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【迫り来る超高齢社会にどう対応?】キユーピー・髙宮満社長の「栄養豊富なタマゴで健康に貢献する!」

財界オンライン 2022年9月20日 7時0分

たかみや・みつる
1961年東京都生まれ。87年東京水産大学(現・東京海洋大学)大学院水産学研究科修士課程修了後、キユーピー入社。2012年研究開発本部長、13年執行役員、15年マーケティング本部長、17年ファインケミカル事業担当、19年上席執行役員、20年キユーピータマゴ代表取締役社長などを経て、22年2月25日からキユーピー代表取締役社長執行役員海外担当。

身体が弱る「フレイル予防」

 ―― キユーピーは「世界の食と健康に貢献する」というめざす姿を掲げています。特に「サラダ」と「タマゴ」に強みを持つ企業です。我々の日常生活の中に深く関わっている企業と言えますが、そのキユーピーがフレイル予防という問題意識を持ったきっかけから聞かせてください。

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 髙宮 まず元厚生労働事務次官の辻哲夫先生が所属されている東京大学高齢社会総合研究機構との出会いの前から話をさせていただきます。私たちが食品メーカーとして社内で健康に貢献したいという話は、かなり前から出ていました。世の中のトレンドとして健康が重要になり、大きな社会課題として捉えていたからです。我々も企業の特徴を生かしながら、国民の健康にどう貢献できるかと日々議論をしていたのです。

 そういう議論を重ねていく中で、そもそも私どもの会社は「食」を通じて健康に貢献したいという企業の志があった。この原点に気が付いたのです。我々の会社の大切な商品はマヨネーズです。大正時代、今から100年以上前に創始者がアメリカで出会ったものになります。

 マヨネーズは卵と油とお酢を使った非常に栄養価が豊かで、日本人に合う風味だと創始者は考えました。ですから、日本人に新しい美味しさと豊かな食生活、そして生活向上を提供したいと思った。これが企業としての志につながっていきます。そして、そういう志の下に我が社は発展してきたのです。

 ―― キユーピーと東京大学とがつながるきっかけは何でしたか。

 髙宮 当社の問題意識として国民の健康に貢献するためには、栄養だけでは実現できないと。当社の得意とするサラダとタマゴはもちろん健康価値の高いものですが、それだけでは難しいと社内で考えていました。そんな課題認識を持っていた中で出会ったのが、辻先生がおっしゃるフレイル予防の三本柱でした。「栄養」「運動」「社会参加」の3つですね。

 当社はこの考え方に共鳴しました。「まさにこれだ」といった感じでした。その後、いろいろと調べていくと、東京大学に高齢社会総合研究機構という組織があり、同機構が様々な活動を行っていると知りました。是非とも、そこの仲間に入れてもらえないかと思いました。ですから、当社の押しかけに近い形で東京大学を訪問したのです。

 そのときに面談いただいたのが辻先生でした。辻先生のお考えを伺いながら、我々の思いも聞いていただきました。

 ―― そこで、じっくりお二人で話し合いの場が持たれたと。その縁からの出発ですね。

 髙宮 ええ。その意味では、まさに出会いが大切だと言えます。それが縁となって、現在一緒に活動をさせていただいています。実はこのときの辻先生とのお話の中でご一緒したいと思ったポイントが5つありました。

 1つ目は、この取り組みに向けた志です。企業にしても行政にしても、何か活動するときには志が非常に大事で、これが明確にあることが分かりました。2つ目は、構想です。既に始められていた構想の奥行と広さに感銘を受けました。

 3つ目は、行動指針が明確でエビデンスが紐づいていることです。感覚や運、勘といったものでは全くありませんでした。これが非常に素晴らしいと感じました。

 4つ目は、プレーヤーです。役者が揃っていると。アカデミアの方だけではなく、行政とのつながりもあれば、自治体や生活者はもちろん、社会とも近い企業さんがたくさん参画されている。実際に構想が実現できるだろうと感じました。

 最後の5つ目が、我々もフレイル予防に貢献できるという点です。これがなければ意味がありません。

 この5つを強く感じたものですから、是非とも仲間入りさせて欲しいとお願いしました。そして、辻先生からも「一緒にやりましょう」とお声をいただきました。これまでのご縁や出会いが、今に至る入り口だったと感じているところです。



 ―― まさに産学連携ですね。他業種との連携という点でも、食品メーカーとしてフレイル予防に期待が持てるということになりますね。

 髙宮 そうですね。我々食品メーカーは日々、工夫しながら競争もしています。基本は自分たちの商品や食べ物を売ることです。しかし、東京大学や辻先生方とつながりを持つことで、お客様は自分たちの役に立つような価値を欲しているのだという学びもありました。つまりは、我々が得意としているのはサラダやタマゴですが、お客様はそれらを含めた健康に資する美味しい食品を求めているのだと。

