日本も世界的インフレの中で2%程度のインフレになるが、この緩やかなインフレが日本買いの元になる─。「地政学リスクは収まるどころか、今後ますます拡大する可能性が高い」と菅下清廣氏。為替の急速な円安、物価高が日本を襲っている。だが、菅下氏は「円安によって、長年の課題だったデフレ脱却の可能性が出ている」とプラスの影響を強調。欧米がインフレに苦しむ中、日本が未だにデフレであることが、むしろプラスに働くと指摘する。
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米ソ冷戦時代以上の危機「新・冷戦構造」
─ 今、世界経済は混沌の中にあります。米国はインフレ、日本はデフレという違いもあり、それが株価にも影響している。さらにはコロナ禍、ウクライナ危機もあります。これらを踏まえた上で、今年の下期、来年前半をどう見通しますか。
菅下 世界と日本にとって、この2022年は「動乱の時代」に入る最初の年だといえます。世界情勢についてはお話するまでもありませんが、2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、「新・冷戦構造」が出来ています。これによって、かつての米ソ冷戦の時よりも世界的に地政学リスクが高まっています。
いわゆる専制国家である、非民主主義国家のロシア、中国、北朝鮮対日・米・欧の民主主義国家との間で、当分和解できない対立が、今後一層深まる方向に向かっていますし、最終的にはさらなる軍事的紛争が起こる可能性もあります。つまり、地政学リスクは収まるどころか、今後ますます拡大する可能性が高いということです。
─ そのように判断する理由は?
菅下 なぜなら新・冷戦ではほぼ妥協できない対立になっているからです。ロシアのラブロフ外務大臣も言っていましたが、今の米国とロシアの関係は、かつての米ソ冷戦時代よりも、はるかにリスクが高まっています。
なぜなら、かつての米ソ冷戦、キューバ危機の時には、米国のケネディ大統領と、ソ連のフルシチョフ首相との間にコミュニケーションがあった。しかし今の米バイデン大統領とロシアのプーチン大統領との間にはコミュニケーションがありません。
─ かつて以上に緊張感が高まっていると。
菅下 ええ。特に今、リスクが高まっているのが台湾海峡です。その意味で22年は長く続いた国際情勢の「デタント」(緊張緩和)、平和の時代から、緊張の時代、戦争の時代に突入したと言えます。これが今の国際情勢です。
この地政学リスクの高まりの中で、日本もいつ軍事的紛争に巻き込まれるかわからないという状況にあります。そのことを日本政府は認識して、今回も過去最大の防衛予算を組んでいるわけです。
一方、金融面で言えば、米国の金利のピークはいつだったかというと、1981年9月でした。この時の米国の長期金利は15%台でした。
─ 米国はレーガン大統領が「強いドル」という方針を打ち出していた時代ですね。
菅下 そうです。当時の米国は超インフレだったわけです。米長期金利は81年9月に15%でピークアウトし、82年8月にニューヨークダウが776ドルで底入れしたのです。
これを相場の「波動論」で言うと、米国の金利と株価には1年のタイムラグがあります。金利が天井を打ってから1年で株価は底入れしたわけです。
長期で見れば、82年8月にニューヨークダウが776ドルで底入れして以降、22年1月5日の3万6952ドルまで上昇し、天井を付けました。
相場の波動には「長期」、「短期」がある
─ 途中でITバブルの崩壊やリーマンショックなどもありましたが、大きな流れとしては上昇していたと。
菅下 そうです。株価の上昇波動が40年続いたということですが、なぜ上がったか。それは金利が40年間、下がり続けたからです。
米国の金利は81年9月の15・84%を出発点に、20年8月に0・52%で底入れしました。その後、米国の金利は上昇し、9月中旬現在で3・49%まで上がりました。
先程お話したように、金利がピークを付けた時、株価は1年後に底入れしました。金利が底入れしたということは、株価はどうなるか。ニューヨークダウは天井を付け、今後は下がっていくわけです。
20年8月に金利が底入れしたわけですが、金利と株価には1年の誤差がありますが、ちょうど1年後の21年9月7日にナスダック指数は1万5403ポイントで一番天井を付けています。その後11月22日に1万6212ポイントで二番天井を付けて下落局面に入っています。
─ 金利が上がる局面は株価が下がるという逆相関関係にあるということですね。
菅下 そうです。40年続いた米国の株価上昇の背景には40年間の金融緩和による金利低下があったわけですが、FRB(米連邦準備制度理事会)が21年11月、ついに金融引き締めに入り、金利が上がってきました。
直近までの米国の株式市場はナスダック牽引型、つまり成長を買う相場でした。ですから、ナスダックが天井を打ったら終わりです。そのナスダックが金利の底入れのほぼ1年後に天井を打っています。
こうした波動には、長期と短期がありますが、これを知っていたら相場が読めるわけです。
ですから長期の波動から言えば、米国の株価はすでに天井を付けているということです。ただし、これは一番天井です。相場は二番天井を付けて本格的に下降しますから、もう1回、米国株が上がる局面があるということです。
日経平均はバブル期の高値を奪回できるか?
