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原材料高騰下、製品値上げ・賃上げの好循環をどう作るか? 日本商工会議所会頭・小林 健の 大企業と中小企業のパートナーシップで

財界オンライン 2023年1月20日 9時30分

「今が日本再生にかける最後のチャンス」─。日本商工会議所会頭に就任した小林健氏(三菱商事相談役)はこう現状認識を示しながら、”失われた30年”と言われるほどの停滞をなぜ、日本は招いたのかを謙虚に振り返りつつも、「わたしは、まだ日本に余力が残っていると思います」と強調。「やはり、経済を成長させ、国力をつけ、そして次の世代に引き継ぐという使命がわれわれにはある」と日本再生を図る決意。折しも、『新しい資本主義』がいわれ、成長と分配の循環を適正にどう進めていくかという課題がある。コロナ禍とウクライナ危機の中で、原材料・エネルギーコストが高騰し、その分を自らの製品価格に転嫁できないという中小企業の苦しみ。商工会議所は、特に大企業と中小企業の”取引適正化”に努力してきたが、その成果はまだまだというところ。日本の生産性アップのカギを握るのは中小企業。全企業の99%強を占める中小企業の生産性をどう引き上げていくか。日本銀行の金融緩和策終了で”金利引き上げ”の局面を迎え、緊張感も漂う。
本誌主幹 村田博文

日本が停滞したことの
責任は経済人にも……
「〝失われた30年〟と言われる停滞からどう抜け出すか。結果的に成長できなかったというのは、わたしも含めた産業界にも責任があると思いますし、政治にも責任があると思います」

 日本再生をどう図っていくかという課題を前に、日本商工会議所会頭の小林健氏はこの〝失われた30年〟を招いたことについてこう触れる。

「バブル崩壊後の30年、長く日本は停滞してきました。世界全体を見ても、欧米、中国、あるいは東南アジアを見渡しても、日本は成長の速度が最も遅かったわけです。この間、日本の物価、賃金、生産性は停滞し、デフレマインドが染みついてしまいました。更に新型コロナウイルス感染症によって停滞期間が長引いたわけです」

 1990年代初め、バブルがはじけて不良債権が顕在化、金融危機が起こり、アジア通貨危機、そしてリーマン・ショック、さらには東日本大震災と危機が続いた。この間、政治も不安定になり、1年ごとに首相が変わるという混乱も生じた。そうした中で、個々には一生懸命にやってきたのだが、結果的に経済の停滞を招いてしまった。

 ここは「謙虚に振り返って、どこに原因があったのかを突き詰める必要がある」と小林氏はしながらも、「日本にまだ余力は残っている」という認識を示す(後のインタビュー欄を参照)。

 そして、今が日本の再生にとって、「最後のチャンス」として、「日本再生の最後のチャンスだと思います。経済を成長させ、国力をつけ、もう一度豊かな国にしていく。そして、次の世代に引き継ぐという使命が我々にはある」と小林氏は訴える。

 小林氏は2022年11月、第22代の東京商工会議所会頭に就任。3期9年、東商会頭を務めた三村明夫氏(日本製鉄名誉会長)の後を受けての会頭就任。東商会頭は歴代、日本商工会議所会頭を兼任する習わし。

 その日本商工会議所は傘下に全国515商工会議所を抱え、会員数は123万社を数える。

 中小企業の振興、育成を図るのが商工会議所の役割。日本の企業総数は約360万社。このうちの99%強の約359万社が中小企業という構成である。労働力人口(全体で約6860万人)で言えば、その7割を中小企業で働く人たちが占める。

 つまり、日本の生産性を上げられるかどうかは、中小企業の生産性の引き上げ如何にかかっているということ。

 小林氏もそうした現状を大前提に、「家族を含めれば、日本の人口の半数以上は中小企業を頼りにして生活している」として、次のように語る。

「やはり、日本の国力をアップするためには産業力の強化が大事であると。日本の企業の99%は中小企業ですから、その方々の生活を向上させないと日本全体の成長もない。そのことを強く強調したいと思います」

