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みずほ信託・梅田圭の「課題解決型ソリューション戦略」 個人、企業の資産をいかに有効活用するか?

財界オンライン 2022年11月22日 18時0分

「信託の柔軟性を発揮するための知恵を出していく」と話すのは、みずほ信託銀行社長の梅田圭氏。コロナ禍では本社を売却するなど生き残りのために不動産を活用する企業が多く、みずほ信託はその支援を続けてきた。だが今は、次の投資への資金確保、働き方改革など前向きに不動産を活用する企業も増えてきた。「過去経験した中でも、最もやるべきことが多い時期」と話す梅田氏の戦略とは。

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不動産を売却し事業投資に回す企業も
「今の円安基調の中で、我々企業は変えていける機会があるのではないか」と話すのは、みずほ信託銀行社長の梅田圭氏。

 米国の金利引き上げやウクライナ戦争を受けて、経済・金融環境は混沌としている。特に、為替の円安を巡っては、産業界からもプラス・マイナスそれぞれの声が挙がる。

 梅田氏の足元の為替の状況についての認識は「一様にポジティブでもないし、一様のネガティブでもない」というもの。みずほ信託の顧客でも、規模の大きい製造業で、輸出の多いところは円安が決算でプラスに効いている一方、原材料価格が高騰する中、価格転嫁ができていないところは厳しい。

 ただ、中にはキヤノンのように、拠点を国内に回帰する企業も出てきており、「これは1つのチャンスではないか」と見る。

 梅田氏が顧客と話をする中でも、全てを国内でということは難しいにしても、サプライチェーンの一部を国内に置こうという検討を進めるところが出てきているという。コロナ禍、ウクライナ戦争による物流の混乱、円安による海外生産のコスト増ということも背景にある。

「日本は国民の教育水準も高く、国内の中小企業の中に眠るノウハウなど潜在力もある。これらを円安を起点とする国内回帰の中で見直して、内需の力を溜める機会にする必要があるのではないか」(梅田氏)

 日本経済はこの2年余、コロナ禍で苦しんできたが、2022年10月には「水際対策」も緩和。実際、梅田氏も出張に行く機会が増えたといい、関西方面に出かけた際には、京都に欧米の観光客が増えていることを実感したという。

 さらには毎週のように海外の機関投資家、ファンドの幹部との面談が入るようになった。「日本銀行の政策変更に対するリスクは注視しながらも、彼らは日本の不動産への投資意欲がある。相対的な日本の魅力は減退していない」と話す。

 不動産は、みずほ信託が業界の中でも最も強みを持つ分野。

 コロナ禍当初は、財務を強化する観点で、本社や営業所を売却したり、継続して使用する物件を「不動産証券化」で、所有から賃借に切り替えることでバランスシート(貸借対照表)を落とすというニーズが強かったが、今は「そのニーズは一巡したと見ている」と梅田氏。

 例えば、21年に大手広告代理店の電通が本社を譲渡および賃借(セール・アンド・リースバック)したが、これは決算対策というより、将来に向けた経営資源の分配、新規事業に向けた投資原資の確保といった色彩が強かった。

 こうした前向きなニーズの他、東京証券取引所の市場再編や、コーポレートガバナンス、資本効率を重要視する株主の目線もあり、企業はROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)をこれまで以上に意識した経営をしている。その観点で不動産を売却し、それを事業投資に振り向けていくといった動きも出ている。

 さらには、その企業の本業の先行きの見通しが厳しくなる中、本業を補完するために、所有する土地の用途を変えて開発するといった動きも出る。みずほ信託はコンサルティングをする中で、その企業に合った施策の提案をしている。

不動産を使った「働き方改革」
 不動産に関連して、みずほ信託が今、最も力を入れているのが「ワークプレイス改革」。みずほ信託を含め、従来の信託銀行の不動産ビジネスといえば、不動産の売り手と買い手をつなぐ「仲介」が主だった。

