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 三菱UFJFG・亀澤宏規の「金融プラットフォーム」戦略 「金融の枠を広げ、超えていく」

財界オンライン 2023年1月17日 11時30分

「融資業務の枠を超えて、事業リスクを一緒に取ろうと」─三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)社長の亀澤宏規氏はこう話す。今、亀澤氏は社内で「金融の枠を超えよう」と訴える。従来のような融資だけでなく、例えば企業の新規事業や利益の出ていないベンチャーに投資するなど「リスク」を取る姿勢を強める。そのためには社員の意識改革が必須。亀澤氏はどんな取り組みを進めているのか─。

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日銀総裁交代の年「金利の付く時代」は戻るか?
「今までにないくらい先を見通すのが難しい状況。希望も含めて言えば、2023年は安定化、正常化に向かう年になるのではないか。キーワードは『安定』」と話すのは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)社長グループCEO(最高経営責任者)の亀澤宏規氏。

 長期化するコロナ禍、ウクライナ戦争、そして欧米の金融引き締めなど、様々なリスクが混在する状況が続く。

 ただ「コロナは徐々に『ウィズコロナ』に向かっていくし、一時高騰したエネルギー価格も落ち着いている。欧米のインフレも一生懸命抑えようとしている状況。ロシアとウクライナのリスクは残るが、全体として落ち着くのではないかと思うし、落ち着いて欲しい」と亀澤氏。

 日本経済に関しては、IMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)の見通しでは、1%台ではあるものの先進国の中では相対的に高い成長率となると予想される。

「日本経済は消費も回復し、インバウンド(訪日外国人観光客)も見込める。また、日銀短観を見ても設備投資は高水準が続いている。政府が経済対策を打ち出すと思うので、緩やかに回復していくと見通している」

 ただ、23年も波乱が続く可能性がある。4月には日本銀行総裁が交代し、10年間続いた大規模な金融緩和政策が修正されるのか否かが市場関係者の間で注目されている。

「政府も日銀も、デフレ脱却に向けてやってきた。大きな方向感としてデフレから脱却しつつあるという意味では、黒田総裁の政策には一定の効果があったと思うし、23年以降は正常化に向けて動き出す。各所とコミュニケーションしながら進めていくということだと思う」

 22年12月20日、日本銀行は長期金利の変動許容幅を、これまでのプラスマイナス0.25%から0.5%に拡大することをサプライズ的に打ち出した。

 総裁の黒田東彦氏は「利上げではない。金融緩和を継続する」としたが、市場では「実質的な利上げ」、「正常化に向けた第一歩」と受け止め、急激な株安、円高、金利上昇につながった。正常化に向けた過程では、こうしたアップダウン、波乱がつきまとうことになる。

 金利がつく世界は、中小企業や住宅ローンを組む個人などにとっては負担が重くなるが、これまでゼロ金利、マイナス金利で「本業」の融資業務が厳しい状況に置かれていた銀行にとってはプラス方向に働く。

「(金利上昇は)基本的にはポジティブ。マイナス金利下では、我々は銀行の中で最もバランスシート(貸借対照表)が大きいことから影響を受けた」と亀澤氏。

 マイナス金利は重荷となったが、その間、課題とされた経費の削減などの構造改革や、収益の多様化に取り組んだことで、22年3月期は連結純利益が前期比45.5%増の1兆1308億円と過去最高益を達成した。


社員の意識改革に向けて
 改革の成果もあって業績は上がってきた。では今後、亀澤氏はグループをどういう方向に持っていこうとしているのか?

