思っています。
─ それから、今はDXが事業に直結する時代ですが、DXへの取り組みはいかがですか。
小野 2年程前からDXを進めています。「今を強くする」「明日を創る」「人を育てる」という3つのミッションを掲げて、DXに取り組んでいます。
事業として最初にリリースしたのがE-Scrap の『MEX』というプラットフォームです。
E-Scrap の取り扱いについて、様々な取引の透明性や迅速性を高めています。例えば、当社に送ったE-Scrap が今どこで、どう処理されているかをシステム上でリアルタイムに見ることができます。
そうして顧客接点を強化することが「今を強く」し、「明日を創る」ことにつながり、そうしたプラットフォームを作りながら、それに適応した人材を育成していくことにも注力しDXを進めていきます。システムを作ることが目的化してしまわないよう、振り返りながら進めていく必要があると思っています。
─ プラットフォームという言葉が出ましたが、三菱マテリアルの事業においてもプラットフォームは重要になる?
小野 ビジネスによりますが、24時間、世界中の人々を相手にするグローバルな事業ではプラットフォーム的なものが必要になってきます。
特にE-Scrap のようなビジネスは透明性が必要です。また、E-Scrap は集荷競争の側面もあるので、透明性を高めることで集荷をしやすくすることも重要です。
─ 集荷を増やすうえで、透明性が重要なのはなぜですか。
小野 設備があっても、モノが集まらなければビジネスを大きくできません。お客様との信頼関係を築き、お客様が満足できるような透明性の高い処理をしていることを伝えることで、お客様との接点を強化していく。そうして、お客様と直接つながる接点をプラットフォーム化していくことは意義あることですし、将来の事業拡大にもつながることだと考えています。
地熱発電事業も展開
─ 今後は、どんな分野に投資をしていきますか?
小野 これまでお話してきたリサイクルは重要性が増してき
ますので、その分野への投資をしていきます。ただ、リサイクルだけの会社ではないので、リサイクルされたものを銅を中心に機能性を高めて、再度、世の中の役に立つ形にしていく。その両方をバランスよく進めていきます。
それから、脱炭素の流れの中で地熱発電にも投資をしています。最終的には自分たちが使用する電力は、自分たちが開発して生み出す再生可能エネルギーで賄えることを目標にしていこうと考えています。
─ それは国内外で?
小野 今のところ、国内だけですが、1976年に秋田県の大沼地熱発電所、95年に秋田県の澄川地熱発電所が運転を始め、2019年にも秋田県の山葵沢地熱、それから岩手県の安比で24年の運転開始を目指して地熱発電所を建設しています。
山葵沢地熱、安比地熱ともに電源開発さんと三菱ガス化学さんとの合弁事業です。
─ 地熱発電は今後も拡大の余地がありますか?
小野 地元の方々の了解なくしてできないことなので、一定の時間がかかりますが、地熱資源は日本の重要な資源であり、それを有効活用することは、社会貢献にもなると思っています。
─ 今後の事業ポートフォリオの考え方は?
小野 一番大きな動きはUBEさんのセメント事業との統合です。今年44月にUBE三菱セメントとしてスタートしましたが、販売と物流は1998年に統合していたので、生産部門とさらに下流の生コン事業まで統合して、より効率の高い事業体にしました。
国内需要が年々減少傾向にあり、海外展開を強化する上でも、カーボンニュートラルへの対応を図る上でも、効率的な経営を目指すことが必要だという判断です。
その他、最近ではアルミの事業を譲渡するなど、わたしたちが行うよりも別の方がオーナーシップを持ったほうがよい事業は譲渡を進めています。
現在の事業ポートフォリオは、ある時点の静的な状態図なので、今後も状況に合わせて変化させていきます。
─ 新規事業の育成は、どう進めていますか?
小野 タネはたくさんあるのですが、今年度はタネで終わらせるのではなく、小さくてもいいから事業化まで持って行くことを目標にしています。
事業部門では新規事業の育成が難しいので、社外のベンチャーと組んで「出島」としての会社を立ち上げたり、社外も含めて多様な出口を考えていきます。
固定観念に捉われず、コーポレートベンチャーや他の研究機関とのコラボなど、オープンイノベーションを進める必要があります。脱炭素もリサイクルもそうですが、今の時代は1つの会社で完結させるのは難しくなっています。自分たちだけでやろうとしても広がりがないですし、時間的にも後れを取ってしまいます。
事業の広がり、事業化へのスピードを考えても他社との連携は強化していきます。
▶創業150年超・三菱マテリアルの抜本改革
おの・なおき
1957年1月14日愛知県名古屋市生まれ。1979年3月京都大学工学部卒業後、同年4月 三菱鉱業セメント(現・三菱マテリアル)入社。 2014年4月常務執行役員・セメント事業カンパニープレジデント、同年6月常務取締役、16年4月取締役副社長、同年6月取締役副社長執行役員、17年4月取締役副社長執行役員・経営戦略本部長、18年6月 取締役社長、19年6月取締役 執行役社長
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経済のブロック化で
地域ごとの循環型社会に
─ コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻など、想定外の危機が起きる時代です。すでに資源高騰の影響が出ていますが、経営への向き合い方から聞かせて下さい。
小野 ロシアによるウクライナ侵攻がこれからの企業経営に与える影響は大きいと感じています。地政学的なリスクは各地にあり、それがどういう形で表出してくるか分からないことを今回、思い知らされました。
世界は1つと思ってきましたが、今後はビジネスを展開するエリアをある程度狭く考えていく必要があるかもしれません。
また、「経済のブロック化」とも言われますが、経済が地域ごとに分断されていく傾向は強くなるのではないかと思います。
わたしたちは主に非鉄金属を扱っていますが、経済安全保障も含めて、原材料をどう調達するかは、重要なテーマになってきます。
これまで天然鉱石から必要な金属元素を取り出してきましたが、天然鉱石の賦存は偏在しています。一方、天然鉱石から取り出された金属が使用された製品は世界で満遍なく使われていて、こちらは偏在していない。
そうなると、一度取り出して使われたものを回収して使える状態にしていく。いわゆる資源循環、リサイクルという方向に行くのは間違いないですし、経済安全保障上も必要なことだと思います。
─ 三菱マテリアルとしては、リサイクル、資源循環にどう取り組んでいますか?
