市場が一巡すると、とかく価格競争に陥り、疲弊しがち。この愚を避けるにはどうするか─という問題意識から、ヤマダホールディングス会長兼社長・山田昇氏が掲げるのが『暮らしまるごと』戦略。「家電販売は10年スパンで見れば、シュリンクしている。だからこそ、将来を見通した改革に取り組んできた」と山田氏は語る。家電と親和性の高い住宅・インテリアをはじめ、金融サービス、環境といった新領域を開拓。「それらのシナジー効果を出していきたい」と新成長戦略を描く。1973年(昭和48年)30歳のとき、個人の電機店からスタートした山田氏は、半世紀に渡る経営者人生の中で、「小売業のチェーン展開には必ず壁が現われる。それをどう乗り越えるかが課題」という認識を示す。経済全体が混沌とする中での成長戦略とは―。
本誌主幹
文=村田 博文
<画像>まったく新しいヤマダ!暮らし全体を支援する新コンセプト店舗『LIFE SELECT(ライフセレクト)』
家電販売専業から『暮らしまるごと』へ脱皮
マクロ経済全体が縮小する中で、企業はいかにして成長していくか─という命題。
家電量販店トップのヤマダデンキを抱えるヤマダホールディングス会長兼社長CEO(最高経営責任者)・山田昇氏は今、住宅・リフォームの新領域に注力。さらには金融サービス、リサイクルなどの環境関連分野も手がける。
〝暮らしまるごと〟─。「家電との親和性が高い」ということで、住宅・リフォームやインテリア・生活雑貨分野を手がけ、また消費者の購買を手助けする決済などの金融サービスまで文字通り、サービスをまるごと提供する。
それを山田氏は「暮らしまるごと」戦略と呼ぶ。そしてこの10年間、その戦略の進化を図ってきた。
住宅メーカーの『エス・バイ・エル』を買収して連結子会社にしたのが2011年(平成23年)のこと。住宅や家具・インテリアへの注力は年々高まり、2019年(令和元年)に大塚家具を、そして2020年(令和2年)には木造住宅で定評のあるヒノキヤグループを傘下に取り入れた。
住宅分野への進出の足がかりとして、エス・バイ・エルを買収して、10年余。この間を振り返って、山田氏が語る。
「時代の変化があると。特に高齢化社会で人口減です。そしてこの業界はデジタル化だとか、ネット時代に入るなど劇的な変化が起きています。これに対して、どうするかという考えの下で生み出した事業コンセプトが『暮らしまるごと』なんです」
山田氏は新業態の開拓を進めてきた理由についてこう述べ、「10年経って、ほぼ基盤ができてきた」とその手応えを語る。
この10年間は経営の新業態を確立するまでの〝試行〟の日々と言っていい。旧来型の店舗の新規出店ペースを抑え、従来の家電と共に住宅・インテリアや生活雑貨なども扱う新しい店舗形態を同社は開拓してきた。
消費者にとって、暮らしの拠点は家(自宅)。その家を建てれば、必ず家電は求められるし、家具・インテリアやさらには生活雑貨も必要になってくる。
また、リフォーム(改築、修理)の需要もあるし、環境関連のニーズも生まれる。
そうした需要に応えるため、同社は家電から住宅・リフォーム、インテリアから生活雑貨まで暮らし全体を支援する新コンセプト店舗『LIFE SELECT(ライフセレクト)』を開拓。
同社の主要子会社『ヤマダデンキ』は、北は北海道から南は沖縄まで978の店舗網を持つ。
この『LIFE SELECT(ライフセレクト)』店はすでに21店を展開している。例えば、神奈川県茅ケ崎市に2021年11月、家具・インテリア、雑貨を揃えた大型店を開店。逐次この新業態店舗を拡大していく方針。
山田氏の経営観は、時代の変化にしっかり対応していくということ。
ヤマダホールディングスは2025年3月期までの中期経営計画を立て、その中で、この新事業コンセプトの具体化を打ち出している。
新中期経営計画の柱は3つ。まず茅ケ崎市のような『LIFESELECT』出店を推進。併せて既存店の機能見直しを行い、最適な店舗配置を進める。
2つ目は電子商取引(EC)の強化。この分野ではネット通販大手との競争も激しくなることが予想されるが、同社の強みは使用済み家電の下取りをやっていること。また家庭やオフィスでの商品の設置の相談に対応できる専門の社員を抱えているのも強み。
こうした強みを生かし、ネット通販大手との違いを消費者にアピールしていく方針。
3つ目がSPA(製造小売業)の機能を強化していくこと。
家電販売専業ではなく、『暮らしまるごと』戦略を着実に実行していくためには、このSPA機能の強化が不可欠という山田氏の考え。
消費者の暮らしのすべてに関わる企業として、家電だけではなく、住設機器やインテリア、生活雑貨でも自社ブランドを企画開発し、生産する体制にしていくということである。
