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【変化対応の経営】大和ハウス工業・芳井敬一社長が語る「経営基盤強化に大事なのはガバナンス。やはり決め手は人材投資」

財界オンライン 2022年9月14日 7時0分

「自分達のパーパスは何かを問い続けている」と話す大和ハウス工業社長の芳井敬一氏。3000万人の顧客を抱える大和ハウスグループ。国内は人口減少を続ける中、将来を見据えて米国など海外展開に着手。すでに住宅事業で利益は海外が上回る。また、事業を支える人材が大事ということで、大成建設前社長の村田誉之氏など、外部から優秀な人材の補強も続ける。最後は「創業者の理念の元で成長を続ける」と話す。

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第7次中計で力を溜めて…
 ─ 地政学リスク、国内情勢も含め、世の中が混沌としています。その中で大和ハウス工業は今回、第7次中期経営計画をスタートさせましたね。創業100周年の2055年に売上高10兆円を達成する目標もある中、どのように進めますか。

 芳井 私はこの第7次中計は非常に大切だと思っています。第6次中計は残念ながら、コロナ禍の問題など様々なことが起きて、当初の目標数字に追いつくことができませんでした。ただ、途中で変更した目標数字は超えることができました。

 確かに最終年度の2022年3月期の営業利益は過去最高となりましたが、元々の我々の目論見とは違うというところがあります。第6次中計の反省点はコロナ禍だけではないということです。

 今回の第7次中計は、当社では初めて、期間を3年から5年に変えました。働き方を変えたり、我々の事業の良い部分のストックを持ち出したり、ビジネスモデルを少し入れ替えないといけない時期だからです。

 となると、やはり第8次中計のために、この第7次があり、ここで力を溜めて、次の中計でグッと伸ばすことになると思っているんです。

 ─ 社内にはどういった言葉を投げかけていますか。

 芳井 社員には私達の「パーパス」(存在意義)は何か? と問いかけ、それをしっかりと根付かせていきたいと考えています。

 そして何よりも顧客満足です。大和ハウスグループには3000万人以上のお客様がいます。我々は、この方達にもっとしっかりと向き合うべきだと思っています。

 米国のビジネスラウンドテーブルでも株主中心主義の見直しが議論され、世界的流れが株主中心からお客様、従業員といったステークホルダー重視に向かっています。

 当社は創業者の石橋信夫オーナーが創業の理念として「お客様が大事だよ」、「従業員が大事だよ」と言ってきました。これに私達は近づきつつありますし、時代も近づいてきています。

 ─ 全てのステークホルダーを重視するというのが今の流れになっていますが、大和ハウス工業は創業精神の中に、すでにそれがあったと。

 芳井 そうです。当社の企業理念の中に「事業を通じて人を育てること」、「企業の前進は先ず従業員の生活環境の確立に直結すること」、「近代化設備と良心的にして誠意にもとづく労働の生んだ商品は社会全般に貢献すること」とありますが、これだけを見ても、まさに今のSDGs(持続可能な開発目標)に通じます。この精神が身に染み付いている会社なんです。

米国の人口増加地域を開拓して…
 ─ 現在の大和ハウス工業は事業が多岐にわたりますが、まず基礎である住宅事業を今後、どう進めていきますか。

 芳井 住宅事業は、2年前からすでに利益は海外の方が上回っています。22年3月期決算でも、円安があったとはいえ、海外の需要を強く捉えています。これは明らかに人口が増える場所で事業を行っているからです。

 日本の22年の新成人が約120万人とされ、一方で新生児が約80万人ですから、40万人減っているわけです。この傾向が続くと、我々の住宅を買い、賃貸住宅を借りる人達が大きく減ってしまうのです。

 80万人しか生まれていない人を、突然100万人にすることは不可能で、そこは国の政策ですから、それは置いておくとして、我々の住宅事業のフィールドにおける新築は、人口にすぐには比例しないけれども非常に厳しい姿が見えてきます。

 そうなるとリフォームなどを組み合わせながらご提案をしていく必要があります。同時に海外比率を高めなければなりません。当社は13年、14年頃に米国で戸建て住宅事業を手掛けるスタンレー・マーチン社と交渉を始め、グループ入りしたのが17年のことです。

 今、多くの日本企業で海外事業の重要性が叫ばれる時代ですが、当時からワシントンD.C.を中心に米国のスマイルカーブ地域(北西部のシアトルから南部のヒューストン、北東部のワシントンD.C.にかけての人口増加が顕著な地域)を育てていこうと言ってきたわけです。

 おかげ様で米国で東西の体制が整い、ヒューストンで住宅事業を展開する企業もグループ入りしました。まさに13年頃から考えてきた、人口が増加するスマイルカーブ地域を開拓する配置ができたということです。この正しさを裏打ちするように、日本の他の住宅メーカーさんも、スマイルカーブ開拓を始めました。我々としては先を行っていてよかったというイメージがあります。

 ─ 短期間で米国事業が軌道に乗りつつあるということだと思いますが、この要因は?

