「危機の時こそ、しっかりと役割を果たしていきたい」と生命保険協会長の稲垣氏は話す。2年半のコロナ禍で、保険金や給付金の支払いが増大。生命保険各社にとっても大変な事態だったが、負担は当面続く。また今後、「人生100年時代」にあって、寿命が資産寿命を越えてしまう恐れもある。時代の変化の中で生命保険会社の役割は。
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コロナで困った人、地域の下支えを
─ この2年半のコロナ禍もあり、改めて国民の中で安心・安全・健康への関心が高まっていますが、生命保険協会長として生保の役割をどう考えますか。
稲垣 コロナ禍に関連した給付金のお支払いは、「みなし入院」などもあり非常に増加しています。コロナが始まって以降、5月末時点で、給付金はトータルで235万件、保険金・給付金合計で約3600億円をお支払いしています。
やはり、こういう時こそ生命保険会社の出番ですから、感染された方々に対して一定程度の経済的サポートはできたのではないかと思っています。
給付金は、金額自体はあまり大きくありませんが、第一生命個社でも件数は通常の倍くらいの規模で発生しており、各社お客様に寄り添うべく、懸命に対応を図っています。
─ 各社、コロナ禍でデジタル化を進めてきましたことで対応できたということもありますか。
稲垣 私どもだけで見ても、通常の倍の件数をお支払いしていますから、以前の紙ベースのプロセスだったら回らなかったと思います。
例えば第一生命では「簡易手続き」も行いましたし、My HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム)の画像を、診断を証明する書類として取扱うことにも取り組みました。この2年ほど、各社知恵を絞ってデジタル化を進めてきたことで対応ができたと考えています。
─ 生保の加入者を始め、多くの人が生保の役割を再認識する局面でしたね。
稲垣 例えばコロナの罹患により、非正規雇用の方々の中には収入が途絶えてしまう方々もおられましたから、こうした方々に対しては、お支払いによって一定程度下支えができたのではないかと思います。
こうしたことも、我々生命保険会社の責務だと思いますから、危機の時こそしっかりと役割を果たせるように、今後の商品開発などにも生かしていきたいと思っています。
─ 危機の中でしたが、稲垣さんは社長として、何か嬉しかったことはありましたか。
稲垣 第一生命は、2020年3月にコロナ感染が本格化した時に営業を停止したんです。やはり個人、法人問わず、お客様のところに訪問するのは好ましくないのではないかという考えからです。
営業職員には給与補償をした上で、お客様のところに伺えない分、「何かお客様や地域に喜ばれることをやろう」という課題を社内に投げかけたんです。そうしたところ、全国それぞれの地域の課題に応じて、様々なことを考えてくれました。
例えば、コロナで学校給食がなくなったために、農家で野菜が余ってしまった時に、我々が買い取らせていただいて、別のところに寄付させていただきましたし、営業ができなくなってしまった飲食店の方々に対し、オフィスの空きスペースをご提供し、お弁当の販売会を実施した事例もありました。
元々、地域振興などには取り組んでいたのですが、コロナ禍で、それがかなりのレベルまで進んだのではないかという実感があります。これはやはり現場の力ですね。
日頃お世話になっている地域で困っておられるお客様に貢献したいという気持ちを、みんなで行動に移してくれたことが嬉しかったですね。
デジタルと「人」の融合を
─ 人と人とのつながりを感じさせる話ですね。一方、コロナ禍では改めて、日本はデジタル化の後れが課題であることが浮き彫りになりました。デジタルと人の融合はどう進めますか。
稲垣 デジタル化の後れは、我々も課題として認識していました。今回の政府の「骨太の方針」でも、かなりデジタル化が組み込まれました。
具体的には、「マイナンバーカード」、「マイナポータル」と、我々の事業とを連動したサービスのご提供ができないか調査・研究を行いたいと思っています。マイナポータルの活用により、健康診断のデータなどを利用することが可能となっていますから、お客様のご了解を得た上で、それを我々に開放していただくことで、お客様の利便性向上に活用できるのではないかと考えています。
住所変更なども、実は各社が全てお客様と相対でやり取りをさせていただいていますが、「転居先不明」といったケースでは、専門家に依頼して追跡するなど、時間とコストがかかっています。ここにマイナンバーカードの機能の活用により住所情報等の行政データが連携されることで、結果的にお客様の利便性向上につながると思います。この1年、協会として意見発信をしていきたいと思っています。
─ 2000年以降に成人した「ミレニアル世代」が生産年齢人口の半分を占めようかという時代ですが、こうした世代に浸透するためにもデジタルは重要ですね。
