「世界から人が集まる八重洲へ」─。これまでJR東京駅の目の前でありながら、丸の内に比べて地味な存在だった八重洲。歴史的に土地の区画が小さく、再開発がしにくい場所とされてきたことも要因。その八重洲で大規模複合開発「東京ミッドタウン八重洲」を全面開業させた三井不動産。オフィス、商業の新たな「顔」として、日本及び世界の人々を集めるための試行錯誤が始まった。
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リアル空間の価値が問い直される中で
「世界中から人や情報が集まり、交わり、それが新しい価値を生み出して、世界に発信していく。そういう街にしていきたい」と話すのは三井不動産社長の菰田正信氏。
2023年3月10日、三井不動産が「八重洲二丁目北地区市街地再開発組合」の一員として開発を推進してきた「東京ミッドタウン八重洲」がグランドオープンした。
同社の複合施設「東京ミッドタウン」ブランドでは六本木、日比谷に続く3施設目となる。JR東京駅に直結する地上45階の大規模複合ビルで、オフィス、商業店舗に加えて、日本初進出となる「ブルガリ ホテル 東京」、中央区立城東小学校など、これまでの東京ミッドタウン以上に多様な用途で構成される。
新幹線、在来線はもちろんのこと、地上にあったバスターミナルを地下に移動。首都高速「八重洲線」に直結することで羽田空港まで約15分という高い利便性を実現している。
特に注目されるのはオフィス。新型コロナウイルスによって、オフィスのあり方は見直しを迫られた。リモートワークの普及もあって、一部からは「オフィス不要論」が持ち上がることもあったほど。
菰田氏は「リモートの有用性が確認された一方、リアル空間でのコミュニケーションの重要性が再認識された。リアル空間の価値を最大限高めることで、ワーカーの方々が自ら、最適な場所や時間を選択する柔軟な働き方を提案していく」と話す。
ミッドタウン八重洲内には三井不動産が運営するシェアオフィスや会議室が入っており、自社のオフィス以外にも働く場所として選択ができるようにした。
他にもビジネス交流施設やフィットネスジム、ビジネスラウンジ、前述のブルガリ ホテルや商業店舗も含め、働く人々が「行きたくなるオフィス」を目指している。
コロナ禍を踏まえたオフィスとして、首都圏大規模オフィスでは初めて「完全タッチレスオフィス」を導入し、エントランスから執務室までの入館導線の完全タッチレス化を実現した。
「不動産をモノとしてではなくサービスとして提供する『リアルエステート・アズ・ア・サービス』を実践していく」と菰田氏は強調する。
この八重洲では、今回のミッドタウン八重洲以外にも2つの大型再開発が進行中。北側から、東京建物が主導する「東京駅前八重洲一丁目東B地区」(25年度竣工予定)、三井不動産が参画する「八重洲二丁目中地区」(28年度竣工予定)である。「これらの3つの大規模再開発で、八重洲エリアはさらに大きな変貌を遂げることになる」(菰田氏)
残る再開発ではサービスアパートメント、インターナショナルスクール、劇場、医療施設など、これも今までの八重洲にはなかった国際レベルの機能が加わることになる。これによって、世界から人を集める「行きたくなる街」になることを目指す。
これに三井不動産を始めとした様々なデベロッパーが日本橋、京橋で進めている複数の再開発が連携、「1つのエリアとして生まれ変わる」(菰田氏)というのが、このエリアの将来像。
元々、歴史的に大名屋敷だった丸の内は土地の区画が大きい。さらに国からの払い下げの土地を引き継いだ三菱地所が主導して開発を進められるというメリットがあった。一方、八重洲は町人の街だったこともあり、今でも小規模なオフィスビルや様々な商店が立ち並ぶ。そのため区画が小さく、権利者が多い。
その意味で、三井不動産のミッドタウン八重洲は、八重洲エリアの賃料水準も含め、価値を高める存在になることができるかが問われている。
ミッドタウン八重洲は当初、テナントリーシングが苦戦しているという見方がされていた。だが、蓋を開けてみれば「満床」(菰田氏)での開業を迎えることができた。
この結果には不動産業界から驚きが走った。「どうやって実現したのだろうかと思った。オフィスマーケットが悪化している中でのリーシングだったので、満床ということであれば上々のスタートと言えるのではないか」と話すのはニッセイ基礎研究所主任研究員の佐久間誠氏。
今回のように、その地域における新たな再開発でのオフィスリーシングは、マーケットの変動の影響を受けやすい。活況の時には何の問題もなく埋まるが、足元のような混沌とした状況下ではなかなかテナントが決まりにくいからだ。
21年9月頃から、都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)の空室率は6%台半ばと、ほぼ横ばいで推移してきた。その背景は「21年、22年に大きな供給がなかったからで、オフィス需要が改善しているわけではない」(佐久間氏)。
23年には森ビルの「虎ノ門ヒルズステーションタワー」、「麻布台ヒルズ」、東急不動産の「渋谷サクラステージ」など大規模複合施設が竣工。一部で言われた「2023年問題」というほどではないにせよ、大規模オフィスの供給によって空室率の上昇は避けられないという見方は強く、市況の好転には時間がかかると見られる。
一部の調査では、中堅・中小企業にはオフィスの拡張ニーズが見られる一方、大企業には縮小を志向するところもある。その意味で、これから選ばれるオフィスであるためには、やはり他との差別化が必須条件。