 しかし今は「その次元を超えて、いかに企業が持つバランスシートの中で効率を上げていくかという観点でワークプレイスに関する提案をしている」。

 例えば、自社オフィスが老朽化した企業からの相談があった。築20年、30年経った建物はどうしても大規模修繕など設備投資が必要になり、それは増加する一方だが、そのための原資をつくるのが難しかった。

 今は「カーボンニュートラル」の流れもあり、企業は自社オフィスのCO2削減も問われる時代。しかし、築年数の経ったオフィスでは、できることは限られてしまう。

 その時に売却するか、前述のようなセール・アンド・リースバックするかという選択になるわけだが、みずほ信託の顧客は売却を決断し、オフィスを移転することになった。

 その時に、みずほ信託が支援したのが「従業員起点の次世代オフィスづくり」。オフィス、建設のマネジメントをしている企業と連携し、そこにその企業の従業員も巻き込んだプロジェクトにして、新たなオフィスを構築していくといった事例が増えてきている。

 コロナ禍でリモートワークに取り組む企業が増え、足元では出社とのハイブリッドで臨むところが多いが、米グーグルや米ゴールドマン・サックスのように「いかに社員をオフィスに戻すか」を志向する企業も増えてきている。

「職種や業態によっては、オフィスに集まって、時に雑談も含めた情報交換ができるような競争環境を整えようという動きが強まっている。そこに我々は知恵を出し、お手伝いをしている」(梅田氏)

 みずほフィナンシャルグループ自身、21年に大手町・丸の内にグループ企業を集約。みずほ信託は中央区八重洲から、みずほ証券は千代田区神田駿河台から、それぞれ本社を移転するワークプレイス改革を実施。

 さらに、みずほ信託が15年に買収したシンプレクス不動産投資顧問(現・みずほ不動産投資顧問)が、みずほの本部がある大手町タワー16階に所在しているが、これは他社からも注目され、見学者も訪れている。

 不動産を切り口に「働き方改革」にまで踏み込むようなソリューションの提供を始めているということ。

「所得資産倍増」、「資産承継」で果たす役割
 今、岸田文雄政権は「資産所得倍増」を打ち出している。まだ後押しする政策は力不足だが、政治的メッセージが発せられた意味は大きいと見られている。

 信託銀行は従来ビジネスとして、投資信託の受託を手掛けており、これに注力するというのは大前提。

 それに加えて今、新たな潮流も捉えようとしている。それがSTO(Security Token Offering=ブロックチェーン上で発行されるトークン化された証券)の不動産投資への活用。

 みずほ信託は22年4月に信託銀行として初めて、野村ホールディングス、SBIホールディングスが出資する「BOOSTRY」のSTO発行システムに参加することを決めた。22年中に第1号案件に取り組む方針。デジタル活用だけに、個人への広がりも期待される。

 また、20年1月に始めた地方銀行向けの私募の不動産投資ファンドは第4号案件まで手掛ける段階に来ているが「規模は大きくなり、評判も上がっている」と手応えを感じている。

 不動産投資にはREIT(不動産投資信託)もあるが、能動的に物件を見定めるというよりは、運用のポートフォリオに置いておく商品といった性質が強い。株式市場の変動の影響も受けやすい。

 一方、私募ファンドの場合には市場流通価格はなく、あくまでも不動産の価値、不動産鑑定価格をベースに、「ネットアセットバリュー」(純資産価値)で投資価格が決まる。市場の変動に引きずられにくく、ボラティリティが低いという性質がある。運用に苦戦する地銀にとってはありがたい商品となっている。

 さらには富裕層向けにも不動産ファンドを提供。ただ、個人が不動産の〝目利き〟をするのは難しいため、そこはみずほ信託が物件管理も含めて支援。これは1号案件を終えて、2号案件を立ち上げようという段階。

「2000兆円を超える個人金融資産を、どう投資に振り向けるかは日本全体の課題。不動産投資の他、今後は再生可能エネルギーなどインフラ関係への投資も手掛けていきたい」

