こみやま・ひろし
1944年栃木県生まれ、東京育ち。67年東京大学工学部化学工学科卒業、72年東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了、工学博士。東京大学工学部助教授、教授、同大学院工学系研究科長・工学部長、同大学副学長を経て、2005年から09年まで東京大学第28代総長。09年より三菱総合研究所理事長。10年よりプラチナ構想ネットワーク会長を務める。
グローバリゼーションの功罪
―― コロナ禍という人類の危機にウクライナ危機も加わり、世の中で不透明感が増しています。地球存亡の危機とまで指摘される中、日本という国をどう考えていけば良いと考えますか。
【求められる公認会計士の役割】日本公認会計士協会・手塚正彦会長の「ハード・ローよりソフト・ローで企業の成長を」
小宮山 私が申し上げたいことは、自分を大事にすると言いますか、日本という自国のことを本気で考えるべきだということです。というのも、このように申し上げるとグローバル企業から反発を受けるかもしれませんが、日本のグローバルな企業が海外でビジネスを行い、海外で稼ぎ、海外の人を雇って、海外で税金を納めているというケースが非常に多いからです。
しかし私は、もっと国内に目を向けるべきだと思うのです。自分のことを考える、自分の両親や出身地のことを考えると。本当に自分の国のことを考えたら、今よりはもう少しリアリティが出てくると思うのです。グローバリゼーションという言葉が最近の流行りですが、一方でその反省も出てきています。
グローバリゼーションとは国と経済とが結びつきますから、極論すると、世界単一マーケットのように捉えられてしまう。そんなグローバリズムが良いはずがありません。多様性が失われてしまいますし、経済の発展段階が全く異なるアフリカの労働力と日本の労働力を工場労働者として見られたら勝てません。
農業も同じです。どんどん画一化して地域の食という概念がなくなり、死ななければ良いというためだけの食糧になってしまえば、食を楽しむという概念さえもなくなってしまいます。もちろん、生きるための食糧という考え方も必要ですが、画一化されていけば、旅をして食を楽しむことすらも意味がなくなってしまう。
―― 物事の本質は多様性であり、それを失うことの危険性がグローバリゼーションには含まれているということですね。
小宮山 はい。やはり世界中が違うから旅をする楽しみもあるわけです。その意味で日本を見つめ直したら、一つひとつの地方の多様性を確保しながら雇用を作っていくことが重要ではないでしょうか。地方に雇用を作っていけば、日本は多様性に富む”強い国”になれるはずです。この”強い”という意味は国民が幸せだということです。
―― 生き甲斐を持っているといったことですね。
小宮山 はい。国民一人ひとりが社会の中で自分の立ち位置を理解し、自信を持つと言うことでしょう。私はそれを目指したら良いと思うのです。そうしたら世の中は変わると思います。
エネルギーに関しても世界的な流れとして、石油、石炭、天然ガスが温暖化対策の面で否定的に見られています。そうすると、21世紀は基本的には再生可能エネルギーに変わり、それに伴って石油や石炭、天然ガスの輸出入は減っていきます。
輸入金額約50兆円を内需に!
―― 自国で再生可能エネルギーを賄う方向に持っていくと。
小宮山 そうです。特に、日本は森林という未開発の膨大な資源を持っています。おそらく石油から物を作る時代から木質から物を作る時代に入るでしょう。金属はリサイクルになります。金属はなくなりませんからリサイクルで回せば良いのです。
食糧だって自給できます。日本では耕作放棄地が増えていますから、これを真面目に活用することができれば、日本が毎日食べていける食物を作ることができるはずです。もちろん、日本のサクランボやいちごを海外に向けて高く買ってもらうこともできるでしょう。
ですから、石油や鉄鉱石を海外から買うということもなくなります。そう考えると、日本が今まで輸入していた産業が、地方の産業に生まれ変わるということです。
―― 日本の潜在力をもう一度掘り起こす時代になった?
