「少なくとも今年度上期は厳しい状況が続く」─全国銀行協会会長の加藤勝彦氏はこう指摘する。米国で中堅銀行2行が破綻、欧州でも大手投資銀行が経営危機に陥るなど、経済環境が激変している。こうした中で銀行の役割としては「お取引先を資金供給で支援するのが『一丁目一番地』」と加藤氏。日本で銀行が発足して150年という節目にあって、危機時の銀行の役割とは─。
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米銀の破綻は金融システムに波及するか?
─ 欧米の金融引き締めの副作用などもあり、2023年3月には米国ではシリコンバレーバンク(SVB)などが破綻、欧州では大手投資銀行のクレディ・スイスが経営危機となって同業のUBSに買収されるなど厳しい環境となっています。これが金融危機の入り口になるかどうかが懸念されています。現状と今後をどう見ますか。
加藤 状況をしっかり見ていく必要があると思っています。端的に言って、米国の2行の破綻が個別行の問題と捉えていいのか、金融システムに影響するものなのかということです。
足元の我々の認識では個別行の問題と捉えています。SVBにはALM(Asset Liability Management=資産・負債の総合管理)で甘さがあったという認識です。ただ、風評などがどう波及していくか。米国の金利はこの1年で0%台から4%を超える水準になりましたから、副作用としての歪みは当然あるのではないかと思っています。
─ これまで米国ではインフレ抑制のために金利引き上げを進めてきましたが。
加藤 仮に危機が広がったとすると、それに対応するために流動性を供給しますから、利上げの継続とは矛盾する形になるので難しい。そうなるとインフレをなかなか退治できないということにもなりかねません。
一方で違う見方もあります。元々、米国では融資が厳格化されていました。これによって景気が悪化し、インフレが収まるというシナリオですが、これによって失業率悪化など厳しい景気後退に陥る「ハードランディング」になるのか、景気後退を避けながら物価が落ち着く「ソフトランディング」になるのか次第で、かなり雰囲気が変わってくると思います。
繰り返しですが、米国で起きたのは個別行の問題だと考えていますが、事態を矮小化することなく、しっかり注視することが必要です。これは欧州で起きている事態についても同様です。
─ 金融危機、景気後退の懸念はあると見ますか。
加藤 金融システムに大きな影響を与えることになれば、もちろんリセッション(景気後退)ということになりますし、個別銀行の問題として落ち着いたとしても、そもそもインフレを抑えるために金利を上げてきたわけですから、一定の覚悟を持って、リセッションを起こしてでもインフレを退治するというのが米国であり欧州の姿勢だと見ていますから、少なくとも今年度上期については厳しい状況が続くのではないかと思います。
─ 日本も、欧米で起きている事態とは無関係ではいられないと思いますが、今後の動きをどう見通していますか。
加藤 日本経済にも不透明感はありますが、昨年対比で言えば、コロナによる行動制限が解除され、インバウンド(訪日外国人観光客)も戻ってきたことはプラスで、経済状況は昨年に比べてよくなるのではないかと見ています。
ただ、不透明な部分があります。特に製造業では依然として半導体不足が続いていますし、マーケットである欧米の経済が今後どうなるかによって大きく変わってくるのではないかと思っていますから、この点はマイナス要因としてあると思います。
日銀の新体制をどう見ているか?
