「グループでシナジーを発揮し、1+1=2ではなく、3にも4にもなるようにしていくのが、私の仕事」─2022年10月に、しずおかフィナンシャルグループ初代社長に就いた柴田久氏はこう話す。静岡銀行を中核とするグループだが、証券やコンサルといった子会社を並列にし、地域の課題を解決する新たなサービスを生み出すことを目指している。
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何が起きてもおかしくない時代にあって
「経済環境に関しては一進一退だと見ている」と話すのは、しずおかフィナンシャルグループ社長の柴田久氏。
この3年ほどの間に、日本及び世界はコロナ禍、ウクライナ戦争、さらには欧米の金融引き締めによる変動といった変化にさらされてきた。
その中で、コロナ禍に関しては、感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザ並みの5類に引き下げなど、徐々に正常化が見えてきている中、「人の流れが戻ってきた。静岡においても観光業中心に人の移動が始まっている」(柴田氏)
一方、ウクライナ戦争の影響による原材料価格、エネルギー価格の高騰、インフレ傾向、円安による輸入品の物価上昇は静岡県内の幅広い業種に影響を与えている。
複合的な要因が絡み合う中、「これがよくなれば経済がよくなるということではない。これから先、こういう状態が続いていくのだと思う」と柴田氏。
今は「VUCA」の時代と言われる。Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)が同居しているということだが、「振れ幅の大きい、何が起きてもおかしくない時代に入ってきている」と危機感を見せる。
柴田氏は頭取時代、年始に1年を占うような講演を行っていたが、「今はそうしたコメントがしづらくなっている」。確かに1年前、ロシアによるウクライナ侵攻を予測できた人はいなかった。様々なシナリオを想定して、リスクに備えることが求められている。
そのリスクの1つが金利動向。22年12月に日本銀行が、長期金利の変動許容幅を「プラス・マイナス0.5%」とすることをサプライズ的に発表。株価、為替、金利が大きく動いた。23年4月以降は日銀総裁も交代するだけに、変化の年となる。
「コロナ禍で、中小企業を含めて債務を相当増やした。ここで金利が一気に上がったら、立ち行かなくなる企業が出てくる可能性がある」
ただ、米国や欧州ではインフレを受けて、大幅な利上げを相次いで実施している。日本もこの影響を避けられない。
しかも、23年4月には「異次元の金融緩和政策」を実行してきた日銀総裁の黒田東彦氏が交代する。新総裁の下での金融政策がどうなるのか、多くの関係者が注視している。
「我々としては、ある程度金利が上がっていくことも想定しながら、金利の感応度を下げるようなオペレーションをやっていく必要がある」と備える。
改正銀行法で業務範囲規制が緩和
こうした混沌とした状況下、22年10月には、グループを再編し「しずおかフィナンシャルグループ」を設立した。
持ち株会社であるしずおかFGがグループを監督、静岡銀行の子会社だった静銀経営コンサルティング、静銀リース、静岡キャピタル、静銀ティーエム証券、マネックスグループ(持分法適用会社)を銀行と並列の関係にした。
静岡銀行は05年からグループ経営、連結経営の強化を進めてきた。その結果、グループ会社自体の規模も大きくなり、地方銀行の中ではグループ経営の成功事例との評価を得てきた。
だが「この間、地域のお客さまのニーズが多様化・複雑化している。これまで我々が揃えてきた銀行、グループ会社の機能だけでは多岐にわたる課題を解決することに限界を感じるようになってきていた」(柴田氏)
顧客が変わっていく中、静岡銀行自身も変わっていくことが求められていたのだ。そんな中、21年11月に改正銀行法が施行された。ここで新設された「認定銀行持株会社」の認可を受ければ、特定の業務を営む子会社の保有を認可ではなく届出のみで行うことが可能になる。
「持ち株会社となることで、業務範囲がさらに広げられ、可能性が広がる。非常にいいタイミングで持ち株会社化できた。これを機に、地域の課題をさらに解決できるように、メニューを増やす取り組みをグループ全体でしていかなければならないと考えている」
今後、新たな会社、サービスを生み出していくことを目指すが、中でも今、地域からの強いニーズを感じているのが「人材」関連だという。
今のままでは2030年には労働力が500万人不足するというデータを出す研究機関もある中、経営層から現場まで、「人」の手当てが求められている。「人材ビジネスに関しての課題に取り組むためのメニューを揃えていく必要がある」
実際、23年2月1日には人材ビジネス、ソフトウェア開発を手掛ける企業の子会社化を発表。具体策が動き出している。
さらに、社会のデジタル化が進展する中、地域企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援していくことも視野に入れる。DXは前述の人手不足解消のための1つの手段でもある。
その意味で、柴田氏が持ち株会社社長として意識していることは何か?
