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日本生命・清水博社長に直撃!「『健康で長生きしたい』というニーズは強い。ヘルスケアを新たな事業の柱に」

財界オンライン 2022年11月10日 7時0分

「リスクが起こった時に役立つ保険と、リスクそのものを予防するヘルスケアは仲がいい」─日本生命保険社長の清水氏はこう述懐する。生命保険は保険引き受けと資産運用が柱だが、少子高齢化でパイが減る中、新たな事業の掘り起こしを進めている。その1つが「ヘルスケア事業」。清水氏は現在の中期経営計画の中で「超えて、その先へ」という言葉を掲げる。その精神で事業の掘り起こしにも取り組んでいる。

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「無病息災」ではなく「一病息災」の時代

─ コロナ禍、ウクライナ戦争と、世界、日本に立て続けに危機が訪れているわけですが、その中において、改めて生命保険経営のあり方をどう考えていますか。

清水 やはり現場に支えられていると感じています。1人ひとりの営業職員が、お客様に対する活動をしなければいけないという意識を持っており、そうした人たちが現場を支え、日本生命が支えられていると思っています。


─ 今、一般の人たちの保険に対する意識は、世代によっても違うと思いますが、時代の変化を踏まえてどう捉えていますか。

清水 社長に就任してから、ずっと思っていることですが、お客様の保険に対するニーズと意向、そして行動に合わせた事業運営をしていかなければいけないということです。それを社内に向けても常に言っているんです。

 最も典型的に表れているのは、私が入社した約40年前は、私も含めて生命保険に対して受動的でした。自分では調べませんでしたし、よくわからないという人も多かった。

 しかも、多くの企業の職場に営業職員が訪問していたんですが、その企業の社員の方が先輩に加入を薦められると、「必要なんだろう」と思って、説明を聞いて納得すれば契約する。こうした受動的な保険の入り方が多かったんです。

 しかし今は、能動的に自ら必要性を感じて、商品を調べて、数社を比較し、いろいろなところに聞きに行って確認して、最後に自分で決める、という加入行動になっています。

─ こうした行動を取るのは若い世代ですか。

清水 今や全ての人、どの世代もそうだと思います。従って、我々は、その行動に合わせなければいけないということです。こうなると、保険商品のあり方、チャネルのあり方も、能動的に調べて決定されるお客様に合わせて、我々はコンサルティング、営業活動、商品開発をしなければならないと思いますね。

 また、お客様が受動的から能動的になった時に一番顕著なのは、健康で長生きをしたいと誰もが思う時代になっているということです。

 しかも、「健康」という時には病気が全くない健康であれば、それは100%いいんですが、「無病息災」ではなく「一病息災」と言われるように、ちょっとした病気になっても軽い段階で、もしくは早めに発見をして治療をすることで、その病気と付き合いながら長生きしていく時代という認識です。

 そういう時代ですから、お客様自身が、健康で長生きをしたいというニーズからの商品を選ばれる傾向が、ますます強くなっています。

「ヘルスケア」を新たな事業の柱に

─ 今、どういった保険商品が選ばれていますか。

 清水 代表的な形としては、医療保険と、重大な疾病に対するニーズという2つのタイプが中心だと思います。

 一般的には、医療保険で幅広く病気や手術をカバーする。その上で、重度な疾病、例えばがん、脳卒中、心筋梗塞の三大疾病や、幅広い生活習慣病、肝臓や膵臓の疾患など、ご自身が心配なものをカバーする保険に入られるという形で、2つを組み合わせて加入される傾向が強くなっています。

 さらに重度な疾病に対する給付としては、先程申し上げた通り、軽い段階で治療をしたい、もしくは早期に発見をして治療をしたい、検査をしたいというニーズが高まっていますので、私どもも、この4月から、従来の三大疾病の保険・保障に加えて、早期発見・早期治療に役立つための給付金を備えた保険の販売を始めました。この商品はマーケット、お客様に受け入れられています。

 これからは、健康で長生きすることにいかに役立つような保険であるかが、重要な要素になってきます。これは若者からご高齢の方まで全員の方のニーズだと思います。

 ─ ヘルスケアというのは、近年の大きなキーワードですが、保険商品に加えて、コンサルティング機能も備えるようになっていますか。

清水 すでに2つの取り組みをしており、それらをまとめて、日本生命では「ヘルスケア事業」と呼んでいます。

 1つは「リスク予測サービス」です。健康増進サービスで企業、自治体と契約して、匿名のままで検診データ、治療データを頂戴します。それらのデータを我々で解析して、それぞれにどのようなリスクがあるのか、リスクの度合いがどう高いのかを段階的に診断するサービスを17年から続けています。

 現在までに約250万人のデータが集まっています。この中に、例えば糖尿病のなりやすさを数値化して、ABCDなどのランク分けをして、個人ごとにそれをお伝えするサービスも入っています。

 一方で、糖尿病のなりやすさだけを言われても、どうしたらいいのかというお声もありますから、糖尿病の予防サービス、血糖値のチェックプランという予防サービスを、有償でご提供しています。