「金融の枠を広げたいし、枠を超えたい」─亀澤氏はこう言う。

 例えば今、グループの三菱UFJ銀行は「事業共創投資」に取り組んでいる。これは新産業・新事業創出に取り組むためにリスクを取っている企業に対して、共同で投資をしていく事業。

 すでに自動運転、フィンテック活用による「船員」のサポート、小売店舗のデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業に対する投資を実行している。

「融資業務の枠を超えて、事業リスクを一緒に取ろうと。エクイティを出すという意味では広い意味では金融だが、今までの枠を広げていく形」

 また、海外では20年12月からシンガポールで事業を開始した「Mars Growth Capital」を通じて海外のスタートアップ融資を展開。まだ利益が出ていないスタートアップに対して融資するという、従来の銀行にはなかった発想による融資。「今までの常識では難しいということで海外でやっているが今後、これを日本に逆輸入したい」(亀澤氏)

 さらに、21年秋に施行された改正銀行法で、銀行業務の規制緩和が進んだことによって「枠」が広がった事例もある。

 22年8月に100%出資の「MUFGトレーディング」を設立し、企業の在庫を一時的に買い取る事業を展開することを決めている。企業にとっては在庫負担が減り、資金を活用しやすくなる。企業のリスクを一部背負う形で事業を支援する。

 銀行・信託・証券という機能の中で、顧客にとって最もよいメニューを提供するという形で既存の枠を超える事業展開をすることはもちろん、これまでとは違う発想で新事業を生み出すという段階に来ている。

 だが、これまで銀行という、顧客の預金を預かる立場で「石橋を叩いて渡らない」くらい慎重とも言われた銀行員の意識を変えるのは一朝一夕にはいかない。

 そこで取り組んでいるのが「MUFG Way」という行動指針を定めた上でのカルチャー改革。その中で、自らの存在を再定義して生み出した「パーパス」(存在意義)が「世界が進むチカラになる。」というもの。

「みんな銀行、信託、証券などグループの会社に入っているが、それぞれなぜ、その会社を選んだのかという思いがある。その思いである『My Way』と『MUFG Way』を掛け合わせて、自分にとってのパーパスを考えることで、自然にお客様にために仕事をしていくという意識になる」

「『考える』というメンタリティが重要」と亀澤氏。そのメンタリティを引き出し、実際に新事業に結びつけるための取り組みが新規事業創出プログラム「Spark X」。

 グループ22社・580人が計650件の事業案を提案。22年11月に最終審査会を開催し、3チームが事業立ち上げに挑戦している。「彼らには異動してもらって、予算を付け、実際に事業を立ち上げてもらう」

 こうした取り組みで実際に成果を出すという成功体験が、カルチャー改革の鍵を握る。

 一方、マイナス局面だったが、MUFGのカルチャーが変わり始めたと思える案件があった。

 MUFGは22年に連結子会社のGlobal Open Network Japan、通称GO-NETジャパンの事業を停止した。

 この事業はMUFGが80%、世界最大手のコンテンツ配信網とブロックチェーン技術を持つ米アカマイ社が20%を出資して設立したGO-NETジャパンが進めていた。亀澤氏が副社長時代から関わってきた事業。

 ブロックチェーン技術を活用して、高速、高セキュリティ、低価格で決済やIoTインフラを提供する構想だったが、「少し時代が早すぎたところがあった」と亀澤氏。顧客が、このインフラに乗り換えるまでに至らなかったのだ。

 かつてであれば、社長が推進してきた事業を停止する判断は難しかったかもしれないが、今回は「1回閉じようと。また必要になった時にやればいい」(亀澤氏)という形で、早期に事業停止を決定。

 この痛い経験から得たものとして亀澤氏は「人材」を挙げる。「ここで鍛えられたメンバーが、次の案件をやる」(亀澤氏)。この「転んでもただでは起きない」という精神が、MUFGの文化を変える元になるかもしれない。


銀行のあり方は
どう変わっていく?
 新たな事業を生み出すと同時に、これまでグループの根幹であり続けてきた「銀行」の役割をどう考えるかも重要になる。これからの時代の銀行のあり方をどう考えているのか。

「我々の一番の強みはお客様の基盤、ネットワーク。それをいかに様々な形にしていくか」と亀澤氏。

 その中で亀澤氏の考える一つの方向性が、銀行機能の「モジュール化」。モジュール化とは、全体を機能単位に分割した上で再定義すること。

 従来は、顧客が銀行の支店で申込書を書き、預金を預けたり、ローンを組むといった一連の行動をする「ワンパッケージ」での機能提供だった。

 それを今は「決済」や「口座管理」といった機能を従来以上に磨き上げた上で、それをモジュールとして提供するというやり方に変え始めている。

 それが一つ、形になっているのがNTTドコモとの提携で展開している「dスマートバンク」。MUFGは口座開設、インターネットバンキング機能を提供し、顧客接点はドコモのアプリという形。「表」に出るのはドコモ、「裏」で機能を提供しているのはMUFGという役割分担。