 全企業の99%強、全労働者数の7割を占める中小企業ということだが、この中小企業の経営にはいろいろな種類、タイプがある。

 大企業を中心にしたピラミッドの中に所属する中小企業。これは下請け、孫請けというサプライチェーンの中で活動。他方、独自の技術やサービスを開発し、主体的に動く独立型もある。

 そうしたいろいろな種類の中小企業がある中で、中小企業の生産性とは一体何だろう? という小林氏の問題意識。

「中小企業の生産性を考える際、参考となるのは、付加価値に占める人件費の割合、すなわち、労働分配率です。中小企業の労働分配率は75%~80%で非常に高い。したがって、残りの20%ないし、25%で税金を払い、投資をしているわけです」

 小林氏は、賃上げ問題を含めて、いろいろな問題がこの中小企業の労働分配率の高さに関わってくると指摘する(インタビュー欄参照)。

 ちなみに、大企業の労働分配率は45%前後。この数字を見ても、賃上げをする余裕が中小企業と比べてあることが分かる。

 では、生産性をどうやって引き上げていくか。

 大企業も中小企業も日本が相当遅れているのはIT、DX(デジタルトランスフォーメーション)として、小林氏は「まずはDXへの取り組みを通じて生産性を高める。これについては、商工会議所も伴走型で支援していきます」と語る。

 DX化は世界的な流れであり、当然これはやるとして、日本の場合は、大企業と中小企業の間の『取引の適正化』問題を抱えているということがある。

 この『取引の適正化』問題は、三村前会頭時代も大きなテーマとして取り上げられてきた課題。


大企業と中小企業の間の
『取引適正化』問題
 小林氏は三菱商事社長時代(2010―2016)に東商副会頭を務めている。この『取引適正化』問題は副会頭時代から腐心しており、次のように述べる。

「高度経済成長の時代は、大企業はコストカットのために、下請け、孫請け企業に相当負担を強いてきました。コストカットが成長の源泉だったのです。生産性向上のためにはコストカットが近道だと考えた企業経営者が多かったのかもしれません」

 小林氏は、自分が東商に入って以来、中小企業が大企業のコストカットに追随していく姿を目の当たりにしてきた。

「10年くらい前の円高不況局面でも大企業によるコストカット要請があり、中小企業は相当な努力をして、この要求に応え、日本全体で円高をしのいでいきました。そして、今は逆に円安局面になって、再びコスト負担を押し付けられるのかと、中小企業は非常に辛い思いをしています」(インタビュー欄参照)。

 大企業と中小企業間の、この『取引適正化』は、日本の産業構造において相当に根深い問題。

 本来、民間同士の取引は自由に任せるのが資本主義の基本である。ところが、現実には大企業の力が相対的に強い。このため、中小企業が大企業に納める製品の価格値上げを訴えようとしても、なかなか通らない。

 とりわけ、下請けという関係になると、交渉の場さえないという現実が続く。

 今、コロナ禍、ウクライナ危機の影響で、資源・エネルギーや食糧の供給が制約され、世界的にインフレ、物価上昇が進む。原材料コストが上昇し、企業は製品価格にそれを転嫁しようと動く。

 この製品値上げは欧米をはじめ、各国で相次ぐ。コスト上昇に伴う製品価格の引き上げという新価格体系の構築ということだが、日本ではそれが一向に進まない。

 海外の動きはどうか?

 実際、国産の醤油だが、キッコーマンは戦後間もない頃から、海外販売、そして50年前から欧米での生産を開始。今や売上高の7割強を海外で販売し、全利益の4分の3を海外であげている。グローバル企業で、海外では生産コストアップ分を反映した製品値上げをすでに実施済み。

 名誉会長の茂木友三郎氏は日本生産性本部会長を務め、日頃、日本の生産性向上に腐心している。その観点で茂木氏が語る。

「値上げが海外はできる。米国も欧州もきちっとできる。コストが上がっている事情をしっかり説明すれば、流通業者も消費者も納得する。コスト上昇があっても、日本はそれに抵抗する。これは日本経済をひん曲げていると思いますね」

 産業向けで個人消費関連にもなる段ボールメーカーの首脳は2022年4月に第1回目の値上げ意向を表明、「顧客にもよりますが、大体、半年ぐらいかけて少しずつ浸透していった。まさに2回目をやらなければいけない所に追い込まれていますが、今度は結構抵抗が強くて……」と苦笑する。

