「再生可能エネルギー事業は安定資産、収益資産になってきている」と話す西川氏。東急不動産ホールディングスは東京・渋谷再開発など不動産開発に加えて、発電事業者にも匹敵する規模の発電量を持つ再生可能エネルギー事業が新たな柱になりつつある。今、世界的に様々な不安材料が山積する中で、いかに会社の成長を実現するか。西川氏の考え方は─。
【あわせて読みたい】【「東急ハンズ」売却】なぜ、東急不動産ホールディングス・西川弘典社長は決断したのか?
混沌とした経済状況の中で…
─ コロナ禍に加えてロシアによるウクライナ侵攻、さらには欧米の利上げと、経済の先行きは混沌としています。現状をどう見ていますか。
西川 2021年は主にコロナ禍に気をつける状況でしたが、22年にロシアのウクライナ侵攻が起きて以降、考えなければならないことが山のように増えました。
金利についても、欧米にはすでにインフレ傾向がありましたが、これもロシアの侵攻などもあって急激なインフレ対策が行われるようになりました。23年も、こうした動きは大きく変わらないでしょうから、我々の事業に大きな影響を与えるような動きになるかについては、見定めていく必要があると思います。
すでに工事代金や施設の運営経費には悪影響が出始めていますから注視していく必要があります。ただ、コロナに関する行動制限はなくなってきていますから、この部分はプラスに働くのではないかと見ています。
─ 人の移動が始まることで、これまで抑えられていた消費が出てくることが期待されていますね。
西川 コロナ禍でマンションなど住宅需要が縮むと言われていましたが、逆に縮まず、期待通りの事業環境でした。そして、個人消費には期待しており、商業施設事業や観光事業にプラスになるだろうと見ています。
─ 欧米に比べて、日本はまだすぐに金利が上がる状況ではありませんが、円安によって物価が上がるなど、個人の住宅・マンション購入に及ぼす影響をどう見ていますか。
西川 先日、首都圏マンションの平均価格がバブル経済時と同水準になったという報道がありました。中身をよく見ると、バブル時には神奈川・千葉・埼玉の平均価格、一方今は東京23区中心の平均価格です。それを同じと言えるかどうか。
もう一つ、低金利と女性の社会進出によって支払い能力が上がっていることが、マンション需要を支えている面もあると思います。ですから、今後日本で金利がどの程度上がるのか。それによってマンション市場に大きな影響が出る可能性はゼロではありません。
ただ、現状を見ると、欧米のような著しい物価上昇ではなく、日本はエネルギーコストの上昇要因が大きく、それ以外の部分には極端に大きな変動は出ていませんから、金利が単純に上がっていくかというと、そうではないのではないかと見ています。
「渋谷再開発」で目指しているものは?
─ コロナ禍でオフィスに集まることの意味を改めて見直す企業が多かったわけですが、今後の動向をどう見ますか。
西川 まず「オフィス不要論」のような話はなくなったと思います。ただ、働き方改革で国民生活は今後さらに変わっていくでしょうし、それに伴ってオフィスのあり方も変わっていくだろうと思っています。
では、オフィスは何をする場所なのかというと、コミュニケーションを取る場所であり、課題をブレイクスルーするための交流をする場所だと思います。そのためには、働きたくなる、行きたくなる場所であることが、今後のオフィスに求められています。
例えば当社は渋谷の開発に取り組んでいますが、エリア内で様々なコミュニケーションができていることで、魅力あるオフィスを提供できると考えています。オフィス内だけでなく、エリア内での「インナーコミュニケーション」は、これからの街づくりの中で、一つの重要な要素になっていくだろうと。
─ 「エリアマネジメント」が問われてくると。
西川 そうです。以前は、エリア内に商業施設やエンターテインメント施設など、どんなハードがあるかが重要視される傾向がありましたが、今後は例えば、スタートアップ企業が集積するために、どんな仕掛けがなされているかといったことが問われるようになります。
このことには、他のデベロッパーさんも気づいておられて、各社様々な取り組みをしています。ですから我々も、自然発生的なものだけでなく仕掛けをいかにつくっていくかが大事だと考えています。
─ 23年度中には「渋谷駅桜丘口地区再開発」が竣工予定ですが進捗は?