前述のように、同社はこの10年余、急ピッチで経営改革を行い、M&A(合併・吸収)にも積極的に関わってきた。
2020年10月、持株会社制に移行し、ヤマダホールディングスを持株会社とし、ヤマダデンキを筆頭に子会社群を擁する形態を取った。
こうした経営改革を果敢に実行する理由について、山田氏が語る。
「われわれがデンキセグメント(電機領域)と呼んでいるデンキ業界は10年スパンで見れば、少し萎縮しているんですよ。だからこそ、当社は将来を見越した改革に取り組んできた」
山田氏はこう改革の動機を述べ、次のように続ける。
「要は、あくまでも家電専門店としての事業領域をいかに広げるか、新事業領域も親和性の高い取り組みなんですよ。対象のお客様は同じお客様じゃないですか。個人じゃなくて家族。そういうことで、衣食住の住の家電を中心にやっていこうと。そうすると、事業の幅が広がる。こういう考えです」
〈編集部のオススメ記事〉>>【日本取引所グループCEO・清田瞭】の日本企業の稼ぐ力をもっと!
「新型店舗は価格競争に陥らない」
山田氏は創業者で、いわゆるオーナー経営者。日本ビクター(現JVCケンウッド)を退社して、1973年(昭和48年)、群馬県前橋市に個人経営の家電店を開いたのが始まり。
それから49年が経った。この半世紀の間に、石油危機、バブル経済崩壊、ITショック、リーマン・ショック、東日本大震災、そして今回のコロナ禍と数々の社会変動、経済環境の激変があった。
同社はその中を生き抜き、家電量販1位の座を獲得。
全国規模でチェーン展開を図り、978店(今年3月現在)という販売網。この一大販売ネトワークの下で、コストダウンを図り、価格競争でも有利なポジションを築いてきた。
しかし、かつての高度成長時代と違い、大量仕入れ・大量販売によってコストダウンを図るという経営手法だけでは今日通用しなくなってきている。
コロナ禍で人々の生き方・働き方、そして価値観や消費行動も変わってきた。
そうした世の中の変化に対応しての経営形態改革である。
人口減、少子化・高齢化という人口構造の変化、家電市場のシュリンク(縮小)という状況下にあって、従来の値引き競争に終始していては互いに疲弊するだけである。
「当社が打ち出している戦略というのは価格競争にならないんです。新しい店舗開発は、あくまでも商品の品揃えの問題であり、サービスの問題であるということ。ここがポイントで、われわれは品揃えやサービスの面で圧倒的に強くなるんだということです」
価格競争にならない体制づくりが大事だと山田氏は強調。
非デンキの住宅、家具や環境等をいかに伸ばすか
コロナ禍は経済全体に影響を与え、さらにウクライナ危機で先行き不透明感が漂う。
同社の2022年3月期の連結決算は売上高約1兆6193億円(前年同期比7.6%減)となった。
営業利益は657億円(同28.6%減)、経常利益は741億円(同25.0減)、そして純利益は505億円(同2.4%減)。
前期(2022年3月期)は会計法上の〝収益認識に関する会計基準〟が適用され、これにより売上減少分が約1040億円にのぼった。
また、コロナ禍2年目での営業自粛が来店客数の減少につながり、前年度は巣ごもり需要があったものの、前期はその反動もあった。
会計基準の変更がなく、前年度と同じ会計方式で算出すると、連結売上高は前年度比1.7%減になった勘定。
ともあれ、経営環境が大きく変わってきたのは事実。
家電に加えて、住宅・リフォーム、金融サービス、環境などの新領域開拓で新しい道筋を切り拓いていかなければならない。
同社の売上高構成は、デンキ、住建、金融、環境、その他の5つのセグメント(区分け)になっている。
2022年3月期の売上高は、デンキの家電部門(テレビ、冷蔵庫、エアコンなど)が約9375億円(構成比率54.4%)、同非家電部門(パソコン、パソコン関連、携帯電話など)が約3441億円(同19.6%)とデンキ部門が74%を占める。
住宅・リフォームなどのセグメントの売上高は約2880億円で全売上高に対する比率は16・.7%。家具・インテリア類の売上高は約985億円で構成比率は5.7%という数字。
デンキ部門は、山田氏が言うようにSPAとして自ら製品の企画を立て、独自の開発工夫で製造し、販売する形で収益を高めている。
そして、非デンキの住宅・リフォームや家具・インテリアの事業拡大に弾みをつけて、リサイクルや環境事業に連関させていくことが大事。
さらに、家電と住宅をセットしたローンの提案など、金融サービス部門も伸ばすという〝暮らしまるごと〟戦略である(銀行代理業の免許もすでに取得)。
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『暮らしまるごと』で粗利益を高める!