小野 廃電子基板から金・銀・銅その他諸々の金属物を回収するビジネスをやっています。
日本だけでなく、ヨーロッパやアメリカにも集荷拠点を設けて世界中で事業を展開しています。ただ、廃電子基板を集められる地域は今後、限定されてくる可能性があると思っています。
経済のブロック化が進むと、地産地消になっていくと予想されるので、それに合わせて、地域ごとに循環型社会を創っていくことも必要なのだと思います。
例えば、EUにはEU独自のルールがあって、EU圏内でモノを作って消費し、使い終わったら資源を取り出して再利用して循環させていく。
そうなると、一度域外から入ってきた資源は、なるべく外に出さないようにして循環させていく、という考え方が広がる可能性はあると思います。
ただ、今回のように地政学リスクが露わになり、カーボンニュートラルの動きにブレーキがかかる可能性があるように、世の中の動きには波があるので、大きなトレンドを見間違わず、変化適応力で乗り越えていくことが大切なことだと思っています。
─ 地産地消の流れがあるとのことですが、資源ナショナリズムは強まっていますか?
小野 わたしどもは銅をメインに扱っていますが、銅の産地として有名なチリでは、鉱業の税制を見直して税金として銅から得られる収益を高めるべきであると議論されています。こうした動きは他の国でもあり得ますので、日本にすでに存在している資源をなるべくたくさん使えるようにして、地政学的リスクを和らげることが必要だと感じています。
─ どれくらいの量をリサイクルで賄えるものですか?
小野 日本国内には様々な製品が存在していますが、それをリサイクルして使うにはコストがかかります。資源価格が今のように高騰するとリサイクルの優位性も高まります。しかしながら、値段は高くても社会的に意義があるという理由だけで全部リサイクル材料を使います、とはなりません。そこには経済合理性が働くはずです。
それから、もう1つ重要なポイントが脱炭素です。
天然の鉱石を採掘して、長距離を輸送して日本に持ってきて製錬するプロセスで排出されるCO2の量と、国内にある廃電子基板を集めて処理して出てくるCO2の量を比較して、より環境に優しいかを判断していくこともますます重要になってきます。
都市鉱山(E-Scrap)のリサイクルで
世界トップクラス
─ ところで、今、銅の需要はどうなっていますか?
小野 例えば、クルマが電気自動車にシフトすると、ガソリン車に比べて1台あたりの銅の使用量は3.5~4倍になると言われています。
そういう意味では、銅をいかに供給していくか。先ほど申し上げたとおり、天然鉱石だけでなく、一度使われたものを回収してリサイクルした原料をミックスして銅を作っていく必要があります。
わたしたちのE-Scrap(都市鉱山)の処理量は、すでに世界でトップクラスですが、次のステップとして、取扱量をさらに増やしていきたいと考えています。
─ 改めて「E-Scrap」について教えてください。
小野 E-Scrap は使用済みの家電やパソコン、スマートフォンなどから出る廃電子基板のことです。それには貴金属も含めて多くの金属が含まれています。
具体的に説明すると、コンピュータやスマートフォンの「ボード」と呼ばれる緑色のプラスチックの上に半導体やメモリーなどが配置されたもので、金銀銅などが、天然鉱石よりはるかに濃集されています。
ただ、扱いにくい元素も入っているので、それをうまく取り除くことが技術的な課題になってきます。
例えば、鉛やスズなど、銅の中に入っていたら困るような元素をきちんと取り除いて、分けていくことが必要です。
それらの工程は銅の製錬所だけではできないので、わたしたちの場合、宮城県の細倉にある鉛を扱う子会社や、スズは昔、鉱山のあった兵庫県の生野などに回して、グループ全体で金・銀・銅を取り出しながら、鉛やスズなど他の元素の仕分けをしています。
─ リサイクルをするには、様々な拠点が必要になると。
小野 そうですね。
あと、廃棄物を扱う量が増えるほど設備にかかる負荷が大きくなるので、設備の手当をしっかりすることも大切です。
実際に操業しながら、そうしたノウハウを積み上げてきた経験値は大きいと思っています。
─ それから、今はDXが事業に直結する時代ですが、DXへの取り組みはいかがですか。
小野 2年程前からDXを進めています。「今を強くする」「明日を創る」「人を育てる」という3つのミッションを掲げて、DXに取り組んでいます。
事業として最初にリリースしたのがE-Scrap の『MEX』というプラットフォームです。
E-Scrap の取り扱いについて、様々な取引の透明性や迅速性を高めています。例えば、当社に送ったE-Scrap が今どこで、どう処理されているかをシステム上でリアルタイムに見ることができます。
そうして顧客接点を強化することが「今を強く」し、「明日を創る」ことにつながり、そうしたプラットフォームを作りながら、それに適応した人材を育成していくことにも注力しDXを進めていきます。システムを作ることが目的化してしまわないよう、振り返りながら進めていく必要があると思っています。
─ プラットフォームという言葉が出ましたが、三菱マテリアルの事業においてもプラットフォームは重要になる?