─ 厳しい環境下での全国銀行協会会長就任ですが、改めて抱負を聞かせて下さい。
加藤 環境変化で言えば、日本において3つあります。第1に少子化によって市場が縮小してくる。かつ、人手不足が顕在化しています。第2にサステナビリティなど、1人ひとりの意識、価値観が変化し、行動も変わってきている。
第3にデジタルの進化です。コロナ禍によってさらに加速されましたが、人口減の日本の人手不足を解消する、あるいはユーザーの利便性を高めるツールとなります。これらが大きなメガトレンドだと見ています。
これに加えて、22年2月からのロシアのウクライナ侵攻などの地政学リスクが顕在化しています。これによってもはや、グローバル経済というよりブロック経済化が進み、そのブロックの中でサプライチェーンを強化する流れになっていく。
こうした様々な要因が重なった結果、各国の金融政策、財政政策が大きく変化をしています。先程申し上げたように、その中で様々な歪みが起きている。
こうした大きな外部環境の中で日本政府は「新しい資本主義」の実現に向けて様々な取り組みをしています。我々はその中の課題解決、政府や他の業界と連携しながら、金融で経済を支えていくことが大きな役割です。
実は今年は第一国立銀行(現みずほ銀行)の設立、つまり日本に銀行ができて150年という年です。これまでの間、銀行界として日本経済を支えてきたという自負があります。不透明な状況ですし、すぐには解決できない課題も多くありますが、しっかり道筋を付け、明るい未来につなげていくという思いで活動していきたいと思います。
─ 4月9日には植田和男氏が日本銀行総裁に就任します。「マイナス金利」や「イールドカーブコントロール」(YCC、長短金利操作)といった政策が修正されるかどうかによって銀行にもプラス・マイナスの影響が出ると思いますが。
加藤 金融政策は日銀の専管事項ですから、全銀協会長としてのコメントはできませんが、個人の立場でお答えします。
日本経済がまだまだ本格基調ではない中、物価や賃金の安定的な上昇がしっかり確認できないと金融緩和政策の方向転換は難しいのではないかと思いますから、方向転換には時間がかかると見ています。
足元で東京都区部で消費者物価が4%台になっていますし、一部では価格転嫁も始まるなど全てがコストプッシュではありませんが、欧米の経済が先程申し上げたような状況であることを考えると、安定的な上昇には疑問符が付きます。
また賃金は、足元で多くの企業がベースアップも含め引き上げを行っていますが、今の経済環境を考えると、定着には時間がかかるのではないかと。その意味で金融緩和政策は当面続くものと見ています。
─ 日銀新体制の布陣に対する印象は?
加藤 植田さんはマクロ経済、金融経済学の第一人者ですし、日銀政策委員会の審議委員を務めておられた時にも、政策提言をするなど実務にも精通されています。
また、副総裁として氷見野良三さん、内田眞一さんが就くなど、理論面、実務面双方のスペシャリストがおられる大変強力な体制だと認識しており、実体経済をご理解いただいた上で政策を進めていただけることに期待しています。
今後、大事になるのはコミュニケーションではないかと思っています。市場関係者や国民に、金融政策の効果と副作用について、しっかりとコミュニケーションを取っていただくこと、これにも期待しています。
苦境の中小企業をどう支える?
─ この10年続いた大規模金融緩和の副作用もかなり出てきていると思いますが。
加藤 副作用は間違いなく出ています。実際、マイナス金利は事実として銀行の資金収支を悪化させましたが、金利が上がることで、これは一部解消されるのではないかと思います。
ただ、よく考えなければいけないのは、金利上昇で我々のお客様のクレジットリスクが高まることによって、間接的なマイナス、デメリットもありますから、これらを総合的に考えて丁寧に対応していくことが大事だと思っています。
─ 一方で金利上昇は銀行が保有する債券、特に外債の含み損を拡大させる懸念もあろうかと思いますが、考えを聞かせて下さい。
加藤 元々債券は、満期まで保有していれば、減損がない限りはしっかりとした還元がされます。一方で外債では調達していかなければなりませんが、足元で調達と運用の「逆ザヤ」が起きていると認識しています。
その部分は経営の中でポートフォリオとしてしっかり管理される必要がありますが、例えば個別行としてのみずほ銀行においては、ヘッジも含めて管理している状況です。
地方銀行さんを見ても全体で含み損が約3兆円あると認識していますが、この部分は各行が適切に管理していると考えていますから、金融システムに大きな影響があるという状況ではないと見ています。
─ コロナ禍で売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で融資した「ゼロゼロ融資」の返済が始まってきますが、金利がつかなくとも返済が大変だという企業も出ています。こうした取引先を銀行業界としてどうサポートしていきますか。
加藤 金融緩和が継続するという見方を前提とすると、短期金利がすぐに上昇するとは認識していませんが、おっしゃるようにコロナ禍、資源高、人手不足などで中小企業の方々は苦しんでおられます。
倒産件数は10カ月連続で昨年を上回っていますし、中小企業の業況判断DI(景気動向指数)もマイナスということで、依然として景気が回復していない状況です。
そんな中、我々銀行としては、資金供給でご支援するのが「一丁目一番地」です。今年2月の段階で、それについて会員銀行で申し合わせをしていますし、政府においても制度をつくっておられますから、官民挙げてしっかり取り組むことが大事です。