稲垣 ええ「デジタルネイティブ」と言われている方々ですが、職場にお邪魔したり、ご自宅にお伺いしてお会いするのも難しく、いかにデジタル空間で接点を持っていくのかというのは、業界全体の大きな課題です。特にこのコロナ禍で、この課題がよりフォーカスされたのではないかと思っています。
─ どういったアプローチが有効だと。
稲垣 デジタル空間上に保険商品を並べて、お客様にご自分に合ったものを選んでいただくというのは、諸外国の事例を見ていても難しい。
ですから、デジタル空間上で比較検討をされると同時に、そこに人によるアドバイスが必要ではないかと。これは対面でなくとも、ウェブのミーティングやお電話でもいいのですが、最後は「人」と「人」とのコミュニケーションによってご決断いただくという部分は、やはり残るのではないかと思っています。ですからデジタルと人の融合は大切になります。
─ 各社が営業チャネルとして重視してきた営業職員は増やす方向なのか、それとも効率化に向かうんでしょうか。
稲垣 これは個社の話ですが、第一生命としてはただ営業職員の数を増やすことだけにこだわるのではなく、お客様とできるだけ長く寄り添える人材を数多くつくりたいと思っています。
ですから採用では数を追うことはやめて、お客様に寄り添える方に厳選して第一生命グループに入っていただく。
そして我々の新制度では5年間、安定的な給与体系の中で時間をかけて様々なことを勉強していただき、できるだけ長く仕事をしていただくということにベクトルを合わせにいっています。それが結果的にお客様からご支持、信頼していただける営業職員への成長につながると考えています。
─ 「人」の要素はこれからも重要だということですね。
稲垣 そうです。やはりお客様とお話することでニーズの変化や、困り事を掴むことができます。また、姿を拝見して怪我をされていた時に「給付金が出ますよ」といった請求勧奨にもつながります。対面の情報量は、デジタルの一方向の情報量とは大きく違うと感じます。そうしたつながりこそが、我々のビジネスにとって大事だと思います。
─ きめ細かさや優しさというのも、営業において重要な要素になりそうです。
稲垣 はい。営業職員による丁寧な寄り添い、きめ細かなサービスはできているのではないかと思います。そして、人がやる仕事も、デジタルと融合することで生産性と効率性を上げていけるのではないかと考えています。
それによってお客様の利用コストを下げていくというのは、今後も進めていかなくてはいけません。
資産寿命より寿命が長くなることで起きること
─ 足元でロシアによるウクライナ侵攻が発生し、米国の金融政策の変更もあって経済環境が混沌としています。現状をどう見ていますか。
稲垣 やはり戦争は想定してはいませんでした。それに伴うインフレ、金利の上昇は、我々の想定を越えるものでした。
為替の円安自体は、我々は基本的に負債は円で、資産運用は分散投資で外貨建てもしていますから、円安でリターンが上がる部分はプラスに出る一方、金融引き締めで世界景気が減速すると、成長率の下方修正でマイナスが出てきてしまいます。現時点で円安、金利上昇をフェアに評価するのは時期尚早ではないかと思っています。
ただ、非常に不安定な状況にあることは事実ですから、政策当局には物価の安定、経済の安定成長に向けて対応を図っていただきたいと願っています。
─ 為替の円安は人々の生活を圧迫するレベルです。
稲垣 輸入物価の上昇に反映され、足元でエネルギーや生鮮食品の価格が上がっています。これは社会構造の中で弱い立場におられる方々にヒットしますから、非常に難しい問題です。
我々、第一生命にご加入いただいている方の多くは、一般的な国民の方々ですから、そうした方々が苦しんでおられることについては、非常に悩ましいことだと思っています。
─ 政府が「資産所得倍増」を掲げていますが、国民にとって資産形成は、安心・安全を考える上で非常に重要なものになっていますね。
稲垣 我々は個人年金という形で、長年資産形成に貢献させていただいていますが、日本では低金利の中において、あまり魅力的な個人年金商品のご提供ができていなかったかもしれません。
ただ「人生100年時代」の中で、資産寿命より寿命が長くなってしまって、お客様の「資産枯渇」が起きてしまうというリスクがありますので、重要なテーマだと思っています。これに対して生命保険業界は、しっかりお支えしなければいけないと考えています。例えば「終身年金」などは、我々にしか提供できない商品ですから、そうしたことも生かしていきたいと思います。
生命保険業界は社会的課題にどう向き合うか
─ 人生100年時代を、最初から最後まで支える仕事になってきたと。
稲垣 ええ。第一生命で言っても、「一生涯のパートナー」が経営理念ですが、時代によって寄り添い方は変わっても、一生涯支え続けるということは変わりません。
─ SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)といったキーワードもありますが、こうした社会課題にはどう取り組もうと?