─ 一方で、日経平均株価の動きをどう見ますか。
菅下 日経平均も、底値は82年です。ニューヨークダウが776ドルを付けたのと同じ年の10月に6849円で底入れし、その後、バブル期の89年12月に3万8915円で天井を付けました。この時は7年の上昇でした。
日本の場合はバブル崩壊が日本だけの現象であり、世界の動きとは別でした。なぜ、そうなったかといえば、日本銀行の政策です。当時の日銀総裁の三重野康氏が急速な金融引き締めを行ったことと、大蔵省(現財務省)による不動産融資の総量規制によって危機に陥りました。
底入れしたのが09年3月10日で7054円でした。これは前年のリーマンショックを織り込んだ底入れです。82年の出発点に戻ったんです。価格の波動では、相場は元来たところに戻るということです。
そして、相場の世界では「天井は点、底入れは面」と言います。天井は瞬間で付け、底入れするのには時間がかかる。普通は2年半から3年かかります。波動には価格と時間の2種類ありますが、より大事なのは時間の波動です。
リーマンショックの後を見ても、09年で底値を付けたわけですが、3年後の12年11月に二番底を付けて、底入れしています。この時に何か起きたかといえば、当時の安倍晋三・自民党総裁が民主党から政権を奪還し、経済政策・アベノミクスによって「アベノミクス相場」が始まりました。
その後、21年2月16日に3万714円、9月14日に3万795円と、一番天井と近い水準で二番天井、ダブルトップを付けました。
─ 今後の展開をどう見ていますか。
菅下 相場は二番天井を付けてから本格的に下落します。21年9月から下落し、22年3月9日に2万4681円で目先底入れし、新しい上昇相場が始まりつつあります。
次の目標はどこか。短期サイクルでは今回の株価上昇の出発点はコロナショックの安値、20年3月19日の1万6358円です。ここから上昇して21年の2月、9月に天井を付けたわけです。大体、大きな相場の後は12ないし13カ月休みます。実際、21年2月に天井を付け、22年3月に底入れしているわけです。
もしこの後、22年3月9日の2万4681円を下回らずに上がっていくなら、第1波に対して上昇第2波が始まったということになります。この目標値は3万9000円近辺です。
─ そう分析する背景は?
菅下 20年3月のコロナショックの安値から、21年9月の高値まで約1万4000円上げています。次の上昇相場でも、同じくらいの水準、上がる可能性があります。
この相場が、もし今年後半から来年前半にかけて、21年9月の二番天井を抜いてくるようならば、次の天井である3万9000円を目指す展開もあるでしょうし、抜かなかったら、いつまでも3万円近辺止まりです。私は、突破して3万9000円台を目指す展開もあると見ています。
日本はこれから「ゴールデンサイクル」に?
─ 世界では多くの国で株価は最高値を更新していますが、日本は抜けていません。この理由をどう見ていますか。
菅下 それはデフレ不況だからです。これが非常に頑強なんです。そのデフレを克服するために、黒田東彦・日銀総裁が14年4月4日に登場し、「異次元の金融緩和」を始め、長年続けたにもかかわらず、日本は今なおデフレを完全には脱却できていません。
なぜなら金利が0%台だからです。世界の中央銀行が目指しているのは適度なインフレ、2%です。ですから日本の金利が2%にならないと、デフレを脱却したとは言えません。
黒田総裁が就任した時の目標である物価目標2%はなかなか達成できていないわけですが、ここに来て達成できそうになっています。それは24年ぶりの水準となる円安で1ドル=144円を付けたことによります。消費者物価指数は2・4%ほどを付けていますし、企業物価指数もさらなる上昇が見込まれます。
─ 長年の課題だったデフレが、皮肉にも為替の円安によって脱却できそうだと。
菅下 日銀が何も手を打たなくても、円安によって、日本は23年にもデフレを脱却する可能性があります。日本の金利もいずれ上がってくるでしょう。黒田総裁は23年4月が任期ですが、次期総裁はおそらく、金融緩和の修正に動くでしょう。
円安によってデフレを脱却すると同時にインバウンド(訪日外国人観光客)を呼び込むことで、景気回復も見込めます。
─ 欧米はインフレを抑え込むために金融引き締めをしていますが、やり過ぎると景気が悪化するリスクがあります。
菅下 これは日本にとって有利です。日本は今もデフレですから、多少モノの値段が上がっても1%、2%のインフレにしかなりません。この猛インフレの時代に、世界の中でも有利な位置を占めることができ、今後日本は「買い」だといえます。
なぜなら、円安で日本の株、不動産などはバーゲンセール状態です。加えて、セキュリティが世界で一番よく、食べ物も美味しいからです。私は23年以降は日本買い時代、日本株の黄金時代が始まると見ています。
─ 為替の円安はむしろ日本にプラスに作用する?
