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カジュアル衣料品世界1を目指して! ファーストリテイリング・柳井正の「経営はやはり『人』、人への投資を!」

財界オンライン 2023年3月10日 18時0分

時代の転換期にあって、リーダーの責任は重い─。日本だけが、なぜ、この30年間成長しなかったのか? 「その原因を真剣に、経済人として、個人として考えるべきだと思います」とファーストリテイリング会長兼社長・柳井正氏。生活必需品の経営を引き受けて約40年。このコロナ禍にあって2023年8月期も3期連続の増収増益を図る。目指すは『グローバルNo1ブランド』。現在、世界3位のポジションだが、同業のZARA、H&Mとの競争というだけでなく、”情報製造小売業”(Digital Retail Company)として、どう生き抜くかという命題。同社の主力ブランド『ユニクロ』は、日本の”失われた30年”下で成長を遂げてきたわけだが、柳井氏は「常に危機感と共に歩いてきた」と述懐。「会社とは潰れるものだということ。潰れないようにするために経営者がいる」と柳井氏は語る。そして、「世の中はできないことだらけ。それでも、その中で1人でも当事者意識を持って変わっていったら、その人がリーダーシップを発揮して会社が変わる」と強調。最後は、やはり「人」である。

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景気とは関係なく成長する会社は成長を

「景気とは関係なく、成長する会社は成長するし、成長しない会社は成長しない」

 ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は、経営トップとしての約40年間の体験と実践を踏まえて、こう語る。

 1949年(昭和24年)2月7日生まれの柳井氏は今年74歳。山口県宇部市出身。父親が経営する衣料品店「小郡商事」(後のファーストリテイリング)を受け継いだのは1984年(昭和59年)、35歳の時であった。

 そのとき以来、掲げ続けるのが『LifeWear』(究極の普段着)という考え。

 究極の普段着(カジュアルウェア)ということで、「世界中の人が気軽に購入でき、自分らしいライフスタイルをつくることができる服」という思いを、この『LifeWear』に込めてきた。

 そして、人とは違う商品づくり、自分たち独自のものを提供するとして、〝UNIQUE CLOTHING WEARHOUSE〟(ユニークな衣料)を掲げ、ブランドを『UNIQLO』(ユニクロ)にした。

 衣料界の日本1、そして世界1を目指すという目標を持って挑戦、挑戦の連続。もちろん、全て順調に行ったわけではない。失敗、つまずきも体験した。

『ユニクロ』が東京に初めて出店したのは1998年(平成10年)。原宿に出店し、軽くて暖かく、保温性が高い『フリース』で一大ブームを巻き起こした。この頃から、『ユニクロ』が消費者の間に急速に浸透する。

 この原宿出店の前に、同社は初の都心型店舗として、大阪・心斎橋地区のアメリカ村に出店したのだが、この時は、「大失敗だった」と柳井氏が語るほどの惨憺たる結果に終わった。

 この失敗を糧に、柳井氏は商品の質を高めようと、新素材の開発に注力する。

 合繊メーカーであり、化学メーカーの東レと提携しての新素材開発。厳寒期にも温かい素材を開発しようと、東レに掛け合い、試作に着手。

 もう少しいいモノを、もうちょっと工夫していこうと、相手に何度も改善を要求し、一時は東レ開発陣の中にも、「提携を打ち切ろう」という声も出た。

 しかし、東レ側も当時の経営者、前田勝之助氏(元社長、会長)がいて、「諦めずに目標に向かおう」と開発陣を激励。

「本当に前田さんには大変お世話になりました」と柳井氏も振り返るが、要は「できるまで頑張る」という姿勢。

 こうして、保温性があって、軽くて着やすい新素材の『ヒートテック』が生まれ、消費者の気持ちをつかんでいった。大阪・アメリカ村の失敗で、何が失敗の元か、他の店と比べて何が原因かを分析し、新素材開発にこぎ着けたということである。

 このような新素材開発ができたのも、SPA(Speciality Store Retailer of Private Label Apparel、製造小売業)に自分たちはなろう─という思いが柳井氏にはあったからである。

 単に、商品を仕入れて、右から左に流し、口銭を得るという旧来型の経営ではなく、自ら商品開発をするという取り組み。

 今はDX(デジタルトランスフォーメーション)の時代を迎えたが、柳井氏はいち早く、自らの事業形態を『情報製造小売業』(Digital Retail Company)と規定し、手を打ってきた。

