「日本の個人金融資産に占める株式の比率は10%程度ですが、1980年の米国も14%程度でした」─中田氏はこう話す。今、岸田政権は「資産所得倍増プラン」を打ち出している。長年にわたり、「貯蓄から投資へ」は実現していないが、中田氏は「米国も40年かけて取り組んできた」と一朝一夕にはいかないと指摘。世界経済が混沌とする中、投資に向けて資金を動かすことができるか。
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2023年の世界、日本の成長はどうなる?
─ コロナ禍、ウクライナ戦争、そして米国の金融政策の変更などもあり、世界経済の先行きは混沌としています。現状をどう見ていますか。
中田 2022年9月26日にOECD(経済協力開発機構)が世界経済の見通しを発表しましたが、23年の世界の経済成長率を2・8%から2・2%に引き下げました。
また、10月11日にはIMF(国際通貨基金)が見通しを出しましたが、23年の世界の経済成長率を2・9%から2・7%に引き下げました。どちらも下方修正ではあったものの、まだ2%台半ばくらいの成長はするという見通しです。
特に、10月のIMFの見通しが象徴的でしたが、世界経済全体は2・7%の成長で、主要先進国、いわゆる「G7」を見ると、実は日本がプラス1・6%の成長と、主要先進国の中で最も高い水準になっています。
─ 米国の成長率見通しよりも高かったわけですね。
中田 はい。こうした数字は、久しく見たことがありません。各国が低成長の中といえども、相対的に日本の成長率が高いと見られています。
かつ、日本では、まさにこれからコロナの水際対策緩和によるインバウンド(訪日外国人観光客)需要、個人の消費需要などの効果が出てきます。それらの要素を考えると、さらに上方修正される可能性もあります。
また、よく言われていた半導体不足の問題も、マイコン(MCU、自動車やスマートフォンの制御に使われる)などは引き続き不足感がありますが、様々な自動車部品を見ていると、減産効果もあって、在庫が積み上がってきており、おそらく23年には半導体不足も解消に向かっていくだろうと。
そうなると、抑え込まれていたペントアップ需要(繰越需要)が出てきて、自動車業界を中心に状況がよくなってくるのではないでしょうか。
─ 日本の経済状況は好転に向かう可能性があると。
中田 そうですね。そう考えると、私は23年になると、日本も含めて、経済成長率は上方修正含みになってくるのではないかと見ています。
今の状況は、確かに混沌としていますが、様々な指標を見て、ここから1年、2年先を見通すと、今が底なのではないかという感じがしますね。
─ 意外と底堅い部分があるということですね。その状況下で23年4月には日本銀行総裁が交代します。金融政策、金利動向はどうなると見ますか。
中田 ナーバスな問題だと思います。ただ、「異次元の金融緩和」と称されていますが、「異次元」という言葉を使っている以上、恒常的に続かないということですよね。世界の金融当局がそうであったように、いずれは日本も異次元の状態から正常化に向かわざるを得ないと思います。
いつ、どのタイミングで金融政策の変更が行われるかは、まだ定かではありません。しかし、今は端境期であり、必ずそういうタイミングが来ます。その際には副反応が当然出ると思いますが、その副反応をいかにミニマイズさせるかがポイントだと思います。
そのためには、市場の仲介機能を果たしている、我々証券会社などの金融機関、マーケット、金融当局、財務省を含めて連携を密にしていかなければなりません。
「貯蓄から投資へ」が進んでこなかった現実も
─ 今、岸田政権は「新しい資本主義」を打ち出しています。
中田 アベノミクス以降、企業は大きく収益を上げられるようになりました。しかし、それらの収益が社員に還元されることは少なく、多くは内部留保に溜まっています。
本来は企業の成長と共に家計も同じく成長するべきですが、これまで家計には中々分配が回らず、また、ゼロ金利下で厳しい状況が続いていました。
企業の成長と共に家計が成長すること、いわゆる資産所得を好循環させていくことが新しい資本主義だと考えています。
─ 日本では長年「貯蓄から投資へ」が言われながら、進んでいないという現実があります。
中田 例えば、米国は個人金融資産のうち、株式等が39・8%、投資信託が12・6%(いずれも22年3月末時点)となっており、個人の金融資産は20年間で約3倍に増加していますが、いきなり今のような状況になったわけではありません。
米国民の方が日本国民よりもリスク選好がある国民性なのかといったら、決してそうではありません。米国では1974年に、個人の税制優遇制度の個人退職勘定ができ、81年には確定拠出年金ができました。そこから40年以上かけて、今のような状態をつくってきた。