西川 工事は順調に進んでいますし、商業、オフィスのテナント募集についても順調で、心配していません。渋谷開発については、東急株式会社が今後、渋谷駅街区の第2期開業を行う予定としており、これで駅周辺のプロジェクトはほぼ完成し、駅周辺の「コア」ができます。
その中で桜丘口地区の果たす役割は、渋谷駅南口、代官山などにつながるエリアとして非常に重要なものになると思います。
渋谷は地形的に「谷」になっていますから、スクランブル交差点周辺の「底」の部分に人が集まる構造です。現在、東急グループ全体で進めている渋谷駅周辺の再開発が完了すると、「底」の1層部分から宮益坂や道玄坂のある4層部分まで、階層ごとのつながりを街の中につくるという構想です。
これまでは谷の底に行ってから上がらなければならなかった渋谷ですが、今後は遊歩道の整備で面的に、広くつながるようになります。それによって、先程お話したインナーコミュニケーションも、様々なつくり方が出てくるだろうと期待しています。
東急グループが、こうした開発を渋谷駅周辺で進め、他のデベロッパーさんが周辺を開発することで、渋谷全体が他の再開発エリアとはまた違う活気を持つことにつながると思います。
─ 東急グループ全体として「グレーター渋谷2・0」の構想という観点で開発を進めていると思いますが、24年春には東京・原宿で「神宮前六丁目再開発」が完成予定ですね。この開発はどういう存在ですか。
西川 「グレーター渋谷2.0」の構想の中でも、日本を代表する商業エリアで拠点となる開発だと考えています。ただ、コロナ禍で都心部の商業施設に対するニーズが大きく変わってきていることを実感していますから、それに対応した施設をどうつくっていくかが求められています。
例えばこれまでの商業施設において、1階の路面と上層階の飲食関連には多くのお客様が定期的に足を運んでいただけます。ただ、これまで人気だったアパレルや雑貨にお客様が集まっていた中層階では、通信販売の需要増などお客様の意識の変化で一工夫が必要となりました。
ですから、多くの方に「出かけてみよう」と思っていただけるコンテンツを用意しなければ、都心の商業施設は生き残っていけないと思います。
再生可能エネルギーが大きな柱に
─ 東急不動産HDは、2030年までの長期ビジョン「Group Vision 2030」を打ち出していますが、前半に当たる中期経営計画2025を「再構築フェーズ」に位置づけていますね。今後のポートフォリオの考え方を聞かせて下さい。
西川 レジャー事業、ヘルスケア事業、商業施設を再構築領域にしていますが、事業そのものを止めるのではなく、プロジェクトごとに見て、キャッシュ・フローが良くないものについては入れ替えていくということが中心になってくると思います。
今年度は150億円程度の特別損失を見込んでおりますが、こうした大きな外科手術のような特損は今年度で終わりにしたいと考えています。
そうして「再構築フェーズ」を早期に終え、25年度以降の「強靭化フェーズ」に移行したいと思っています。
─ 投資家など市場からの目線は変わってきたと感じていますか。
西川 投資家の皆さんからは「次どうするのですか?」というご質問が多く、さらなる事業改革を求める声が多く聞かれます。ただ、我々が本格的に変えていくぞという姿勢は、社員、一緒にお仕事をさせていただいているステークホルダーの皆さん、そして投資家の皆さんにも伝わり始めているのではないかと感じています。
─ 現在の中計期間中で、投資と財務のバランスにはどう気をつけていますか。
西川 まず投資案件については、我々が今抱えているビジネスから出てくる利回り以上の案件が多くありますから、投資先に困ることは、まずありません。
社会課題を解決すると同時に、我々にとっても安定資産、収益資産になっていくであろう再生可能エネルギー事業がメイン事業の一つになりつつあります。
ですから、財務規律をいかに守るかということが、今最も腐心しなければならないことです。それについては、ある程度バランスシート(貸借対照表)の外科手術を進めていることで維持できると思います。
また、足元で金利や為替で大きな影響が出ていませんし、コロナ禍の中では低金利で長期固定化を図ってきましたから、当面の資金需要は安定しており、財務規律を守るベースはできているのではないかと。
ですから、投資が増えていく分については、しっかり資産ポートフォリオを入れ替えていけば、十分「強靭化フェーズ」に移行することができると思っています。
─ 再生可能エネルギー電力の発電に関しては、電力会社などの発電事業者を含め、日本でも有数の規模になってきているとのことですが、まだ投資案件はあると。
西川 あります。これまでのいわゆるFIT(固定価格買い取り制度)から、今後はFIP(売電価格に一定の補助額を上乗せして買い取る制度)などに注力していきます。また、大手企業との交渉で、所有する土地などに再生可能エネルギー発電所を建設する「コーポレートPPA(電力販売契約)」も進めています。
また、データセンター開発への取り組みも始めました。データセンターは大量の電力を消費しますが、データセンターがなければ世の中全体が困ってしまいます。そこで北海道石狩市では、我々が供給する再生可能エネルギーで運営する、環境負荷の低いデータセンターの開業に向けて取り組んでいます。
さらに、将来に向けて注目しているのが蓄電です。太陽光や風力など再生可能エネルギーで起こした電気を貯めることができるようになれば、世の中の効率は相当よくなります。こうした技術の進展も含め、今後も事業拡大の可能性はまだまだあると思っています。
─ すでに、埼玉県さいたま市の全家庭分の消費量に匹敵する約1.3ギガワットの定格容量を保有しているそうですが、今後目指す水準は?
