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再考 日本の安全保障戦略(2回目・中国問題) 元防衛大臣・森本敏

財界オンライン 2023年2月3日 18時0分

民主主義という価値観を主張するだけでは…

 ─ 中国は習近平体制が異例となる3期目に突入したわけですが、2023年の米中関係をどう占いますか。

 森本 2023年の国際情勢は、2024年の前哨戦ともいうべき課題に直面することになると思われます。

 2024年は1月に台湾の総統選挙から始まって、インド、ロシア、ウクライナ、欧州議会の選挙、そして、11月の米国大統領選挙など、政治の節目が到来します。主要国の国内政治は、国際政治の動向にも大きな影響を与えるからです。中国も2023年の春には全人代があり、習近平政権3期目を支える主要人事が行われます。

 世界はすでに米中対立が軸となって、多様で複雑な国際関係を展開しつつあります。冷戦期の米ソ関係は大きく変質し、ロシアはウクライナ戦争の結果の如何にかかわらず、もはや、大国としての地位を維持することはできません。ロシアは中国と部分的に協調しつつも、米中の戦略的対峙関係を構成する際の関数にしかならないからです。

 米国の重視する民主主義という価値観、中国の進める権威主義的色彩の強い覇権主義、この対立構造を取り巻く国際情勢は今後、さらに緊張関係が増大します。

 ─ 価値観と価値観の対立ということですね。

 森本 現状をみると、民主主義体制国の人口は世界の3割、非民主主義体制国の人口は7割を占めており、価値観という基準を当てはめると、民主主義体制国は少数派です。従って、民主主義という価値観を主張するだけでは、国際社会でリーダーシップを発揮することはできません。

 中国は民主主義体制の欠陥を指摘し、ロシアは民主主義体制を新植民地主義と批判し、グローバルサウス(南半球を中心とする途上国)をはじめとする途上国の支持を広げつつあります。ウクライナの人道問題を取り上げても、国連では賛成派が多数を占めることにはなりません。北朝鮮のミサイル発射に対して、制裁をかけようとしても安保理決議は成立しません。中ロの側に立つ国が増えてきていることは間違いないと思います。

 中国は途上国に経済援助や投資を行い、中国軍のアクセスを確保しつつあります。東アフリカのジブチには中国軍の基地を建設し、ソロモンと安全保障協力協定を締結しました。中国艦艇が寄港できる国は増えています。

 習近平国家主席は、このところ米国との関係が冷え込んでいるサウジアラビアを訪問し、ムハンマド皇太子と緊密な関係をつくろうとしています。米国は遅れて、島嶼諸国やアフリカとの関係を構築する努力を始めました。

 2023年3月に、米国は第2回「民主主義サミット」を行う予定です。これが国際秩序と米国の外交政策に、どのような影響を与えるかについては、関心のあるところです。

再考・日本の安全保障戦略(1回目) 元防衛大臣・森本敏


台湾統一は党の歴史的任務

 ─ もう一つ重要なのが、今後の台湾関係です。2024年の総統選挙を控える台湾では、11月の統一地方選は与党民進党が敗北、蔡英文総統は党主席を辞任しました。今後の中台関係がどうなるかですが、中国は台湾をどうしようとしているのか。台湾統一は必ず起こると考えていいのですか。

 森本 先の大戦が終戦を迎え、日本が中国大陸から撤退した後、中国大陸では、毛沢東の共産党軍と蒋介石の国民政府軍が国内戦争に入りました。

 結果として、1949年に共産党主導の中華人民共和国が誕生し、国民党軍は兵員約60万人、追従する人民150万人が台湾に転身して、国民党政府を樹立しました。

 中国共産党としては相手の国民党が台湾に転身し、決戦ができなかったのですが、翌1950年に朝鮮戦争が勃発した際、中国共産党は台湾海峡を渡って台湾の国民党軍を攻撃しようとしますが、米国が空母ミッドウェイを台湾海峡に派遣して、これを牽制・阻止したことがあります。

 中国共産党としては国民党との決着をつけること、すなわち、台湾統一を図ることが共産党の「歴史的使命」であるという認識です。

 ─ 歴史的使命という言葉は重いですね。

 森本 はい。鄧小平氏も1980年代の三大任務として①覇権主義反対②台湾統一③経済建設を掲げていました。習近平国家主席は2021年10月の辛亥革命110周年記念大会で、「祖国統一という歴史的使命は必ず実現しなければならない。実現できる」と言いました。

 2022年10月の中国共産党第20回大会では「台湾統一を解決し、祖国の完全統一を果たすのは党の歴史的任務である。最大の努力を尽くし、平和統一の未来を堅持するが、武力行使の放棄は約束しない。あらゆる必要な措置をとる選択肢を留保する。祖国の完全統一は必ず実現しなければならないし、実現できる」と言い切り、党員の大喝采を受けました。

 ここまで言って台湾統一ができなかったら、習近平国家主席はいかなる責任を負うのでしょうか。ただ、習近平氏が台湾統一を果たせなかったら、共産党支配は消滅するという人がいますが、それは間違いです。

 台湾統一は党の歴史的任務である限り、習近平氏が一度失敗しても、必ず誰かが実現するまで何度でも挑戦します。ということは、台湾統一は必ず起こるということであり、中国が存在する限り、なくなることはないということです。

 日本が是非とも心がけるべきことは、台湾統一は必ず起こるということであり、そのような状況になった後の情勢を念頭に置いて対応策を考え、実行していく必要があるということに尽きると思います。

【2023年の中国経済はどうなる?】柯 隆・東京財団政策研究所主席研究員を直撃!

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