─ 国民のお金を投資に向かわせるのは一朝一夕にはいかないと。
中田 そうです。例えば今、日本の個人金融資産に占める株式の比率は10%程度ですが、80年の米国も14%程度でした。
このように、「貯蓄から投資へ」というのは、一朝一夕にできるものではなく、国民皆が長く使える税制優遇制度をしっかりつくった上で広く行き渡らせないといけません。つまり、20年、30年と時間をかけて取り組むべきものだということです。
日本では2001年に個人型・企業型の確定拠出年金ができました。ただ、01年は不良債権処理真っ只中で、制度を活用する機運がそれほど高まらなかったわけです。17年にようやく「iDeCo」という名称にしてプロモーションを始めました。
そして、今の時限措置である「NISA」(少額投資非課税制度)ができたのが14年、「ジュニアNISA」が16年、「つみたてNISA」が18年ですから、日本ではそうした税制優遇制度ができ始めて、国民に知れ渡ってから数年しか経っていないのです。
─ NISAについては、岸田首相も「恒久化」について言及しましたね。一方で、高額所得者を対象にした「金融所得課税」の議論もあります。
中田 税制は、常に変わっていく、改善していくものですが、課税を実行するには段階や、タイミングがあると思います。
今は、「新しい資本主義」の下に「貯蓄から投資へ」という流れを後押しする機運が高まっている時です。「金融所得課税」などの富裕層向けの課税を、未来永劫否定するものではありませんが、どのタイミングで、どのように実施するかというのは、よく考えて実行していただきたいと思います。
─ NISAの恒久化は日本の若い世代が、投資に向かうチャンスでもありますね。
中田 もしNISAが恒久化されれば、若い世代の方には、それを上手に使って、今後30年、40年のプランで資産形成をしていただきたいと思います。ご高齢の方にはNISAの活用に加え、今の低金利で利息を生んでいない預貯金などの資産を、少しでも運用でプラスアルファの利回りを追求するような商品を用意していく。その両面が必要だと思っています。
─ その商品である「ファンドラップ」を販売していく上で、手応えは感じていますか。
中田 世界の経済、政治が目まぐるしく変わっていく中で、投資について自分で判断して、様々なやり取りをするのは、私でもできません。
ファンドラップは、それをプロに任せて国際分散投資をしてくれるという点が非常に魅力です。特に、現在のような急激な円安の局面では、国際分散投資がより重要になってきます。
最近では「金融リテラシー」の重要性が改めて叫ばれ、学校教育に盛り込まれてきています。今の若い方達の金融リテラシーを高めることは当然大切だと思いますし、我々証券会社の重要な使命であると考えています。一方、ご高齢層のリテラシーを短期間で一気に引き上げることはなかなか難しいかもしれません。
日本は、デフレ下に加え、超高齢化社会であるがゆえに、コアの金融資産は預貯金です。そうしたご高齢の方々の預貯金の受け皿として、ファンドラップのように、プロが一任勘定で、国際分散投資で運用する商品の必要性はますます高まるだろうと感じています。
─ 顧客のニーズは高いということですね。
中田 高いですね。弊社のファンドラップの運用スタイルは700通り以上と、業界トップクラスですので、お客様の様々なニーズにお応えして設計することができます。また、お手軽なロボアドのファンドラップ・オンライン、暦年贈与や相続時に受取人を指定できるサービス、富裕層向けのファンドラップ等、様々なラインナップを揃えております。
その他にも、非常にシンプルでカスタマイズされた「ゆうちょファンドラップ」をゆうちょ銀行様と共同で開発し、22年5月より、ゆうちょ銀行様のお客様に販売して頂いています。
「ファンドラップ」と一言でくくるのではなく、ラップにも様々な商品があり、それに見合ったお客様にきちんとアクセスする。これが重要だと思います。
─ 販売する立場としては、コンサルティング機能が要求されますね。
中田 そうです。コンサルティングによって、お客様のニーズを引き出すことができると、そのニーズがいかに多様化しているかがわかります。お客様のニーズの多様化に応じた商品をきちんと揃えるのが我々の重要な役割です。
デジタルIT人材育成で社内に「化学反応」を
─ 顧客ニーズ、時代の変化を捉えるための人材育成を進めてこられたと思いますが、「デジタルIT人材」の育成にも注力していますね。
中田 「デジタルIT人材」が日本で不足すると言われて久しいわけですが、それに対応するべく外部人材を求めると同時に、内製化して育成しなければいけません。