山田氏の一連の改革は、業界のリーディングカンパニーとして、どう自分たちの将来をにらみ、手を打っていくかという点で注目される。
「今までうちは北海道から沖縄まで店舗をつくったわけじゃないですか。そうすると、(市場開拓は)一巡している。これ以上出店すると自社競合になって、経営効率が悪くなる。せいぜいやってSPAです。そういう方法しか取れない。その間、小売業の理論じゃないけれども、あとから追い掛けてくる連中がシェアを取るんです。小売業というのは、こういう構図なんです」
山田氏は小売業がたどってきた歴史をヒモ解きながら語る。
そして、自社競合にならず、しかも単なるシェア競争に陥らないようにするために、『暮らしまるごと』戦略を進めてきたと強調する。
家電主体の時、つまり今のセグメントでいえば、デンキ主体の時に売上高はピーク2兆円を超えた(2011年3月期に約2兆1532億円)。それが前期は1兆6100億円とピーク時より約25%減になった。
ここから、どう巻き返していくか─という山田氏の問題意識。家電を中心にして、暮らしに関わるものは何でも提供していくという新戦略のポイントとは何か?
「最大の戦略は何かというと、モノを持っていないと、戦う武器がないと駄目なんです。最大の戦略は店舗開発ができるということ。小売業だから、売場面積イコール増収です」
もちろん、DX(デジタルトランスフォーメーション)を付加しての店舗開発である。
「今度3000坪(約9900平方㍍)の大型店をつくると言えば分かるでしょ。家具・インテリアからリフォームから生活雑貨や玩具まで幅広く、暮らし全体に関わっていく」
こうした『LIFE SELECT』店のメリットは何か?
「そうなってくると粗利ミックスになるんですよ。家具・インテリアは粗利が基本的に高い。家電は作ってもらったものを売るだけですからね。家具は利益率がぐんと高く、だから価格競争にならない部分がある」
ライバルをどう見るのか?
「ライバルがやる対策は何かと言うと、価格しかない。仕返しに、徹底的に安くしようとする。しかし、それも長続きしない。客数が圧倒的に違うから。(ライバルは)対抗上、ただ粗利を削るだけで、経営の仕組みにおいてどうするかではなく、疲弊して、大体2か月で止めてしまう。価格を元に戻す。今はそういう現象になっている」
山田氏はこう自社戦略と他社との違いを示しながらも、「もちろん、店舗のDX化を進めているし、価格もそれなりにマーケットと注視しながらやっていく。うちの商品は高くはないし、リーズナブルな価格。そういう範囲内で戦えているし、戦略が違うんです」と商品と価格の関係を強調する。
家電と非家電のシナジー効果は?
では、家電と家具・インテリアなどとの連携、シナジー効果をどう打ち出していくのか?
「例えば、家具・インテリアは圧倒的にSPAであり、それにプラスブランドが必要なんです。これは大塚家具さんと組んで、世界のブランドを扱えるようになっていますから、その違いがあります」
具体的に商品展開は?
