首都圏の新築マンションは価格高騰が続く。2021年度の平均価格はバブル期を超えたと話題にもなった。一般サラリーマンには手が届かないと言われる中で、「最後の希望」とも言われる物件が、東京都中央区晴海で販売中の大規模マンション「晴海フラッグ」。東京五輪の選手村としても知られるが、販売時の抽選で最高倍率111倍を記録した部屋も出ている。なぜ、この時期、晴海フラッグに人が集まるのか。
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東京五輪後に申し込みが急増
「何といっても価格が安い。それに尽きる」─こう話すのは都内の大手企業に勤める30代の男性会社員。
男性は都内でマンション購入を検討していた。家族は共働きの妻と3人の子供がおり、現在の東京23区内で暮らす賃貸住宅は手狭になりつつあった。
そこで注目したのが、東京都中央区晴海の「晴海フラッグ」。東京オリンピック・パラリンピックの選手が宿泊する選手村としても注目された物件。約13ヘクタールの敷地にタワーマンション・中層マンションの分譲住宅が4145戸、賃貸住宅(シニア住宅、シェアハウス含む)が1487戸の合計5632戸という大規模マンション。
広さは平均で84平方メートル、100平方メートルを超える住戸が300戸と、非常に余裕のある造り。最近の首都圏新築マンションの平均専有面積が65平方メートルを割っていることを考えると貴重な広さ。
最寄り駅は都営地下鉄大江戸線の勝どき駅だが、徒歩で17~21分かかるため、交通利便性がいいとは言えない。だが、冒頭の発言にあるように、物件の平均坪単価は300万円を切っている。中央区のマンションの平均坪単価は400万円弱のため、これを大きく下回っている。
ただ、面積が広い分、総額自体は高い。しかし、この男性会社員は「中央区アドレスでこの価格は二度と出てこない。支払いは楽ではないが、払えないことはない」と購入に前向きだった。しかし妻の勤務先から遠くなること、3人の子供達の転校などを考えて、最終的には申し込みを見送った。この男性会社員の周囲にも、晴海フラッグの購入を検討する人が多いという。
実際の販売状況はどうなっているのか。
晴海フラッグは戸数が多いため、段階的に販売を進めている。東京五輪前に2回、五輪後に3回の販売機会があったが、五輪後の3回目には最高倍率111倍を記録した部屋が出るなど、申し込みが殺到。7月の5回目の販売時にも最高倍率96倍の部屋があった。
3回目の販売時の平均倍率が約8.7倍、4回目が約6.6倍、5回目が13.8倍となった。三井不動産レジデンシャル都市開発三部事業室主管で晴海フラッグ販売センター所長の古谷歩氏は「これまで長くマンション営業をしてきたが、見たことがない倍率。五輪前から検討されていた方々の需要は落ちず、五輪後に新たな層が上乗せされた形」と話す。
「コロナ禍を経て、住まいに対して求めるもの、価値観が大きく変わったように感じる。自宅や自宅周辺で過ごす時間が増え、交通利便性だけでなく部屋の広さ、自然環境などが重視されるようになった。『ゆとり』をテーマにつくってきたことが、時代にマッチしたのではないか」(古谷氏)
都心で手に入りにくい70~90平方メートルの部屋があることで需要は強く、モデルルームの予約すら取りにくい状況が続く。投資目的の購入希望者もいるが「大半は実需目的」(同)。
今後のマンション市況をどう見るか。不動産市場に詳しいニッセイ基礎研究所主任研究員の佐久間誠氏は「マンション価格が右肩上がりに上昇する局面からは変わってきたが、だからといって下落するかというと、そうなりにくいのが現状」と指摘。
コロナ禍にあって、マンション価格上昇につながる3つの要因が指摘されていた。第1に在宅勤務の普及で、それまでより広い家を求めるなど消費者の住宅需要が高まったこと、第2に建築関連コストの上昇、第3に金融緩和の継続、低金利で消費者が住宅購入資金を確保しやすくなったことが挙げられる。
ただ、第1の要因は在宅勤務を中心とする大企業が出てくる一方で、多くの企業ではオフィスに人が戻りつつある。また、第3の要因を見ると、欧米の中央銀行が利上げに動く中、日本銀行は緩和姿勢を継続しているが近い将来、引き締めに向かうだろうと見られている。ただ、第2の要因だけは資源価格高騰、為替の円安などを受けて価格上昇が加速している。
「数年前から、特に東京都内の物件が一般の実需層が購入できる価格ではなくなっていることが指摘されてきていたが、かなり厳しいところまで来ているのではないか」(佐久間氏)
だが、マンションを取り巻く環境を見る限り、価格は横ばいか、やや低下という程度ではないかと見られている。
今の都内のマンション価格の状況を見ると、例えば山手線の内側で、ファミリー層が買うような間取りの新築物件で1億円を下回ることは、ほぼない。それでも、そうしたマンションが売れてきた背景には、従来のような士業や土地を持つ資産家に加えて、共働きの「パワーカップル」と呼ばれる世帯年収1500~2000万円の層が低金利を背景に参入したことがある。
また、供給要因もある。かつて、首都圏のマンション供給戸数は1999年から2005年まで連続して年間8万戸を上回ったこともあったが、21年は約3万2000戸というタイトな状況。首都圏に限って言えばマンションの供給を購入希望者が上回っていると言えるが、価格高騰が続く中で、それもどこまで続くか不透明。