─ 現在までの手応えはどうですか。

清水 事業を始めて5年ほど経ちますが、地に足のついた取り組みになってきたかなと感じています。

 リスクが起こった時に役立つ保険と、リスクそのものを予防する、減らすヘルスケアの2つは仲がいいですから、将来的には保険とヘルスケアを2つの柱にして、お客様にサービスを提供できる日本生命になればいいなと思います。

─ 医療機関との連携という要素は出てくるんですか。

清水 ええ。糖尿病の予防プログラムや、血糖値の変動チェックプラン、これをモニターする機械が必要になっていますが、様々な企業と提携してつくってもらい、それをお客様に装着してもらって、そのデータをご自身で見る。

 もしくはサービスの種類によっては、そのデータを同時に病院に飛ばして、その病院の看護師、保健師の方がデータを見て、定期的に電話やメールで「どんな食事を摂りましたか」、「どんな運動をしていますか」といった形で行動変容のアドバイスをしてもらっています。

 ご自身で数字を確認して、そして保健師の方に言われると「ちょっと習慣を変えてみようかな」となります。実際に試験実施の時から効果が出ることが確認できましたから、有償サービス化に踏み切ったということです。


金利上昇による プラスとマイナス

─ 保険の引き受けとともに、資産運用も大きな柱ですが、足元では日米の金利差などから来る「円安ショック」の状態になっています。この状況をどう認識していますか。

 清水 運用に関して申し上げると、世界で金利が上昇する時に、その上昇の仕方は国、地域によって違います。しかも、日本の金利は、若干は上昇していますが、世界と比べると低いままです。

 つまり金利差が拡大して、円安が進んでいます。金融環境、経済環境が様変わりをし、このことで運用は大きな影響を受けています。

─ 金利上昇の影響をどう見ますか。

清水 プラスとマイナスの両面があります。

 グローバルに金利が上がっていくこと、日本も20年債、30年債でわずかながらイールドカーブ(利回り曲線)が立ってきているように、徐々に金利が上がってきていることは、投資対象の金利が上がるという意味で、長期的には上昇効果はプラスに働いてきます。

 一方で、日米の金利差拡大によって、外貨建ての債券に対する円のヘッジをかけていますが、このヘッジコストがとてつもなく高くなっていることはマイナスの影響です。従って、全般的に今年の運用比率は厳しいというのが全体の状況です。

 その中で具体的に何をやっているかというと、まずはどんな金融環境、経済環境にあっても、どんなに上下があっても変わらない運用方針が2つあります。

 1つは資産配分です。資産配分は、その状況に関わらず長期的視野を持つこと。そして負債に合ったALM(Asset Liability Management=資産・負債の総合管理)運用をすること、そして資産、通貨、時間の分散です。

 この長期的、ALM、分散の3つを基軸とする資産配分。これはどんな環境でも変わることなく持ち続けている方針です。

もう1つはフォワードルッキングな(先を見越した)リスク管理です。先々を見据えたリスク管理を徹底的にやっていくということ。この2つはどんな状況でも変わりません。

─ 厳しい状況ですが、ある意味で人材の「眼力」が鍛えられるということは言えそうですね。

清水 おっしゃる通りで、決して現状を悲観的には考えていません。むしろ、中長期的には人材を育てることにつながっていきます。短期的には、仕事としてはしんどいですが、このことによって人材が育つことで、運用の体制としては強くなると思っています。


グループの人材交流で 多様性を確保

─ 人材の育成に関して、内部で育てるだけでなくスカウトもありますか。 

清水 わずかながら、中途採用を増やしています。 

─ 外部から入社してくる人が増えることによるメリットをどう考えますか。 

清水 新しい視点ですね。どうしても、日本生命の中だけで仕事をしていると、我々は無意識に日生流の考え方をしてしまって、そのことを意識しないんです。そうではなく、外から新しく来た人の視点や考え方を聞くと、反発もしながら考えさせられるところがあって、まさにこれが多様性のメリットだと思います。 

 中途採用は、日本生命本体では徐々に増やしているんですが、多様性を確保するという意味では、昨年4月に、日本生命が持っていたクレジット投資とオルタナティブ投資を、グループ会社のニッセイアセットマネジメントに移しました。 

 この機能は大樹生命保険からも移しましたから、グループとしての運用を集約することによって、より効率的で、かつ集中していい運用をすることが目的です。 

 運用には、中途入社の方も多く携わっていますが、ニッセイアセットに機能を移すことで、直接的なことだけではありませんが、間接的にそこで働くことによって、いろいろな考え方に触れ、刺激を受け、多様な目線で運用を見てくれる。その効果はあるだろうなと思っています。 

─ 人材の交流も、グループ内である程度やった方がお互いに刺激を受けるということになりそうですね。 

清水 そうですね。とりわけ大樹生命保険、ニッセイ・ウェルス生命保険、はなさく生命保険の人たちに日本生命で働いてもらうことで、大樹やニッセイ・ウェルス、はなさくでは経験できないことを経験してもらって、持ち帰って広めてもらう。そのことでグループ全体を底上げする。そういう人材交流は重要です。

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