 世界の景気が低調だから、自分たちの本業も影響を受けるといったマイナス思考を柳井氏は一切持たない。

「僕はいつも言っているんですが、できない事ばかり考えているけれども、ひょっとしたら、これはできるんじゃないかという事を考えてやるべきじゃないかと。そう思うんですよね。そして最高の状態でできるようになればいいと。大成功した人のほとんどは、そういう事を考えて仕事をやっているんですよ。景気とは関係なく、成長する会社は成長するし、成長しない会社は成長しないと」




「危機感が必要」

 時代は常に動き、環境も常に変化する。その中を生き抜くには、「危機感が必要」という柳井氏の考え方、生き方である。

 環境の激変で、会社は大変な影響を受ける。それなのに、会社にはすでに資産ができて、地位もあると思い込んでいやしないかという見つめ直しが必要。

「ええ、会社自体が安定していると思っている。でも、安定ということはないんですよ」

 かつての高収益で名を馳せた米GMも最近は元気がないし、コダックも経営危機に見舞われ、縮小・整理を余儀なくされた。日本では歴史ある東芝が〝不正会計〟や経営陣の対立からおかしくなり、今、再生の道を歩いている。小売業の領域では、一時代をリードしたダイエーが経営破綻した例もある。

 まさに「会社は潰れるものであり、そのために経営者がいる」という柳井氏の経営観。求められるのは、危機感である。

「危機感がなかったら、会社を経営する意味がないですよね。いつかは全員が死ぬ。人の命は有限ですから、生きている間にできる事は全部やろうと。そういう事です。会社自体は続いていかないといけない」

 柳井氏は、「会社は潰れるもの。そうならないように常に危機感を持って仕事に当たる」と語り、「この経営の本質は古今東西同じで、変わらない」と強調する。

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「人」への投資

 力の源泉は「人」である。

 ファーストリテイリングは本社や国内で働く約8400人を対象に、年収を最大4割引き上げると1月中旬に発表した。その狙いは何か?

 そこには、コロナ禍が3年続き、今年で4年目に入ったが、日本の本社や国内の『ユニクロ』などで働く社員が「国内の事ばかり考えて、内向きになっている」という柳井氏の危機感がある。

 そこで、賃金水準の引き上げを図り、前向き気運をつくり直そうという考えである。

 人への投資─。引き上げ幅は数%から40%までと幅広い。つまり、その人の仕事に対して取り組む姿勢だとか、実績を評価して、引き上げ幅を決める。

 海外の『ユニクロ』勤務の社員の賃金が、日本に比べて〝割高〟になってきていた体系を見直すという狙いもある。今後、グローバル経営を推進していくためにも、どの国、どの地域からでも、優秀な人材を集めるための措置でもある。

 日本は安い─。2022年、日本では円安が急速に進み、一時期、1ドル・150円の水準にまで円は売られた。資源・エネルギーをはじめ、輸入物価はハネ上がり、家計を苦しめる。

「今、日本は世界に対して、バーゲンセールをやっている感じ」という柳井氏の現状認識。そういう状況下を生き抜くには、「付加価値を上げる人をもっと採用しなくてはいけない」という経営観である。

 そして、柳井氏は明確に宣言する。

「全員をきっちり評価して、評価した人を抜擢する。評価できない人は評価できないと、はっきりすることです」

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日本再生に必要なもの

 個々の企業の踏ん張りが日本再生につながっていく。〝失われた30年〟の中で、日本の相対的地位低下は急速に進む。日本のGDP(国内総生産)が世界GDPに占める比率はピーク時(1994)に17%強あったのが、2022年には5%台にまで低下してしまった。

 1人当たりのGDPでは昨年、台湾に抜かれた。生産性をいかに上げていくかという課題を今、日本は背負う。

 日本はなぜ、地位低下を招いたのか? という問いに、長らく産業政策に携わってきた福川伸次・東洋大学総長(元通産事務次官)は、「1980年代のバブル期に日本の経営者に驕りが生じた」と分析。今こそ、「人的投資や研究開発投資を進め、今の空気を変えないといけない」と語る。

 それは、柳井氏の「常に危機感が必要」という考え方と重なる。

「1人ひとりが当事者意識をもってチャレンジしていくことが大事」(柳井氏)ということだ。

 伸びている人材はどういう人か? という問いに、「周囲の人のことを考えて、全体観と長期観、そして自分自身も成長することに情熱を持っている人ですね」と柳井氏。

 経済リーダーには覚悟と使命感、そして社員1人ひとりも志と情熱が求められる時代だということである。

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