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【政界】立て直しに向けて内閣再改造論が浮上 政治リーダーとしての真価問われる岸田首相

財界オンライン 2022年12月21日 15時0分

岸田内閣は1カ月の間に閣僚3人が相次いで辞任する異常事態に陥った。首相の岸田文雄が「政策断行内閣」と強調した8月の改造は失敗と言わざるを得ない。物価高の進行や東アジア情勢の緊迫化など重要課題が内外に山積する中、首相官邸と与党の連携にも綻びが目立つ。自民党では首相交代論こそ表面化していないが、一刻も早く態勢を立て直さなければ、岸田は早晩、政権運営に行き詰まりかねない状況だ。ここで踏ん張れるかどうか、指導者としての真価が問われている。

【政界】「聞く力」だけでなく「日本をこうする!」という政策や情報発信が求められる岸田首相

本流意識抜けず
「経済対策実現のための補正予算の成立、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の被害者救済に向けた新法策定、防衛力の抜本強化、新型コロナウイルス第8波対応など難しい課題に一つ一つ結論を出さないといけない。臨時国会、さらには年末にかけて勝負のときが続く」

 東南アジア歴訪の全日程を終えた岸田は11月19日、最後の訪問国のタイで臨んだ記者会見で「政権のすべての力を集中したい」と訴え、こう続けた。

「一方、各閣僚においても説明責任は徹底的に果たさないといけない。この二つの観点からどうあるべきか、内閣総理大臣として判断する」

 国会では21日から、政権が最重要視する2022年度第2次補正予算案の審議が始まることになっていた。同行記者団は、「政治とカネ」の問題が次々に発覚した総務相の寺田稔を近く更迭する考えを岸田が示唆したと受け止め、速報した。

 その見立て通り、寺田は20日、岸田に辞表を提出した。旧統一教会との深い関わりが問題になった前経済再生担当相の山際大志郎、死刑執行を軽視するかのような失言をした前法相の葉梨康弘と同様、表向きは自ら退く形をとっていたが、実際には更迭にほかならない。岸田が恐れた閣僚の「辞任ドミノ」が始まった。

 寺田は窮地に追い込まれていた18日の記者会見でも「何人かの党関係者からも、地元の方々からも激励を受けている」と言い放った。寺田の義理の祖父は宏池会(自民党岸田派)を創設した元首相の池田勇人。党幹部は「われこそは宏池会の本流だという意識が強いのか、危機感がない」とあきれた。

 寺田も葉梨も岸田派の初入閣組。寺田が政治資金規正法、葉梨が死刑執行というそれぞれの所掌分野でつまずいたのは、人事が適材適所ではなかった証拠だ。岸田の任命責任は重い。



「官房長官の差だ」  寺田を更迭しても、終盤国会で岸田政権が政策課題に集中して取り組む環境が整ったわけではない。復興相の秋葉賢也にも「政治とカネ」の問題があり、野党が追及を続けている。火種は残ったままだ。

「岸田は決断が遅い。安倍内閣なら官房長官の菅(義偉)が即座に切っただろう。そういう役回りが今の首相官邸にはいない」

 自民党の閣僚経験者は官邸の体制に疑問を呈する。昨年10月の政権発足時、元首相の安倍晋三は側近の萩生田光一を官房長官に推したが、岸田は聞き入れず、同じ安倍派の松野博一を抜てきした。同派へのけん制色が濃い人事で、岸田と松野に以前からの強い結び付きがあったわけではない。

 岸田が葉梨を更迭した11月11日、松野の携帯電話に「悪霊退散」というシールが貼られていて、番記者の間で話題になった。ユーモアのつもりかもしれないが、松野にはどこか第三者的な雰囲気が漂う。

 官房副長官の木原誠二も「キャパオーバー気味」(政府関係者)だ。岸田の懐刀として当初は「あらゆる政策案件は木原を通さないと岸田に届かない」(同)と言われるほどの働きぶりだったが、いかんせんまだ当選5回。百戦錬磨の与党議員と渡り合うには経験が不足している。「最近は岸田に忠告を聞き入れてもらえず、悩んでいるようだ」(自民党幹部)という声も聞こえてくる。

 危機管理能力の点で、岸田内閣は安倍内閣に遠く及ばない。約7年8カ月続いた第2次安倍政権では計10人の閣僚が辞任したが、それでも政権が倒れることはなかった。

 例えば17年7月、陸上自衛隊による南スーダンPKOの日報隠蔽問題や、東京都議選の応援での「自衛隊としてもお願いしたい」という発言で稲田朋美が防衛相を辞任した際には、安倍は9月に衆院解散に打って出て自民党を勝利に導き、危機を脱した。

 世論の賛否が割れたまま実施した安倍の国葬や旧統一教会の問題で岸田内閣の支持率が急落すると、永田町では年内の解散・総選挙の観測がにわかに広がった。首相周辺が与党の引き締めを狙って流したのだろうが、昨年の衆院選からわずか1年あまりでは、実際には無理筋だった。最大派閥の細田派(当時)が支えた安倍政権のようにはいかない。

 自民党内では「岸田は葉梨と寺田を同時に辞めさせるべきだった」と不満が募っている。「かばいきれなくなったあげく更迭」の繰り返しでは、野党を勢いづかせるだけだからだ。寺田の辞任後、立憲民主党国対委員長の安住淳は「首相の決断は遅きに失した。寺田大臣が居続けるおかげで国政が停滞した」と批判した。辞任ドミノは終盤国会の審議日程にも影響している。

