専門医であっても2割前後は病変の見逃しが
「消化器内視鏡は日本が世界をリードしている分野。消化器内視鏡は日本のメーカーが98%くらいのシェアを握っており、世界の市場を寡占化している。また、内視鏡医のレベルも日本は世界のトップを走っているということで、内視鏡にAI(人工知能)を組み合わせれば、日本が世界で戦える数少ない分野の一つになると考えている」
こう語るのは、AIメディカルサービス代表取締役の多田智裕氏。
AIを活用して内視鏡の診断支援システムを開発するAIメディカルサービス。内視鏡の世界ではオリンパスや富士フイルムが有名だが、両社が主に大腸ポリープ向けを手掛けているのに対して、同社は胃がんなどの上部消化管にあたるがん領域をカバーしようとしている。
日本人の2人に1人が経験し、死因のトップであるがん。だが、早期発見できれば、十分に治療可能な疾患となりつつある。
昨年11月に発表された全国がんセンター協議会の調査によると、例えば、胃がん(2011-13年診断症例)の5年相対生存率(5年後に何%の患者さんが生きているかの確率)はステージ1で98・7%、それがステージ2で66・5%、ステージ3で46・9%、ステージ4で6・2%。進行すれば死に至る確率も高まるが、早期発見ができれば治る確率も高い。
「がんは早期発見ができれば、十分に治療が可能。特に胃がんは早期発見ができれば、ステージ1の人ならほとんど治るが、ちょっと進行してしまうと、生存率は一気に落ちてしまう。しかも、見つけるのが難しくて、専門医であっても2割前後は病変の見逃しがあると言われている。AIをうまく活用することで、そうした見逃しをゼロにできないかと考えた」(多田氏)
また、胃がん検診では1回の検査で40枚ほどの画像を撮影するのが一般的。これらの画像は見逃し防止のために専門医の目でダブルチェックをしているそうだ。ところが、医師でもある多田氏によると、こうしたダブルチェックは通常の診療時間後、いわゆる時間外労働で行われているという。
そこでAI活用により、これら2つの課題を解決できるのではないかと考えて、2017年に設立されたのが同社である。
「質を落とさずに医師の過剰労働を解消したいという思いはずっとあった。AIが瞬時に病変部分を教えてくれたら、医師としてはかなり助かるし、当然、一人で仕事をするよりもアシスタントがいた方が効率はいいわけで、検査の精度が上がり、医師の負担が減るという両方のメリットがある」(多田氏)
塩野義製薬の新型コロナ治療薬、米政府への供給協議も
同社の特徴は国内で100を超える医療機関と提携していること。がん研有明病院や大阪国際がんセンター、東大病院、慶應義塾大学病院などと様々な共同研究を行っている。設立わずか5年のベンチャーが、こうした国内トップクラスの医療機関と提携するのは珍しい。これは多田氏がもともと医師として内視鏡の研究を重ねてきた実績や日頃から蓄積してきたネットワークが生きている。
「当初は、『AIが人間を診断するなんてとんでもない』などと言われたが、今では『AIと一緒に取り組んだ方がより良い方向に向かうんじゃないか』と言われるようになった。今後も内視鏡AI事業を通じて、患者と医師の両方に負担が少ない検査環境の構築を目指し、世界の内視鏡医療の質を向上させていきたい」と語る多田氏。
オリンパスや富士フイルムなどのハードメーカーが既存の市場を牽引する中、同社はAIを武器に業界に新風を吹き込むことはできるか。多田氏の挑戦はまだ始まったばかりだ。
【富士フイルム】が目指す”唯一無二”の医療バリューチェーンづくり
「消化器内視鏡は日本が世界をリードしている分野。消化器内視鏡は日本のメーカーが98%くらいのシェアを握っており、世界の市場を寡占化している。また、内視鏡医のレベルも日本は世界のトップを走っているということで、内視鏡にAI(人工知能)を組み合わせれば、日本が世界で戦える数少ない分野の一つになると考えている」
こう語るのは、AIメディカルサービス代表取締役の多田智裕氏。
AIを活用して内視鏡の診断支援システムを開発するAIメディカルサービス。内視鏡の世界ではオリンパスや富士フイルムが有名だが、両社が主に大腸ポリープ向けを手掛けているのに対して、同社は胃がんなどの上部消化管にあたるがん領域をカバーしようとしている。
日本人の2人に1人が経験し、死因のトップであるがん。だが、早期発見できれば、十分に治療可能な疾患となりつつある。
昨年11月に発表された全国がんセンター協議会の調査によると、例えば、胃がん(2011-13年診断症例)の5年相対生存率(5年後に何%の患者さんが生きているかの確率)はステージ1で98・7%、それがステージ2で66・5%、ステージ3で46・9%、ステージ4で6・2%。進行すれば死に至る確率も高まるが、早期発見ができれば治る確率も高い。
「がんは早期発見ができれば、十分に治療が可能。特に胃がんは早期発見ができれば、ステージ1の人ならほとんど治るが、ちょっと進行してしまうと、生存率は一気に落ちてしまう。しかも、見つけるのが難しくて、専門医であっても2割前後は病変の見逃しがあると言われている。AIをうまく活用することで、そうした見逃しをゼロにできないかと考えた」(多田氏)
また、胃がん検診では1回の検査で40枚ほどの画像を撮影するのが一般的。これらの画像は見逃し防止のために専門医の目でダブルチェックをしているそうだ。ところが、医師でもある多田氏によると、こうしたダブルチェックは通常の診療時間後、いわゆる時間外労働で行われているという。
そこでAI活用により、これら2つの課題を解決できるのではないかと考えて、2017年に設立されたのが同社である。
「質を落とさずに医師の過剰労働を解消したいという思いはずっとあった。AIが瞬時に病変部分を教えてくれたら、医師としてはかなり助かるし、当然、一人で仕事をするよりもアシスタントがいた方が効率はいいわけで、検査の精度が上がり、医師の負担が減るという両方のメリットがある」(多田氏)
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同社の特徴は国内で100を超える医療機関と提携していること。がん研有明病院や大阪国際がんセンター、東大病院、慶應義塾大学病院などと様々な共同研究を行っている。設立わずか5年のベンチャーが、こうした国内トップクラスの医療機関と提携するのは珍しい。これは多田氏がもともと医師として内視鏡の研究を重ねてきた実績や日頃から蓄積してきたネットワークが生きている。
「当初は、『AIが人間を診断するなんてとんでもない』などと言われたが、今では『AIと一緒に取り組んだ方がより良い方向に向かうんじゃないか』と言われるようになった。今後も内視鏡AI事業を通じて、患者と医師の両方に負担が少ない検査環境の構築を目指し、世界の内視鏡医療の質を向上させていきたい」と語る多田氏。
オリンパスや富士フイルムなどのハードメーカーが既存の市場を牽引する中、同社はAIを武器に業界に新風を吹き込むことはできるか。多田氏の挑戦はまだ始まったばかりだ。
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