全産業に影響をもたらしている脱炭素。ビール・飲料業界では容器のペットボトルやアルミ缶のリサイクルが大きな課題になっている。各社が試行錯誤を繰り返す中、世界初の使用済みプラスチックの再資源化に続き、リサイクルアルミ材を100%使用した商品を発売したのがサントリーだ。商品の開発では各社で独自性を打ち出して鎬を削るが、容器開発では手を結ぶ事例も。創業以来の「やってみなはれ」精神をいかに発揮していくか。
【後発だからこそ新たな素材に挑戦!】製油業界3位・不二製油が展開する「植物性食品」戦略
国内のアルミ缶消費量の2割強
「カーボンニュートラルに向け、 お取引先様との〝共創〟を推進していきたい」─。こう強調するのがサントリーホールディングス(HD)執行役員サステナビリティ経営推進本部副本部長・サプライチェーン本部副本部長の藤原正明氏だ。
脱炭素の波がビール・飲料業界にも押し寄せている。飲料会社にとって悩みの種となっているのがビールや清涼飲料で使う「缶」と「ペットボトル」だ。これらは手軽に持ち運びができる容器として広く普及した半面、昨今のSDGsやESGの流れを受けて、その処理方法に各社が課題意識を持っている。
その中でサントリーはリサイクルアルミ材を100%使用した缶入りビールを数量限定で販売している。2020年の国内のアルミ需要は約360万トン。そのうち食料品用途は約10%を占め、アルミ缶では約33.1万トンとなり、缶数にして217.9億缶となる。
その中でサントリーグループは21年実績で約7.2万トンを国内で使用(酒類事業で約5.9万トン、清涼飲料事業で約1.3万トン)。全体の2割強に上る。「ペットボトル(同約12.4万トン)に次いで使用量の大きいアルミ缶の取り組みが重要」(同)だった。
これまでもアルミ缶商品50〜60%のリサイクルアルミ材が使用されていたが、100%リサイクル素材のアルミ缶は実現していなかった。そんな中で開発したのが、今回の「ザ・プレミアム・モルツ CO2削減缶」と「同〈香る〉エール CO2削減缶」だ。
ここでポイントとなるのが、サントリーグループが「スコープ3(自社以外のサプライチェーンにおけるCO2排出)」で動いた点だ。スコープとは温室効果ガス排出量の算定と報告の国際基準「GHGプロトコル」での定義の1つ。まず「スコープ1」は自社の活動に伴う直接排出を指す。次に「スコープ2」はエネルギー起源の間接排出。そして「スコープ3」がスコープ2以外の間接排出を指す。例えば取引先から原料を調達した場合、その取引先がその原料を製造するまでに排出した量を指す。
要は自社のコントロールが及ばない範囲を指すわけだが、同社は動く。「サプライチェーンの最上流にある地金の調達が海外に依存していることに着目し、できるだけそれを使わないようにすることで、スコープ3の削減量が上がるように3社で協議して実現した」と藤原氏。
協業した2社とはアルミ缶の鋳造や胴と蓋部分の加工を行うサプライチェーンの上流に位置するUACJ(旧古河スカイと住友軽金属工業)と東洋製罐グループホールディングスだ。3社で共同開発したアルミ缶は、通常のアルミ缶に比べて1缶当たり約60%のCO2排出量の削減につながる。世界初の技術だ。
これまでの缶に使われていた新地金は、ほぼ100%海外に調達を依存しており、この新地金を使わない100%リサイクル缶を使用することで、国内におけるアルミ缶の水平循環が可能になることも視野に入れている。「使用済みのアルミ缶は全て国内で回収される」(関係者)ため、アルミ缶の資源を国内で賄うことも可能になる。
「1社単独ではできない」
サントリーHDは既にペットボトルでも回収した使用済みペットボトルを新たなペットボトルに生まれ変わらせる「ボトルtoボトル」を展開。国内で回収した使用済みペットボトルを活用しているため、国内で一部の資源を賄っていることになる。
さらに、20年には使用済みプラスチックの再資源化事業への取り組みを開始。米国のバイオ化学ベンチャー企業・アネロテックと使用済みプラスチックの再資源化技術開発を進めている。これも世界初の技術で、熱分解と触媒の反応の技術を応用して非食用の植物由来原料から石油精製品と同一性能を持つ素材を開発するのが狙いだ。
ウッドチップからペットボトル原料などを取り出す技術の開発を進めていた際、プラスチックも生成できるのではないかと考えたことがきっかけで、この技術が汎用化されれば、使用済みプラスチックはゴミではなく資源になる。
ただ、「1社単独ではできない」(同)ことから共同出資パートナー企業との業界を超えた連携を進めていった。共同出資会社として「アールプラスジャパン」を設立。発足当初は12社だったが、今では40社となった。中にはライバルのアサヒグループHDも名を連ねる。
もちろん、これらの取り組みは道半ばだ。CO2削減缶もプレモル全体の年間販売数量の0.3%ほどで、藤原氏は「通常の缶に比べコストが上がることは間違いない」と話す。また、使用済みプラスチックの再資源化も実用化見込みが30年とまだ先だ。
やってみなはれ─。サントリーの創業精神が脱炭素でも展開されている。同社は30年までに自社排出の温室効果ガスを50%削減(19年基準比)、バリューチェーン全体で30%削減(同)を目指し、プラスチックは100%リサイクル素材か植物由来素材に切り替えて化石由来
原料の使用をゼロにする。
「水と生きる」は、同社がお客様や地域社会、自然環境と交わす約束の言葉だ。自然や資源がなければ人々の生活は成り立たないし、自社の事業も成り立たない。その自然や資源を守らなければならないという危機感がサントリーを環境対応に突き動かす。
