年齢や勤続年数にかかわらず報酬を職種ごとに設定
「今はVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と言われ、個人のキャリア意識が多様化する時代に変化している。社員の意識をいかにモチベートし、力を発揮させるかということで、人事制度も変化していかないといけないし、社内のカルチャーも大きく変えていかなければならない」
こう語るのは、パナソニックホールディングス(HD)の子会社で、パナソニック コネクト執行役員常務CHRO(最高人事責任者)の新家伸浩氏。
企業向けシステム開発などを手掛けるパナソニック コネクトが、4月から新たに職務を明確化して成果に応じた報酬を支払う「ジョブ型人事制度」を導入する。これまでの年功序列を基本とするメンバーシップ型の制度では、同社が求める専門性の高い人材の採用や育成が困難になってきたことが大きい。
2022年4月からパナソニックグループは持株会社制に移行。事業会社ごとに、自由に様々な施策や制度を展開できるようになった。今回の同社の働き方改革もその一環であり、全社員一斉にジョブ型制度を導入するのは、パナソニックグループでは初めての試みだ。
現在、パナソニックグループでは、「車載電池」、「サプライチェーン(供給網)ソフトウェア」、「空質空調」の3つを成長領域に位置づける。
パナソニック コネクトは、サプライチェーンソフトウェア領域の中核となる会社。傘下には2021年に買収した米ソフトウェア会社ブルーヨンダーがあり、買収総額は約8500億円。グループにとっては過去最大級のM&A(合併・買収)で、何としても買収の成果を出さなければならない。
それだけに、今回の人事制度改革にかける思い入れも強く、新家氏は「会社を成長させていくためには、われわれ人事が変わり、会社を変えていくことが重要。人を管理する人事から人を生かす人事に、わたしたちも変わっていきたい」と語る。
同社では約1400のジョブディスクリプション(JD=職務記述書)を定義。全てのJDを公開し、組合員を含む全社員約1万名へ一斉導入する。職務ごとに必要なスキルや能力を明確にして、社員のチャレンジ意欲を喚起させることが狙いだ。
これまでは、どうしても会社全体で昇格できる人数枠があり、現場の思いとは別に会社が人材をコントロールしてきた。
しかし、新制度に移行することにより、「これまで先輩がいるからまだ自分は上がれないなと諦めていた若手が自由に挑戦できるようになることで、複数人が同時に昇格するとか、全体のベースが上がるような仕組みに変わっていければ」(新家氏)。
また、これまでは社内の公平性を重視しており、一律的な報酬設定をしていた。このため、一部の職種や等級においては、競合他社と比較して報酬の競争力に劣る場面もみられたため、年齢や勤続年数にかかわらず、報酬を職種ごとに設定。仕事別に競争力のある報酬水準に変えようとしている。
「人によっては、月額報酬が50%アップする事例もありうる。これまで優秀人材の確保がなかなかできないとか、社員が挑戦しても報われないという場面もあったが、新制度においては競争力ある報酬体系を実現できているし、挑戦する社員には報酬で報いるという環境を整えていくことが大事」(新家氏)
【パナソニックHD】楠見雄規が語る”創業者・松下幸之助の思いを今一度”
会社が個人の人生を保証することが難しくなる中で…
日本では伝統的に終身雇用・年功序列を基本とし、実務にあたってから適職を見定めていくメンバーシップ型の雇用が一般的だった。しかし、近年は生産性の低さや専門性に欠けるなどの課題が露呈。三菱ケミカルホールディングスや日立製作所などの大企業を中心に、欧米で主流のジョブ型雇用を採用する企業が増えつつある。
リクルートの研究機関・就職みらい研究所所長の栗田貴祥氏は「日本型雇用の特徴は、個人のキャリアは会社に委ねるのが普通で、会社の言う通りに働くことによって、自分のキャリアアップがある意味で担保されていた。ただ、今は日本経済がゼロ成長と言われる時代になり、会社が個人の人生を保証することが難しくなっている」と指摘。
それだけに、個人も会社に頼るのではなく、自らキャリア設計を考え、専門領域できちんとキャリアを磨き上げる必要があるという。その上で、栗田氏は「ジョブ型、メンバーシップ型どちらがいいという話ではなく、会社自体が多様な選択肢を用意してあげて、多様な価値観を持つ個人が働きやすいルールづくりが必要だと思う」と語る。
パナソニックHDは、日本の大企業で初めて週休2日制を導入したことでも知られる。創業者の松下幸之助氏が1965年(昭和40年)に海外の事例を参考に導入したもので、今ではスタンダードな働き方となった。
国内外で約24万人が働くパナソニックグループ。今回のパナソニック コネクトの取り組みは、あくまで子会社1社の事例であるが、グループ全体の働き方改革の試金石とも言える。明確な成果が出れば、将来的には全社的な導入にも発展するかもしれない。
「社員が自らキャリアを描き、学習して、挑戦する〝ラーニングカルチャー〟の醸成が大事。われわれも社員に対して、様々な学びの場を提供し、社員がチャレンジして成果を上げていくという好循環を生み出せるようにしていく」と語る新家氏。
ジョブ型の導入は、日本の伝統的な雇用制度を見直す一つの契機と言っていい。時代や社会が大きく変わっていく中で、雇用システムの変革がパナソニックという伝統的な企業の変革を後押しすることはできるか。
なぜ、日立は国内でも『ジョブ型』雇用を導入するのか?