 では、岸田は八方塞がりなのか。起死回生策として取りざたされるのが、今国会閉会後の内閣再改造だ。



「三頭政治」は本音?  岸田は8月に内閣を改造したばかりだ。旧統一教会と自民党議員との関係をメディアが連日のように報じる中、人事でリセットを図ったのだが、再任した山際前経済再生担当相や自民党政調会長に起用した萩生田に新たな問題が発覚したのは周知の通りだ。

 時の首相の求心力を高めるには人事は有効な手段だ。ただ、岸田派は党内第4派閥。主要各派への目配りが欠かせず、岸田の独断専行とはいかない。それでも、岸田に近いベテラン議員は「ここまできたらやりたい人事をやるべきだ」と語る。

 この議員によると、焦点は閣僚ではなく幹事長人事だという。幹事長の茂木敏充は副総裁の麻生太郎とともに政権を支え、岸田にとっては心強い存在のはずだった。ところが、最近の茂木は「ポスト岸田」を意識するあまり、岸田との関係がしっくりいっていないとささやかれている。

 象徴的だったのが10月下旬のBSテレ東の番組。茂木は岸田、麻生との関係をオクタヴィアヌス、アントニウス、レピドゥスによる古代ローマの政治体制になぞらえ「三頭政治と言う人もいるようだ」と語ったのだ。幹事長として総裁を支えるというよりは対等のニュアンスがあり、自民党内はざわついた。

 旧統一教会の被害者救済に向けた新法案を巡っても、茂木は主導権確保に動いた。当初は自民、公明、立憲民主、日本維新の会の4党実務者で議員立法を前提に協議が進んでいたのだが、宗教法人への過度な規制を警戒する公明党に配慮して岸田が閣法での国会提出を表明すると、茂木は11月18日、与野党の幹事長級会合を新たに招集。その場で政府案の要綱を示し、議論の土俵を自陣に移し替えた。

 救済法案を所管する消費者庁の担当者は「幹事長が出てくるとは……。内閣支持率が低迷し、いよいよ自分の出番だと思ったのか」と驚き、首相官邸幹部は「経緯を承知していない」と不快感をにじませた。

 自民党国対委員長の高木毅の機能不全も岸田政権の懸案になっている。立憲民主党国対委員長の安住は高木を交渉相手とみなしておらず、官房長官の松野に直接連絡することが常態化している。口さがない官僚は「松野国対委員長」とささやき合う。

 今の岸田政権は要の人物がてんでんばらばらのように映る。首相官邸と自民党が両輪で岸田を支える体制を整えなければ、政策の推進力は生まれない。とはいえ、自民党役員を含む大がかりな人事は、党内基盤が弱い岸田にとってリスクと背中合わせでもある。



「国債頼みはだめ」  政府の総合経済対策を反映した一般会計歳出総額28・9兆円の22年度第2次補正予算案は12月初旬に成立する運びだ。電気・都市ガス料金の負担軽減策やガソリンの店頭価格を抑える燃油補助金によって、標準世帯の家計負担は来年1~9月で計4万5000円程度軽減される。

 一方、必要な歳入の8割は国債を追加発行して賄う。財務相の鈴木俊一は「経済再生と財政健全化の両立を図ることは重要だ。歳出、歳入両面の改革の取り組みを続ける」と述べているが、来年春の統一地方選を前に与党の歳出圧力は強く、財政悪化に歯止めがかかる気配はない。岸田は目指す経済政策を明確に示すべきだろう。

 東南アジア歴訪に合わせて岸田は韓国大統領の尹錫悦、中国国家主席の習近平と相次いで会談した。対面による正式な首脳会談はいずれも約3年ぶり。日本側同行筋によると、日中首脳は「落ち着いてじっくり話をした」とされる。しかし、岸田が沖縄県の尖閣諸島を含む東シナ海情勢に「深刻な懸念」を表明し、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調したのに対し、習は「いかなる口実であれ中国の内政への干渉は受け入れない」とクギを刺した。日韓首脳会談でも、最大の懸案の元徴用工問題に具体的な進展はなかった。

 外遊中には、北朝鮮が11月18日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)級のミサイルを発射した。意図的に高く打ち上げるロフテッド軌道だったが、もし通常軌道で発射したら「米国全土が射程に含まれる」(防衛相の浜田靖一)と考えられ、自民党では「反撃能力」(敵基地攻撃能力)保有に向けた議論加速を求める声が高まっている。

 一方、政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」(座長・佐々江賢一郎元駐米大使)は11月22日、岸田に報告書を提出した。防衛力の抜本的強化には「安定した財源の確保が基本」として、歳出改革による財源捻出と幅広い税目による国民負担を求めた半面、自民党の一部に根強い国債発行論を否定した。防衛費増額の財源確保も岸田政権の喫緊のテーマだ。

 報道各社の世論調査で自民党の支持率は比較的高い水準を保っており、「岸田では統一選を戦えない」という状況にはない。しかし、選挙結果によっては、23年5月に広島で開催される主要7カ国首脳会議(G7サミット)を「花道」にした退陣論が浮上する可能性がある。岸田は自身がリーダーシップを発揮しやすい体制を早期に固めることができるかどうか。政権の行方はその一点にかかっている。(敬称略)

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