「家具・インテリアでそういうことを言っても、その差は何かと言ったときに、ボリュームゾーン(売れ筋)が中心になるんですけれども、そこは電気屋だからできる商品開発をうちはやっています。例えば電動ソファとか電動ベッド、電動チェア、いろいろあるんですよ。いろいろな楽しみ方を提案できるということです」
高齢者のための電動ベッドから、20代、30代の若い世代がベッドの上で本を読みたい、パソコンを使いたいといった需要の開拓、そして、子供のためのベッドやリビング設計まで提案していくという。
「店を見てもらえば、そのことが分かります。体験、体感型の店舗設計ですし、社員にもそのためのスキルが求められます」と山田氏は語る。
内外での試練を経て
2023年に同社は創業50周年を迎える。
その足取りを見ると、創業から16年後の1989年(平成元年)、株式をジャスダック(現東証グロース市場)に店頭登録。2000年に東証1部に上場。この間、1996年(平成8年)にインターネットサービスプロバイダー事業を開始(インターネット元年は1995年)。
M&Aにも積極的で2002年、イトーヨーカ堂グループ(現セブン&アイ・ホールディングス)から家電販売のダイクマ株を取得した。
全国展開にも意欲的で、首都圏では郊外に大型店を出店し、郊外から都市部に攻め入る形を取り、都心では『LABI』という都市型店舗を展開。
2011年3月期には、先述のように国内の家電量販店で初めて売上高2兆円を突破(この時、世界で2位の売上規模)。この時点で〝次〟をにらみ、住宅メーカーのエス・バイ・エルを連結子会社化(2011)。
さらに2012年12月、一時期家電量販トップに立ったベスト電器を子会社化。翌13年には、ダイクマとサトームセンを完全子会社化といったように、M&Aにも積極的に取り組んできた。
売上高が2兆円に達した2011年3月期は、テレビ放送が地上デジタル放送へ完全移行する時で、家電エコポイント制度終了に伴う買い替え特需があって、売上高はピークに達した。
しかし、直後には試練もあった。アマゾンジャパンや楽天グループなど、ネット通販との競争争も激しくなり、業績も停滞。2015年には60店もの大量閉店に踏み切ったこともある。
また、中国市場開拓に力を振り向けていたときに、尖閣諸島で事件が発生。中国漁船が違法操業の取り締まりに当たっていた日本の海上保安庁の巡視艇に衝突してきたという事件である(2010年)。
日中関係が一時悪化したこともあり、結果的にヤマダ電機は中国国内で展開していた3店舗の閉鎖に追い込まれた。
「閉めるに当たって、日本へ来たい人は来てくださいと。それで国内で採用しました」と山田氏は中国人社員について、「優秀な人が多い。日本で学んだ人も多いですしね」と語る。
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人と人の融合を
ヤマダホールディングス全体の社員は現在2万3700人強。うち外国籍社員は301人(今年6月現在)。
企業経営の基本は『人』。人材の育成をどう図っていくか。
「まず融合ですね。旧ヤマダと新しく一緒になってくれる人材の融合を図るということです。別々にしない。できるだけ融合。うちは混成部隊になっているけれども、優秀であれば、どんどん抜擢しています。子会社とか本社とかは全く関係ない。それがうちの強みだと」
同社の取締役は社内7人、社外2人の計9人。会長兼社長でCEOの山田氏と共に代表取締役を務めるのは副社長執行役員の村澤圧司氏(1962年3月生まれ)と専務執行役員の小暮めぐ美氏(1976年10月生まれ)の2人。
「ナンバー3は女性です。代表権を持つ専務で現場からのたたき上げです。いま人事総務を担当し、彼女が働き方改革をやってくれています。成果を出してくれているし、こういう女性がどんどん増えています」
現在、女性社員が全体に占める比率は13.6%。「まだ低いです」と山田氏は語り、担当の小暮氏に対して「今意識して、彼女に課題を与えています。女性の戦力活用という意味で広く見てくれと」と奮励している。
自分たちの存在意義、使命感とは何か?