 その食品の中に、たまたま卵も入っているということが、私は一番いい形だと思います。それらをバランス良く美味しく食べていただいて、最終的にはフレイル予防に貢献できれば、企業として参画した意味があると考えています。

 そうなると、お客様の求めるそういった食生活の実現には、私たちだけでは足りません。食生活や栄養バランス、美味しさといった領域で、同じ志を持った小売り企業さんや食品企業さんにお声がけするのも、私たちの仕事の一つだろうと。それぞれの企業さんが健康というキーワードは持っています。ただ、その活動指針は様々ですので、その中で東京大学の活動とマッチする仲間たちを少しずつ増やしている状況だと認識しています。


東京大学高齢社会総合研究機構とキユーピーによる実証実験では、産学官民連携でフレイル予防の啓発イベントを行っている

 ―― 具体的な提携としてイオンでフレイルチェックを通した啓発を行っていますね。

 髙宮 ええ。これは店舗でフレイル予防を伝える構想のうちの1つの重要な試みになります。これを行う千葉県柏市にある「イオンモール柏店」と連携してご来店のお客様に栄養に関する当社の取り組みを紹介したり、個別相談などを行いました。

 高齢者などのお客様にショッピングモールへ買い物に来ていただくという社会参加をしていただいた上で、フレイル予防のチェックをするという啓発活動になります。「フレイルの状態から戻すことによって健康長寿になれます」というメッセージを投げかけることで動機付けが行われます。私はこれが非常に素敵な活動であり、そういった場を提供しているイオンさんも素晴らしいと思います。

 ―― 具体的に、顧客にはどんな呼びかけを行っているんですか。

 髙宮 フレイル予防として、あなたに不足しているものは運動ですねと具体的に提示します。少し外に出ましょう、食べ物の摂取ではこういうものが足りませんといった情報を提供させていただきました。お客様にとってはすぐ横にイオンさんの売り場があるわけですから意識変容につながり、意識が変わったところで買い物をするという行動変容になります。

 これらの動きは決して押し付けではありません。だからこそ素晴らしい。そこに私たちは自分たちの得意な卵を使った簡単に食べられる加工品を提供していくと。ゆで卵や厚焼き玉子などですね。これは我々がメーカーとしてできることになります。そうすると、今までは調理できる分の卵だけを買っていたお客様が卵の加工品も手に取るようになります。卵を通じて健康になりたいという思いの下、そういった商品を買われるのです。

 また、私たちはお客様とのコミュニケーションの情報を売り場で発信することもできますので「健康に良い」「フレイル予防に良い」といった情報を発信させていただくと。実はこういった情報を発信すると、お客様の買い物の仕方が変わります。



 ―― 三本柱の「運動」と連携した取り組みもあるのですか。

 髙宮 はい。全国でスポーツクラブを運営・指導しているセントラルスポーツさんとは、運動と食事(栄養)を融合させた取り組みを実施しています。同社の施設にキッチンスペースを併設したクラブが4店舗あるのですが、2019年以降、そのキッチンを利用したイベントを実施するなど「運動と食」についての情報発信を積極的に行ってます。

 手軽で効果的にたんぱく質を摂取したいというスポーツジムの利用者やインストラクターからの要望を受けて、当社がホームページなどで食に関する知識クイズを企画したり、利用者へメニューや健康情報の提供を行ったりしています。

「時短」「簡単」といった切り口のレシピをテーマごとに紹介しているほか、子どもたちに向けたオンライン食育イベントを実施したり、月ごとに異なったレシピをお客様へご紹介したりしています。また、キッチンスペースのない店舗でも、館内サイネージやレシピ掲載資料の配布によってお客様に情報を提供したりしています。このようなコラボも、三本柱を掲げたからこその取り組みです。

 ―― これらの取り組みは新しい商品開発にもつながっていくのでは?

 髙宮 はい。そもそも食品メーカーにとっては自社の商品をたくさん買ってもらいたいという自分たちの都合から、情報発信が多くなりがちです。今回学んだことは、あくまでも商品を買っていただくのはお客様ですから、お客様が商品のどんな情報を受け入れてくれるのか。何を求めているのかというシンプルでありながらも大切な学びがありました。

 私たちの会社は健康長寿に向き合っていますので、機会があればこれからもフレイル予防にお役立ちできる商品を開発し発売していきます。ですから、そういった商品を通じてお客様に届けるメッセージが大切になってくるなと思っています。

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