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【問われる電力の危機管理】 日本最大の発電会社『JERA』が老朽火力発電所を再稼働

財界オンライン 2022年7月6日 7時0分

2つの発電設備の稼働で予備率が1%改善

「われわれは計画停電を経験しているので、絶対に電気を止めてはならないという強い気持ちがある。設備の点検には時間とコストがかかるが、電力がひっ迫している時に無事に運転できるよう頑張っていく」

 東京電力と中部電力の共同出資会社・JERA姉崎火力発電所長の亀井宏映氏はこう語る。

 夏の電力需給ひっ迫が懸念される中、JERAが7~8月の2カ月間、停止していた姉崎火力発電所の5号機を再稼働させることになった。

 電力の安定供給には、需要に対する供給余力を示す「予備率」が最低でも3%は必要とされる。しかし、今夏が10年に一度の猛暑となった場合、東北・東京・中部電力管内の7月の予備率は3・1%となり、需給がひっ迫する可能性が指摘されている。このため、政府は7年ぶりに全国規模での節電を要請したことに加え、電力会社に対して、休止中の火力発電所の再稼働などを要請。JERAが公募に応札し、落札した。

 JERAは日本の電気の約3割をつくる国内最大の発電会社。今回、再稼働させる姉崎5号機の最大出力は60万㌔㍗。JERAは愛知県にある知多火力発電所の5号機(最大出力70万㌔㍗)も再稼働させる予定で、2つの発電設備が運転を再開することで、予備率がそれぞれ1%ずつ改善されるという。

 ただ、姉崎火力5号機が運転を開始したのは1977年。45年前にできた発電設備で、素人目にも老朽化しているのは一目瞭然。”綱渡り”の電力供給ということが実感できる。

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抜本的な解決に向け 原発再稼動を求める声も

 首都圏を中心に電力不足となっているのは、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、全国の原発が停止。再稼働した原発は10基に留まっていることや、近年、世界中で脱炭素化の波が押し寄せ、天候によって出力が大きく左右される太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入が進んだこと。さらに電力自由化によって、激しい販売競争にさらされた大手電力会社が収益確保や脱炭素を優先し、火力発電所への投資に二の足を踏んでいることなど、複数の要因が絡んでいる。

 また、今回のJERAのように、仮に老朽化した火力発電所を再稼働させたとしても、足元ではロシアによるウクライナ侵攻を受けて、火力発電所の主な燃料であるLNG(液化天然ガス)の価格が高騰。燃料の安定調達にも不安を抱えており、国内の電力需給は綱渡りが続いていると言っていい。

 電力業界を含めた産業界では「電力不足の抜本的解決には原発再稼働しかない」という声も出ているが、政府や経済産業省は世論の反発を恐れて、原発再稼働の議論を避け続けている。

 この10年、日本のエネルギー政策は脱原発、電力自由化、脱炭素と、聞こえの良い政策ばかりを推奨してきた。一方、企業は生き残りのためコスト削減や脱炭素を優先。その結果、過渡期における安定供給の責任を誰が負うのか曖昧になっている。

 企業や国民への節電だけで乗り切ることはできるのか。原発の再稼動をどう考え、原発が嫌なら国民は計画停電の受け入れや我慢する覚悟があるのか。日本の危機管理が問われている。

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