デジタルやIT、AI(人工知能)の高い専門知識を持っている人でも、実際のフロントのビジネスがわからなければ、それをどういう風に業務にアジャストさせていくかがわからないですよね。
フロントビジネスがわかった上で、データサイエンスやAIがわかる人材に育てることが重要です。そのために、我々は社内でデジタルIT人材を育成しようと、3年前に「デジタルITマスター認定制度」という社内資格制度を立ち上げました。
候補者を社内で募集し、最初は約900人の応募があり、そこから50人強を選抜しました。彼らを3年間のプログラムで、OJT(On-the-Job Training=実務を通じた職業教育)と研修を繰り返して、「デジタルITマスター」という資格を認定しました。
─ そうして、実際のビジネスとITに通じた社員を養成していくと。
中田 ええ。きちんと育てば、彼らはIT、デジタルに精通しており、かつ自分達のフロントビジネスのことも当然わかっています。23年度末には200名のデジタル人材育成を目指しています。そこに、さらにエッジの効いた外部人材なども採用していくことで、トータルでデジタルITに備えていこうというのが、我々の戦略です。
─ 日本でも人材の流動化が進む中、会社へのロイヤリティ(忠誠心)、帰属意識の問題をどう考えますか。
中田 大和証券グループは、ロイヤリティを大事にする経営のフィロソフィを持っています。かつては、新卒で入社して定年を迎えるまで働き続けるという日本型雇用が中心でした。そうした中、今年度から私が人事に指示しているのは、200人のキャリア採用です。
今まではグループのコアである大和証券で、キャリア採用は年に30~40人程度でした。新卒は、計画に基づいて毎年グループ全体で300~400人を採用しているのであれば、キャリア採用も毎年定期的に、200人規模で採用していこうと。
それによって、いい意味での「化学反応」が起き、多様性が生まれるように、現在チャレンジをしているところです。
─ 22年は大和証券グループにとって120周年という一つの節目の年でもありました。そういうタイミングで新しいことに取り組んでいると。
中田 大和証券グループはお陰様で120周年を迎えましたが、大和証券グループとしての揺るぎないDNA、コーポレートカルチャーを引き続き今後も大事にしながら、そこにいい意味での化学反応を起こして、組織をブラッシュアップしていく。そういう多様性は重要だと考えています。
なかた・せいじ
1960年7月東京都生まれ。83年早稲田大学政治経済学部卒業後、大和証券入社。2009年大和証券グループ本社取締役、16年代表取締役副社長、17年4月代表取締役社長に就任。
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2023年の世界、日本の成長はどうなる?
─ コロナ禍、ウクライナ戦争、そして米国の金融政策の変更などもあり、世界経済の先行きは混沌としています。現状をどう見ていますか。
中田 2022年9月26日にOECD(経済協力開発機構)が世界経済の見通しを発表しましたが、23年の世界の経済成長率を2・8%から2・2%に引き下げました。
また、10月11日にはIMF(国際通貨基金)が見通しを出しましたが、23年の世界の経済成長率を2・9%から2・7%に引き下げました。どちらも下方修正ではあったものの、まだ2%台半ばくらいの成長はするという見通しです。
特に、10月のIMFの見通しが象徴的でしたが、世界経済全体は2・7%の成長で、主要先進国、いわゆる「G7」を見ると、実は日本がプラス1・6%の成長と、主要先進国の中で最も高い水準になっています。
─ 米国の成長率見通しよりも高かったわけですね。
中田 はい。こうした数字は、久しく見たことがありません。各国が低成長の中といえども、相対的に日本の成長率が高いと見られています。
かつ、日本では、まさにこれからコロナの水際対策緩和によるインバウンド(訪日外国人観光客)需要、個人の消費需要などの効果が出てきます。それらの要素を考えると、さらに上方修正される可能性もあります。
また、よく言われていた半導体不足の問題も、マイコン(MCU、自動車やスマートフォンの制御に使われる)などは引き続き不足感がありますが、様々な自動車部品を見ていると、減産効果もあって、在庫が積み上がってきており、おそらく23年には半導体不足も解消に向かっていくだろうと。
そうなると、抑え込まれていたペントアップ需要(繰越需要)が出てきて、自動車業界を中心に状況がよくなってくるのではないでしょうか。
─ 日本の経済状況は好転に向かう可能性があると。
中田 そうですね。そう考えると、私は23年になると、日本も含めて、経済成長率は上方修正含みになってくるのではないかと見ています。