菅下 前三菱UFJモルガン・スタンレー証券参与の嶋中雄二氏は、23年、24年、25年は、4つの景気の波が全て上昇する「ゴールデンサイクル」が到来すると指摘しています。
世界がインフレと戦う中、日本は適度なインフレに向かう。ですから、外国人から見ればインバウンドで日本に旅行したいというニーズが出てきます。
こうしたインバウンドの好影響もあって、23年の年末に向かって、日経平均は3万9000円を目指す展開もあり得ると見ています。
─ 欧米や中国が経済的に足踏みしている状況下、日本はこの機会を掴む必要がありますね。
菅下 そうです。世界ではインフレ、資源エネルギー価格の上昇が大きな問題となっています。特に欧州はこれまで、エネルギーをロシアに依存していますから、悩みは深刻です。中国にしても、人口増加で水と食料品の不足が懸念されています。
そして何よりも、今後世界で問題となるリスクが難民、不法移民です。この問題は日本には、あまりないと言っていい。
─ 今後、格差の拡大も進みそうです。
菅下 インフレによって、株式や不動産などの資産を持っている人は、より一層お金持ちになる一方で、一般国民は物価が上がり、生活費が上がるということで生活が苦しくなることが予想されます。これに対する反発などは起こり得ます。
今後の世界情勢は、さらに厳しさを増すと思いますが、お話したように日本にとっては、個人も企業もやり方次第では、むしろチャンスです。
ですので私は〝量より質〟でいずれジャパン・アズ・ナンバーワン再びの時代が到来すると予想しています。
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米ソ冷戦時代以上の危機「新・冷戦構造」
─ 今、世界経済は混沌の中にあります。米国はインフレ、日本はデフレという違いもあり、それが株価にも影響している。さらにはコロナ禍、ウクライナ危機もあります。これらを踏まえた上で、今年の下期、来年前半をどう見通しますか。
菅下 世界と日本にとって、この2022年は「動乱の時代」に入る最初の年だといえます。世界情勢についてはお話するまでもありませんが、2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、「新・冷戦構造」が出来ています。これによって、かつての米ソ冷戦の時よりも世界的に地政学リスクが高まっています。
いわゆる専制国家である、非民主主義国家のロシア、中国、北朝鮮対日・米・欧の民主主義国家との間で、当分和解できない対立が、今後一層深まる方向に向かっていますし、最終的にはさらなる軍事的紛争が起こる可能性もあります。つまり、地政学リスクは収まるどころか、今後ますます拡大する可能性が高いということです。
─ そのように判断する理由は?