「従来、我々のお客様との接点は店舗だったが、今はインターネットバンクもある。今後はANAさんのメタバース空間にも出店する。オンラインとオフラインがどうつながるかという全体像の中で、リアル店舗もモジュールとしてどこに置くかという発想に変わっていく」

 銀行として「タテ」で全ての機能を提供するのではなく、モジュール化された銀行機能を「ヨコ」に展開し、表なり裏なり、様々な場所に存在しているという世界に変わっていく。これはまさに「プラットフォーマー」の発想と言っていい。

「皆さんの頭の中には、銀行のイメージがあると思う。それを今後はモジュール化して、様々な場所の裏側に、実は入っているという世界ができていくのがバンキング機能のあり方ではないか。よく『未来の銀行像』を問われるが、我々からすると『未来のMUFG』、『未来の金融』という形で捉えている」(亀澤氏)


アジア展開が
「第2ステージ」に
 企業として成長していくためには、海外展開も欠かせない。MUFGはアジアを「第2のホームマーケット」と見定めて、投資を進めている。すでにタイのアユタヤ銀行、インドネシアのバンクダナモンなど、現地の銀行とのグループ連携も深まっている。

 22年11月にはアユタヤ銀行を通じて、蘭ホームクレジット社のフィリピン、インドネシアで個人向けローンを展開しているノンバンク事業買収を決めた。投資額は約870億円。

 これはアジアにおいて、商業銀行事業だけでは取り込めない層の獲得を狙っての買収。ホームクレジットは家電などの耐久消費財を購入する際の割賦ローンを提供している。

 このローンを利用する人達の中には銀行口座を持っていない人も多い。今回の買収で、これまで以上に顧客層を広げることができる。

「アジアの成長を全て捉えるために、『面』で抑えるという戦略」と亀澤氏は説明する。しかも、この買収は「アユタヤ銀行なしにはできなかった」という。

 アユタヤ銀行のチームが主たる役割を果たし、MUFGとも連携しながら、ホームクレジットの価値評価をして買収を決めた。アユタヤ銀行がアジアでの買収の「プラットフォーム」としての役割を果たしたのだ。このことを亀澤氏は「ある意味で第2フェーズに入った」と評価する。

 もう一つ、海外戦略で重要なのが米国。21年9月には米国の主力銀行であるMUFGユニオンバンクの個人向け事業・中小企業向け融資を米地銀最大手のUSバンコープに売却することを決め、同社と提携を結んだ。

 米国事業は縮小することになるが、亀澤氏は米国事業の約7割がMUFGに残ることから「アセットを集中して、ホールセール(法人向け事業)中心のビジネスをやっていく」と強調。

 米国では持ち分法適用会社である大手投資銀行・モルガン・スタンレーとの提携も活用していく。「皆さん、我々がモルガン・スタンレーからの収益を、ただもらっているという理解をされがちだが、我々は欧米の投資銀行ビジネスを彼らにやってもらっているという判断」

 MUFGとモルガン・スタンレーは「LMJV」(Loan Marketing Joint Venture)を形成し、モルガン・スタンレーが投資銀行業務を担って手数料を得るとともに、MUFGが融資を担って、出資分の配当を得るという役割分担。

 MUFGユニオンバンク、モルガン・スタンレーとの提携にヒト・モノ・カネを投じて、米国でのホールセール強化を進めていく考え。

 これからのMUFGにとっては、前述のパーパス「世界が進むチカラになる。」が基本軸になる。「それに合わせて必要なことをやり、違ったと思えば変えればいい」と亀澤氏。

 この姿勢で、時代の変化に対応できるかが、将来に向けての鍵を握っている。

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