さらに、早期の事業構造改革やビジネスマッチングといった「非金融サービス」にも取り組んでいく必要があります。例えば、コロナ禍を経て増加したのが事業承継ですが、こうしたことにも銀行として寄り添いながら対応していきます。
これからの時代の銀行の役割
─ 金融はデジタル化が進んでいますが、今後銀行サービスはどのようになっていくと見ていますか。
加藤 先程申し上げたように、150年という歴史の中で、日本経済を支えてきたことは事実ですし、これからも銀行という役割は変わらないと思っています。
ただ、外部環境の変化によってお客様との接点や、ご利用いただく場所は変わっていく。例えば、ご来店いただいてお手続きするようなものは、おそらくスマートフォンを通して、手の中でできるようになっていくだろうと思います。
業界全体で言っても手形、小切手の電子化、4月から始まる税公金のQRコード対応、さらには少額送金インフラ「ことら」など、利便性や効率性をさらに上げることにも、しっかり取り組んでいくことが必要ではないかと思っています。
デジタルによるチャネルの変化はあっても、金融仲介機能の発揮、個人の資産形成への貢献など、日本経済に必要不可欠なものであることについては変わらないと思っています。
─ 日本の成長に向けて、将来においても役割を発揮し続ける存在であると。
加藤 ええ。今後も経済発展という意味では、資源がなく、少子化でマーケットが縮小していく日本の中で、日本企業がグローバルに出ていくことをファイナンスやM&A(企業の合併・買収)などの業務でサポートするのも大事な仕事です。
同時に、日本には1億人という国民がいるわけですから、この国でしっかりモノをつくり、世界で競争できるような環境をつくっていくことも我々の仕事だと考えています。サステナビリティの観点で言えば、グリーンエネルギーを日本で供給できる体制づくりを金融面でサポートすることも重要です。
さらに、国民の安心・安全の老後をつくるためには資産形成が重要です。「貯蓄から資産形成」に関しては、政府から「資産所得倍増プラン」という形で明示されていますから、NISA(少額投資非課税制度)を中心に、国民の皆さんにしっかりとご理解いただく。そして銀行界としてフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の原則を守りながら、お客様の資産形成をサポートさせていただきたい。
これらの分野での役割発揮が銀行として今後、ますます必要になってくるのではないかと思っています。
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米銀の破綻は金融システムに波及するか?
─ 欧米の金融引き締めの副作用などもあり、2023年3月には米国ではシリコンバレーバンク(SVB)などが破綻、欧州では大手投資銀行のクレディ・スイスが経営危機となって同業のUBSに買収されるなど厳しい環境となっています。これが金融危機の入り口になるかどうかが懸念されています。現状と今後をどう見ますか。
加藤 状況をしっかり見ていく必要があると思っています。端的に言って、米国の2行の破綻が個別行の問題と捉えていいのか、金融システムに影響するものなのかということです。
足元の我々の認識では個別行の問題と捉えています。SVBにはALM(Asset Liability Management=資産・負債の総合管理)で甘さがあったという認識です。ただ、風評などがどう波及していくか。米国の金利はこの1年で0%台から4%を超える水準になりましたから、副作用としての歪みは当然あるのではないかと思っています。
─ これまで米国ではインフレ抑制のために金利引き上げを進めてきましたが。
加藤 仮に危機が広がったとすると、それに対応するために流動性を供給しますから、利上げの継続とは矛盾する形になるので難しい。そうなるとインフレをなかなか退治できないということにもなりかねません。
一方で違う見方もあります。元々、米国では融資が厳格化されていました。これによって景気が悪化し、インフレが収まるというシナリオですが、これによって失業率悪化など厳しい景気後退に陥る「ハードランディング」になるのか、景気後退を避けながら物価が落ち着く「ソフトランディング」になるのか次第で、かなり雰囲気が変わってくると思います。
繰り返しですが、米国で起きたのは個別行の問題だと考えていますが、事態を矮小化することなく、しっかり注視することが必要です。これは欧州で起きている事態についても同様です。
─ 金融危機、景気後退の懸念はあると見ますか。
加藤 金融システムに大きな影響を与えることになれば、もちろんリセッション(景気後退)ということになりますし、個別銀行の問題として落ち着いたとしても、そもそもインフレを抑えるために金利を上げてきたわけですから、一定の覚悟を持って、リセッションを起こしてでもインフレを退治するというのが米国であり欧州の姿勢だと見ていますから、少なくとも今年度上期については厳しい状況が続くのではないかと思います。
─ 日本も、欧米で起きている事態とは無関係ではいられないと思いますが、今後の動きをどう見通していますか。
加藤 日本経済にも不透明感はありますが、昨年対比で言えば、コロナによる行動制限が解除され、インバウンド(訪日外国人観光客)も戻ってきたことはプラスで、経済状況は昨年に比べてよくなるのではないかと見ています。
ただ、不透明な部分があります。特に製造業では依然として半導体不足が続いていますし、マーケットである欧米の経済が今後どうなるかによって大きく変わってくるのではないかと思っていますから、この点はマイナス要因としてあると思います。
日銀の新体制をどう見ているか?
