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『第一工業製薬』会長・坂本隆司が語る「化学の可能性」

財界オンライン 2022年6月10日 7時0分

本当の価値創造とは何か?

 ―― 長期化するコロナ禍に加え、ロシアによるウクライナ侵攻と、経営環境が目まぐるしく変わっているんですが、まずはこのコロナ禍の2年間をどのように受け止めていますか。

 坂本 コロナにしろ、戦争にしろ、21世紀には起こりえないと思っていたことが現実になってしまったということです。

 ペストも、スペイン風邪も、人類はこれまでに感染症によるパンデミック(世界的大流行)の歴史を繰り返してきて、少なくとも20世紀に医学が進歩したことで、もう疫病のまん延は起こらないと思っていたんですね。ところが、今回コロナが起こってしまって、もう2年以上が経っているのに、まだ収束の見通しは立ちにくい状況にありますよね。

 一方、これも決していい話ではないんですが、われわれは第二次世界大戦で原爆を落とされ、核や原爆を使うということになれば世界が滅びると。だから、世界的な大戦争は21世紀には起こらない。要は、パンデミックと大戦争は起こらないと思っていたのに起こってしまった。

 結局、人間は弱いものだということ。「人間は考える葦」の喩えではありませんが、弱い存在なのだということを感じましたし、今回のコロナとウクライナ侵攻はそのことを示し、人類に警告を発しているのではないかと思わずにいられません。

 ―― 人間は進化していると思っていたのに、われわれは本質的なところで変わっていないという一面も見せつけられましたね。

 坂本 ええ。20世紀に人間が発明したコンピューターによって、記憶量や記憶力、計算力といったものは飛躍的に進化しました。つまり、今までハードであったものがソフトへ、アナログであったものがデジタルへと急傾斜しようと。これは今後、さらに進んでいくだろうと思います。

 ですが、今回のコロナや戦争で分かったように、人間は弱いものだと。アナログからデジタルに変わることによって、われわれ人間は進化していると思い込んでいたけど、それは違う気がするんです。

 もちろん、デジタル化の流れを止めることはできませんが、原点であるアナログやハードに今一度戻らなければいけないのではないか。それが21世紀のルネッサンスであり、そのポイントは人間回帰ということなのだろうと思います。

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 ―― なるほど。アナログ回帰であり、人間回帰だと。

 坂本 われわれは化学メーカーです。当然、化学業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)は進んでいきますが、化学の原点は錬金術と不老不死を追い求めたことです。つまり、人間の果てしない夢を追いかけているのが化学であり、だからこそ面白いと思います。

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 今は環境や医学の問題など、世の中に様々な課題があって、その解決のためには化学がないとできません。それこそDXによって、21世紀の化学はさらに面白くできると思っていますので、わたしは化学業界に大きな可能性があると考えています。

 ―― 化学は大きな可能性に満ちていると。

 坂本 ええ。わたしはもともと銀行にいたからよく分かるんですが、原価計算というのは、銀行にいる人間には分からない世界です。要は、どうやって原料を確保して、商品にするかというのがモノの価値だとすれば、金融機関に本当の意味での価値創造はできません。それができるのが化学メーカーの魅力なのです。

 わたしの人生は銀行で終わっても良かったのかもしれませんが、こちらに来て、本当の価値創造とは何かということを知ることができたのは本当に大きいです。

続きは本誌で

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