「今はVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と言われ、個人のキャリア意識が多様化する時代に変化している。社員の意識をいかにモチベートし、力を発揮させるかということで、人事制度も変化していかないといけないし、社内のカルチャーも大きく変えていかなければならない」
こう語るのは、パナソニックホールディングス(HD)の子会社で、パナソニック コネクト執行役員常務CHRO(最高人事責任者)の新家伸浩氏。
企業向けシステム開発などを手掛けるパナソニック コネクトが、4月から新たに職務を明確化して成果に応じた報酬を支払う「ジョブ型人事制度」を導入する。これまでの年功序列を基本とするメンバーシップ型の制度では、同社が求める専門性の高い人材の採用や育成が困難になってきたことが大きい。
2022年4月からパナソニックグループは持株会社制に移行。事業会社ごとに、自由に様々な施策や制度を展開できるようになった。今回の同社の働き方改革もその一環であり、全社員一斉にジョブ型制度を導入するのは、パナソニックグループでは初めての試みだ。
現在、パナソニックグループでは、「車載電池」、「サプライチェーン(供給網)ソフトウェア」、「空質空調」の3つを成長領域に位置づける。
パナソニック コネクトは、サプライチェーンソフトウェア領域の中核となる会社。傘下には2021年に買収した米ソフトウェア会社ブルーヨンダーがあり、買収総額は約8500億円。グループにとっては過去最大級のM&A(合併・買収)で、何としても買収の成果を出さなければならない。
それだけに、今回の人事制度改革にかける思い入れも強く、新家氏は「会社を成長させていくためには、われわれ人事が変わり、会社を変えていくことが重要。人を管理する人事から人を生かす人事に、わたしたちも変わっていきたい」と語る。
同社では約1400のジョブディスクリプション(JD=職務記述書)を定義。全てのJDを公開し、組合員を含む全社員約1万名へ一斉導入する。職務ごとに必要なスキルや能力を明確にして、社員のチャレンジ意欲を喚起させることが狙いだ。
これまでは、どうしても会社全体で昇格できる人数枠があり、現場の思いとは別に会社が人材をコントロールしてきた。
しかし、新制度に移行することにより、「これまで先輩がいるからまだ自分は上がれないなと諦めていた若手が自由に挑戦できるようになることで、複数人が同時に昇格するとか、全体のベースが上がるような仕組みに変わっていければ」(新家氏)。
また、これまでは社内の公平性を重視しており、一律的な報酬設定をしていた。このため、一部の職種や等級においては、競合他社と比較して報酬の競争力に劣る場面もみられたため、年齢や勤続年数にかかわらず、報酬を職種ごとに設定。仕事別に競争力のある報酬水準に変えようとしている。
「人によっては、月額報酬が50%アップする事例もありうる。これまで優秀人材の確保がなかなかできないとか、社員が挑戦しても報われないという場面もあったが、新制度においては競争力ある報酬体系を実現できているし、挑戦する社員には報酬で報いるという環境を整えていくことが大事」(新家氏)
【パナソニックHD】楠見雄規が語る”創業者・松下幸之助の思いを今一度”
会社が個人の人生を保証することが難しくなる中で…
日本では伝統的に終身雇用・年功序列を基本とし、実務にあたってから適職を見定めていくメンバーシップ型の雇用が一般的だった。しかし、近年は生産性の低さや専門性に欠けるなどの課題が露呈。三菱ケミカルホールディングスや日立製作所などの大企業を中心に、欧米で主流のジョブ型雇用を採用する企業が増えつつある。
リクルートの研究機関・就職みらい研究所所長の栗田貴祥氏は「日本型雇用の特徴は、個人のキャリアは会社に委ねるのが普通で、会社の言う通りに働くことによって、自分のキャリアアップがある意味で担保されていた。ただ、今は日本経済がゼロ成長と言われる時代になり、会社が個人の人生を保証することが難しくなっている」と指摘。
それだけに、個人も会社に頼るのではなく、自らキャリア設計を考え、専門領域できちんとキャリアを磨き上げる必要があるという。その上で、栗田氏は「ジョブ型、メンバーシップ型どちらがいいという話ではなく、会社自体が多様な選択肢を用意してあげて、多様な価値観を持つ個人が働きやすいルールづくりが必要だと思う」と語る。
パナソニックHDは、日本の大企業で初めて週休2日制を導入したことでも知られる。創業者の松下幸之助氏が1965年(昭和40年)に海外の事例を参考に導入したもので、今ではスタンダードな働き方となった。
国内外で約24万人が働くパナソニックグループ。今回のパナソニック コネクトの取り組みは、あくまで子会社1社の事例であるが、グループ全体の働き方改革の試金石とも言える。明確な成果が出れば、将来的には全社的な導入にも発展するかもしれない。
「社員が自らキャリアを描き、学習して、挑戦する〝ラーニングカルチャー〟の醸成が大事。われわれも社員に対して、様々な学びの場を提供し、社員がチャレンジして成果を上げていくという好循環を生み出せるようにしていく」と語る新家氏。
ジョブ型の導入は、日本の伝統的な雇用制度を見直す一つの契機と言っていい。時代や社会が大きく変わっていく中で、雇用システムの変革がパナソニックという伝統的な企業の変革を後押しすることはできるか。
なぜ、日立は国内でも『ジョブ型』雇用を導入するのか?