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【後発だからこそ新たな素材に挑戦!】製油業界3位・不二製油が展開する「植物性食品」戦略

財界オンライン 2022年8月22日 11時30分

大豆などを主原料とする「植物肉」や「豆乳クリーム」など、にわかに注目を浴びている植物性食品。そこでシェアトップを走るのが不二製油グループ本社だ。製油業界では3位に位置する同社だが、「分ける」という技術を活用して独自のポジションを確立し始めている。原材料価格の高騰といった逆風の中、他社にマネのできない発想で同社は新たな素材をどう広げていくのか?

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豚骨を使わない「豚骨ラーメン」

「プラントベースフード(PBF)普及のカギは『おいしさ』にある。『おいしい食の提供』が当社の使命であり、植物性油脂事業で培ってきた技術を生かせる。2030年のあるべき姿として売上高1000億円、営業利益率10%以上を目指し、植物性油脂、業務用チョコレートに続く『第3の柱』に育てたい」――。このように強調するのは不二製油社長の大森達司氏だ。

 プラントベースフード――。動物性原材料ではなく、植物由来の原材料を使用した食品のことを指す。これまでに大豆や小麦などから「肉」「卵」「ミルク」「バター」「チーズ」などの代替となる加工食品が製造・販売されており、畜産物や水産物に似せて作られていることが特徴だ。

 昨今、日本では「食」を巡る課題が続出している。例えば日本の食料自給率は37%と世界的にも低い水準。また、原材料の生産時におけるCO2の排出量や水の使用量などの抑制といった環境対応も待ったなしだ。

 そこでプラントベースフードが普及すれば、メタンガスを多く含んだゲップをする牛の生産量を抑え、資源枯渇が懸念されるマグロの代替にもなり得る。世界のプラントベースフード市場は2020年に約4兆円だったが、30年には約22兆円にまで拡大すると予測されている。

 そんな中、PBFで先頭を走るのが不二製油。同社は油脂事業で培ってきた独自の製法を使って「肉」らしい食感を再現した大豆ミート「プライムソイミート」を開発。新たに立ち上げたPBFのブランド「グッドヌーン」では「プライムソイミート」「プラントベースDashi(だし)」「乳原料不使用チョコレート」「プラントベースバター」「プラントベースチーズ」といった製品群を展開する。

 中でもプラントベースだしはブイヨンや白湯のような動物性の原料が持つ特有の厚みのあるだしを植物性素材だけで再現した。既に採用事例もある。その1つが人気豚骨ラーメンブランド「一風堂」と共同開発した100%植物性のラーメンだ。

 豚骨スープを構成する豚の脂とコラーゲンを不二製油が持つ油脂の加⼯技術と豆乳や⼤⾖ミート開発で培ってきたタンパクの加⼯技術を融合させることで、豆乳からできているとは思えない、まるで豚骨のような濃厚感に近づけることができた。

 ホテルニューオータニとは「大豆ミートシチュー」「エビカツバーガー」、不二製油が独自開発した植物性素材のウニを使った「胡麻ダレ麺」などのメニューを8月から順次提供する。メニュー開発を手掛けた総料理長の中島眞介氏は当初、不二製油の技術を知り、「宝の持ち腐れではないかと思った」と振り返った上で、「こんなに多くの料理ができるとは」と驚きを隠せない様子で話す。

 PBFを巡っては外食企業からの問い合わせが殺到しているようだ。不二製油グループ本社執行役員PBF事業部門長の鈴木清仁氏は「和・洋・中と幅広くカバーできるため、植物性素材を使ったメニューの味づくりに困っている外食チェーンから声がかかっている」と話す。

 不二製油グループ本社の売上高(植物性油脂事業)は製油業界では日清オイリオグループ、J―オイルミルズに次ぐ3位。なぜ、業界3位の同社がいち早く幅広い植物性素材を展開できたのか。それは同社の成り立ちと置かれてきた環境にある。



後発組だからこそ……

 不二製油グループ本社の前身である不二製油は1950年に伊藤忠商事系の繊維商社の蚕糸会社から分離した植物系の油脂メーカーとして創業。同業には戦前からの大企業が多い中で、同社は最後発。「戦後、菜種や大豆などの主要原料は戦前の実績による割当制だったため、規模も小さい当社は原料を買おうにも買えなかった。そこで日本ではあまり使われていなかったパーム油に目を付けた」(大森氏)

 同社はこのパーム油から必要な成分を分離する、「分ける」という技術を磨き上げる。そして、その分ける技術が実ったのが大豆を低脂肪豆乳と豆乳クリームに分離する世界初の「USS製法」だ。これらの原料を使えば、飲料やクリームはもちろん、肉や魚にも似た食感を持つ固形食品も作ることができる。チーズのような豆乳クリームを使って乳・卵・小麦不使用のデザートが作れる。

 前社長の清水洋史氏はかつて「最後発の企業であるからこそ、他社がやってこなかったことをやらざるを得なかった」と語っていた。同社の製品はコンビニで販売されている麺類やおにぎり、アイス、インスタントラーメンなどに使われるBtoB向けの素材が大半を占めている。商品の前面には出てこない黒子のような存在だ。


プラントベースフードの製品群を発表する不二製油社長の大森達司氏(右)と不二製油グループ本社執行役員PBF事業部門長の鈴木清仁氏

 他にも、冷麺類の「ほぐし水」があるが、それも同社が手掛けている。大豆の「おから」から作った水溶性大豆多糖類で米飯や麺類の水分を保持し、粘りを抑える働きを活用している。「製品のコモディティ化とは一線を画しているため、コロナ前まで同業他社が営業利益率2%台だったのに対し、不二製油(植物性油脂事業)は10%弱と利益率の高さが際立っている」(食品業界のアナリスト)。

 ただ、原料となる大豆は米国やカナダなどからの輸入に頼らざるを得ず、価格高騰の影響も受ける。また、PBF自体の割高感も課題だ。大豆の国産化も国家的な課題と言える。

 同社はPBFを「挑戦領域」と呼ぶ。社会課題の解決をにらみながら、味に対しては保守的になる食品業界で新たな潮流を作れるかが勝負だ。

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