 顧客の紙卸(問屋)まで値上げの話が浸透したとして、そこから先の飲料メーカーや食品製造会社に卸す段階で抵抗が根強く、実現できないでいる。

 物価は上がっているのに、賃金は上がっていないという現実の中で、消費者の抵抗は強く、新価格体系の構築もままならない。

 物価は上がっているのに、賃金は上がらないという現実が2022年まで続いた。


『取引適正化』は
賃上げ問題と直結する
 賃金を上げて、物価高騰を吸収する経済をどうつくり上げていくか?

 賃金引き上げで所得向上を図る。そのことが消費を高めることにもなり、引いては企業間の取引も適正化されることにつながる。結果的に経済全体が上手く循環するということである。

 この賃金引き上げは、菅義偉・前首相時代に〝最低賃金引き上げ〟という形で始まっている。

 三村・前東商会頭は、菅内閣の『成長戦略会議』にメンバーとして参加。同会議のメンバーの大半が「賃上げすべき」としたとき、「賃上げは必要だが、中小企業には賃上げ余力が乏しい」と発言。

 中小企業の場合、付加価値の80%程度は人件費として支払われているという現実の中で、どう解決策を見出していくか。

 元来、付加価値を高めるには、コストダウンという手法と製品価格の引き上げという2つのやり方がある。後者は、原材料価格の引き上げを製品価格に転嫁できるということ。それが全体に浸透していくには、経済合理的な土壌作りが広まる必要がある。

「日本全体が活性化するためには、99・7%を占める中小企業が活性化しないといけない」

 小林氏はこう語り、「大企業と中小企業との取引を適正化すること。要するに、サプライチェーン(供給網)全体で利益もコストも適正に分かち合う」という方向でソリューション(解決策)を見出していくことが大事と強調。

 大事なのは、『取引適正化』問題は、今の賃上げ問題と直結しているということである。

『取引適正化』を実現していくために、東商は〝パートナーシップ構築宣言〟をすでに行っている。

「『パートナーシップ構築宣言』には国の後押しもあり、宣言企業数は増加しています。すでに1万7千社以上の企業に参加してもらっていて、これはわたしが商工会議所の会頭に就任して、第一に力を入れていこうと。サプライチェーン全体でコストを負担し、利益をシェアしていって、共に成長していこうという考え方が大切です」

 大企業と中小企業のパートナーシップの実践である。


デフレ払拭へ
「勇気を持って」
〝失われた30年〟でデフレマインドが定着。経営資源が投資へ向かわず、内部留保は高まる一方なのに賃金は上がらないというので、全般的に士気が振るわない。

「ええ、日本企業はデフレマインド、あるいはコロナマインドによって、殻の中に閉じこもってジッと耐えることが性になってしまった部分があると思います。ですから、このマインドを勇気をもって払拭していこうということです」

 段取りをどう進めるか?

「やはり、大企業も中小企業もそうですが、値上げをする勇気を持とうということです。大企業としても、孫請け、下請けがいなくなってしまったら成り立たない。これは別に我が儘を言っているのではありません。そうしないと、中小企業は倒産してしまうのです」

 サプライチェーン内での交渉で解決策を見出す企業もあれば、良質の品やサービスを届けることで消費者に直接、新価格体系を訴えられる中小企業もいる。

 こうやって、原材料のコストアップ分を製品価格に反映させ、そして社員の賃金アップにつないでいく。そうやって、経済全体が適正に循環していく仕組みをつくろうということである。

 もっとも、日本は同じ業種に多くの企業が参入し、過当競争といわれるぐらいにシノギを削ってきた。

 だから、コスト圧迫を受けて、製品価格引き上げという段になっても、「自分だけが値上げをすると、マーケットを失うのではないか……」と不安を抱く。これがデフレマインドにもつながり、結果的に経済の縮小均衡を招くという現実。

「適正利潤を生めない事業は長続きしない」という小林氏の指摘はまさにその通りで、デフレマインドをどう払拭するかという課題。

 現状はどうなっているのか?