稲垣 その中でも特に、気候変動は大きな社会課題だと思っています。2050年のカーボンニュートラルにかかるコストは、今回の「骨太」にも一部書かれていた通り、相当な資金を必要としています。
それに対して、当然政府が国費で取り組まれる部分もあると思いますが、我々は民間の投資家であり、かつ長い投資ができる存在ですから、この社会的課題の克服に、資金面でまずサポートできるのではないかと思っています。
また、サステナビリティの部分では、気候変動に限らず「人権」や「生物多様性」といった様々な課題がありますから、その分野でも我々はしっかり責任を果たしていきたいと思っています。
そして、この分野は競争領域というよりは非競争領域です。協会の仕事としてなじむのではないかと思っていますから、しっかりと旗振りをしていきたいと考えています。
いながき・せいじ
1963年5月愛知県生まれ。86年慶應義塾大学経済学部卒業後、第一生命保険入社。92年米ハーバード経営大学院MBA(経営学修士)取得。12年執行役員、15年常務執行役員、16年取締役常務執行役員、17年4月第一生命ホールディングス・第一生命保険社長。18年生命保険協会長、22年7月生命保険協会長。
【あわせて読みたい】【帝国ホテルの建て替え】三井不動産など10社が進める「内幸町再開発」の姿とは?
コロナで困った人、地域の下支えを
─ この2年半のコロナ禍もあり、改めて国民の中で安心・安全・健康への関心が高まっていますが、生命保険協会長として生保の役割をどう考えますか。
稲垣 コロナ禍に関連した給付金のお支払いは、「みなし入院」などもあり非常に増加しています。コロナが始まって以降、5月末時点で、給付金はトータルで235万件、保険金・給付金合計で約3600億円をお支払いしています。
やはり、こういう時こそ生命保険会社の出番ですから、感染された方々に対して一定程度の経済的サポートはできたのではないかと思っています。
給付金は、金額自体はあまり大きくありませんが、第一生命個社でも件数は通常の倍くらいの規模で発生しており、各社お客様に寄り添うべく、懸命に対応を図っています。
─ 各社、コロナ禍でデジタル化を進めてきましたことで対応できたということもありますか。
稲垣 私どもだけで見ても、通常の倍の件数をお支払いしていますから、以前の紙ベースのプロセスだったら回らなかったと思います。
例えば第一生命では「簡易手続き」も行いましたし、My HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム)の画像を、診断を証明する書類として取扱うことにも取り組みました。この2年ほど、各社知恵を絞ってデジタル化を進めてきたことで対応ができたと考えています。
─ 生保の加入者を始め、多くの人が生保の役割を再認識する局面でしたね。
稲垣 例えばコロナの罹患により、非正規雇用の方々の中には収入が途絶えてしまう方々もおられましたから、こうした方々に対しては、お支払いによって一定程度下支えができたのではないかと思います。
こうしたことも、我々生命保険会社の責務だと思いますから、危機の時こそしっかりと役割を果たせるように、今後の商品開発などにも生かしていきたいと思っています。
─ 危機の中でしたが、稲垣さんは社長として、何か嬉しかったことはありましたか。
稲垣 第一生命は、2020年3月にコロナ感染が本格化した時に営業を停止したんです。やはり個人、法人問わず、お客様のところに訪問するのは好ましくないのではないかという考えからです。
営業職員には給与補償をした上で、お客様のところに伺えない分、「何かお客様や地域に喜ばれることをやろう」という課題を社内に投げかけたんです。そうしたところ、全国それぞれの地域の課題に応じて、様々なことを考えてくれました。
例えば、コロナで学校給食がなくなったために、農家で野菜が余ってしまった時に、我々が買い取らせていただいて、別のところに寄付させていただきましたし、営業ができなくなってしまった飲食店の方々に対し、オフィスの空きスペースをご提供し、お弁当の販売会を実施した事例もありました。