今の状況は、確かに混沌としていますが、様々な指標を見て、ここから1年、2年先を見通すと、今が底なのではないかという感じがしますね。
─ 意外と底堅い部分があるということですね。その状況下で23年4月には日本銀行総裁が交代します。金融政策、金利動向はどうなると見ますか。
中田 ナーバスな問題だと思います。ただ、「異次元の金融緩和」と称されていますが、「異次元」という言葉を使っている以上、恒常的に続かないということですよね。世界の金融当局がそうであったように、いずれは日本も異次元の状態から正常化に向かわざるを得ないと思います。
いつ、どのタイミングで金融政策の変更が行われるかは、まだ定かではありません。しかし、今は端境期であり、必ずそういうタイミングが来ます。その際には副反応が当然出ると思いますが、その副反応をいかにミニマイズさせるかがポイントだと思います。
そのためには、市場の仲介機能を果たしている、我々証券会社などの金融機関、マーケット、金融当局、財務省を含めて連携を密にしていかなければなりません。
「貯蓄から投資へ」が進んでこなかった現実も
─ 今、岸田政権は「新しい資本主義」を打ち出しています。
中田 アベノミクス以降、企業は大きく収益を上げられるようになりました。しかし、それらの収益が社員に還元されることは少なく、多くは内部留保に溜まっています。
本来は企業の成長と共に家計も同じく成長するべきですが、これまで家計には中々分配が回らず、また、ゼロ金利下で厳しい状況が続いていました。
企業の成長と共に家計が成長すること、いわゆる資産所得を好循環させていくことが新しい資本主義だと考えています。
─ 日本では長年「貯蓄から投資へ」が言われながら、進んでいないという現実があります。
中田 例えば、米国は個人金融資産のうち、株式等が39・8%、投資信託が12・6%(いずれも22年3月末時点)となっており、個人の金融資産は20年間で約3倍に増加していますが、いきなり今のような状況になったわけではありません。
米国民の方が日本国民よりもリスク選好がある国民性なのかといったら、決してそうではありません。米国では1974年に、個人の税制優遇制度の個人退職勘定ができ、81年には確定拠出年金ができました。そこから40年以上かけて、今のような状態をつくってきた。
─ 国民のお金を投資に向かわせるのは一朝一夕にはいかないと。
中田 そうです。例えば今、日本の個人金融資産に占める株式の比率は10%程度ですが、80年の米国も14%程度でした。
このように、「貯蓄から投資へ」というのは、一朝一夕にできるものではなく、国民皆が長く使える税制優遇制度をしっかりつくった上で広く行き渡らせないといけません。つまり、20年、30年と時間をかけて取り組むべきものだということです。
日本では2001年に個人型・企業型の確定拠出年金ができました。ただ、01年は不良債権処理真っ只中で、制度を活用する機運がそれほど高まらなかったわけです。17年にようやく「iDeCo」という名称にしてプロモーションを始めました。
そして、今の時限措置である「NISA」(少額投資非課税制度)ができたのが14年、「ジュニアNISA」が16年、「つみたてNISA」が18年ですから、日本ではそうした税制優遇制度ができ始めて、国民に知れ渡ってから数年しか経っていないのです。
─ NISAについては、岸田首相も「恒久化」について言及しましたね。一方で、高額所得者を対象にした「金融所得課税」の議論もあります。
中田 税制は、常に変わっていく、改善していくものですが、課税を実行するには段階や、タイミングがあると思います。
今は、「新しい資本主義」の下に「貯蓄から投資へ」という流れを後押しする機運が高まっている時です。「金融所得課税」などの富裕層向けの課税を、未来永劫否定するものではありませんが、どのタイミングで、どのように実施するかというのは、よく考えて実行していただきたいと思います。
─ NISAの恒久化は日本の若い世代が、投資に向かうチャンスでもありますね。
中田 もしNISAが恒久化されれば、若い世代の方には、それを上手に使って、今後30年、40年のプランで資産形成をしていただきたいと思います。ご高齢の方にはNISAの活用に加え、今の低金利で利息を生んでいない預貯金などの資産を、少しでも運用でプラスアルファの利回りを追求するような商品を用意していく。その両面が必要だと思っています。
─ その商品である「ファンドラップ」を販売していく上で、手応えは感じていますか。
中田 世界の経済、政治が目まぐるしく変わっていく中で、投資について自分で判断して、様々なやり取りをするのは、私でもできません。
ファンドラップは、それをプロに任せて国際分散投資をしてくれるという点が非常に魅力です。特に、現在のような急激な円安の局面では、国際分散投資がより重要になってきます。
