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【記者座談会】値上げできている企業、値上げできない企業の差とは?

財界オンライン 2023年4月17日 18時0分

原材料価格が高騰する中で、新価格体系をどうつくるか─。”失われた30年”で低価格帯に慣れてしまった中で、各企業が値上げを表明。だが、フタを開けてみると業績に差が出てきている。値上げに成功した企業は何が巧みだったのか? 4人の業界記者が分析する。


好調なマック、すき家 厳しい環境のリンガーハット

 A 外食・流通で値上げが止まらないよね。値上げによって企業の明暗も分かれているよ。

 B 日本マクドナルドは1月にメニューの約8割を値上げ、でも既存店客数は前年比で4%増えたんだよ。昨年も2回値上げしたんだけど増収増益です。

 D 郊外の同社のお店ではドライブスルーが目立つよね。

 B ええ。同社はコロナ以前からテイクアウトやドライブスルーに対応していたし、コロナ禍ではメイン客層となるファミリー層の非接触ニーズを受けてモバイルオーダーも強化したんだよ。レジに並ばずに商品を受け取ることができるからね。

 メニューも毎月「期間限定」と銘打った商品を発売。定番メニューを値上げする一方、ごはんバーガーや月見バーガー、アジアをテーマにした商品などを前面に打ち出した。一方で低価格の商品の価格を据え置いたりしている。だから消費者の「値上げした」というイメージをかき消しているのかもしれないね。

 A 面白いのは「同社のハンバーガー1個いくらですか?」と聞かれても、意外と答えられない人が多い。商品の相場観をうまくぼやかしているんだよ。

 あとは牛丼チェーンも好調。「すき家」は並盛を50円値上げしたんだけど、客数は前年のレベルを維持した。トッピングを追加してもらうことで商品自体の単価を上げることに成功。この戦略は「カレーハウスCoCo壱番屋」が巧みだね。

 B 一方で値上げして業績が苦しくなったのがリンガーハット。同社は昨年2回値上げしたけど売り上げは減収し、営業赤字に。マックと同様に「夏野菜と豚しゃぶ冷やしちゃんぽん」などの新商品も投入したりしたんだけど、定番商品との差別化が図れなかったようです。

 C それまで絶好調だった回転すしも失速気味だよね。「スシロー」が1皿110円を120円に値上げしたら売り上げも下がってしまった。同社の場合は販促を巡る不祥事もあったけど。

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 B 小売業界では、セブン&アイ・ホールディングスが、第3四半期(22年3―11月期)決算の営業利益で前年同期比30.4%増の大幅増益となった。けん引役となったのは、海外コンビニエンスストア事業で、事業別の営業利益では国内コンビニ事業を上回った。今後は海外に成長の軸足を移そうとしており、それが功を奏した形だね。

 A ライバルのイオンも第3四半期の営業利益は同26.3%増と過去最高益を記録。ディベロッパー事業やドラッグストア事業が好調だったね。

 D イオンはプライベートブランド(PB=自主企画)商品約5千品目の価格据え置きを実施しているよね。昨夏、一部商品を値上げしたけど、その後はどうなっているの?

 B 昨年10月以降、ナショナルブランド(NB)の値上げが相次ぐ中、消費者の生活防衛意識が高まったことで、同社のPB『トップバリュ』は前年同期比6.7%増と伸長している。

 B そうなんだ。PB商品は集客に一役買っているだけに、今後は付加価値の高いPB開発を強化するみたいだよ。

 一方、業態も決算期も違うから同列に論じることはできないけど、良品計画の第1四半期(2022年9―11月期)は、営業利益が同54.9%減になった。良品計画も価格の据え置きを維持してきたけど、利益が半減しては元も子もない。そこが悩ましいところで、この春夏商品は平均で約25%値上げすることを決めていて、収益改善を図る考えだよ。

 A 小売業界では、値上げに慎重な企業がまだまだ多い。これまでの経験上、競合店も値上げしてくれればいいけど、自分のところだけ値上げすると、周りの店に顧客を奪われてしまうという不安が大きいからだ。

 B 各社ともこれだけの原材料価格の高騰で、我慢比べは限界にきている。いち消費者としては値上げしないことは嬉しいけれど、日本経済という観点で考えたら、今は商品値上げから賃上げ、デフレ脱却を目指すための正念場。消費環境は厳しい状況がしばらく続きそうだね。

 A 産業界全般で物価高による値上げが避けて通れなくなっているけど、値上げしても需要がついてくるような戦略を打ち出せるか。そこが勝負の分かれ目になってくるね。

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