元々、地域振興などには取り組んでいたのですが、コロナ禍で、それがかなりのレベルまで進んだのではないかという実感があります。これはやはり現場の力ですね。
日頃お世話になっている地域で困っておられるお客様に貢献したいという気持ちを、みんなで行動に移してくれたことが嬉しかったですね。
デジタルと「人」の融合を
─ 人と人とのつながりを感じさせる話ですね。一方、コロナ禍では改めて、日本はデジタル化の後れが課題であることが浮き彫りになりました。デジタルと人の融合はどう進めますか。
稲垣 デジタル化の後れは、我々も課題として認識していました。今回の政府の「骨太の方針」でも、かなりデジタル化が組み込まれました。
具体的には、「マイナンバーカード」、「マイナポータル」と、我々の事業とを連動したサービスのご提供ができないか調査・研究を行いたいと思っています。マイナポータルの活用により、健康診断のデータなどを利用することが可能となっていますから、お客様のご了解を得た上で、それを我々に開放していただくことで、お客様の利便性向上に活用できるのではないかと考えています。
住所変更なども、実は各社が全てお客様と相対でやり取りをさせていただいていますが、「転居先不明」といったケースでは、専門家に依頼して追跡するなど、時間とコストがかかっています。ここにマイナンバーカードの機能の活用により住所情報等の行政データが連携されることで、結果的にお客様の利便性向上につながると思います。この1年、協会として意見発信をしていきたいと思っています。
─ 2000年以降に成人した「ミレニアル世代」が生産年齢人口の半分を占めようかという時代ですが、こうした世代に浸透するためにもデジタルは重要ですね。
稲垣 ええ「デジタルネイティブ」と言われている方々ですが、職場にお邪魔したり、ご自宅にお伺いしてお会いするのも難しく、いかにデジタル空間で接点を持っていくのかというのは、業界全体の大きな課題です。特にこのコロナ禍で、この課題がよりフォーカスされたのではないかと思っています。
─ どういったアプローチが有効だと。
稲垣 デジタル空間上に保険商品を並べて、お客様にご自分に合ったものを選んでいただくというのは、諸外国の事例を見ていても難しい。
ですから、デジタル空間上で比較検討をされると同時に、そこに人によるアドバイスが必要ではないかと。これは対面でなくとも、ウェブのミーティングやお電話でもいいのですが、最後は「人」と「人」とのコミュニケーションによってご決断いただくという部分は、やはり残るのではないかと思っています。ですからデジタルと人の融合は大切になります。
─ 各社が営業チャネルとして重視してきた営業職員は増やす方向なのか、それとも効率化に向かうんでしょうか。
稲垣 これは個社の話ですが、第一生命としてはただ営業職員の数を増やすことだけにこだわるのではなく、お客様とできるだけ長く寄り添える人材を数多くつくりたいと思っています。
ですから採用では数を追うことはやめて、お客様に寄り添える方に厳選して第一生命グループに入っていただく。
そして我々の新制度では5年間、安定的な給与体系の中で時間をかけて様々なことを勉強していただき、できるだけ長く仕事をしていただくということにベクトルを合わせにいっています。それが結果的にお客様からご支持、信頼していただける営業職員への成長につながると考えています。
─ 「人」の要素はこれからも重要だということですね。
稲垣 そうです。やはりお客様とお話することでニーズの変化や、困り事を掴むことができます。また、姿を拝見して怪我をされていた時に「給付金が出ますよ」といった請求勧奨にもつながります。対面の情報量は、デジタルの一方向の情報量とは大きく違うと感じます。そうしたつながりこそが、我々のビジネスにとって大事だと思います。
─ きめ細かさや優しさというのも、営業において重要な要素になりそうです。