 企業、個人ともに今は投資先を探している状況。金利上昇のリスクはあるが、不動産への注目度は引き続き高い。

 相続は信託銀行のメインビジネスだが、特にコロナ禍以降、人々の「資産承継」への意識が高まっている。

 みずほFGの中では、みずほ銀行、みずほ証券との連携も活用しているが、特にみずほ信託はシニア世代の相続や贈与ニーズを捉えている。

 中でも相続・贈与などの信託機能に「見守り」や「生活サポート」を加えた「選べる安心信託」という商品は、21年度に1140件、442億円を販売、22年度上期は625件、255億円と、前年度を上回るペースで販売が進んでいる。

 また、こうした自社で組成した商品だけでなく、顧客からの要望に応える「オーダーメイド型」の商品にも力を入れる。

 みずほ信託の顧客には企業オーナーも多いが、近年はITベンチャーを上場させて財産を築いたような経営者も増えている。

 そうした経営者は40代、50代の働き盛りで、これまでは相続を考える余裕もないというのが以前だったが、コロナ禍を経て、子供がまだ小さいこともあり、「自分に何かあったら」ということを考え始めた。

 財産は当然、自分の妻子に遺すわけだが、会社の経営権・議決権を子供などに遺すことは難しい。そこで、会社の共同経営者や経営陣に移す形にし、第2受益者的な形で自分の子供を置くといった事例があった。これはまさにオーダーメイドで「我々が知恵を使い、信託機能の柔軟性を発揮できる頑張りどころ」として力を入れている。

株主総会を巡る様々なニーズを受けて
 企業からは「株主総会対策」を依頼されることも多い。特に近年は東京証券取引所の市場再編に絡んで、上場基準となっている「流通株式比率」を高めることを意識せざるを得ない企業も増えており、みずほ信託にもそのための相談も舞い込む。

 さらに「アクティビスト」も含めた株主対応をどうしていくか?という要望が大幅に増加している。みずほ信託では、この2年ほど株主総会対策を担う人員を、専門人材を含めて増員している。

 アクティビストといっても、今は一括りにできない。海外系のファンド、日本であれば旧村上ファンド系、さらには環境団体など「環境アクティビスト」と呼ばれる存在も登場しており、それぞれに対応は違う。

「修羅場を経験した専門人材も中途入社している。火が吹いた後だけでなく、有事が起きる前の『準有事』の段階、さらには平時からの備えについてのコンサルティングを行っている」

 アクティビストの裏にいる株主は誰かといった「株主判明調査」の機能をみずほ証券と連携して高めたり、受け身の対話だけなく、自ら株主にインタビューしに行くような積極的対話なども支援している。

 株主総会に関しては、20年にみずほ信託、三井住友信託銀行において、株主総会の議決権行使書の集計方法に誤りがあったことが判明し、問題となった。梅田氏などみずほ信託の経営陣は報酬の一部を返上した。

 また、グループのみずほ銀行で発生したシステム障害では、グループ全体の風土を見直さざるを得ない状況に陥った。

「みずほ信託が、著しく風通しが悪い組織だったとまでは思っていないが、各部署の専門性、『縦』の力が強いがゆえに、お客様に総合提案する『横』の連携が足りていなかったという反省がある」

 さらに、顧客から聞かれたことに対しては、しっかりと答えるという姿勢は根付いていたが、どうしても「受け身」で、主体的な行動が不足していた。

 そこで「思ったことを口に出せる」雰囲気づくりから始めた。「どんなアイデアでも、まず言ってみる。そして周りはそれを否定するのではなく、まずは聞く。それによって『どんなアイデアでも出していいんだ』という形で『心理的安全性』を確保したいと考えた。まだ4合目、5合目というところだが、徐々に変わってきているという実感がある」と梅田氏。

 そしてさらに進めて、「学習する職場」というコンセプトで、単に仲良くするだけなく、時には建設的意見をぶつけ合う「健全な言い争い」が起きるような職場にしていくことを目指す。

 こうした取り組みは、みずほFG、みずほ銀行なども関心を寄せており、時に事例を共有するようにしている。

「社員には成功体験を積み重ねてもらいたい」と梅田氏。「人生100年時代」、「資産所得倍増」には信託銀行の果たすべき役割は大きい。そこに向けて役割を発揮するための風土改革の日々が続く。

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