「われわれの商品は必需品ですからね。業界自体は変わるとしても、必要な商品だから、廃れることはない。経営をうまく引っ張っていけば、苦難のときはあっても、それなりに進んで行ける。そのように持っていければいい」
さらに山田氏が続ける。
「少なくとも、経営を先取りしてやっていく努力をする。今、わたしたちが考えていることを着実に実行していけば、この時代を乗り切っていけると」
山田氏はこう語り、「会社のことを思い、従業員のことを思い、みんなの生活をよくする。みんなが幸せになれるような会社を目指したい」という言葉で結んだ。
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本誌主幹
文=村田 博文
<画像>まったく新しいヤマダ!暮らし全体を支援する新コンセプト店舗『LIFE SELECT(ライフセレクト)』
家電販売専業から『暮らしまるごと』へ脱皮
マクロ経済全体が縮小する中で、企業はいかにして成長していくか─という命題。
家電量販店トップのヤマダデンキを抱えるヤマダホールディングス会長兼社長CEO(最高経営責任者)・山田昇氏は今、住宅・リフォームの新領域に注力。さらには金融サービス、リサイクルなどの環境関連分野も手がける。
〝暮らしまるごと〟─。「家電との親和性が高い」ということで、住宅・リフォームやインテリア・生活雑貨分野を手がけ、また消費者の購買を手助けする決済などの金融サービスまで文字通り、サービスをまるごと提供する。
それを山田氏は「暮らしまるごと」戦略と呼ぶ。そしてこの10年間、その戦略の進化を図ってきた。
住宅メーカーの『エス・バイ・エル』を買収して連結子会社にしたのが2011年(平成23年)のこと。住宅や家具・インテリアへの注力は年々高まり、2019年(令和元年)に大塚家具を、そして2020年(令和2年)には木造住宅で定評のあるヒノキヤグループを傘下に取り入れた。
住宅分野への進出の足がかりとして、エス・バイ・エルを買収して、10年余。この間を振り返って、山田氏が語る。
「時代の変化があると。特に高齢化社会で人口減です。そしてこの業界はデジタル化だとか、ネット時代に入るなど劇的な変化が起きています。これに対して、どうするかという考えの下で生み出した事業コンセプトが『暮らしまるごと』なんです」
山田氏は新業態の開拓を進めてきた理由についてこう述べ、「10年経って、ほぼ基盤ができてきた」とその手応えを語る。
この10年間は経営の新業態を確立するまでの〝試行〟の日々と言っていい。旧来型の店舗の新規出店ペースを抑え、従来の家電と共に住宅・インテリアや生活雑貨なども扱う新しい店舗形態を同社は開拓してきた。
消費者にとって、暮らしの拠点は家(自宅)。その家を建てれば、必ず家電は求められるし、家具・インテリアやさらには生活雑貨も必要になってくる。
また、リフォーム(改築、修理)の需要もあるし、環境関連のニーズも生まれる。
そうした需要に応えるため、同社は家電から住宅・リフォーム、インテリアから生活雑貨まで暮らし全体を支援する新コンセプト店舗『LIFE SELECT(ライフセレクト)』を開拓。
同社の主要子会社『ヤマダデンキ』は、北は北海道から南は沖縄まで978の店舗網を持つ。
この『LIFE SELECT(ライフセレクト)』店はすでに21店を展開している。例えば、神奈川県茅ケ崎市に2021年11月、家具・インテリア、雑貨を揃えた大型店を開店。逐次この新業態店舗を拡大していく方針。
山田氏の経営観は、時代の変化にしっかり対応していくということ。
ヤマダホールディングスは2025年3月期までの中期経営計画を立て、その中で、この新事業コンセプトの具体化を打ち出している。
新中期経営計画の柱は3つ。まず茅ケ崎市のような『LIFESELECT』出店を推進。併せて既存店の機能見直しを行い、最適な店舗配置を進める。
2つ目は電子商取引(EC)の強化。この分野ではネット通販大手との競争も激しくなることが予想されるが、同社の強みは使用済み家電の下取りをやっていること。また家庭やオフィスでの商品の設置の相談に対応できる専門の社員を抱えているのも強み。
こうした強みを生かし、ネット通販大手との違いを消費者にアピールしていく方針。
3つ目がSPA(製造小売業)の機能を強化していくこと。
家電販売専業ではなく、『暮らしまるごと』戦略を着実に実行していくためには、このSPA機能の強化が不可欠という山田氏の考え。
消費者の暮らしのすべてに関わる企業として、家電だけではなく、住設機器やインテリア、生活雑貨でも自社ブランドを企画開発し、生産する体制にしていくということである。