「CEO(最高経営責任者)の立場として、グループのシナジーをどう発揮させるかが大きなテーマになる。銀行とグループ会社の間にビジネスチャンスが潜んでいる」と柴田氏。
例えば、顧客が「資産運用をしたい」という時、それ以前は静岡銀行であれば保険商品を中心に、静銀ティーエム証券であれば投資信託や株式を提供してきたが、比重としては、どうしても銀行のサービスを中心に考えがちだった。
今後は顧客のニーズを起点に、銀行、証券、その他のグループ会社を含め、どのサービスを提供するのが最適なのかを考えて、グループで連携していく必要がある。「その時に1+1=2という形ではなく、3にも4にもなるようにしていくのが、私の仕事だと思っている」
これまでは銀行中心のグループ経営の中で、銀行の人材がグループ会社に出向、経営層も銀行の役員経験者が務めるなどしてきた。それを今後は、銀行に頼ることなく自ら採用したり、M&A(企業の合併・買収)などで業容や規模を拡大するといった判断を、グループ会社自らが行うことが求められるだけに、意識変革が必要。
グループ会社の力をフル活用しながら、いかにしずおかFGの企業価値を高めるかが柴田氏に課せられた使命となる。
静岡銀行新頭取が考える銀行の新たな役割
「現状の延長線上に正解がない中で経営のカジを取るということで、難しい時代だと実感している」と話すのは静岡銀行頭取の八木稔氏。八木氏は22年10月の持ち株会社発足と同時に、柴田氏の後を受けて頭取に就任した。
各地銀共通の悩みだが、長引く低金利環境で、従来の預貸金ビジネスでは収益が上げにくくなる中「お客さまの課題を解決した結果として、我々に収益が入ってくるというスタンスで仕事をしなければ、地方銀行の存在意義はなくなってしまう」(八木氏)と危機感を持つ。
その意味で、持ち株会社の中における静岡銀行の役割はどうなっていくと考えているのか。
「静岡銀行は、地域における顧客基盤を多く持ち、長い歴史の中で地域やお客さまとの信頼関係や信用力を培ってきた。だからこそ我々が各社の機能をお客さまにつなぐ〝ハブ〟としての役割を果たす必要があると考えている」(八木氏)
さらに、変化の激しい時代の中では「スピード」が重要視される。そしてスピード感を持って意思決定し、行動していく上でも「ガバナンス」がしっかりしている必要がある。その点で銀行と持ち株会社との関係性は重要になる。
ただ、意識改革は必要。前述のように地銀の中ではグループ経営で先行してきたが、従来の銀行の下に複数の子会社がある体制の中で、八木氏は「気持ちではグループ連携だと思っても、どうしても頭の中は銀行中心になってしまっていた」と限界も感じていたと振り返る。
人材の配置でも、銀行での人員を確保してから、グループ会社の配置を考えるという意識だった。今後は、全体最適での経営資源の配分は持ち株会社の仕事となり「グループ各社は、自立(自律)しながら自らの経営を拡大していくことが求められる」。
他の地銀との連携施策は静岡銀行自身の役割になる。現在同行は山梨中央銀行、名古屋銀行と包括業務提携を結んでいるが、現時点までに協調融資やストラクチャードファイナンス(仕組み金融)における連携で成果が出ている。
それに加えて今後は「山梨中央銀行とは地方創生、名古屋銀行とは自動車産業を中心としたサプライチェーンの構造変革にさらに取り組んでいく必要がある」と八木氏。それ以外との地銀との連携も、必要に応じて検討していく考え。
八木氏は就任以来、行内に繰り返し「地域あっての地域金融機関。最大の基盤は地域の信頼」と訴えている。静岡県出身で、地元で働く八木氏だが「お客さまにお役に立っていることが実感できるいい仕事だと感じる。今は変化の時だが、変わることの喜び、感動を役職員に味わってもらうことも私の仕事」
今、八木氏は率先して顧客を回っているが、まさに地域金融機関の原点を見つめ直す取り組みが続く。
若い世代に期待していること
その意味で、グループ全体に「変化」の意識を定着させるのは、しずおかFG社長である柴田氏の大きな仕事となる。