飲料業界で商品はライバルと熾烈な競争をするが、物流や脱炭素では協調する事例が増えている。その中で世界初の技術で仲間づくりを進められるか。サントリーの「やってみなはれ」が試される。
【後発だからこそ新たな素材に挑戦!】製油業界3位・不二製油が展開する「植物性食品」戦略
国内のアルミ缶消費量の2割強
「カーボンニュートラルに向け、 お取引先様との〝共創〟を推進していきたい」─。こう強調するのがサントリーホールディングス(HD)執行役員サステナビリティ経営推進本部副本部長・サプライチェーン本部副本部長の藤原正明氏だ。
脱炭素の波がビール・飲料業界にも押し寄せている。飲料会社にとって悩みの種となっているのがビールや清涼飲料で使う「缶」と「ペットボトル」だ。これらは手軽に持ち運びができる容器として広く普及した半面、昨今のSDGsやESGの流れを受けて、その処理方法に各社が課題意識を持っている。
その中でサントリーはリサイクルアルミ材を100%使用した缶入りビールを数量限定で販売している。2020年の国内のアルミ需要は約360万トン。そのうち食料品用途は約10%を占め、アルミ缶では約33.1万トンとなり、缶数にして217.9億缶となる。
その中でサントリーグループは21年実績で約7.2万トンを国内で使用(酒類事業で約5.9万トン、清涼飲料事業で約1.3万トン)。全体の2割強に上る。「ペットボトル(同約12.4万トン)に次いで使用量の大きいアルミ缶の取り組みが重要」(同)だった。
これまでもアルミ缶商品50〜60%のリサイクルアルミ材が使用されていたが、100%リサイクル素材のアルミ缶は実現していなかった。そんな中で開発したのが、今回の「ザ・プレミアム・モルツ CO2削減缶」と「同〈香る〉エール CO2削減缶」だ。
ここでポイントとなるのが、サントリーグループが「スコープ3(自社以外のサプライチェーンにおけるCO2排出)」で動いた点だ。スコープとは温室効果ガス排出量の算定と報告の国際基準「GHGプロトコル」での定義の1つ。まず「スコープ1」は自社の活動に伴う直接排出を指す。次に「スコープ2」はエネルギー起源の間接排出。そして「スコープ3」がスコープ2以外の間接排出を指す。例えば取引先から原料を調達した場合、その取引先がその原料を製造するまでに排出した量を指す。
要は自社のコントロールが及ばない範囲を指すわけだが、同社は動く。「サプライチェーンの最上流にある地金の調達が海外に依存していることに着目し、できるだけそれを使わないようにすることで、スコープ3の削減量が上がるように3社で協議して実現した」と藤原氏。
協業した2社とはアルミ缶の鋳造や胴と蓋部分の加工を行うサプライチェーンの上流に位置するUACJ(旧古河スカイと住友軽金属工業)と東洋製罐グループホールディングスだ。3社で共同開発したアルミ缶は、通常のアルミ缶に比べて1缶当たり約60%のCO2排出量の削減につながる。世界初の技術だ。
これまでの缶に使われていた新地金は、ほぼ100%海外に調達を依存しており、この新地金を使わない100%リサイクル缶を使用することで、国内におけるアルミ缶の水平循環が可能になることも視野に入れている。「使用済みのアルミ缶は全て国内で回収される」(関係者)ため、アルミ缶の資源を国内で賄うことも可能になる。
「1社単独ではできない」
サントリーHDは既にペットボトルでも回収した使用済みペットボトルを新たなペットボトルに生まれ変わらせる「ボトルtoボトル」を展開。国内で回収した使用済みペットボトルを活用しているため、国内で一部の資源を賄っていることになる。
さらに、20年には使用済みプラスチックの再資源化事業への取り組みを開始。米国のバイオ化学ベンチャー企業・アネロテックと使用済みプラスチックの再資源化技術開発を進めている。これも世界初の技術で、熱分解と触媒の反応の技術を応用して非食用の植物由来原料から石油精製品と同一性能を持つ素材を開発するのが狙いだ。
ウッドチップからペットボトル原料などを取り出す技術の開発を進めていた際、プラスチックも生成できるのではないかと考えたことがきっかけで、この技術が汎用化されれば、使用済みプラスチックはゴミではなく資源になる。
ただ、「1社単独ではできない」(同)ことから共同出資パートナー企業との業界を超えた連携を進めていった。共同出資会社として「アールプラスジャパン」を設立。発足当初は12社だったが、今では40社となった。中にはライバルのアサヒグループHDも名を連ねる。
もちろん、これらの取り組みは道半ばだ。CO2削減缶もプレモル全体の年間販売数量の0.3%ほどで、藤原氏は「通常の缶に比べコストが上がることは間違いない」と話す。また、使用済みプラスチックの再資源化も実用化見込みが30年とまだ先だ。
やってみなはれ─。サントリーの創業精神が脱炭素でも展開されている。同社は30年までに自社排出の温室効果ガスを50%削減(19年基準比)、バリューチェーン全体で30%削減(同)を目指し、プラスチックは100%リサイクル素材か植物由来素材に切り替えて化石由来
原料の使用をゼロにする。
「水と生きる」は、同社がお客様や地域社会、自然環境と交わす約束の言葉だ。自然や資源がなければ人々の生活は成り立たないし、自社の事業も成り立たない。その自然や資源を守らなければならないという危機感がサントリーを環境対応に突き動かす。
飲料業界で商品はライバルと熾烈な競争をするが、物流や脱炭素では協調する事例が増えている。その中で世界初の技術で仲間づくりを進められるか。サントリーの「やってみなはれ」が試される。