今後、八重洲独自の魅力を掘り起こしていくこと、それがこのエリア、ひいては東京の都市競争力向上につながることになる。
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リアル空間の価値が問い直される中で
「世界中から人や情報が集まり、交わり、それが新しい価値を生み出して、世界に発信していく。そういう街にしていきたい」と話すのは三井不動産社長の菰田正信氏。
2023年3月10日、三井不動産が「八重洲二丁目北地区市街地再開発組合」の一員として開発を推進してきた「東京ミッドタウン八重洲」がグランドオープンした。
同社の複合施設「東京ミッドタウン」ブランドでは六本木、日比谷に続く3施設目となる。JR東京駅に直結する地上45階の大規模複合ビルで、オフィス、商業店舗に加えて、日本初進出となる「ブルガリ ホテル 東京」、中央区立城東小学校など、これまでの東京ミッドタウン以上に多様な用途で構成される。
新幹線、在来線はもちろんのこと、地上にあったバスターミナルを地下に移動。首都高速「八重洲線」に直結することで羽田空港まで約15分という高い利便性を実現している。
特に注目されるのはオフィス。新型コロナウイルスによって、オフィスのあり方は見直しを迫られた。リモートワークの普及もあって、一部からは「オフィス不要論」が持ち上がることもあったほど。
菰田氏は「リモートの有用性が確認された一方、リアル空間でのコミュニケーションの重要性が再認識された。リアル空間の価値を最大限高めることで、ワーカーの方々が自ら、最適な場所や時間を選択する柔軟な働き方を提案していく」と話す。
ミッドタウン八重洲内には三井不動産が運営するシェアオフィスや会議室が入っており、自社のオフィス以外にも働く場所として選択ができるようにした。
他にもビジネス交流施設やフィットネスジム、ビジネスラウンジ、前述のブルガリ ホテルや商業店舗も含め、働く人々が「行きたくなるオフィス」を目指している。
コロナ禍を踏まえたオフィスとして、首都圏大規模オフィスでは初めて「完全タッチレスオフィス」を導入し、エントランスから執務室までの入館導線の完全タッチレス化を実現した。
「不動産をモノとしてではなくサービスとして提供する『リアルエステート・アズ・ア・サービス』を実践していく」と菰田氏は強調する。
この八重洲では、今回のミッドタウン八重洲以外にも2つの大型再開発が進行中。北側から、東京建物が主導する「東京駅前八重洲一丁目東B地区」(25年度竣工予定)、三井不動産が参画する「八重洲二丁目中地区」(28年度竣工予定)である。「これらの3つの大規模再開発で、八重洲エリアはさらに大きな変貌を遂げることになる」(菰田氏)
残る再開発ではサービスアパートメント、インターナショナルスクール、劇場、医療施設など、これも今までの八重洲にはなかった国際レベルの機能が加わることになる。これによって、世界から人を集める「行きたくなる街」になることを目指す。
これに三井不動産を始めとした様々なデベロッパーが日本橋、京橋で進めている複数の再開発が連携、「1つのエリアとして生まれ変わる」(菰田氏)というのが、このエリアの将来像。
元々、歴史的に大名屋敷だった丸の内は土地の区画が大きい。さらに国からの払い下げの土地を引き継いだ三菱地所が主導して開発を進められるというメリットがあった。一方、八重洲は町人の街だったこともあり、今でも小規模なオフィスビルや様々な商店が立ち並ぶ。そのため区画が小さく、権利者が多い。
その意味で、三井不動産のミッドタウン八重洲は、八重洲エリアの賃料水準も含め、価値を高める存在になることができるかが問われている。
ミッドタウン八重洲は当初、テナントリーシングが苦戦しているという見方がされていた。だが、蓋を開けてみれば「満床」(菰田氏)での開業を迎えることができた。
この結果には不動産業界から驚きが走った。「どうやって実現したのだろうかと思った。オフィスマーケットが悪化している中でのリーシングだったので、満床ということであれば上々のスタートと言えるのではないか」と話すのはニッセイ基礎研究所主任研究員の佐久間誠氏。
今回のように、その地域における新たな再開発でのオフィスリーシングは、マーケットの変動の影響を受けやすい。活況の時には何の問題もなく埋まるが、足元のような混沌とした状況下ではなかなかテナントが決まりにくいからだ。
21年9月頃から、都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)の空室率は6%台半ばと、ほぼ横ばいで推移してきた。その背景は「21年、22年に大きな供給がなかったからで、オフィス需要が改善しているわけではない」(佐久間氏)。
23年には森ビルの「虎ノ門ヒルズステーションタワー」、「麻布台ヒルズ」、東急不動産の「渋谷サクラステージ」など大規模複合施設が竣工。一部で言われた「2023年問題」というほどではないにせよ、大規模オフィスの供給によって空室率の上昇は避けられないという見方は強く、市況の好転には時間がかかると見られる。
一部の調査では、中堅・中小企業にはオフィスの拡張ニーズが見られる一方、大企業には縮小を志向するところもある。その意味で、これから選ばれるオフィスであるためには、やはり他との差別化が必須条件。
今後、八重洲独自の魅力を掘り起こしていくこと、それがこのエリア、ひいては東京の都市競争力向上につながることになる。