ながしま・あきひさ
1962年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。88年同大学大学院法学研究科修士課程(憲法学)修了。90年から3年間石原伸晃衆議院議員の公設秘書を務める。97年ジョンズ・ホプキンス大学大学院修了後、米国外交問題評議会研究員(アジア安全保障研究)。2003年衆議院議員。09年防衛大臣政務官(鳩山由紀夫内閣)。11年首相補佐官(外交安全保障担当、野田佳彦内閣)。12年防衛副大臣(野田第3次改造内閣)。17年希望の党政調会長。2021年衆議院拉致問題特別委員長。
サイバー攻撃を受けても反撃できない法規制
─ ウクライナ危機を通じて、日本の安全保障に対する考えを聞かせてください。
拓殖大学国際学部教授・佐藤丙午「専守防衛はいかに残酷な政策であるかが分かった」
長島 昨年8月、あるシンクタンクで台湾有事のシミュレーションを行いました。モデルになったのは2014年のロシアのクリミア侵攻。衝撃だったのは、サイバー攻撃を受け、電力や金融のシステムが次々にダウンしていくという光景でした。
ですから、まずはサイバー攻撃から我が国の基幹インフラを守ると同時に、攻撃を受けた後に、どれだけ早くサイバー攻撃の発信地を特定して無力化し、基幹インフラを復旧させるかが重要になります。
電力や港湾、空港、道路、鉄道といった基幹インフラは生活インフラであると同時に、自衛隊や米軍も依存しているインフラです。
こういったインフラを守るためには、潜在的な攻撃国のネットワークを常時監視する「積極サイバー防護」を可能にする法整備が急務となります。我が国では現状、不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)によって、何人も相手のサーバーに入り込んで発信源にアクセスすることが禁じられている。海外の潜在的な攻撃者に対して当局が監視することも許されないのです。
─ サイバーの防御態勢が貧弱だということですね。
長島 ええ。相手のサーバーを常時監視できる体制を構築できないと、攻撃を受けても適時に反撃し相手を無力化することができません。これでは米国はじめ、有志国とのサイバー分野での連携もできません。そして、早期にインフラを復旧すること。この2つが、物理的な攻撃を受ける以前に極めて重要です。
─ 自分の国は自分で守る。このことが基本原則だと。
長島 はい、当然のことです。ただ、日本は戦後74年を経て、自分の国のために戦うという発言そのものが忌避されてきたところがあります。しかし、この敗戦のトラウマを乗り越えていくときを迎えたのではないかと私は思っています。
その意味で、専守防衛の考え方については、少なくとも再定義が必要です。先制攻撃を慎むという意味での専守防衛は当然です。しかし、反撃のための手段も態様も「必要最小限度」という縛りがかかっている点が問題です。攻撃を受けて、ここまでしか反撃できませんなどというわけにはいきませんね。全力で押し返さなければ、国民も領土も守れません。
それはミサイル攻撃でもサイバー攻撃に対する反撃でも同じことです。
ウクライナ危機の教訓
─ その点、ウクライナの国民はロシアの侵攻に対してしっかりと反撃しています。
長島 ええ。頑張っていますね。あの敢闘精神は素晴らしいと思います。何万人も海外にいたウクライナ人が自国に帰って戦っているわけですからね。私はこのウクライナの姿から学ぶ教訓があると思っています。
1つ目は、まさか起こらないだろうという、その「まさか」が起こるということ。力による一方的な現状変更の可能性があり得るのです。2つ目は、相応の抑止力を持っていないと、相手の行動を抑止することはできないということです。
そして3つ目が、自分たちが戦わなければ、同盟協力もなければ、国際社会からの支援もないということです。最後の4つ目ですが、準備をきちんとやれば、現状をかなり改善することができるということです。
─ 抑止力を持てると。
長島 ウクライナは14年のロシア侵攻を受け、その後の8年間で国防費は倍増、そして兵力は4割増強しました。徹底的に米国や英国の軍事訓練を受け、装備も最新化しサイバー攻撃の防御能力も向上させました。ですから、今回、圧倒的な火力を誇るロシアの攻撃にも耐え抜いているのです。
電力も電波も通信回線も立派に維持し続け、いまだにゼレンスキー大統領は、いつでも世界に向かって発信できます。これは見事です。ですから、準備ができていれば対処できるのです。台湾で言えば、中国が強すぎて手も足も出ないなどと言うことにはならないのです。
─ その場合の抑止力とは何を指すのでしょうか。
長島 難しいのは、抑止力が相手側の認識によるという点です。今回のウクライナ侵攻でも米国は核を持ち、経済制裁もやると警告しましたが、ロシアの侵攻を抑止できませんでした。
ですから例えば、中国が台湾に対して武力で統一を図ろうとした場合、中国の威嚇を跳ね返すだけのもの、また中国側が自らの作戦が成功し得ないと認識するだけのものを持たなければなりません。それが抑止力です。
─ 「対GDP比2%」の防衛力で抑止力となる?