─ 厳しい環境下での全国銀行協会会長就任ですが、改めて抱負を聞かせて下さい。
加藤 環境変化で言えば、日本において3つあります。第1に少子化によって市場が縮小してくる。かつ、人手不足が顕在化しています。第2にサステナビリティなど、1人ひとりの意識、価値観が変化し、行動も変わってきている。
第3にデジタルの進化です。コロナ禍によってさらに加速されましたが、人口減の日本の人手不足を解消する、あるいはユーザーの利便性を高めるツールとなります。これらが大きなメガトレンドだと見ています。
これに加えて、22年2月からのロシアのウクライナ侵攻などの地政学リスクが顕在化しています。これによってもはや、グローバル経済というよりブロック経済化が進み、そのブロックの中でサプライチェーンを強化する流れになっていく。
こうした様々な要因が重なった結果、各国の金融政策、財政政策が大きく変化をしています。先程申し上げたように、その中で様々な歪みが起きている。
こうした大きな外部環境の中で日本政府は「新しい資本主義」の実現に向けて様々な取り組みをしています。我々はその中の課題解決、政府や他の業界と連携しながら、金融で経済を支えていくことが大きな役割です。
実は今年は第一国立銀行(現みずほ銀行)の設立、つまり日本に銀行ができて150年という年です。これまでの間、銀行界として日本経済を支えてきたという自負があります。不透明な状況ですし、すぐには解決できない課題も多くありますが、しっかり道筋を付け、明るい未来につなげていくという思いで活動していきたいと思います。
─ 4月9日には植田和男氏が日本銀行総裁に就任します。「マイナス金利」や「イールドカーブコントロール」(YCC、長短金利操作)といった政策が修正されるかどうかによって銀行にもプラス・マイナスの影響が出ると思いますが。
加藤 金融政策は日銀の専管事項ですから、全銀協会長としてのコメントはできませんが、個人の立場でお答えします。
日本経済がまだまだ本格基調ではない中、物価や賃金の安定的な上昇がしっかり確認できないと金融緩和政策の方向転換は難しいのではないかと思いますから、方向転換には時間がかかると見ています。
足元で東京都区部で消費者物価が4%台になっていますし、一部では価格転嫁も始まるなど全てがコストプッシュではありませんが、欧米の経済が先程申し上げたような状況であることを考えると、安定的な上昇には疑問符が付きます。
また賃金は、足元で多くの企業がベースアップも含め引き上げを行っていますが、今の経済環境を考えると、定着には時間がかかるのではないかと。その意味で金融緩和政策は当面続くものと見ています。
─ 日銀新体制の布陣に対する印象は?
加藤 植田さんはマクロ経済、金融経済学の第一人者ですし、日銀政策委員会の審議委員を務めておられた時にも、政策提言をするなど実務にも精通されています。
また、副総裁として氷見野良三さん、内田眞一さんが就くなど、理論面、実務面双方のスペシャリストがおられる大変強力な体制だと認識しており、実体経済をご理解いただいた上で政策を進めていただけることに期待しています。
今後、大事になるのはコミュニケーションではないかと思っています。市場関係者や国民に、金融政策の効果と副作用について、しっかりとコミュニケーションを取っていただくこと、これにも期待しています。
苦境の中小企業をどう支える?