これまでも、役職員が自身の目指す姿・状態を掲げ、その実現のために定量的な目標を決める新たな評価制度「OKR」(Objectives and Key Results)を導入したり、200人規模のグループ人財交流などを実施し、意識変革を図ってきた。
「意識は、若い人達ほど変えやすいと思う。むしろ、我々を含めて、長く銀行で生活してきた人間の方が大きく意識を変えなければいけないのではないか」
例えば今、デジタル化を受けて、全従業員に業務用スマートフォンを配布して使用しているが、こうしたデバイスなどデジタルに関しては若手の方が対応は早い。「フィナンシャルグループになって、新たなスローガンを掲げて進んでいるが、若い人達が変化への対応をリードしてくれることを期待している」
すでに、銀行と並列になった子会社では、経営陣、社員ともにこれまで以上の積極性や、新しいことに取り組む姿勢が出てきていることが実感できるという。
自社のDXもさらに進めていく必要がある。21年1月にはオープン系技術を採用した「次世代勘定系システム」を稼働させたが、今後は本部、支店、グループ会社などが持つ情報を一元管理して活用できる体制づくりも進めていく考え。
今は、ITプラットフォーマーも金融に参入してくるような変化の激しい時代。柴田氏には「伝統的なビジネスモデルだけでは収益に結びつきづらくなり、規模も小さくなる可能性がある」という危機感がある。
「我々は静岡で生まれ、育てていただいた企業。この地域はどんな環境にあっても守っていかなくてはいけないし、共に歩んでいく。これは将来においても変わらない」
その意味で求められるのは、金融を軸にしながらも、グループ会社も含めて地域の顧客の課題を解決する「ソリューション」を提供する存在であること。
難しい状況に置かれている地銀の中で新たなモデルを示すことができるかが問われる。
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何が起きてもおかしくない時代にあって
「経済環境に関しては一進一退だと見ている」と話すのは、しずおかフィナンシャルグループ社長の柴田久氏。
この3年ほどの間に、日本及び世界はコロナ禍、ウクライナ戦争、さらには欧米の金融引き締めによる変動といった変化にさらされてきた。
その中で、コロナ禍に関しては、感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザ並みの5類に引き下げなど、徐々に正常化が見えてきている中、「人の流れが戻ってきた。静岡においても観光業中心に人の移動が始まっている」(柴田氏)
一方、ウクライナ戦争の影響による原材料価格、エネルギー価格の高騰、インフレ傾向、円安による輸入品の物価上昇は静岡県内の幅広い業種に影響を与えている。
複合的な要因が絡み合う中、「これがよくなれば経済がよくなるということではない。これから先、こういう状態が続いていくのだと思う」と柴田氏。
今は「VUCA」の時代と言われる。Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)が同居しているということだが、「振れ幅の大きい、何が起きてもおかしくない時代に入ってきている」と危機感を見せる。
柴田氏は頭取時代、年始に1年を占うような講演を行っていたが、「今はそうしたコメントがしづらくなっている」。確かに1年前、ロシアによるウクライナ侵攻を予測できた人はいなかった。様々なシナリオを想定して、リスクに備えることが求められている。
そのリスクの1つが金利動向。22年12月に日本銀行が、長期金利の変動許容幅を「プラス・マイナス0.5%」とすることをサプライズ的に発表。株価、為替、金利が大きく動いた。23年4月以降は日銀総裁も交代するだけに、変化の年となる。
「コロナ禍で、中小企業を含めて債務を相当増やした。ここで金利が一気に上がったら、立ち行かなくなる企業が出てくる可能性がある」
ただ、米国や欧州ではインフレを受けて、大幅な利上げを相次いで実施している。日本もこの影響を避けられない。
しかも、23年4月には「異次元の金融緩和政策」を実行してきた日銀総裁の黒田東彦氏が交代する。新総裁の下での金融政策がどうなるのか、多くの関係者が注視している。