晴海フラッグの価格は、業界内では「2015年の目線では高く、18年以降の目線では安い」と言われる。その意味で、この物件は日本の首都圏マンションの市況を図る上で、一つの指標となる。混沌とする経済や金利動向を睨みながらの販売が続く。
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東京五輪後に申し込みが急増
「何といっても価格が安い。それに尽きる」─こう話すのは都内の大手企業に勤める30代の男性会社員。
男性は都内でマンション購入を検討していた。家族は共働きの妻と3人の子供がおり、現在の東京23区内で暮らす賃貸住宅は手狭になりつつあった。
そこで注目したのが、東京都中央区晴海の「晴海フラッグ」。東京オリンピック・パラリンピックの選手が宿泊する選手村としても注目された物件。約13ヘクタールの敷地にタワーマンション・中層マンションの分譲住宅が4145戸、賃貸住宅(シニア住宅、シェアハウス含む)が1487戸の合計5632戸という大規模マンション。
広さは平均で84平方メートル、100平方メートルを超える住戸が300戸と、非常に余裕のある造り。最近の首都圏新築マンションの平均専有面積が65平方メートルを割っていることを考えると貴重な広さ。
最寄り駅は都営地下鉄大江戸線の勝どき駅だが、徒歩で17~21分かかるため、交通利便性がいいとは言えない。だが、冒頭の発言にあるように、物件の平均坪単価は300万円を切っている。中央区のマンションの平均坪単価は400万円弱のため、これを大きく下回っている。
ただ、面積が広い分、総額自体は高い。しかし、この男性会社員は「中央区アドレスでこの価格は二度と出てこない。支払いは楽ではないが、払えないことはない」と購入に前向きだった。しかし妻の勤務先から遠くなること、3人の子供達の転校などを考えて、最終的には申し込みを見送った。この男性会社員の周囲にも、晴海フラッグの購入を検討する人が多いという。
実際の販売状況はどうなっているのか。
晴海フラッグは戸数が多いため、段階的に販売を進めている。東京五輪前に2回、五輪後に3回の販売機会があったが、五輪後の3回目には最高倍率111倍を記録した部屋が出るなど、申し込みが殺到。7月の5回目の販売時にも最高倍率96倍の部屋があった。
3回目の販売時の平均倍率が約8.7倍、4回目が約6.6倍、5回目が13.8倍となった。三井不動産レジデンシャル都市開発三部事業室主管で晴海フラッグ販売センター所長の古谷歩氏は「これまで長くマンション営業をしてきたが、見たことがない倍率。五輪前から検討されていた方々の需要は落ちず、五輪後に新たな層が上乗せされた形」と話す。
「コロナ禍を経て、住まいに対して求めるもの、価値観が大きく変わったように感じる。自宅や自宅周辺で過ごす時間が増え、交通利便性だけでなく部屋の広さ、自然環境などが重視されるようになった。『ゆとり』をテーマにつくってきたことが、時代にマッチしたのではないか」(古谷氏)
都心で手に入りにくい70~90平方メートルの部屋があることで需要は強く、モデルルームの予約すら取りにくい状況が続く。投資目的の購入希望者もいるが「大半は実需目的」(同)。
今後のマンション市況をどう見るか。不動産市場に詳しいニッセイ基礎研究所主任研究員の佐久間誠氏は「マンション価格が右肩上がりに上昇する局面からは変わってきたが、だからといって下落するかというと、そうなりにくいのが現状」と指摘。
コロナ禍にあって、マンション価格上昇につながる3つの要因が指摘されていた。第1に在宅勤務の普及で、それまでより広い家を求めるなど消費者の住宅需要が高まったこと、第2に建築関連コストの上昇、第3に金融緩和の継続、低金利で消費者が住宅購入資金を確保しやすくなったことが挙げられる。
ただ、第1の要因は在宅勤務を中心とする大企業が出てくる一方で、多くの企業ではオフィスに人が戻りつつある。また、第3の要因を見ると、欧米の中央銀行が利上げに動く中、日本銀行は緩和姿勢を継続しているが近い将来、引き締めに向かうだろうと見られている。ただ、第2の要因だけは資源価格高騰、為替の円安などを受けて価格上昇が加速している。
「数年前から、特に東京都内の物件が一般の実需層が購入できる価格ではなくなっていることが指摘されてきていたが、かなり厳しいところまで来ているのではないか」(佐久間氏)
だが、マンションを取り巻く環境を見る限り、価格は横ばいか、やや低下という程度ではないかと見られている。
今の都内のマンション価格の状況を見ると、例えば山手線の内側で、ファミリー層が買うような間取りの新築物件で1億円を下回ることは、ほぼない。それでも、そうしたマンションが売れてきた背景には、従来のような士業や土地を持つ資産家に加えて、共働きの「パワーカップル」と呼ばれる世帯年収1500~2000万円の層が低金利を背景に参入したことがある。
また、供給要因もある。かつて、首都圏のマンション供給戸数は1999年から2005年まで連続して年間8万戸を上回ったこともあったが、21年は約3万2000戸というタイトな状況。首都圏に限って言えばマンションの供給を購入希望者が上回っていると言えるが、価格高騰が続く中で、それもどこまで続くか不透明。
晴海フラッグの価格は、業界内では「2015年の目線では高く、18年以降の目線では安い」と言われる。その意味で、この物件は日本の首都圏マンションの市況を図る上で、一つの指標となる。混沌とする経済や金利動向を睨みながらの販売が続く。