西川 25年までにほぼ倍増の2.1ギガワットまで高めたいと考えています。今後、さらなる事業展開をしていくためにも、ある程度の発電事業者としての規模感が大事だと思っていますから、早期に実現していきたいと思います。
社員の意識変革に向け取り組んでいることは?
─ 今後、さらなる成長を目指す上で、社員の意識改革が重要になると思いますが。
西川 そうですね。いま取り組んでいるのは、グループ内のバリューチェーンの「錆び落とし」を、みんなでやろうということです。
元々、私が社長に就任した時に最初にグループ内に言ったことは「我々は事業領域が広いことが特徴だが、それは単なる特徴。これを強みに変えていこう」ということでした。
バリューチェーンの錆び落としをするためには、各事業間でコミュニケーションを取ることから始める必要があります。そして、経営資源を各事業間で連携しさらに生かしていくことが求められます。こうしたことにグループ全体で取り組んでいます。
─ 西川さんが仕事をする上で信条にしていることは何ですか。
西川 かつて人事部にいた時に、物事を思い込んでしまう人が壁に突き当たってしまう姿を何度も見てきました。
ですから「世の中の変化に合わせて、変わることが重要だ」ということは強く思っています。かつてダーウィンが言った「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ」という言葉は、私が物事を考える時のベースになっています。
今、会社を経営する立場になりましたし、特にコロナ禍という変化の激しいタイミングで社長に就任しましたから、この考え方が正しいという実感をさらに深めています。
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混沌とした経済状況の中で…
─ コロナ禍に加えてロシアによるウクライナ侵攻、さらには欧米の利上げと、経済の先行きは混沌としています。現状をどう見ていますか。
西川 2021年は主にコロナ禍に気をつける状況でしたが、22年にロシアのウクライナ侵攻が起きて以降、考えなければならないことが山のように増えました。
金利についても、欧米にはすでにインフレ傾向がありましたが、これもロシアの侵攻などもあって急激なインフレ対策が行われるようになりました。23年も、こうした動きは大きく変わらないでしょうから、我々の事業に大きな影響を与えるような動きになるかについては、見定めていく必要があると思います。
すでに工事代金や施設の運営経費には悪影響が出始めていますから注視していく必要があります。ただ、コロナに関する行動制限はなくなってきていますから、この部分はプラスに働くのではないかと見ています。
─ 人の移動が始まることで、これまで抑えられていた消費が出てくることが期待されていますね。
西川 コロナ禍でマンションなど住宅需要が縮むと言われていましたが、逆に縮まず、期待通りの事業環境でした。そして、個人消費には期待しており、商業施設事業や観光事業にプラスになるだろうと見ています。
─ 欧米に比べて、日本はまだすぐに金利が上がる状況ではありませんが、円安によって物価が上がるなど、個人の住宅・マンション購入に及ぼす影響をどう見ていますか。
西川 先日、首都圏マンションの平均価格がバブル経済時と同水準になったという報道がありました。中身をよく見ると、バブル時には神奈川・千葉・埼玉の平均価格、一方今は東京23区中心の平均価格です。それを同じと言えるかどうか。
もう一つ、低金利と女性の社会進出によって支払い能力が上がっていることが、マンション需要を支えている面もあると思います。ですから、今後日本で金利がどの程度上がるのか。それによってマンション市場に大きな影響が出る可能性はゼロではありません。
ただ、現状を見ると、欧米のような著しい物価上昇ではなく、日本はエネルギーコストの上昇要因が大きく、それ以外の部分には極端に大きな変動は出ていませんから、金利が単純に上がっていくかというと、そうではないのではないかと見ています。
「渋谷再開発」で目指しているものは?