菅下 なぜなら新・冷戦ではほぼ妥協できない対立になっているからです。ロシアのラブロフ外務大臣も言っていましたが、今の米国とロシアの関係は、かつての米ソ冷戦時代よりも、はるかにリスクが高まっています。
なぜなら、かつての米ソ冷戦、キューバ危機の時には、米国のケネディ大統領と、ソ連のフルシチョフ首相との間にコミュニケーションがあった。しかし今の米バイデン大統領とロシアのプーチン大統領との間にはコミュニケーションがありません。
─ かつて以上に緊張感が高まっていると。
菅下 ええ。特に今、リスクが高まっているのが台湾海峡です。その意味で22年は長く続いた国際情勢の「デタント」(緊張緩和)、平和の時代から、緊張の時代、戦争の時代に突入したと言えます。これが今の国際情勢です。
この地政学リスクの高まりの中で、日本もいつ軍事的紛争に巻き込まれるかわからないという状況にあります。そのことを日本政府は認識して、今回も過去最大の防衛予算を組んでいるわけです。
一方、金融面で言えば、米国の金利のピークはいつだったかというと、1981年9月でした。この時の米国の長期金利は15%台でした。
─ 米国はレーガン大統領が「強いドル」という方針を打ち出していた時代ですね。
菅下 そうです。当時の米国は超インフレだったわけです。米長期金利は81年9月に15%でピークアウトし、82年8月にニューヨークダウが776ドルで底入れしたのです。
これを相場の「波動論」で言うと、米国の金利と株価には1年のタイムラグがあります。金利が天井を打ってから1年で株価は底入れしたわけです。
長期で見れば、82年8月にニューヨークダウが776ドルで底入れして以降、22年1月5日の3万6952ドルまで上昇し、天井を付けました。
相場の波動には「長期」、「短期」がある
─ 途中でITバブルの崩壊やリーマンショックなどもありましたが、大きな流れとしては上昇していたと。
菅下 そうです。株価の上昇波動が40年続いたということですが、なぜ上がったか。それは金利が40年間、下がり続けたからです。
米国の金利は81年9月の15・84%を出発点に、20年8月に0・52%で底入れしました。その後、米国の金利は上昇し、9月中旬現在で3・49%まで上がりました。
先程お話したように、金利がピークを付けた時、株価は1年後に底入れしました。金利が底入れしたということは、株価はどうなるか。ニューヨークダウは天井を付け、今後は下がっていくわけです。
20年8月に金利が底入れしたわけですが、金利と株価には1年の誤差がありますが、ちょうど1年後の21年9月7日にナスダック指数は1万5403ポイントで一番天井を付けています。その後11月22日に1万6212ポイントで二番天井を付けて下落局面に入っています。
─ 金利が上がる局面は株価が下がるという逆相関関係にあるということですね。
菅下 そうです。40年続いた米国の株価上昇の背景には40年間の金融緩和による金利低下があったわけですが、FRB(米連邦準備制度理事会)が21年11月、ついに金融引き締めに入り、金利が上がってきました。
直近までの米国の株式市場はナスダック牽引型、つまり成長を買う相場でした。ですから、ナスダックが天井を打ったら終わりです。そのナスダックが金利の底入れのほぼ1年後に天井を打っています。
こうした波動には、長期と短期がありますが、これを知っていたら相場が読めるわけです。
ですから長期の波動から言えば、米国の株価はすでに天井を付けているということです。ただし、これは一番天井です。相場は二番天井を付けて本格的に下降しますから、もう1回、米国株が上がる局面があるということです。
日経平均はバブル期の高値を奪回できるか?
─ 一方で、日経平均株価の動きをどう見ますか。
菅下 日経平均も、底値は82年です。ニューヨークダウが776ドルを付けたのと同じ年の10月に6849円で底入れし、その後、バブル期の89年12月に3万8915円で天井を付けました。この時は7年の上昇でした。
日本の場合はバブル崩壊が日本だけの現象であり、世界の動きとは別でした。なぜ、そうなったかといえば、日本銀行の政策です。当時の日銀総裁の三重野康氏が急速な金融引き締めを行ったことと、大蔵省(現財務省)による不動産融資の総量規制によって危機に陥りました。
底入れしたのが09年3月10日で7054円でした。これは前年のリーマンショックを織り込んだ底入れです。82年の出発点に戻ったんです。価格の波動では、相場は元来たところに戻るということです。
そして、相場の世界では「天井は点、底入れは面」と言います。天井は瞬間で付け、底入れするのには時間がかかる。普通は2年半から3年かかります。波動には価格と時間の2種類ありますが、より大事なのは時間の波動です。
リーマンショックの後を見ても、09年で底値を付けたわけですが、3年後の12年11月に二番底を付けて、底入れしています。この時に何か起きたかといえば、当時の安倍晋三・自民党総裁が民主党から政権を奪還し、経済政策・アベノミクスによって「アベノミクス相場」が始まりました。
その後、21年2月16日に3万714円、9月14日に3万795円と、一番天井と近い水準で二番天井、ダブルトップを付けました。
─ 今後の展開をどう見ていますか。
菅下 相場は二番天井を付けてから本格的に下落します。21年9月から下落し、22年3月9日に2万4681円で目先底入れし、新しい上昇相場が始まりつつあります。
次の目標はどこか。短期サイクルでは今回の株価上昇の出発点はコロナショックの安値、20年3月19日の1万6358円です。ここから上昇して21年の2月、9月に天井を付けたわけです。大体、大きな相場の後は12ないし13カ月休みます。実際、21年2月に天井を付け、22年3月に底入れしているわけです。
もしこの後、22年3月9日の2万4681円を下回らずに上がっていくなら、第1波に対して上昇第2波が始まったということになります。この目標値は3万9000円近辺です。
─ そう分析する背景は?