「我々としては、ある程度金利が上がっていくことも想定しながら、金利の感応度を下げるようなオペレーションをやっていく必要がある」と備える。
改正銀行法で業務範囲規制が緩和
こうした混沌とした状況下、22年10月には、グループを再編し「しずおかフィナンシャルグループ」を設立した。
持ち株会社であるしずおかFGがグループを監督、静岡銀行の子会社だった静銀経営コンサルティング、静銀リース、静岡キャピタル、静銀ティーエム証券、マネックスグループ(持分法適用会社)を銀行と並列の関係にした。
静岡銀行は05年からグループ経営、連結経営の強化を進めてきた。その結果、グループ会社自体の規模も大きくなり、地方銀行の中ではグループ経営の成功事例との評価を得てきた。
だが「この間、地域のお客さまのニーズが多様化・複雑化している。これまで我々が揃えてきた銀行、グループ会社の機能だけでは多岐にわたる課題を解決することに限界を感じるようになってきていた」(柴田氏)
顧客が変わっていく中、静岡銀行自身も変わっていくことが求められていたのだ。そんな中、21年11月に改正銀行法が施行された。ここで新設された「認定銀行持株会社」の認可を受ければ、特定の業務を営む子会社の保有を認可ではなく届出のみで行うことが可能になる。
「持ち株会社となることで、業務範囲がさらに広げられ、可能性が広がる。非常にいいタイミングで持ち株会社化できた。これを機に、地域の課題をさらに解決できるように、メニューを増やす取り組みをグループ全体でしていかなければならないと考えている」
今後、新たな会社、サービスを生み出していくことを目指すが、中でも今、地域からの強いニーズを感じているのが「人材」関連だという。
今のままでは2030年には労働力が500万人不足するというデータを出す研究機関もある中、経営層から現場まで、「人」の手当てが求められている。「人材ビジネスに関しての課題に取り組むためのメニューを揃えていく必要がある」
実際、23年2月1日には人材ビジネス、ソフトウェア開発を手掛ける企業の子会社化を発表。具体策が動き出している。
さらに、社会のデジタル化が進展する中、地域企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援していくことも視野に入れる。DXは前述の人手不足解消のための1つの手段でもある。
その意味で、柴田氏が持ち株会社社長として意識していることは何か?
「CEO(最高経営責任者)の立場として、グループのシナジーをどう発揮させるかが大きなテーマになる。銀行とグループ会社の間にビジネスチャンスが潜んでいる」と柴田氏。
例えば、顧客が「資産運用をしたい」という時、それ以前は静岡銀行であれば保険商品を中心に、静銀ティーエム証券であれば投資信託や株式を提供してきたが、比重としては、どうしても銀行のサービスを中心に考えがちだった。
今後は顧客のニーズを起点に、銀行、証券、その他のグループ会社を含め、どのサービスを提供するのが最適なのかを考えて、グループで連携していく必要がある。「その時に1+1=2という形ではなく、3にも4にもなるようにしていくのが、私の仕事だと思っている」
これまでは銀行中心のグループ経営の中で、銀行の人材がグループ会社に出向、経営層も銀行の役員経験者が務めるなどしてきた。それを今後は、銀行に頼ることなく自ら採用したり、M&A(企業の合併・買収)などで業容や規模を拡大するといった判断を、グループ会社自らが行うことが求められるだけに、意識変革が必要。
グループ会社の力をフル活用しながら、いかにしずおかFGの企業価値を高めるかが柴田氏に課せられた使命となる。
静岡銀行新頭取が考える銀行の新たな役割
「現状の延長線上に正解がない中で経営のカジを取るということで、難しい時代だと実感している」と話すのは静岡銀行頭取の八木稔氏。八木氏は22年10月の持ち株会社発足と同時に、柴田氏の後を受けて頭取に就任した。
各地銀共通の悩みだが、長引く低金利環境で、従来の預貸金ビジネスでは収益が上げにくくなる中「お客さまの課題を解決した結果として、我々に収益が入ってくるというスタンスで仕事をしなければ、地方銀行の存在意義はなくなってしまう」(八木氏)と危機感を持つ。