前述のように、同社はこの10年余、急ピッチで経営改革を行い、M&A(合併・吸収)にも積極的に関わってきた。
2020年10月、持株会社制に移行し、ヤマダホールディングスを持株会社とし、ヤマダデンキを筆頭に子会社群を擁する形態を取った。
こうした経営改革を果敢に実行する理由について、山田氏が語る。
「われわれがデンキセグメント(電機領域)と呼んでいるデンキ業界は10年スパンで見れば、少し萎縮しているんですよ。だからこそ、当社は将来を見越した改革に取り組んできた」
山田氏はこう改革の動機を述べ、次のように続ける。
「要は、あくまでも家電専門店としての事業領域をいかに広げるか、新事業領域も親和性の高い取り組みなんですよ。対象のお客様は同じお客様じゃないですか。個人じゃなくて家族。そういうことで、衣食住の住の家電を中心にやっていこうと。そうすると、事業の幅が広がる。こういう考えです」
〈編集部のオススメ記事〉>>【日本取引所グループCEO・清田瞭】の日本企業の稼ぐ力をもっと!
「新型店舗は価格競争に陥らない」
山田氏は創業者で、いわゆるオーナー経営者。日本ビクター(現JVCケンウッド)を退社して、1973年(昭和48年)、群馬県前橋市に個人経営の家電店を開いたのが始まり。
それから49年が経った。この半世紀の間に、石油危機、バブル経済崩壊、ITショック、リーマン・ショック、東日本大震災、そして今回のコロナ禍と数々の社会変動、経済環境の激変があった。
同社はその中を生き抜き、家電量販1位の座を獲得。
全国規模でチェーン展開を図り、978店(今年3月現在)という販売網。この一大販売ネトワークの下で、コストダウンを図り、価格競争でも有利なポジションを築いてきた。
しかし、かつての高度成長時代と違い、大量仕入れ・大量販売によってコストダウンを図るという経営手法だけでは今日通用しなくなってきている。
コロナ禍で人々の生き方・働き方、そして価値観や消費行動も変わってきた。
そうした世の中の変化に対応しての経営形態改革である。
人口減、少子化・高齢化という人口構造の変化、家電市場のシュリンク(縮小)という状況下にあって、従来の値引き競争に終始していては互いに疲弊するだけである。
「当社が打ち出している戦略というのは価格競争にならないんです。新しい店舗開発は、あくまでも商品の品揃えの問題であり、サービスの問題であるということ。ここがポイントで、われわれは品揃えやサービスの面で圧倒的に強くなるんだということです」
価格競争にならない体制づくりが大事だと山田氏は強調。
非デンキの住宅、家具や環境等をいかに伸ばすか
コロナ禍は経済全体に影響を与え、さらにウクライナ危機で先行き不透明感が漂う。
同社の2022年3月期の連結決算は売上高約1兆6193億円(前年同期比7.6%減)となった。
営業利益は657億円(同28.6%減)、経常利益は741億円(同25.0減)、そして純利益は505億円(同2.4%減)。
前期(2022年3月期)は会計法上の〝収益認識に関する会計基準〟が適用され、これにより売上減少分が約1040億円にのぼった。
また、コロナ禍2年目での営業自粛が来店客数の減少につながり、前年度は巣ごもり需要があったものの、前期はその反動もあった。
会計基準の変更がなく、前年度と同じ会計方式で算出すると、連結売上高は前年度比1.7%減になった勘定。
ともあれ、経営環境が大きく変わってきたのは事実。
家電に加えて、住宅・リフォーム、金融サービス、環境などの新領域開拓で新しい道筋を切り拓いていかなければならない。
同社の売上高構成は、デンキ、住建、金融、環境、その他の5つのセグメント(区分け)になっている。
2022年3月期の売上高は、デンキの家電部門(テレビ、冷蔵庫、エアコンなど)が約9375億円(構成比率54.4%)、同非家電部門(パソコン、パソコン関連、携帯電話など)が約3441億円(同19.6%)とデンキ部門が74%を占める。
住宅・リフォームなどのセグメントの売上高は約2880億円で全売上高に対する比率は16・.7%。家具・インテリア類の売上高は約985億円で構成比率は5.7%という数字。
デンキ部門は、山田氏が言うようにSPAとして自ら製品の企画を立て、独自の開発工夫で製造し、販売する形で収益を高めている。
そして、非デンキの住宅・リフォームや家具・インテリアの事業拡大に弾みをつけて、リサイクルや環境事業に連関させていくことが大事。
さらに、家電と住宅をセットしたローンの提案など、金融サービス部門も伸ばすという〝暮らしまるごと〟戦略である(銀行代理業の免許もすでに取得)。
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『暮らしまるごと』で粗利益を高める!