稲垣 はい。営業職員による丁寧な寄り添い、きめ細かなサービスはできているのではないかと思います。そして、人がやる仕事も、デジタルと融合することで生産性と効率性を上げていけるのではないかと考えています。
それによってお客様の利用コストを下げていくというのは、今後も進めていかなくてはいけません。
資産寿命より寿命が長くなることで起きること
─ 足元でロシアによるウクライナ侵攻が発生し、米国の金融政策の変更もあって経済環境が混沌としています。現状をどう見ていますか。
稲垣 やはり戦争は想定してはいませんでした。それに伴うインフレ、金利の上昇は、我々の想定を越えるものでした。
為替の円安自体は、我々は基本的に負債は円で、資産運用は分散投資で外貨建てもしていますから、円安でリターンが上がる部分はプラスに出る一方、金融引き締めで世界景気が減速すると、成長率の下方修正でマイナスが出てきてしまいます。現時点で円安、金利上昇をフェアに評価するのは時期尚早ではないかと思っています。
ただ、非常に不安定な状況にあることは事実ですから、政策当局には物価の安定、経済の安定成長に向けて対応を図っていただきたいと願っています。
─ 為替の円安は人々の生活を圧迫するレベルです。
稲垣 輸入物価の上昇に反映され、足元でエネルギーや生鮮食品の価格が上がっています。これは社会構造の中で弱い立場におられる方々にヒットしますから、非常に難しい問題です。
我々、第一生命にご加入いただいている方の多くは、一般的な国民の方々ですから、そうした方々が苦しんでおられることについては、非常に悩ましいことだと思っています。
─ 政府が「資産所得倍増」を掲げていますが、国民にとって資産形成は、安心・安全を考える上で非常に重要なものになっていますね。
稲垣 我々は個人年金という形で、長年資産形成に貢献させていただいていますが、日本では低金利の中において、あまり魅力的な個人年金商品のご提供ができていなかったかもしれません。
ただ「人生100年時代」の中で、資産寿命より寿命が長くなってしまって、お客様の「資産枯渇」が起きてしまうというリスクがありますので、重要なテーマだと思っています。これに対して生命保険業界は、しっかりお支えしなければいけないと考えています。例えば「終身年金」などは、我々にしか提供できない商品ですから、そうしたことも生かしていきたいと思います。
生命保険業界は社会的課題にどう向き合うか
─ 人生100年時代を、最初から最後まで支える仕事になってきたと。
稲垣 ええ。第一生命で言っても、「一生涯のパートナー」が経営理念ですが、時代によって寄り添い方は変わっても、一生涯支え続けるということは変わりません。
─ SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)といったキーワードもありますが、こうした社会課題にはどう取り組もうと?
稲垣 その中でも特に、気候変動は大きな社会課題だと思っています。2050年のカーボンニュートラルにかかるコストは、今回の「骨太」にも一部書かれていた通り、相当な資金を必要としています。
それに対して、当然政府が国費で取り組まれる部分もあると思いますが、我々は民間の投資家であり、かつ長い投資ができる存在ですから、この社会的課題の克服に、資金面でまずサポートできるのではないかと思っています。
また、サステナビリティの部分では、気候変動に限らず「人権」や「生物多様性」といった様々な課題がありますから、その分野でも我々はしっかり責任を果たしていきたいと思っています。
そして、この分野は競争領域というよりは非競争領域です。協会の仕事としてなじむのではないかと思っていますから、しっかりと旗振りをしていきたいと考えています。
いながき・せいじ
1963年5月愛知県生まれ。86年慶應義塾大学経済学部卒業後、第一生命保険入社。92年米ハーバード経営大学院MBA(経営学修士)取得。12年執行役員、15年常務執行役員、16年取締役常務執行役員、17年4月第一生命ホールディングス・第一生命保険社長。18年生命保険協会長、22年7月生命保険協会長。