その意味で、持ち株会社の中における静岡銀行の役割はどうなっていくと考えているのか。
「静岡銀行は、地域における顧客基盤を多く持ち、長い歴史の中で地域やお客さまとの信頼関係や信用力を培ってきた。だからこそ我々が各社の機能をお客さまにつなぐ〝ハブ〟としての役割を果たす必要があると考えている」(八木氏)
さらに、変化の激しい時代の中では「スピード」が重要視される。そしてスピード感を持って意思決定し、行動していく上でも「ガバナンス」がしっかりしている必要がある。その点で銀行と持ち株会社との関係性は重要になる。
ただ、意識改革は必要。前述のように地銀の中ではグループ経営で先行してきたが、従来の銀行の下に複数の子会社がある体制の中で、八木氏は「気持ちではグループ連携だと思っても、どうしても頭の中は銀行中心になってしまっていた」と限界も感じていたと振り返る。
人材の配置でも、銀行での人員を確保してから、グループ会社の配置を考えるという意識だった。今後は、全体最適での経営資源の配分は持ち株会社の仕事となり「グループ各社は、自立(自律)しながら自らの経営を拡大していくことが求められる」。
他の地銀との連携施策は静岡銀行自身の役割になる。現在同行は山梨中央銀行、名古屋銀行と包括業務提携を結んでいるが、現時点までに協調融資やストラクチャードファイナンス(仕組み金融)における連携で成果が出ている。
それに加えて今後は「山梨中央銀行とは地方創生、名古屋銀行とは自動車産業を中心としたサプライチェーンの構造変革にさらに取り組んでいく必要がある」と八木氏。それ以外との地銀との連携も、必要に応じて検討していく考え。
八木氏は就任以来、行内に繰り返し「地域あっての地域金融機関。最大の基盤は地域の信頼」と訴えている。静岡県出身で、地元で働く八木氏だが「お客さまにお役に立っていることが実感できるいい仕事だと感じる。今は変化の時だが、変わることの喜び、感動を役職員に味わってもらうことも私の仕事」
今、八木氏は率先して顧客を回っているが、まさに地域金融機関の原点を見つめ直す取り組みが続く。
若い世代に期待していること
その意味で、グループ全体に「変化」の意識を定着させるのは、しずおかFG社長である柴田氏の大きな仕事となる。
これまでも、役職員が自身の目指す姿・状態を掲げ、その実現のために定量的な目標を決める新たな評価制度「OKR」(Objectives and Key Results)を導入したり、200人規模のグループ人財交流などを実施し、意識変革を図ってきた。
「意識は、若い人達ほど変えやすいと思う。むしろ、我々を含めて、長く銀行で生活してきた人間の方が大きく意識を変えなければいけないのではないか」
例えば今、デジタル化を受けて、全従業員に業務用スマートフォンを配布して使用しているが、こうしたデバイスなどデジタルに関しては若手の方が対応は早い。「フィナンシャルグループになって、新たなスローガンを掲げて進んでいるが、若い人達が変化への対応をリードしてくれることを期待している」
すでに、銀行と並列になった子会社では、経営陣、社員ともにこれまで以上の積極性や、新しいことに取り組む姿勢が出てきていることが実感できるという。
自社のDXもさらに進めていく必要がある。21年1月にはオープン系技術を採用した「次世代勘定系システム」を稼働させたが、今後は本部、支店、グループ会社などが持つ情報を一元管理して活用できる体制づくりも進めていく考え。
今は、ITプラットフォーマーも金融に参入してくるような変化の激しい時代。柴田氏には「伝統的なビジネスモデルだけでは収益に結びつきづらくなり、規模も小さくなる可能性がある」という危機感がある。
「我々は静岡で生まれ、育てていただいた企業。この地域はどんな環境にあっても守っていかなくてはいけないし、共に歩んでいく。これは将来においても変わらない」
その意味で求められるのは、金融を軸にしながらも、グループ会社も含めて地域の顧客の課題を解決する「ソリューション」を提供する存在であること。
難しい状況に置かれている地銀の中で新たなモデルを示すことができるかが問われる。