小野 ビジネスによりますが、24時間、世界中の人々を相手にするグローバルな事業ではプラットフォーム的なものが必要になってきます。
特にE-Scrap のようなビジネスは透明性が必要です。また、E-Scrap は集荷競争の側面もあるので、透明性を高めることで集荷をしやすくすることも重要です。
─ 集荷を増やすうえで、透明性が重要なのはなぜですか。
小野 設備があっても、モノが集まらなければビジネスを大きくできません。お客様との信頼関係を築き、お客様が満足できるような透明性の高い処理をしていることを伝えることで、お客様との接点を強化していく。そうして、お客様と直接つながる接点をプラットフォーム化していくことは意義あることですし、将来の事業拡大にもつながることだと考えています。
地熱発電事業も展開
─ 今後は、どんな分野に投資をしていきますか?
小野 これまでお話してきたリサイクルは重要性が増してき
ますので、その分野への投資をしていきます。ただ、リサイクルだけの会社ではないので、リサイクルされたものを銅を中心に機能性を高めて、再度、世の中の役に立つ形にしていく。その両方をバランスよく進めていきます。
それから、脱炭素の流れの中で地熱発電にも投資をしています。最終的には自分たちが使用する電力は、自分たちが開発して生み出す再生可能エネルギーで賄えることを目標にしていこうと考えています。
─ それは国内外で?
小野 今のところ、国内だけですが、1976年に秋田県の大沼地熱発電所、95年に秋田県の澄川地熱発電所が運転を始め、2019年にも秋田県の山葵沢地熱、それから岩手県の安比で24年の運転開始を目指して地熱発電所を建設しています。
山葵沢地熱、安比地熱ともに電源開発さんと三菱ガス化学さんとの合弁事業です。
─ 地熱発電は今後も拡大の余地がありますか?
小野 地元の方々の了解なくしてできないことなので、一定の時間がかかりますが、地熱資源は日本の重要な資源であり、それを有効活用することは、社会貢献にもなると思っています。
─ 今後の事業ポートフォリオの考え方は?
小野 一番大きな動きはUBEさんのセメント事業との統合です。今年44月にUBE三菱セメントとしてスタートしましたが、販売と物流は1998年に統合していたので、生産部門とさらに下流の生コン事業まで統合して、より効率の高い事業体にしました。
国内需要が年々減少傾向にあり、海外展開を強化する上でも、カーボンニュートラルへの対応を図る上でも、効率的な経営を目指すことが必要だという判断です。
その他、最近ではアルミの事業を譲渡するなど、わたしたちが行うよりも別の方がオーナーシップを持ったほうがよい事業は譲渡を進めています。
現在の事業ポートフォリオは、ある時点の静的な状態図なので、今後も状況に合わせて変化させていきます。
─ 新規事業の育成は、どう進めていますか?
小野 タネはたくさんあるのですが、今年度はタネで終わらせるのではなく、小さくてもいいから事業化まで持って行くことを目標にしています。
事業部門では新規事業の育成が難しいので、社外のベンチャーと組んで「出島」としての会社を立ち上げたり、社外も含めて多様な出口を考えていきます。
固定観念に捉われず、コーポレートベンチャーや他の研究機関とのコラボなど、オープンイノベーションを進める必要があります。脱炭素もリサイクルもそうですが、今の時代は1つの会社で完結させるのは難しくなっています。自分たちだけでやろうとしても広がりがないですし、時間的にも後れを取ってしまいます。
事業の広がり、事業化へのスピードを考えても他社との連携は強化していきます。
▶創業150年超・三菱マテリアルの抜本改革
おの・なおき
1957年1月14日愛知県名古屋市生まれ。1979年3月京都大学工学部卒業後、同年4月 三菱鉱業セメント(現・三菱マテリアル)入社。 2014年4月常務執行役員・セメント事業カンパニープレジデント、同年6月常務取締役、16年4月取締役副社長、同年6月取締役副社長執行役員、17年4月取締役副社長執行役員・経営戦略本部長、18年6月 取締役社長、19年6月取締役 執行役社長