小宮山 その通りです。再生可能エネルギーなどは、どう考えても地方の産業です。林業だって地方の産業ではないですか。日本が輸入する化石資源や食糧などを含めた輸入金額は30兆円、産業連関的に見れば約50兆円です。これが内需に代われば、相当な産業に生まれ変わります。
―― ビジネスの中身も大きく変わるということですね。
小宮山 地方が活性化すれば、新たにスーパーマーケットや床屋さんなども必要になったりする。50兆円とは500万人から550万人の雇用を生む計算になります。それだけの雇用が地方に生まれるということになれば、地方に行きたいという人もたくさん出てくるでしょう。地方再生って、そういうことですよ。そうすると、もっと日本全体がバランス良い国になるはずです。
―― そういった問題意識を以前から強く持っていましたね。
小宮山 「課題先進国」という言葉を使った2007年頃から考えていました。高齢社会の問題にしても、長生きできること自体は良いことです。ただ、長く生きれば良いのかというと違います。健康寿命を延ばすことが重要です。今ではいわゆる寿命と健康寿命の差が10年近くありますから、健康寿命を延ばそうということです。
以下、本誌にて
1944年栃木県生まれ、東京育ち。67年東京大学工学部化学工学科卒業、72年東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了、工学博士。東京大学工学部助教授、教授、同大学院工学系研究科長・工学部長、同大学副学長を経て、2005年から09年まで東京大学第28代総長。09年より三菱総合研究所理事長。10年よりプラチナ構想ネットワーク会長を務める。
グローバリゼーションの功罪
―― コロナ禍という人類の危機にウクライナ危機も加わり、世の中で不透明感が増しています。地球存亡の危機とまで指摘される中、日本という国をどう考えていけば良いと考えますか。
【求められる公認会計士の役割】日本公認会計士協会・手塚正彦会長の「ハード・ローよりソフト・ローで企業の成長を」
小宮山 私が申し上げたいことは、自分を大事にすると言いますか、日本という自国のことを本気で考えるべきだということです。というのも、このように申し上げるとグローバル企業から反発を受けるかもしれませんが、日本のグローバルな企業が海外でビジネスを行い、海外で稼ぎ、海外の人を雇って、海外で税金を納めているというケースが非常に多いからです。
しかし私は、もっと国内に目を向けるべきだと思うのです。自分のことを考える、自分の両親や出身地のことを考えると。本当に自分の国のことを考えたら、今よりはもう少しリアリティが出てくると思うのです。グローバリゼーションという言葉が最近の流行りですが、一方でその反省も出てきています。
グローバリゼーションとは国と経済とが結びつきますから、極論すると、世界単一マーケットのように捉えられてしまう。そんなグローバリズムが良いはずがありません。多様性が失われてしまいますし、経済の発展段階が全く異なるアフリカの労働力と日本の労働力を工場労働者として見られたら勝てません。
農業も同じです。どんどん画一化して地域の食という概念がなくなり、死ななければ良いというためだけの食糧になってしまえば、食を楽しむという概念さえもなくなってしまいます。もちろん、生きるための食糧という考え方も必要ですが、画一化されていけば、旅をして食を楽しむことすらも意味がなくなってしまう。
―― 物事の本質は多様性であり、それを失うことの危険性がグローバリゼーションには含まれているということですね。
小宮山 はい。やはり世界中が違うから旅をする楽しみもあるわけです。その意味で日本を見つめ直したら、一つひとつの地方の多様性を確保しながら雇用を作っていくことが重要ではないでしょうか。地方に雇用を作っていけば、日本は多様性に富む”強い国”になれるはずです。この”強い”という意味は国民が幸せだということです。
―― 生き甲斐を持っているといったことですね。
小宮山 はい。国民一人ひとりが社会の中で自分の立ち位置を理解し、自信を持つと言うことでしょう。私はそれを目指したら良いと思うのです。そうしたら世の中は変わると思います。
エネルギーに関しても世界的な流れとして、石油、石炭、天然ガスが温暖化対策の面で否定的に見られています。そうすると、21世紀は基本的には再生可能エネルギーに変わり、それに伴って石油や石炭、天然ガスの輸出入は減っていきます。
輸入金額約50兆円を内需に!
―― 自国で再生可能エネルギーを賄う方向に持っていくと。
小宮山 そうです。特に、日本は森林という未開発の膨大な資源を持っています。おそらく石油から物を作る時代から木質から物を作る時代に入るでしょう。金属はリサイクルになります。金属はなくなりませんからリサイクルで回せば良いのです。
食糧だって自給できます。日本では耕作放棄地が増えていますから、これを真面目に活用することができれば、日本が毎日食べていける食物を作ることができるはずです。もちろん、日本のサクランボやいちごを海外に向けて高く買ってもらうこともできるでしょう。
ですから、石油や鉄鉱石を海外から買うということもなくなります。そう考えると、日本が今まで輸入していた産業が、地方の産業に生まれ変わるということです。
―― 日本の潜在力をもう一度掘り起こす時代になった?
小宮山 その通りです。再生可能エネルギーなどは、どう考えても地方の産業です。林業だって地方の産業ではないですか。日本が輸入する化石資源や食糧などを含めた輸入金額は30兆円、産業連関的に見れば約50兆円です。これが内需に代われば、相当な産業に生まれ変わります。
―― ビジネスの中身も大きく変わるということですね。
小宮山 地方が活性化すれば、新たにスーパーマーケットや床屋さんなども必要になったりする。50兆円とは500万人から550万人の雇用を生む計算になります。それだけの雇用が地方に生まれるということになれば、地方に行きたいという人もたくさん出てくるでしょう。地方再生って、そういうことですよ。そうすると、もっと日本全体がバランス良い国になるはずです。
―― そういった問題意識を以前から強く持っていましたね。
小宮山 「課題先進国」という言葉を使った2007年頃から考えていました。高齢社会の問題にしても、長生きできること自体は良いことです。ただ、長く生きれば良いのかというと違います。健康寿命を延ばすことが重要です。今ではいわゆる寿命と健康寿命の差が10年近くありますから、健康寿命を延ばそうということです。
以下、本誌にて