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福祉実験ユニット【ヘラルボニー】の〝障害者の才能を活かす社会〟づくり

財界オンライン 2022年5月24日 11時30分

障害者雇用率制度の普及で、令和3年は59万7786人(対前年比3.4%増)と過去最高となった障害者雇用。だが、日本に936万人、世界には10億人以上の障害者がいる中で、まだまだ働く先は限られるという現実がある。こうした中、障害のある人たちが自らの才能を活かして収入を得られる仕組みを構築するのが、2018年に設立された株式会社ヘラルボニー。〝福祉実験ユニット〟を掲げる同社のビジネスモデルとは─。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako



缶詰、ネクタイ
電車のラッピング……

 スーパーでもお馴染みのオシャレなサバの缶詰『Cava(サヴァ)?缶』。

 東日本大震災で被災した三陸からオリジナルブランドの加工品を発信しようと開発されたこの商品に〝アート〟の価値を付与したのが、岩手県出身の起業家・松田崇弥氏(代表・弟)と松田文登氏(副代表・兄)の双子が経営する株式会社ヘラルボニー。

 岩手県出身のアーティストが描いた作品を商品のパッケージに使用。色鮮やかで独特なデザインが商品を際立たせている。

 この独創性のある作品を描いたのは障害のあるアーティストたち。ヘラルボニーは、国内外37の福祉施設・個人の作家と契約。153人のアーティストの2000点以上のアート作品データを預かり、データライセンス事業を手掛けている。

「作品自体をデジタルアーカイブにすることで、缶詰のパッケージになったり、ネクタイになったり、電車をラッピングしたりできる。いろんなモノやコトに落ちることで、作家にライセンスフィーが落ち続ける仕組みになっています」(崇弥氏)
 
 アートデータを活用して「ファッション」「インテリア」「ライセンス」の3つの事業を展開。「ファッション」では、ネクタイや財布、エコバッグなどを『HERALBONY』ブランドのオリジナル商品として販売。

「インテリア」では、ソファやクッション、カーペット、食器などを開発。カーペットは一流ホテルのカーペットを製造する長谷虎紡績と、食器は洋食器メーカーのNIKKOとコラボレーションして商品化している。

「ライセンス」では、前述の『Cava?缶』をはじめ、ヤマハ発動機の電動車椅子、かんぽ生命のノベルティなどで活用されている他、建築現場などの〝仮囲い〟にアート作品を掲げて、期間限定の〝ミュージアム〟にするプロジェクトを全国で展開。

 また「丸井さんとやっている〝使うたび、社会を前進させるカード〟という『ヘラルボニーエポスカード』があります。通常のポイント還元は0.5%ですが、0.4%になっていて、0.1%分がヘラルボニーや福祉施設、作家さんにまわり、福祉を支える力になれる」(崇弥氏)クレジットカードだ。

 大企業とのコラボも数多く手掛けているが、「営業部の予算をいただくことがほとんどです。社会にも還元できて、かっこよくて、数値目標も達成できそうな形でコラボできることに面白さを感じて下さる企業さんが多い」印象だそう。

「リスペクトが生まれる状況を作っていきたいので『ハイアットセントリック 銀座東京』さんのスイートのコンセプトルームを手掛けたり、ラグジュアリーな展開を進めていますが、将来的にはニトリさんなどのライセンスにも入るような身近なものにしていきたい」という。

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障害者の〝才能〟に
依存するビジネスモデル

「ヘラルボニー」という社名は、松田兄弟の4つ上の自閉症スペクトラム障害の兄がノートに書いていた〝謎の言葉〟。文登氏は、幼い頃に感じた障害者に対する社会の反応への違和感を次のように語る。

「父母が3~4つの福祉団体に入っていて、自分も毎週末ルーティーンでそこへ行ってダウン症や自閉症、身体障害など、障害のある人と普通に接していました。でも、あるとき、兄と一緒に街に出たら、兄を指さして笑う人がいたので、『バカにするな』と言いに行ったんです。障害のある人も自分たちと同じように見てもらいたかった」



写真左から、ヘラルボニー社長CEOの松田崇弥氏(弟)、ヘラルボニー副社長COOの松田文登氏(兄)

 崇弥氏も「いつかは福祉関係の仕事がしたい」という思いがある中で、「24歳の頃、母に岩手県にある『るんびにい美術館』の存在を教えてもらい、知的障害のある人のアート作品を見て、すさまじい衝撃を受けたんです。社会貢献とか、頑張っているという文脈ではなく、まず、かっこいいと。額装の見せ方などで100%かっこよくなると感じたので、作品性のある形で、美しい状態で社会に出していけば商流に乗せていけるという仮説を立てて、双子の文登に声をかけて起業」した。

「福祉は支援という側面が強いですが、そうでない側面を見せたい。障害のある人たちの才能にわたしたちが支えられてビジネスが成り立つという構造が社会にあったらすごく面白いなと思い、会社にしたんです」

〝福祉実験ユニット〟と銘打つのにも理由がある。

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「福祉ってミスをしてはいけない、チャレンジしづらい空気感があると思っていて。実験という言葉を入れることで、ミスも成功も見せて開示していく。そうすることが福祉領域そのものを拡張することにもなる」と考える。また〝ユニット〟という言葉には、いろんな業界や組織と組んで共創していきたいという思いが込められている。

「『異才を放て』が会社のミッション。アーティストだけでなく、障害のある人の〝得意〟なところに目を向けていこうと。ホテルでベッドメイキングするのがその人の異才かもしれないし、飲食で何かを作るのが異才かもしれない。将来的には色んな形があり得ると思っていて、デベロッパーさんなどに障害のある人たちが働くカフェのアイディアなども出しています」

「会社として大事にしているのは市場の開拓というよりも思想を開拓すること。障害は欠落ではないという思想を開拓していくことで僕らの収入にもつながることを追求していきたい」

 鎌倉投信やJR東日本スタートアップ等の出資を受け、IPOも目指している。ヘラルボニーという組織もデザイナーなど各分野のプロ(異才)が結集して事業を展開。多様な才能や個性を価値に変える挑戦が続く。

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