数千万円の物件もネット上で買う時代─。仮想空間「メタバース」が世界的に注目されている。将来的には市規模が100兆円にも上るという期待もある。ゲームや音楽の世界では普及が早いが、日本の住宅業界で初めて、大和ハウスが「メタバース住宅展示場」の展開を始めた。メタバース上に構築した住宅を内覧できるというもの。いち早く、ネットでも住宅販売も始めた同社が目指す将来の営業のあり方とは。
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コロナ禍を受けてオンライン化が進む
仮想空間(メタバース)上にリアルに構築された住宅を、時に上空から、時に子供の視点で見ることができる─。
大和ハウス工業が住宅業界で初めて、「メタバース」を活用した住宅展示場への取り組みを進めている。
コロナ禍を受けて、様々なコミュニケーションがオンライン化しているが、住宅販売も例外ではない。
大和ハウスは2019年から、インターネット上で戸建て住宅を販売するサービス「ライフジェニック」を展開しているが、コロナ禍で認知が加速。
今の住宅展示場はどうしても混雑していることが多く、様々な人との接触が予想され、それを避けて住宅を検討するにはどうしたらいいか? という時にネットを通じた情報収集、購入検討という流れが強まっている。
大和ハウス社長の芳井敬一氏も「ネットは住宅事業において、完全に重要なツールになっている。今後は、ネット経由で展示場に来られて購入に至るという形がさらに多くなっていくかもしれない」と話す。
「ライフジェニック」は21年4月に木造戸建て、22年4月には高齢者世帯、子育て世帯に人気の「平屋」をラインナップに加えるなど商品を拡充。販売開始以降累計で約1200棟を販売している。
この取り組みをさらに進めたのが、今回の「メタバース住宅展示場」。
「バーチャルだからこその空間体験ができる。そしてお客様がそれぞれの視点で建物を見ることができるだけでなく、我々が会話をしながらご案内できることが大きい」と話すのは、大和ハウス住宅事業本部マーケティングコミュニケーション室インサイドセールスグループ長の山口知洋氏。
大和ハウスは21年10月から、ウェブ上で顧客の「家づくりタイプ診断」を行った上で、その興味関心に合わせた情報を届け、リレーションを深めるというウェブサイト「リブスタイルパートナー」を展開しているが、「メタバース住宅展示場」は、このサイトで情報を入力すれば体感することができる。
スマートフォン、タブレット端末、パソコンから住宅の見学が可能で、顧客自身と営業担当者が「アバター」(仮想空間上で動作する分身)となってメタバース展示場内を内覧、コミュニケーションをする。例えば「ヘッドマウントディスプレイ」を装着して見学すると、実際にその場所にいるかのような臨場感を体験できる。
また、冒頭のように屋根の上から見学できたり、子供やペットの視点から見ることも可能。既存の住宅展示場では、1つの色味しか顧客に見せることができないが、メタバース上であれば、ボタン1つで瞬時に、様々なデザインを表示することが可能になる。
顧客と営業担当者が遠隔地にいても、メタバース住宅展示場であれば、展示場内で会話し、説明を受けることが可能。
今回、オンライン上で内覧するだけでなく、メタバース上で対話ができるようにした理由は何だったのか。「オンラインは『人』が介在していないことが問題点だと考えていた。普通のVR(仮想現実)での内覧では『勝手に見て下さい』となりがちだが、メタバースであれば、オンライン上でもお客様に様々なご案内ができる」(山口氏)
大和ハウス自身の営業の観点からも、メタバースを体感してもらっただけで終わるのではなく、対話をすることで顧客のニーズを掴み、実際の営業につなげるという狙いがある。
今はまだ始まったばかりだが、今後は例えば、顧客がメタバース展示場でどこを重点的に見たか、どういう動きをしたかといったデータを取得し、次の開発に役立てるといったビッグデータの活用も検討している。
さらに今、海外ではメタバース上に建築物を建てたり、その空間内での土地をNFT(所有証明書付きのデジタルデータ)として、実際に取引するといったことも始まっている。大和ハウスが取り扱っているのは、最終的にはリアルの住宅だが、メタバース上で取引を成立させる世界もあり得るのか。
「可能性は十二分にあると考えている」と山口氏。今後、メタバース上に顧客の要望に応えた住宅を建て、そこで仮に「住む」ことを体験してもらい、その上で改めて間取りなどを検討し、その体験を元にメタバース上で購入するということもあり得るというのだ。自動車は試乗、洋服は試着ができるが、住宅は「試住」できなかったのがこれまでだが、それが変わる可能性がある。
さらに「今は1邸だけだが、今後は戸建てだけでなくマンション、商業店舗、物流施設など大和ハウスが表現できる街全体を構築したらどうかという案も出ている」という。例えば「ユニクロ」の店舗建設も手掛けているが、大和ハウスのメタバースから、ユニクロの洋服を購入するといった姿も考えられる。こうした複合要素は、他社がメタバースで追随してきた際の差別化にもつながる。
不動産テックに詳しい、ニッセイ基礎研究所准主任研究員の佐久間誠氏は「メタバースはコロナ禍で広がったが、社会実装にはまだ時間がかかるだろう。住宅や不動産は最後は現地に行くのが基本だが、その前段階でメタバースの活用は進む。最後に購入に向けて顧客の背中を押すのは今後も『人』だろうが、それをメタバース上で実現できるかがカギ」と指摘する。