山田氏の一連の改革は、業界のリーディングカンパニーとして、どう自分たちの将来をにらみ、手を打っていくかという点で注目される。
「今までうちは北海道から沖縄まで店舗をつくったわけじゃないですか。そうすると、(市場開拓は)一巡している。これ以上出店すると自社競合になって、経営効率が悪くなる。せいぜいやってSPAです。そういう方法しか取れない。その間、小売業の理論じゃないけれども、あとから追い掛けてくる連中がシェアを取るんです。小売業というのは、こういう構図なんです」
山田氏は小売業がたどってきた歴史をヒモ解きながら語る。
そして、自社競合にならず、しかも単なるシェア競争に陥らないようにするために、『暮らしまるごと』戦略を進めてきたと強調する。
家電主体の時、つまり今のセグメントでいえば、デンキ主体の時に売上高はピーク2兆円を超えた(2011年3月期に約2兆1532億円)。それが前期は1兆6100億円とピーク時より約25%減になった。
ここから、どう巻き返していくか─という山田氏の問題意識。家電を中心にして、暮らしに関わるものは何でも提供していくという新戦略のポイントとは何か?
「最大の戦略は何かというと、モノを持っていないと、戦う武器がないと駄目なんです。最大の戦略は店舗開発ができるということ。小売業だから、売場面積イコール増収です」
もちろん、DX(デジタルトランスフォーメーション)を付加しての店舗開発である。
「今度3000坪(約9900平方㍍)の大型店をつくると言えば分かるでしょ。家具・インテリアからリフォームから生活雑貨や玩具まで幅広く、暮らし全体に関わっていく」
こうした『LIFE SELECT』店のメリットは何か?
「そうなってくると粗利ミックスになるんですよ。家具・インテリアは粗利が基本的に高い。家電は作ってもらったものを売るだけですからね。家具は利益率がぐんと高く、だから価格競争にならない部分がある」
ライバルをどう見るのか?
「ライバルがやる対策は何かと言うと、価格しかない。仕返しに、徹底的に安くしようとする。しかし、それも長続きしない。客数が圧倒的に違うから。(ライバルは)対抗上、ただ粗利を削るだけで、経営の仕組みにおいてどうするかではなく、疲弊して、大体2か月で止めてしまう。価格を元に戻す。今はそういう現象になっている」
山田氏はこう自社戦略と他社との違いを示しながらも、「もちろん、店舗のDX化を進めているし、価格もそれなりにマーケットと注視しながらやっていく。うちの商品は高くはないし、リーズナブルな価格。そういう範囲内で戦えているし、戦略が違うんです」と商品と価格の関係を強調する。
家電と非家電のシナジー効果は?
では、家電と家具・インテリアなどとの連携、シナジー効果をどう打ち出していくのか?
「例えば、家具・インテリアは圧倒的にSPAであり、それにプラスブランドが必要なんです。これは大塚家具さんと組んで、世界のブランドを扱えるようになっていますから、その違いがあります」
具体的に商品展開は?