最近では「金融リテラシー」の重要性が改めて叫ばれ、学校教育に盛り込まれてきています。今の若い方達の金融リテラシーを高めることは当然大切だと思いますし、我々証券会社の重要な使命であると考えています。一方、ご高齢層のリテラシーを短期間で一気に引き上げることはなかなか難しいかもしれません。
日本は、デフレ下に加え、超高齢化社会であるがゆえに、コアの金融資産は預貯金です。そうしたご高齢の方々の預貯金の受け皿として、ファンドラップのように、プロが一任勘定で、国際分散投資で運用する商品の必要性はますます高まるだろうと感じています。
─ 顧客のニーズは高いということですね。
中田 高いですね。弊社のファンドラップの運用スタイルは700通り以上と、業界トップクラスですので、お客様の様々なニーズにお応えして設計することができます。また、お手軽なロボアドのファンドラップ・オンライン、暦年贈与や相続時に受取人を指定できるサービス、富裕層向けのファンドラップ等、様々なラインナップを揃えております。
その他にも、非常にシンプルでカスタマイズされた「ゆうちょファンドラップ」をゆうちょ銀行様と共同で開発し、22年5月より、ゆうちょ銀行様のお客様に販売して頂いています。
「ファンドラップ」と一言でくくるのではなく、ラップにも様々な商品があり、それに見合ったお客様にきちんとアクセスする。これが重要だと思います。
─ 販売する立場としては、コンサルティング機能が要求されますね。
中田 そうです。コンサルティングによって、お客様のニーズを引き出すことができると、そのニーズがいかに多様化しているかがわかります。お客様のニーズの多様化に応じた商品をきちんと揃えるのが我々の重要な役割です。
デジタルIT人材育成で社内に「化学反応」を
─ 顧客ニーズ、時代の変化を捉えるための人材育成を進めてこられたと思いますが、「デジタルIT人材」の育成にも注力していますね。
中田 「デジタルIT人材」が日本で不足すると言われて久しいわけですが、それに対応するべく外部人材を求めると同時に、内製化して育成しなければいけません。
デジタルやIT、AI(人工知能)の高い専門知識を持っている人でも、実際のフロントのビジネスがわからなければ、それをどういう風に業務にアジャストさせていくかがわからないですよね。
フロントビジネスがわかった上で、データサイエンスやAIがわかる人材に育てることが重要です。そのために、我々は社内でデジタルIT人材を育成しようと、3年前に「デジタルITマスター認定制度」という社内資格制度を立ち上げました。
候補者を社内で募集し、最初は約900人の応募があり、そこから50人強を選抜しました。彼らを3年間のプログラムで、OJT(On-the-Job Training=実務を通じた職業教育)と研修を繰り返して、「デジタルITマスター」という資格を認定しました。
─ そうして、実際のビジネスとITに通じた社員を養成していくと。
中田 ええ。きちんと育てば、彼らはIT、デジタルに精通しており、かつ自分達のフロントビジネスのことも当然わかっています。23年度末には200名のデジタル人材育成を目指しています。そこに、さらにエッジの効いた外部人材なども採用していくことで、トータルでデジタルITに備えていこうというのが、我々の戦略です。
─ 日本でも人材の流動化が進む中、会社へのロイヤリティ(忠誠心)、帰属意識の問題をどう考えますか。
中田 大和証券グループは、ロイヤリティを大事にする経営のフィロソフィを持っています。かつては、新卒で入社して定年を迎えるまで働き続けるという日本型雇用が中心でした。そうした中、今年度から私が人事に指示しているのは、200人のキャリア採用です。
今まではグループのコアである大和証券で、キャリア採用は年に30~40人程度でした。新卒は、計画に基づいて毎年グループ全体で300~400人を採用しているのであれば、キャリア採用も毎年定期的に、200人規模で採用していこうと。
それによって、いい意味での「化学反応」が起き、多様性が生まれるように、現在チャレンジをしているところです。
─ 22年は大和証券グループにとって120周年という一つの節目の年でもありました。そういうタイミングで新しいことに取り組んでいると。
中田 大和証券グループはお陰様で120周年を迎えましたが、大和証券グループとしての揺るぎないDNA、コーポレートカルチャーを引き続き今後も大事にしながら、そこにいい意味での化学反応を起こして、組織をブラッシュアップしていく。そういう多様性は重要だと考えています。
なかた・せいじ
1960年7月東京都生まれ。83年早稲田大学政治経済学部卒業後、大和証券入社。2009年大和証券グループ本社取締役、16年代表取締役副社長、17年4月代表取締役社長に就任。