大和ハウスの取り組みが、住宅販売のあり方を変える一歩となるか、注視されている。
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コロナ禍を受けてオンライン化が進む
仮想空間(メタバース)上にリアルに構築された住宅を、時に上空から、時に子供の視点で見ることができる─。
大和ハウス工業が住宅業界で初めて、「メタバース」を活用した住宅展示場への取り組みを進めている。
コロナ禍を受けて、様々なコミュニケーションがオンライン化しているが、住宅販売も例外ではない。
大和ハウスは2019年から、インターネット上で戸建て住宅を販売するサービス「ライフジェニック」を展開しているが、コロナ禍で認知が加速。
今の住宅展示場はどうしても混雑していることが多く、様々な人との接触が予想され、それを避けて住宅を検討するにはどうしたらいいか? という時にネットを通じた情報収集、購入検討という流れが強まっている。
大和ハウス社長の芳井敬一氏も「ネットは住宅事業において、完全に重要なツールになっている。今後は、ネット経由で展示場に来られて購入に至るという形がさらに多くなっていくかもしれない」と話す。
「ライフジェニック」は21年4月に木造戸建て、22年4月には高齢者世帯、子育て世帯に人気の「平屋」をラインナップに加えるなど商品を拡充。販売開始以降累計で約1200棟を販売している。
この取り組みをさらに進めたのが、今回の「メタバース住宅展示場」。
「バーチャルだからこその空間体験ができる。そしてお客様がそれぞれの視点で建物を見ることができるだけでなく、我々が会話をしながらご案内できることが大きい」と話すのは、大和ハウス住宅事業本部マーケティングコミュニケーション室インサイドセールスグループ長の山口知洋氏。
大和ハウスは21年10月から、ウェブ上で顧客の「家づくりタイプ診断」を行った上で、その興味関心に合わせた情報を届け、リレーションを深めるというウェブサイト「リブスタイルパートナー」を展開しているが、「メタバース住宅展示場」は、このサイトで情報を入力すれば体感することができる。
スマートフォン、タブレット端末、パソコンから住宅の見学が可能で、顧客自身と営業担当者が「アバター」(仮想空間上で動作する分身)となってメタバース展示場内を内覧、コミュニケーションをする。例えば「ヘッドマウントディスプレイ」を装着して見学すると、実際にその場所にいるかのような臨場感を体験できる。
また、冒頭のように屋根の上から見学できたり、子供やペットの視点から見ることも可能。既存の住宅展示場では、1つの色味しか顧客に見せることができないが、メタバース上であれば、ボタン1つで瞬時に、様々なデザインを表示することが可能になる。
顧客と営業担当者が遠隔地にいても、メタバース住宅展示場であれば、展示場内で会話し、説明を受けることが可能。
今回、オンライン上で内覧するだけでなく、メタバース上で対話ができるようにした理由は何だったのか。「オンラインは『人』が介在していないことが問題点だと考えていた。普通のVR(仮想現実)での内覧では『勝手に見て下さい』となりがちだが、メタバースであれば、オンライン上でもお客様に様々なご案内ができる」(山口氏)
大和ハウス自身の営業の観点からも、メタバースを体感してもらっただけで終わるのではなく、対話をすることで顧客のニーズを掴み、実際の営業につなげるという狙いがある。
今はまだ始まったばかりだが、今後は例えば、顧客がメタバース展示場でどこを重点的に見たか、どういう動きをしたかといったデータを取得し、次の開発に役立てるといったビッグデータの活用も検討している。
さらに今、海外ではメタバース上に建築物を建てたり、その空間内での土地をNFT(所有証明書付きのデジタルデータ)として、実際に取引するといったことも始まっている。大和ハウスが取り扱っているのは、最終的にはリアルの住宅だが、メタバース上で取引を成立させる世界もあり得るのか。
「可能性は十二分にあると考えている」と山口氏。今後、メタバース上に顧客の要望に応えた住宅を建て、そこで仮に「住む」ことを体験してもらい、その上で改めて間取りなどを検討し、その体験を元にメタバース上で購入するということもあり得るというのだ。自動車は試乗、洋服は試着ができるが、住宅は「試住」できなかったのがこれまでだが、それが変わる可能性がある。
さらに「今は1邸だけだが、今後は戸建てだけでなくマンション、商業店舗、物流施設など大和ハウスが表現できる街全体を構築したらどうかという案も出ている」という。例えば「ユニクロ」の店舗建設も手掛けているが、大和ハウスのメタバースから、ユニクロの洋服を購入するといった姿も考えられる。こうした複合要素は、他社がメタバースで追随してきた際の差別化にもつながる。
不動産テックに詳しい、ニッセイ基礎研究所准主任研究員の佐久間誠氏は「メタバースはコロナ禍で広がったが、社会実装にはまだ時間がかかるだろう。住宅や不動産は最後は現地に行くのが基本だが、その前段階でメタバースの活用は進む。最後に購入に向けて顧客の背中を押すのは今後も『人』だろうが、それをメタバース上で実現できるかがカギ」と指摘する。
大和ハウスの取り組みが、住宅販売のあり方を変える一歩となるか、注視されている。