〝金利が付く時代〟への転換
「わたしどもの調査によれば、1年前と比較してコスト負担が増加している企業のうち、発注側企業との価格交渉の協議については、7割の企業が話し合いに応じてもらえていると回答しています。しかし、中小企業は千差万別で、苦しい所もあれば、大活躍している所もあります。企業によって自ら変革を行ってきた所と、何も手を打ってこなかった所の差が出てきているのは確かです」と小林氏。

 経済原則からいえば、淘汰される所も出てくるが、コロナ禍の間は政府の経営支援の補助金が出たりして、息をつぐことができた所もある。ウィズコロナ政策になった今、ある程度の淘汰は避けられないという現状。

 特に、日本銀行が昨年12月20日〝金融の異次元緩和策〟を転換させたこと。長期金利の変動許容幅を0・25%程度から0・5%程度に広げたが、これを市場では、〝金利が付く時代〟への転換と見ている。

 徐々に、今の緩和状態が転換され、金利引き上げの動きが強まった場合、一定の企業選別が出てくる可能性はある。

「コロナ禍では、政府の支援策を活用して何とか倒産を免れた企業も多いと思います。ただし、今後返済が始まり、中には借り換えの必要に迫られる企業も出てきています。しかし、政府は未来永劫、支援し続けてくれるわけではありません。これからはウィズコロナで経済社会を回していく段階になり、中小企業も生き残りをかけた大変な時期になります」と小林氏。

 現状は少しずつ動いている。


賃上げができる所と
できない所との差
 先述の賃上げ問題に関しても、流れが変わり始めている。

 賃上げに関しては、有力企業の間で実行する所が出始めた。

 日本生命が7%賃上げ、日揮ホールディングスが10%、サントリーホールディングスが6%、アサヒグループホールディングスもそれ相当の賃上げに踏み切るなど、経営者の決断が相次ぐ。

 一方で、賃上げまでできない所もある。まさに、今は時代が大きく動こうとする転換期。

 この大きな時代の流れをどう捉えるか─。

「わたしのような、いわゆる団塊世代の経営者は、2025年には後期高齢者になります。そうなると、事業承継の問題に直面します。わたしの回りの中小企業の経営者はみな事業承継の問題を抱えています。事業承継というのは、自分の家族が継がない場合、M&A(合併・買収)をするか、廃業するかという選択に迫られます。こうした状況も考慮して、次の段階に発展できる企業はどういう企業かというと、自ら変革出来る企業だと思います」

 では、そうした環境下にあって、次のステージに進める企業はどういう所なのか?

「中小企業の場合は、オーナーと従業員の距離がものすごく近いです。そういう意味では、状況に応じて素早く変化する力は十分あるし、やろうと思えばできるんです」

 小林氏は出身母体の三菱商事で事業構造改革を体験。この時の構造改革をどう受けとめているのか?

「商社の場合は業態の変革ですね。わたしが中堅社員くらいの頃までは、いわゆる、商事会社というのは、仲介取引、仲介貿易を主としてやっていました」

〝仲介〟というのがポイント。商流、つまりモノ(商品、貿易材)の流れの袂に立って、タイミングをよく見て、「流れの中からビジネスチャンスをつかむ。それを自分の仕事として収益を上げていく。こういうことをずっとやってきた」と小林氏。

 いわば、商流を傍から見ていて、他者の取引を手助けする形。小林氏が部長クラスになった時から、そうした業態からの改革を迫られる。1990年代から2000年初めにかけてである。

 時あたかも、バブル経済がはじけ、金融危機が起こり、日本全体が〝失われた10年〟といわれ、現状のままでは事業の持続性が失われるという危機感。

 商社はどう業態変革を進めていったのか?