「家具・インテリアでそういうことを言っても、その差は何かと言ったときに、ボリュームゾーン(売れ筋)が中心になるんですけれども、そこは電気屋だからできる商品開発をうちはやっています。例えば電動ソファとか電動ベッド、電動チェア、いろいろあるんですよ。いろいろな楽しみ方を提案できるということです」
高齢者のための電動ベッドから、20代、30代の若い世代がベッドの上で本を読みたい、パソコンを使いたいといった需要の開拓、そして、子供のためのベッドやリビング設計まで提案していくという。
「店を見てもらえば、そのことが分かります。体験、体感型の店舗設計ですし、社員にもそのためのスキルが求められます」と山田氏は語る。
内外での試練を経て
2023年に同社は創業50周年を迎える。
その足取りを見ると、創業から16年後の1989年(平成元年)、株式をジャスダック(現東証グロース市場)に店頭登録。2000年に東証1部に上場。この間、1996年(平成8年)にインターネットサービスプロバイダー事業を開始(インターネット元年は1995年)。
M&Aにも積極的で2002年、イトーヨーカ堂グループ(現セブン&アイ・ホールディングス)から家電販売のダイクマ株を取得した。
全国展開にも意欲的で、首都圏では郊外に大型店を出店し、郊外から都市部に攻め入る形を取り、都心では『LABI』という都市型店舗を展開。
2011年3月期には、先述のように国内の家電量販店で初めて売上高2兆円を突破(この時、世界で2位の売上規模)。この時点で〝次〟をにらみ、住宅メーカーのエス・バイ・エルを連結子会社化(2011)。
さらに2012年12月、一時期家電量販トップに立ったベスト電器を子会社化。翌13年には、ダイクマとサトームセンを完全子会社化といったように、M&Aにも積極的に取り組んできた。
売上高が2兆円に達した2011年3月期は、テレビ放送が地上デジタル放送へ完全移行する時で、家電エコポイント制度終了に伴う買い替え特需があって、売上高はピークに達した。
しかし、直後には試練もあった。アマゾンジャパンや楽天グループなど、ネット通販との競争争も激しくなり、業績も停滞。2015年には60店もの大量閉店に踏み切ったこともある。
また、中国市場開拓に力を振り向けていたときに、尖閣諸島で事件が発生。中国漁船が違法操業の取り締まりに当たっていた日本の海上保安庁の巡視艇に衝突してきたという事件である(2010年)。
日中関係が一時悪化したこともあり、結果的にヤマダ電機は中国国内で展開していた3店舗の閉鎖に追い込まれた。
「閉めるに当たって、日本へ来たい人は来てくださいと。それで国内で採用しました」と山田氏は中国人社員について、「優秀な人が多い。日本で学んだ人も多いですしね」と語る。
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人と人の融合を
ヤマダホールディングス全体の社員は現在2万3700人強。うち外国籍社員は301人(今年6月現在)。
企業経営の基本は『人』。人材の育成をどう図っていくか。
「まず融合ですね。旧ヤマダと新しく一緒になってくれる人材の融合を図るということです。別々にしない。できるだけ融合。うちは混成部隊になっているけれども、優秀であれば、どんどん抜擢しています。子会社とか本社とかは全く関係ない。それがうちの強みだと」
同社の取締役は社内7人、社外2人の計9人。会長兼社長でCEOの山田氏と共に代表取締役を務めるのは副社長執行役員の村澤圧司氏(1962年3月生まれ)と専務執行役員の小暮めぐ美氏(1976年10月生まれ)の2人。
「ナンバー3は女性です。代表権を持つ専務で現場からのたたき上げです。いま人事総務を担当し、彼女が働き方改革をやってくれています。成果を出してくれているし、こういう女性がどんどん増えています」
現在、女性社員が全体に占める比率は13.6%。「まだ低いです」と山田氏は語り、担当の小暮氏に対して「今意識して、彼女に課題を与えています。女性の戦力活用という意味で広く見てくれと」と奮励している。
自分たちの存在意義、使命感とは何か?
「われわれの商品は必需品ですからね。業界自体は変わるとしても、必要な商品だから、廃れることはない。経営をうまく引っ張っていけば、苦難のときはあっても、それなりに進んで行ける。そのように持っていければいい」
さらに山田氏が続ける。
「少なくとも、経営を先取りしてやっていく努力をする。今、わたしたちが考えていることを着実に実行していけば、この時代を乗り切っていけると」
山田氏はこう語り、「会社のことを思い、従業員のことを思い、みんなの生活をよくする。みんなが幸せになれるような会社を目指したい」という言葉で結んだ。
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