 芳井 1つは、スタンレー・マーチン社の経営者と相当話し合えたことです。単にM&A(企業の合併・買収)をします、会社を売りますという話ではなく、お互いに話し合う中で信頼関係ができたんです。その結果、米国での住宅事業について、彼らのアドバイスをもらいながらできたことが大きかったと思っています。

 ─ 14億人の人口がいる中国はどう考えますか。

 芳井 中国の方々は、両国の政治的関係とは別に、日本的品質、日本の商品を世界で最も評価して下さっていると思っています。その意味でも我々の役割は高品質の住宅を提供することです。

 現実に、中国で住宅が売りづらい地域でも、大和ハウス工業のマンションだけは出せば売れるという状態になっているのは、日本的品質、日本式の管理を評価して下さっているのだろうと思っています。我々にもまだまだチャンスがある市場です。

資材高騰には特効薬はない
 ─ 国内の物流事業はネット通販の活況もあって注目されていますが、どういう位置づけになりますか。

 芳井 この第7次中計で最も投資するのは物流事業です。このセグメントには「データセンター」もあり、これも注力していますが、やはり投資の大半は通常の物流センターです。現在の計画では少し投資金額が足りないかもしれないと思っているところです。

 eコマースの世界の進展は今後も続くだろうと見ています。ですから物流センターへの投資も続きますし、予想以上にデータセンターへの引き合いも強いんです。我々が様々な不動産を所有し、またそれを提供し、建築していくという流れは変わらないだろうと見ています。

 ただ、懸念点を挙げるとすれば、やはり右肩上がりの資材の高騰です。

 ─ この資材高騰は日本産業界全体の課題ですが、どう考えていきますか。

 芳井 多くの人に「元に戻る」、「また安くなる」という心理がどこかにあるんだと思います。資材の仕入れ価格は上がっていますが、こうした消費者の見方によって、住宅の購入も「模様眺め」が出ていると思います。

 ただ、今回の資材高騰は質が違います。特効薬がないくらい自動的に上がっています。そして電力、ガスの不足が続き、価格も上昇している。これをどう転嫁していくか。

 昔であれば「すでに価格を上げているのにおかしい」と言われましたが、今はまだ抑えている段階です。ですから、各企業の23年3月期決算を見た時にどう見えるかですね。

 ─ こうした状況下で賃上げも進めるべきだという意見も出ています。

 芳井 CPI(消費者物価指数)に連動するべきだと思います。自身の可処分所得を考えた時に、賃金が上がらなければ減ってしまいますから。そこは各企業が、様々な形で努力をして賃金を上げていく必要がありますし、我々も上げています。

 ─ ロシアによるウクライナ侵攻や米中対立など地政学リスクがある中ですが、今後も企業はグローバル経営を続けていかなくてはなりませんね。現在、大和ハウスグループの海外事業の売上高比率はどのくらいですか。

 芳井 足元では約10%です。これを第7次中計では2割近くに高めようとしています。

 以前、欧州でIR(投資家向け広報)をした時に、投資家から「御社の海外事業は急成長していますね」と言われました。足元で海外売上高が約4400億円、5年後には1兆円を目指す計画です。しかし、元々09年頃の売上高は9億円程度でしたから約500倍に成長しました。

 ただ、そこで私が説明したのは「積み上げてきた」ということです。突然、何かを買って大きく増やしたのではなく、ずっと積み重ねてきたのだと。スタンレー・マーチン社も17年にグループ入りして、ここまで育ててきたのです。

 ─ いずれにしろ、海外市場がますます大事な時代だと。

 芳井 ええ。その一方で、国内では未来に向けて、当社が開発してきた住宅団地「ネオポリス」を再び耕す、再び輝かせる仕事「リブネスタウンプロジェクト」を続けていきたいと考えています。

 我々は街に戻って、住心地はどうか、空き家の問題、家をリフォームしたいといった、皆様の困り事をご相談していただけるような立ち位置に戻ろうと。

 ─ 人と人のつながりが薄くなったと言われる昨今ですが、これを取り戻すきっかけになるような事業ですね。

 芳井 そう思っています。例えば先日、報告を受けたのですが、今スマートフォンなどでテレビ電話ができますが、離れたところにいるお子さん、お孫さんと話すために使うものだと思われていますよね。

 各地のネオポリスでも当然、そうした使い方をされている人が多かったわけですが、今は街の住民同士でテレビ電話をしているというんです。街の中で人とのつながりを求めておられるということです。そうしたコミュニケーションを生むような街にしていきたいと思います。

創業者の精神が源にあって
 ─ 事業を担うのは「人」ですが、人材戦略はどのように進めようと?

 芳井 経営基盤強化において大事なのはガバナンス、そしてやはり人材です。今、当社では人材がかなり育ってきてくれていますが、それでも売上高が5兆円という規模になっていく中では、人が足りません。育成を継続すると同時に、即戦力の方を探していくことも大事になります。

 樋口武男・最高顧問もよく「いくら良い事業があっても、人を間違えたら終わりだ」という話をしていましたが、その通りだと思います。「人」がいないのであれば、その事業はやるべきではないと。同時に、人事の課題、埋まらないパズルのピースは求めていかなければなりません。

 例えば、これまで当社の技術統括本部長のピースが埋まらなかったので、大成建設前社長の村田誉之さんに副社長として来ていただき、ピースを埋めることができました。

 村田さんは、いつからいるかわからないくらい馴染んでいます(笑)。今は技術系の「キャプテン」という感じでみんなが集まっています。当社技術陣の今までにない風景を見ている感じがしています。

 他にも海外に強い人ということで、三菱商事で海外不動産ユニットマネージャーや開発建設本部長を務めた一木伸也さん、DXをやっていこうという時には社外取締役としてNTTドコモ元社長の吉澤和弘さんに来ていただくことができた。その意味でも人的資本の確保は非常に大事だと思っています。

 ─ 芳井さん自身も外から来た経歴を持っていますね。全く違和感なく働いてきたと。

 芳井 そうです。大和ハウス工業は現場志向の会社で、中途採用でも全く構わないという風土があるんです。自分に仕事を任せてもらっているという感覚をすぐに持つことができましたね。

 ─ 人材が流動化する中で企業へのロイヤリティについてはどう考えますか。

 芳井 当社は創業者精神の下に集います。創業者の教えを語ること、それが我々の源だと思っています。

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