─ コロナ禍でオフィスに集まることの意味を改めて見直す企業が多かったわけですが、今後の動向をどう見ますか。
西川 まず「オフィス不要論」のような話はなくなったと思います。ただ、働き方改革で国民生活は今後さらに変わっていくでしょうし、それに伴ってオフィスのあり方も変わっていくだろうと思っています。
では、オフィスは何をする場所なのかというと、コミュニケーションを取る場所であり、課題をブレイクスルーするための交流をする場所だと思います。そのためには、働きたくなる、行きたくなる場所であることが、今後のオフィスに求められています。
例えば当社は渋谷の開発に取り組んでいますが、エリア内で様々なコミュニケーションができていることで、魅力あるオフィスを提供できると考えています。オフィス内だけでなく、エリア内での「インナーコミュニケーション」は、これからの街づくりの中で、一つの重要な要素になっていくだろうと。
─ 「エリアマネジメント」が問われてくると。
西川 そうです。以前は、エリア内に商業施設やエンターテインメント施設など、どんなハードがあるかが重要視される傾向がありましたが、今後は例えば、スタートアップ企業が集積するために、どんな仕掛けがなされているかといったことが問われるようになります。
このことには、他のデベロッパーさんも気づいておられて、各社様々な取り組みをしています。ですから我々も、自然発生的なものだけでなく仕掛けをいかにつくっていくかが大事だと考えています。
─ 23年度中には「渋谷駅桜丘口地区再開発」が竣工予定ですが進捗は?
西川 工事は順調に進んでいますし、商業、オフィスのテナント募集についても順調で、心配していません。渋谷開発については、東急株式会社が今後、渋谷駅街区の第2期開業を行う予定としており、これで駅周辺のプロジェクトはほぼ完成し、駅周辺の「コア」ができます。
その中で桜丘口地区の果たす役割は、渋谷駅南口、代官山などにつながるエリアとして非常に重要なものになると思います。
渋谷は地形的に「谷」になっていますから、スクランブル交差点周辺の「底」の部分に人が集まる構造です。現在、東急グループ全体で進めている渋谷駅周辺の再開発が完了すると、「底」の1層部分から宮益坂や道玄坂のある4層部分まで、階層ごとのつながりを街の中につくるという構想です。
これまでは谷の底に行ってから上がらなければならなかった渋谷ですが、今後は遊歩道の整備で面的に、広くつながるようになります。それによって、先程お話したインナーコミュニケーションも、様々なつくり方が出てくるだろうと期待しています。
東急グループが、こうした開発を渋谷駅周辺で進め、他のデベロッパーさんが周辺を開発することで、渋谷全体が他の再開発エリアとはまた違う活気を持つことにつながると思います。
─ 東急グループ全体として「グレーター渋谷2・0」の構想という観点で開発を進めていると思いますが、24年春には東京・原宿で「神宮前六丁目再開発」が完成予定ですね。この開発はどういう存在ですか。
西川 「グレーター渋谷2.0」の構想の中でも、日本を代表する商業エリアで拠点となる開発だと考えています。ただ、コロナ禍で都心部の商業施設に対するニーズが大きく変わってきていることを実感していますから、それに対応した施設をどうつくっていくかが求められています。
例えばこれまでの商業施設において、1階の路面と上層階の飲食関連には多くのお客様が定期的に足を運んでいただけます。ただ、これまで人気だったアパレルや雑貨にお客様が集まっていた中層階では、通信販売の需要増などお客様の意識の変化で一工夫が必要となりました。
ですから、多くの方に「出かけてみよう」と思っていただけるコンテンツを用意しなければ、都心の商業施設は生き残っていけないと思います。
再生可能エネルギーが大きな柱に
─ 東急不動産HDは、2030年までの長期ビジョン「Group Vision 2030」を打ち出していますが、前半に当たる中期経営計画2025を「再構築フェーズ」に位置づけていますね。今後のポートフォリオの考え方を聞かせて下さい。
西川 レジャー事業、ヘルスケア事業、商業施設を再構築領域にしていますが、事業そのものを止めるのではなく、プロジェクトごとに見て、キャッシュ・フローが良くないものについては入れ替えていくということが中心になってくると思います。
今年度は150億円程度の特別損失を見込んでおりますが、こうした大きな外科手術のような特損は今年度で終わりにしたいと考えています。