長島 2%目標は、国家の意志を示すものです。国力を示すGDPの何%を防衛分野に割り当てるのか、これが一国の防衛力を示す端的な指標です。
NATO(北大西洋条約機構)の防衛費も2%以上が目標ですし、OECD(経済協力開発機構)加盟諸国の平均も2・5%、全世界の平均が2・18%です。仮に日本が1%から2%に引き上げても決して突出するわけではありません。
しかも、ヨーロッパ諸国が相手にするのはロシアだけですが、日本の周辺にはロシアに加えて中国、北朝鮮がいます。その意味でいうと、まず政治の意志を示す。その上で、具体的に何が必要になってくるかと。本当に必要な装備や必要な技術をしっかり整える必要があります。
以下、本誌にて
1962年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。88年同大学大学院法学研究科修士課程(憲法学)修了。90年から3年間石原伸晃衆議院議員の公設秘書を務める。97年ジョンズ・ホプキンス大学大学院修了後、米国外交問題評議会研究員(アジア安全保障研究)。2003年衆議院議員。09年防衛大臣政務官(鳩山由紀夫内閣)。11年首相補佐官(外交安全保障担当、野田佳彦内閣)。12年防衛副大臣(野田第3次改造内閣)。17年希望の党政調会長。2021年衆議院拉致問題特別委員長。
サイバー攻撃を受けても反撃できない法規制
─ ウクライナ危機を通じて、日本の安全保障に対する考えを聞かせてください。
拓殖大学国際学部教授・佐藤丙午「専守防衛はいかに残酷な政策であるかが分かった」
長島 昨年8月、あるシンクタンクで台湾有事のシミュレーションを行いました。モデルになったのは2014年のロシアのクリミア侵攻。衝撃だったのは、サイバー攻撃を受け、電力や金融のシステムが次々にダウンしていくという光景でした。
ですから、まずはサイバー攻撃から我が国の基幹インフラを守ると同時に、攻撃を受けた後に、どれだけ早くサイバー攻撃の発信地を特定して無力化し、基幹インフラを復旧させるかが重要になります。
電力や港湾、空港、道路、鉄道といった基幹インフラは生活インフラであると同時に、自衛隊や米軍も依存しているインフラです。
こういったインフラを守るためには、潜在的な攻撃国のネットワークを常時監視する「積極サイバー防護」を可能にする法整備が急務となります。我が国では現状、不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)によって、何人も相手のサーバーに入り込んで発信源にアクセスすることが禁じられている。海外の潜在的な攻撃者に対して当局が監視することも許されないのです。
─ サイバーの防御態勢が貧弱だということですね。
長島 ええ。相手のサーバーを常時監視できる体制を構築できないと、攻撃を受けても適時に反撃し相手を無力化することができません。これでは米国はじめ、有志国とのサイバー分野での連携もできません。そして、早期にインフラを復旧すること。この2つが、物理的な攻撃を受ける以前に極めて重要です。
─ 自分の国は自分で守る。このことが基本原則だと。
長島 はい、当然のことです。ただ、日本は戦後74年を経て、自分の国のために戦うという発言そのものが忌避されてきたところがあります。しかし、この敗戦のトラウマを乗り越えていくときを迎えたのではないかと私は思っています。
その意味で、専守防衛の考え方については、少なくとも再定義が必要です。先制攻撃を慎むという意味での専守防衛は当然です。しかし、反撃のための手段も態様も「必要最小限度」という縛りがかかっている点が問題です。攻撃を受けて、ここまでしか反撃できませんなどというわけにはいきませんね。全力で押し返さなければ、国民も領土も守れません。
それはミサイル攻撃でもサイバー攻撃に対する反撃でも同じことです。
ウクライナ危機の教訓
─ その点、ウクライナの国民はロシアの侵攻に対してしっかりと反撃しています。
長島 ええ。頑張っていますね。あの敢闘精神は素晴らしいと思います。何万人も海外にいたウクライナ人が自国に帰って戦っているわけですからね。私はこのウクライナの姿から学ぶ教訓があると思っています。
1つ目は、まさか起こらないだろうという、その「まさか」が起こるということ。力による一方的な現状変更の可能性があり得るのです。2つ目は、相応の抑止力を持っていないと、相手の行動を抑止することはできないということです。
そして3つ目が、自分たちが戦わなければ、同盟協力もなければ、国際社会からの支援もないということです。最後の4つ目ですが、準備をきちんとやれば、現状をかなり改善することができるということです。
─ 抑止力を持てると。
長島 ウクライナは14年のロシア侵攻を受け、その後の8年間で国防費は倍増、そして兵力は4割増強しました。徹底的に米国や英国の軍事訓練を受け、装備も最新化しサイバー攻撃の防御能力も向上させました。ですから、今回、圧倒的な火力を誇るロシアの攻撃にも耐え抜いているのです。
電力も電波も通信回線も立派に維持し続け、いまだにゼレンスキー大統領は、いつでも世界に向かって発信できます。これは見事です。ですから、準備ができていれば対処できるのです。台湾で言えば、中国が強すぎて手も足も出ないなどと言うことにはならないのです。
─ その場合の抑止力とは何を指すのでしょうか。
長島 難しいのは、抑止力が相手側の認識によるという点です。今回のウクライナ侵攻でも米国は核を持ち、経済制裁もやると警告しましたが、ロシアの侵攻を抑止できませんでした。
ですから例えば、中国が台湾に対して武力で統一を図ろうとした場合、中国の威嚇を跳ね返すだけのもの、また中国側が自らの作戦が成功し得ないと認識するだけのものを持たなければなりません。それが抑止力です。
─ 「対GDP比2%」の防衛力で抑止力となる?
長島 2%目標は、国家の意志を示すものです。国力を示すGDPの何%を防衛分野に割り当てるのか、これが一国の防衛力を示す端的な指標です。
NATO(北大西洋条約機構)の防衛費も2%以上が目標ですし、OECD(経済協力開発機構)加盟諸国の平均も2・5%、全世界の平均が2・18%です。仮に日本が1%から2%に引き上げても決して突出するわけではありません。
しかも、ヨーロッパ諸国が相手にするのはロシアだけですが、日本の周辺にはロシアに加えて中国、北朝鮮がいます。その意味でいうと、まず政治の意志を示す。その上で、具体的に何が必要になってくるかと。本当に必要な装備や必要な技術をしっかり整える必要があります。
以下、本誌にて