菅下 20年3月のコロナショックの安値から、21年9月の高値まで約1万4000円上げています。次の上昇相場でも、同じくらいの水準、上がる可能性があります。
この相場が、もし今年後半から来年前半にかけて、21年9月の二番天井を抜いてくるようならば、次の天井である3万9000円を目指す展開もあるでしょうし、抜かなかったら、いつまでも3万円近辺止まりです。私は、突破して3万9000円台を目指す展開もあると見ています。
日本はこれから「ゴールデンサイクル」に?
─ 世界では多くの国で株価は最高値を更新していますが、日本は抜けていません。この理由をどう見ていますか。
菅下 それはデフレ不況だからです。これが非常に頑強なんです。そのデフレを克服するために、黒田東彦・日銀総裁が14年4月4日に登場し、「異次元の金融緩和」を始め、長年続けたにもかかわらず、日本は今なおデフレを完全には脱却できていません。
なぜなら金利が0%台だからです。世界の中央銀行が目指しているのは適度なインフレ、2%です。ですから日本の金利が2%にならないと、デフレを脱却したとは言えません。
黒田総裁が就任した時の目標である物価目標2%はなかなか達成できていないわけですが、ここに来て達成できそうになっています。それは24年ぶりの水準となる円安で1ドル=144円を付けたことによります。消費者物価指数は2・4%ほどを付けていますし、企業物価指数もさらなる上昇が見込まれます。
─ 長年の課題だったデフレが、皮肉にも為替の円安によって脱却できそうだと。
菅下 日銀が何も手を打たなくても、円安によって、日本は23年にもデフレを脱却する可能性があります。日本の金利もいずれ上がってくるでしょう。黒田総裁は23年4月が任期ですが、次期総裁はおそらく、金融緩和の修正に動くでしょう。
円安によってデフレを脱却すると同時にインバウンド(訪日外国人観光客)を呼び込むことで、景気回復も見込めます。
─ 欧米はインフレを抑え込むために金融引き締めをしていますが、やり過ぎると景気が悪化するリスクがあります。
菅下 これは日本にとって有利です。日本は今もデフレですから、多少モノの値段が上がっても1%、2%のインフレにしかなりません。この猛インフレの時代に、世界の中でも有利な位置を占めることができ、今後日本は「買い」だといえます。
なぜなら、円安で日本の株、不動産などはバーゲンセール状態です。加えて、セキュリティが世界で一番よく、食べ物も美味しいからです。私は23年以降は日本買い時代、日本株の黄金時代が始まると見ています。
─ 為替の円安はむしろ日本にプラスに作用する?
菅下 前三菱UFJモルガン・スタンレー証券参与の嶋中雄二氏は、23年、24年、25年は、4つの景気の波が全て上昇する「ゴールデンサイクル」が到来すると指摘しています。
世界がインフレと戦う中、日本は適度なインフレに向かう。ですから、外国人から見ればインバウンドで日本に旅行したいというニーズが出てきます。
こうしたインバウンドの好影響もあって、23年の年末に向かって、日経平均は3万9000円を目指す展開もあり得ると見ています。
─ 欧米や中国が経済的に足踏みしている状況下、日本はこの機会を掴む必要がありますね。
菅下 そうです。世界ではインフレ、資源エネルギー価格の上昇が大きな問題となっています。特に欧州はこれまで、エネルギーをロシアに依存していますから、悩みは深刻です。中国にしても、人口増加で水と食料品の不足が懸念されています。
そして何よりも、今後世界で問題となるリスクが難民、不法移民です。この問題は日本には、あまりないと言っていい。
─ 今後、格差の拡大も進みそうです。
菅下 インフレによって、株式や不動産などの資産を持っている人は、より一層お金持ちになる一方で、一般国民は物価が上がり、生活費が上がるということで生活が苦しくなることが予想されます。これに対する反発などは起こり得ます。
今後の世界情勢は、さらに厳しさを増すと思いますが、お話したように日本にとっては、個人も企業もやり方次第では、むしろチャンスです。
ですので私は〝量より質〟でいずれジャパン・アズ・ナンバーワン再びの時代が到来すると予想しています。