「ビジネスの相手方や他の産業の方々と一緒に商流の中に入って、流れの中からビジネスチャンスをつかんでいく。即ち、事業に投資をして、投資した会社に人を送り、長期的に経営のサポートをして、企業価値を高め、さらには業態転換のお手伝いをするということ。そういう意味では、仲介から経営に舵を切ったと言っていいと思います」(インタビュー欄参照)。

 業態は時代の移り変わりで変革させていかないといけないが、企業経営の本質は変わらない。

 三菱商事は創業以来、『所期奉公(社会のために)』、『処事光明(何事もオープンに)』、『立業貿易(グローバルな視野で)』を綱領、つまり経営指針にしてきた。

 言葉は古いが、今の企業経営に求められるものも同じである。

 東京商工会議所の初代会頭・渋沢栄一は明治期、約500の会社を興した。その理念は、社会(国)に貢献し、国民のためになる事業を営むということ。その著『論語と算盤』は企業経営の規範を説いたものとして知られる。

 もっと言えば、渋沢は江戸末期から明治維新を経ながら、いくつもの危機や試練をかいくぐってきたということ。「逆境の時こそ、力を合わせて」コトを成していくという生き方であり、働き方であった。

 コロナ禍、ウクライナ危機の今、いろいろな危機が訪れる。そして国内では、この10年近く続いた金融緩和の時代が終わり、金利上昇という新しい経済局面を迎えて緊張感も漂う。

 経営を担うのは「人」。「人への投資」を含め、大企業と中小企業のパートナーシップで日本再生を図ろう─という小林氏の訴えである。

 危機や試練は人を鍛える。

(新しい資本主義)「わたしはアベノミクスからの延長と捉えています。金融緩和と財政出動に次ぐ成長戦略は道半ばにして、菅(義偉)元首相、岸田首相へ引き継がれたということだと思います。菅元首相は自助・共助・公助を強調しました。それが岸田首相になって、成長戦略をより具体化するために新しい資本主義を掲げたということですよね。人への投資、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)の4つは、われわれ商工会議所としても必要不可欠なことだと認識していました。新しい資本主義を実現するためにも、ウイズコロナで社会経済活動を正常化することが、一番有効かつ最大の経済対策であると考えています」

(パートナーシップ精神)「サプライチェーン全体で、コストも利益も適正に分かち合っていく。これも新しい資本主義です。なぜならば、取引の適正化を通じて生産性が上がる。要するに、労働分配率が下がって、賃上げの原資が出せるということです。持続的な賃上げが実現できれば、経済が成長して回っていくわけですから、これらは全て繋がっているということです。いま新しい資本主義実現会議で議論しているのは、どこにプライオリティー(優先度)をつけるのかということ。総花的にあれもやる、これもやるでは、なかなかうまくいかない。例えば、スタートアップ企業への支援を考えると、支援してもらう側の人間にどのようなニーズがあり、どのレベルまでスキルを身につけさせるのか。その人間が意欲を持てるような施策とすることが大事だろうと」

(中国との関係)「日本は今でこそ経済大国ですが、戦後は資源もない中で、経済力を高めて生きてきた。貿易をしなければ成り立たない国です。一方、好き嫌いにかかわらず、中国は日本の隣国です。政治的には意見の相違もありますが、中国はとにかく世界一の大きなマーケットで、14億人以上の国民が生活しているわけです。そうなると、日本は中国のマーケットにかかわっていかざるを得ない。経済的に中国を切り離すということは全く考えられません。(今後の関係では)例えば、汎用品をつくっているような所は、中国へ行って地産地消でやるのが一番効率もいいです。しかし、それ以外の半導体やIT技術など、経済安全保障にとって重要なものについては、なるべく早く国としての指針を出していくべきであろうと。ケースによっては、国内回帰が必要ならば、ある程度補助金をつけることも必要だと思います」

(習近平体制)「現地の情報によれば、あれ(白旗を掲げる運動)は暴動ではなく、国民の意思表明の一種だと捉えられているということでした。一部には、中国が民主化に向かっているなどとする見方もあるようですが、それほど単純ではないと思います。なぜ、ああいうことが起こったかというと、人の心の中は支配できないということです。鄧小平氏の改革開放政策以降、共産党政権のもと、ここまで中国が経済成長して、より良い暮らしができるようになった。そのことを国民も理解しているわけです。しかしながら、ゼロコロナ政策によって、心だけでなく、移動などの点で、体も物理的に拘束されるようになってしまった。拘束されるとか、家から出られないというストレスは相当なもので、抗議活動が活発化。そこで、ゼロコロナ政策を緩めなければならないという判断だったのではないでしょうか」

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