─ この10年続いた大規模金融緩和の副作用もかなり出てきていると思いますが。
加藤 副作用は間違いなく出ています。実際、マイナス金利は事実として銀行の資金収支を悪化させましたが、金利が上がることで、これは一部解消されるのではないかと思います。
ただ、よく考えなければいけないのは、金利上昇で我々のお客様のクレジットリスクが高まることによって、間接的なマイナス、デメリットもありますから、これらを総合的に考えて丁寧に対応していくことが大事だと思っています。
─ 一方で金利上昇は銀行が保有する債券、特に外債の含み損を拡大させる懸念もあろうかと思いますが、考えを聞かせて下さい。
加藤 元々債券は、満期まで保有していれば、減損がない限りはしっかりとした還元がされます。一方で外債では調達していかなければなりませんが、足元で調達と運用の「逆ザヤ」が起きていると認識しています。
その部分は経営の中でポートフォリオとしてしっかり管理される必要がありますが、例えば個別行としてのみずほ銀行においては、ヘッジも含めて管理している状況です。
地方銀行さんを見ても全体で含み損が約3兆円あると認識していますが、この部分は各行が適切に管理していると考えていますから、金融システムに大きな影響があるという状況ではないと見ています。
─ コロナ禍で売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で融資した「ゼロゼロ融資」の返済が始まってきますが、金利がつかなくとも返済が大変だという企業も出ています。こうした取引先を銀行業界としてどうサポートしていきますか。
加藤 金融緩和が継続するという見方を前提とすると、短期金利がすぐに上昇するとは認識していませんが、おっしゃるようにコロナ禍、資源高、人手不足などで中小企業の方々は苦しんでおられます。
倒産件数は10カ月連続で昨年を上回っていますし、中小企業の業況判断DI(景気動向指数)もマイナスということで、依然として景気が回復していない状況です。
そんな中、我々銀行としては、資金供給でご支援するのが「一丁目一番地」です。今年2月の段階で、それについて会員銀行で申し合わせをしていますし、政府においても制度をつくっておられますから、官民挙げてしっかり取り組むことが大事です。
さらに、早期の事業構造改革やビジネスマッチングといった「非金融サービス」にも取り組んでいく必要があります。例えば、コロナ禍を経て増加したのが事業承継ですが、こうしたことにも銀行として寄り添いながら対応していきます。
これからの時代の銀行の役割
─ 金融はデジタル化が進んでいますが、今後銀行サービスはどのようになっていくと見ていますか。
加藤 先程申し上げたように、150年という歴史の中で、日本経済を支えてきたことは事実ですし、これからも銀行という役割は変わらないと思っています。
ただ、外部環境の変化によってお客様との接点や、ご利用いただく場所は変わっていく。例えば、ご来店いただいてお手続きするようなものは、おそらくスマートフォンを通して、手の中でできるようになっていくだろうと思います。
業界全体で言っても手形、小切手の電子化、4月から始まる税公金のQRコード対応、さらには少額送金インフラ「ことら」など、利便性や効率性をさらに上げることにも、しっかり取り組んでいくことが必要ではないかと思っています。
デジタルによるチャネルの変化はあっても、金融仲介機能の発揮、個人の資産形成への貢献など、日本経済に必要不可欠なものであることについては変わらないと思っています。
─ 日本の成長に向けて、将来においても役割を発揮し続ける存在であると。
加藤 ええ。今後も経済発展という意味では、資源がなく、少子化でマーケットが縮小していく日本の中で、日本企業がグローバルに出ていくことをファイナンスやM&A(企業の合併・買収)などの業務でサポートするのも大事な仕事です。
同時に、日本には1億人という国民がいるわけですから、この国でしっかりモノをつくり、世界で競争できるような環境をつくっていくことも我々の仕事だと考えています。サステナビリティの観点で言えば、グリーンエネルギーを日本で供給できる体制づくりを金融面でサポートすることも重要です。
さらに、国民の安心・安全の老後をつくるためには資産形成が重要です。「貯蓄から資産形成」に関しては、政府から「資産所得倍増プラン」という形で明示されていますから、NISA(少額投資非課税制度)を中心に、国民の皆さんにしっかりとご理解いただく。そして銀行界としてフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の原則を守りながら、お客様の資産形成をサポートさせていただきたい。
これらの分野での役割発揮が銀行として今後、ますます必要になってくるのではないかと思っています。