そうして「再構築フェーズ」を早期に終え、25年度以降の「強靭化フェーズ」に移行したいと思っています。
─ 投資家など市場からの目線は変わってきたと感じていますか。
西川 投資家の皆さんからは「次どうするのですか?」というご質問が多く、さらなる事業改革を求める声が多く聞かれます。ただ、我々が本格的に変えていくぞという姿勢は、社員、一緒にお仕事をさせていただいているステークホルダーの皆さん、そして投資家の皆さんにも伝わり始めているのではないかと感じています。
─ 現在の中計期間中で、投資と財務のバランスにはどう気をつけていますか。
西川 まず投資案件については、我々が今抱えているビジネスから出てくる利回り以上の案件が多くありますから、投資先に困ることは、まずありません。
社会課題を解決すると同時に、我々にとっても安定資産、収益資産になっていくであろう再生可能エネルギー事業がメイン事業の一つになりつつあります。
ですから、財務規律をいかに守るかということが、今最も腐心しなければならないことです。それについては、ある程度バランスシート(貸借対照表)の外科手術を進めていることで維持できると思います。
また、足元で金利や為替で大きな影響が出ていませんし、コロナ禍の中では低金利で長期固定化を図ってきましたから、当面の資金需要は安定しており、財務規律を守るベースはできているのではないかと。
ですから、投資が増えていく分については、しっかり資産ポートフォリオを入れ替えていけば、十分「強靭化フェーズ」に移行することができると思っています。
─ 再生可能エネルギー電力の発電に関しては、電力会社などの発電事業者を含め、日本でも有数の規模になってきているとのことですが、まだ投資案件はあると。
西川 あります。これまでのいわゆるFIT(固定価格買い取り制度)から、今後はFIP(売電価格に一定の補助額を上乗せして買い取る制度)などに注力していきます。また、大手企業との交渉で、所有する土地などに再生可能エネルギー発電所を建設する「コーポレートPPA(電力販売契約)」も進めています。
また、データセンター開発への取り組みも始めました。データセンターは大量の電力を消費しますが、データセンターがなければ世の中全体が困ってしまいます。そこで北海道石狩市では、我々が供給する再生可能エネルギーで運営する、環境負荷の低いデータセンターの開業に向けて取り組んでいます。
さらに、将来に向けて注目しているのが蓄電です。太陽光や風力など再生可能エネルギーで起こした電気を貯めることができるようになれば、世の中の効率は相当よくなります。こうした技術の進展も含め、今後も事業拡大の可能性はまだまだあると思っています。
─ すでに、埼玉県さいたま市の全家庭分の消費量に匹敵する約1.3ギガワットの定格容量を保有しているそうですが、今後目指す水準は?
西川 25年までにほぼ倍増の2.1ギガワットまで高めたいと考えています。今後、さらなる事業展開をしていくためにも、ある程度の発電事業者としての規模感が大事だと思っていますから、早期に実現していきたいと思います。
社員の意識変革に向け取り組んでいることは?
─ 今後、さらなる成長を目指す上で、社員の意識改革が重要になると思いますが。
西川 そうですね。いま取り組んでいるのは、グループ内のバリューチェーンの「錆び落とし」を、みんなでやろうということです。
元々、私が社長に就任した時に最初にグループ内に言ったことは「我々は事業領域が広いことが特徴だが、それは単なる特徴。これを強みに変えていこう」ということでした。
バリューチェーンの錆び落としをするためには、各事業間でコミュニケーションを取ることから始める必要があります。そして、経営資源を各事業間で連携しさらに生かしていくことが求められます。こうしたことにグループ全体で取り組んでいます。
─ 西川さんが仕事をする上で信条にしていることは何ですか。
西川 かつて人事部にいた時に、物事を思い込んでしまう人が壁に突き当たってしまう姿を何度も見てきました。
ですから「世の中の変化に合わせて、変わることが重要だ」ということは強く思っています。かつてダーウィンが言った「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ」という言葉は、私が物事を考える時のベースになっています。
今、会社を経営する立場になりましたし、特にコロナ禍という変化の激しいタイミングで社長に就任しましたから、この考え方が正しいという実感をさらに深めています。