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【建設現場に不可欠】くさび式足場でシェアトップのアスノバ創業者・上田桂司が語る「足場哲学」

財界オンライン 2022年7月11日 7時0分

住宅の建設・改修などに欠かすことのできない「足場」。工事期間中にしか目に留まらない存在だが、その足場の可能性に着目した上場企業がある。2022年4月に名証ネクストに上場したASNOVA(アスノバ)だ。社長の上田桂司氏は今後、老朽化や災害の増加などで住宅の改修需要は拡大し、足場の需要も拡大すると見る。ただ一方で人手不足の課題も抱える。課題をどう解消し、足場の可能性を高めていくのか。

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築30年超のマンションが急増

 塗装や外壁の修繕など、マンションの外観に関わる大規模修繕を行うときに誰もが目にする「足場」。この仮設の足場を組むことで、高所での工事や作業が可能になるのはもちろん、何人もの作業員が同時に工事に取りかかることができる。さらに、仮設の足場があることで、建物の上下を何度も移動できる。

 この足場のレンタル・販売などで上場したのがアスノバ。2013年に同社を創業した社長の上田氏は「築年数が30年以上の分譲マンションが足元の約232万戸から20年後には578万戸に増えると予測されている。足場のニーズが高まるが、資金力のない中小・零細の足場施工業者が足場を購入することなく、互いにシェアすれば低コストで済む」と話す。

 同社の特徴は数ある様々な足場のうち「くさび式足場」に特化している点だ。「ハンマー1つで自由に組み立てられる」(同)。高層ビルの建設などに使用される枠組足場とは違い、数種類の支柱や踏板があるだけ。

 実際、同社のくさび式足場は主に戸建・低中層マンションに使用され、施工費用が比較的安く、保管・運搬・施工効率が良い。全国には約1・3万の足場施工業者があると言われているが、そのほとんどは地域の工務店など社員10人未満の零細企業ばかり。潤沢な資金を保有しておらず、足場を購入する資金もなければ、足場を保管する場所や保管料を賄う体力もない。

 昨今、戸建て住宅や分譲マンションの改修需要が増加することに伴い、工事の繁忙期と閑散期の変動幅が拡大している。足場施工業者にとっては仮設機材の在庫負担が増大中だ。そこでアスノバが足場を自社で購入し、それを仮設機材として足場施工業者にレンタルしたり、販売したりするのだ。

 つまり、アスノバが繁閑に応じて仮設機材の数量の〝調整弁〟となるわけだ。コロナ禍で一時、建設工事が停止し、売り上げが伸び悩んだ局面もあったが、頻発する災害によって生じた修理需要もあり、稼働率は80%後半。「足場自体が足りておらず、保管場所に何もない状況だ」(同)。しかも、20年基準から消費者物価指数に「屋根修理費」が追加された。今後も需要の拡大が見込まれる。

 そんなアスノバも足場への投資を急ぐ。同社は年間10億円以上の足場機材への投資を続けており、22年3月期時点で約90億円の足場を保有。軽仮設材リース・レンタル市場の規模は2100億円を超える。上田氏は「くさび式足場の業界では圧倒的なシェアトップ」と話す。

 同社の顧客数は足場施工業者を中心に2000社を超える。年間150社超の新規顧客を獲得している状況だ。1社当たりの売上高は大きくはないが、特定の顧客に依存していないため、安定した収益につながる。

 同社は現在、本州内に5カ所ある営業所と17カ所ある機材センターをさらに拡大していく方針を掲げる。「できるだけ工事現場の近くに拠点を構える」(同)考えを示す。

 アスノバでは足場機材の調達費用を5年間で償却処理している。償却後の稼働によりレンタルに供する機材の保有量が増加すれば、売上高と利益の向上が見込まれる収益構造だ。22年3月期の売上高は27億円、営業利益1・6億円で、23年3月期は売上高30億円、営業利益1・5億円を見込む。利益が減少するのは先行投資がかさむからだ。

 また同社の強みとして挙げられるのが膨大な量に及ぶ足場の管理だ。通常、未返却率が3%になる中、同社の未返却率は0.001%。「10年以上かけて積み上げてきた管理のノウハウが蓄積され、それが顧客の信頼感につながっている」と上田氏。



労働者不足が最大の課題

 上田氏は海外展開も視野に入れる。具体的にはベトナムだ。「中間所得層の増加に伴って住宅購入意欲が高まっている」(同)からだ。また、長期の都市開発計画も進む。

 同社は17年から同国でテストマーケティングを実施し、現地パートナーに約500トンの足場を提供した。22年10月に現地法人を設立し、25 年までにレンタル拠点を3カ所展開する方針。同国で足場レンタルのトップシェア企業を目指す。

 このように成長が見込める足場業界だが、大きな課題も抱えている。それが労働者不足だ。「年収は低くないが、『3K(きつい・汚い・危険)』の職業で、何よりも足場職人を知らない。無関心が壁だ」と上田氏。

「このまま足場を組み立てる職人がいなくなれば日本中の建設工事が稼働できなくなってしまう」(同)と危惧する。そこで上田氏が注力するのが、足場が持つ「カセツ(仮設・仮説)性」の追求だ。

 そもそも足場は〝仮設〟のもの。「改修中に組み立てられ、工事が終われば撤去される」(同)。それだけ安価かつ簡単に利用できる。さらに何度も利用できるため、環境にも優しい。また、企業や地方自治体の実証実験などで構築物を組み立てて成果を試す〝仮説〟にも適している。


上田桂司・ASNOVA社長

 実際、大手電機会社のイベントで空間の形を変える試みに足場が使われたり、自治体が保有する建築物の跡地の有効活用を検討する際に、足場を使ってどんな建物が市民にとって有益かを試すなど、足場の役割は建設現場にとどまらない。

 限られた期間でしか人の目に触れない足場。社名の通り足場の〝明日の場〟を広げていけるかどうかが上田氏の使命となる。

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