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 再考・日本の安全保障戦略(1回目) 元防衛大臣・森本敏

財界オンライン 2023年1月17日 7時0分

ロシアによるウクライナ侵攻から早くも1年弱が経とうとしている。中国・習近平体制は異例の3期目に突入し、米国では11月の中間選挙で野党・共和党が4年ぶりに過半数を奪還。世界の国際秩序が混沌とする中で、森本氏は「非民主主義国は民主主義体制国よりも多いのが現実」と指摘。果たして、2023年の国際情勢はどう動くのか。
国連安保理が十分に
機能しない現状では…
 ─ 世界の国際秩序が混沌としている中で、足元の世界情勢をどう分析しますか。

 森本 国際情勢を見て、将来を展望することは極めて難しいと思います。国際情勢の流れを決める政治・外交・防衛・経済・資源エネルギー・技術・核兵器・気候変動などが複雑に絡んでいる中で、国連安保理が十分に機能せず、大国のリーダーシップもしばしば、世界の分断をもたらす作用となっているからです。

 冷戦はドイツ統一・旧ソ連の崩壊が起こった1990年を前後とする間に終焉しました。それまで世界は西側同盟、東側同盟、非同盟の3つに分かれ同盟陣営間の対峙状態でした。

 現時点では、①米国を中心として民主主義体制という価値観を共有するグローバルウエストと言われる同盟国や友好国からなる国家群、②中国・ロシアをはじめとする権威主義・覇権主義を中心とする非民主主義体制の国々、③これらのいずれにも属さないが、両方のグループから働きかけを受けるグローバルサウスと言われる途上国に分かれていると思います。

 ─ グローバルサウスとは南半球を中心とする途上国のことですね。

 森本 ええ。中国はグローバルサウスに支援や援助を行い、その見返りにジブチのように基地を提供させ、中東湾岸国や南アジア・島嶼諸国には中国海軍の寄港を受け入れさせ、ソロモンのように中国と安全保障協力協定を締結する国を求め、影響力の拡大を図っています。

 ─ ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経とうとしています。今後のウクライナ情勢をどう見ていますか。

 森本 ロシアはウクライナ戦争以来、欧米の対ウクライナ支援を新植民地主義と批判して、途上国の共感を得ようとしています。

 これらに対して米国は民主主義サミットを開催し、多数の途上国を招待して民主主義の効果と利点を広めようとしたり、アフリカ諸国と首脳会議を開催するなどにより米国の影響力を拡大することを試みて巻き返しを図っています。

 しかし、現状では民主主義体制国は89カ国(人口比で30%)、非民主主義国は90カ国(同70%)といわれ、非民主主義体制国の方がやや多いのです。

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 ─ 非民主主義体制国の方が多いという事実は冷静に見ておく必要がありますね。

 森本 はい。こうした現状に鑑みて、グローバルウエストでは世界をリードして国際秩序を再生するにあたり、民主主義という価値観をもとにするより、法秩序や諸原則あるいは、国としての振る舞い方を規範とする新たな概念を引き出すことができないかという議論も起こっています。

 また、国連安保理決議が常任理事国の拒否権によって機能しない現実をどのようにして改善し、国連の機能回復を図るべきかという問題も改めて議論されています。

 ─ そうなると、2023年における国際社会は安定に向かうと考えていいですか。

 森本 2023年は多くの問題を2022年から引きずるでしょう。そして、国際社会における次の大きな政治的転換期は、2024年にくることになることが予想されます。2024年末までに、台湾の総統選挙、インド、トルコ、ロシア、ウクライナ、欧州議会、米国の大統領選挙などがあり、2023年はこうした政治の節目に向けた主要国の動きが顕著になるからです。

 欧州では言うまでもなく、ウクライナ戦争の行方とロシアの国内変動に大きな関心が集まります。フィンランド・スウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)加盟、プーチン政権の行方とロシアの内政、ウクライナや欧州諸国のエネルギー問題、ウクライナ問題をめぐる和平協議再開に向けた動き、核兵器の使用や抑止の意味など当面する課題は多く、引き続き欧情勢の変化には注目を要します。

 中東湾岸はサウジアラビアが従来からの緊密な関係にある米国と距離を置くようになり、ロシア、中国と接近するような状態に動く中で、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」の動向やイランと米国の関係が冷え込んでいることがエネルギー問題のみならず、米欧諸国の中東湾岸政策に大きな影響を与えています。

 また、このことはイスラエルの動きにも、どのような影響を与えるかが注目されます。


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