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太陽光パネルの大量廃棄時代にどう備えるか? 『伊藤忠商事』のリサイクル・ネットワーク戦略

財界オンライン 2022年12月26日 18時0分

2030年代に太陽光パネルの大量廃棄が見込まれる中で…

「自然エネルギーである太陽光発電の導入が進む一方で、当然ながら、いつかは太陽光パネルの寿命が来る。パネルを売り切ってお終いではなく、いつか来るであろうパネルの廃棄時代を見据えて、手を打ってきた」 

 こう語るのは、伊藤忠商事エネルギー・化学品カンパニー、再生可能エネルギービジネス課長代行の六反田晃伸氏。 

 伊藤忠が太陽光パネルリサイクル事業を展開する仏ロシ社と資本業務提携し、太陽光パネルのリサイクルに乗り出すことになった。太陽光パネルの寿命は一般的に20~30年程度と言われ、近い将来、寿命を迎えた太陽光パネルの大量廃棄が起こるのではないか? という懸念が世界中で広がっているからだ。 

 現在、こうした懸念が高まっているのが欧州。欧州ではドイツなどでFIT制度(固定価格買い取り制度)が導入され、2000年代から太陽光発電の普及が拡大。このため、2020年代半ばから太陽光パネルの大量廃棄が予想されている。 

 日本で本格的に太陽光発電の普及が進んだのは、2012年にFITが導入されてから。このため、日本でも2030年頃から太陽光パネルの大量廃棄が見込まれている。 

 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の調査によると、その廃棄量は、今後10~15年で現在の10倍以上に増加。2036年には太陽光パネルの廃棄量は約17~28万㌧(2020年の排出見込み量は約0・3万㌧)、産業廃棄物の最終処分量の約1・7~2・7%(同0・03%)に相当する量となる見込みだ。 

 脱炭素社会を見据えて、太陽光発電の導入が拡大する中、廃棄パネルの処理やリサイクルをどのように進めていくかは社会的に重要なテーマである。 

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 一般的な太陽光パネルの構造は、フレーム、ガラス、封止剤、セル、バックシート、端子台などによって構成される。現状の廃棄処分では、フレームに使われるアルミニウムやパネルとパネルをつなぐ銅線、パネル表面に張るガラスなどは回収がしやすく、リサイクルしやすい。 

 一方、発電を担うセルは素材を分離することが難しく、手軽にできるアルミと銅だけ回収し、あとは物理的に破砕し、細かく刻んで、埋め立て処理するケースが多い。しかし、これでは廃棄処理コストが高く、部材ごとに適切なリサイクル処理ができているとは言いにくい。 

「ロシ社には太陽光パネルに含まれる素材の中でも、市場価値の高い銀や銅、あるいはセル自体のシリコンを効率よく回収する技術がある。廃棄処理費用の高止まりは発電事業者にとっても負担になるし、国策として太陽光を増やそうとしている中で社会負担も増えてくる。放っておくと社会負担になってしまうものを、われわれがビジネスとして昇華させることができればと考えている」(六反田氏) 

 ロシ社はセルを熱処理分解し、化学処理によって銀や銅、シリコンに分離する技術をもつ。これまで埋め立て処理されることが多かったセルの大部分を再利用することができれば、資源の有効活用を図れるし、廃棄処理コストの抑制につながるというのが、伊藤忠が出資した狙い。 

 伊藤忠商事エネルギー・化学品カンパニー、再生可能エネルギービジネス課長の村上洋一氏は「環境にいいから、これだけ太陽光の導入が進んでいるのに、リサイクルができないとサステナブルではない」と語る。 

 すでにフランスでは、政府が主導する形で、廃棄パネルの回収スキームが整備され、2021年にはパネルリサイクル事業者の公共入札が行われた。 

 ここで選定された3陣営の中の1社がロシ社。2023年初頭からリサイクル工場を稼働させる予定で、今後は日本のみならず、北米やドイツ、イタリア、スペイン、フランスなど、太陽光の普及が進む欧州での共同展開を検討している。

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社会課題の解決に向けて 

 日本は2030年に発電電力量に占める再生可能エネルギー比率を36~38%(20年は19・8%)まで高める考え。その中心となるのが太陽光で、近年はFITの売電価格が段階的に低下する一方、需要家の個別企業に電力を直接販売するPPA(Power Purchase Agreement)型事業が増えている。 

 伊藤忠は商業施設の屋根スペースを活用したオンサイト分散型太陽光発電所の開発を手掛けるVPP Japanなどに出資しており、今後はこれまで培ってきたノウハウやネットワークに、ロシ社の技術を組み合わせることによって、太陽光パネルのリサイクル・チェーン確立を目指している。 

 村上氏は「フランスは国がソーラータックスをかけて、パネル引き取りのコストを負担する仕組みを考えている。日本では東京都が新築戸建て住宅などへのパネル設置義務化を目指しているが、今後は入り口だけでなく出口の部分についても考えていかないと。リサイクルの価値、いわゆるビジネスとしてのポテンシャルは上がってくると考えているので、収益性も伸びてくるような体制を早くつくっていきたい」と語る。 

 日本はまだ太陽光を導入しようという入り口の部分に留まっており、出口の部分はほとんど視線が向けられていない。今は国内で太陽光パネルの大量廃棄は発生していないが、近い将来、こうした問題は必ず直面する。 

 社会課題の解決に向けて走り出した伊藤忠。日本の太陽光市場が今後、持続可能な形で成長していくためにも、出口戦略となるリサイクル・チェーンの確立を急いでいる。

【著者に聞く】『エネルギーの地政学』 日本エネルギー経済研究所 専務理事・小山 堅

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