一般企業が、手軽に銀行機能を利用できる時代─。2023年3月にネット銀行として初めて上場した住信SBIネット銀行。同社が2年前から、日本で先陣を切って開拓してきたのが「BaaS」。これは銀行機能を他社にインフラとして提供するサービスのこと。「埋め込み型金融」とも呼ばれる。金融危機下の上場ながら、初値は公開価格を上回った。同社の開拓力とは。
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欧米で金融危機が起きる中での上場
「シリコンバレーバンク(SVB)破綻、クレディ・スイス危機など金融不安の中で上場できたのはよかった」と話すのは住信SBIネット銀行社長の円山法昭氏。
2023年3月29日、三井住友信託銀行とSBIホールディングスが共同出資するインターネット銀行・住信SBIネット銀行が東京証券取引所のスタンダード市場に上場した。
ネット銀行の上場は国内で初めてのこと。初値は公開価格である1200円を1.8%上回る1222円を付けた。4月10日現在の時価総額は約2400億円となっている。
23年3月期の業績見通しは、経常利益が290億円(前年同期比24.6%増)、純利益が194億円(同13.4%増)。ROE(株主資本利益率)は16.2%で、メガバンクが6%前後であることを考えると高い数字。
本来は1年前の22年3月24日に上場を予定していたが、同年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻を受けた市場環境の悪化で延期を余儀なくされていた。1年前の上場申請の際には時価総額3000億円を想定していたが、今回は下回る結果となった。
ただ今回も、冒頭の円山氏の言葉にあるように、米国でSVBなど銀行2行が破綻、欧州ではクレディ・スイスが経営危機に陥りUBSに救済買収されるなど、俄に金融危機の様相を呈する中での上場。
「毎週、毎日のように目まぐるしく状況が変わり、心休まる暇はなかった。ウクライナ侵攻で苦しい、悔しい思いをした1年前のことが頭をよぎったが、何としてもやり遂げようという思いで取り組んだ。ほっとしたという一言に尽きる」と円山氏。
同社の事業は、デジタルバンク、モーゲージ(住宅ローン)、そしてBaaS(Banking as a Service)という大きく3つで構成される。
このうちBaaSとはどういうものか。それは銀行が持つ決済や預金、貸出などの機能を、クラウドを経由して他の企業にインフラとして提供するサービスのこと。事業会社のサービスの中に自然と組み込まれることから「埋め込み型金融」とも呼ばれている。住信SBIは2年前から、日本でいち早くこのビジネスを始めたが「すでに黒字化している」(円山氏)。
すでに日本航空、ヤマダデンキ、髙島屋、第一生命保険、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)など10社がサービスを導入済みで、準備中を含めれば15社が採用している。
住信SBIでは、このBaaSの収益が、将来的にはデジタルバンクの収益と同等以上の規模になると見込んでいる。その特徴はシステムの利用料で稼ぐ「フィービジネス」であること。「アセットに依存しない、テック企業的発想によるビジネスモデルで利益率が高い」(円山氏)という特徴がある。
今後の課題は、様々な企業との連携で得られた膨大なビッグデータを、「次」の新たなビジネスに生かすことができるか。その第1弾は「ID広告エコシステム事業」。同意を得た顧客のデータを匿名化した上で、企業が最適な広告を効率的に配信できるというもの。
さらには様々な分野のサプライチェーンのDX(デジタルトランスフォーメーション)事業に進出することも決めている。まずは農業や林業といった第1次産業を手掛ける予定。
銀行のインフラを使いながら、新たなマーケットに進出していくという事業展開。円山氏は「銀行業を超えたビジネスに進化させていきたい」と意気込む。
ただ、成長の柱と位置づける前述のBaaSにしても、すでに他のネット銀行、さらにはメガバンクも手掛け始めており、今後はさらなる競争の激化が予想される。それはつまり価格低下圧力が強まるということ。
すでに、住信SBIがサービスを提供している第一生命は、同時に楽天銀行のサービスも採用。楽天銀行はJR東日本にも採用されるなど攻勢を強める。さらにメガバンクでも三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がNTTドコモに機能を提供、「dスマートバンク」の提供が始まっている。
4月21日には楽天銀行が上場予定。仮条件は1株1300円〜1400円で時価総額約2380億円を見込む。3月の上場承認時から条件が低下している。
この競争環境を、住信SBIはどう乗り越えていくのか。円山氏は「これまでの15社の採用は、ほぼ全てコンペで選ばれている」として「我々が提供する銀行機能が、常にお客様から高い評価が得られるように努力し続けること。システムの先進性、柔軟性などあらゆる面で他社より優れていることが大事。そのために投資し続ける」と語る。
ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏は「デジタルバンクは、顧客数を増やせなければ利益が少なくなる。その意味で大きな経済圏の中で活動することは重要。またBaaSについては、顧客企業にとって替えが効かない存在になることができるか。銀行機能のコモディティ化を避けることができるかが問われる」と指摘する。
「当社の人材の約5割はテクノロジー人材。いわば我々はテックカンパニー」と話す円山氏。テックカンパニーは「収穫逓増の法則」の法則がよく言われる。常に新しいもの、他社に先駆けて開発することが求められるということ。その「茨の道」を歩み続けることができるかが、今後問われている。
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欧米で金融危機が起きる中での上場
「シリコンバレーバンク(SVB)破綻、クレディ・スイス危機など金融不安の中で上場できたのはよかった」と話すのは住信SBIネット銀行社長の円山法昭氏。
2023年3月29日、三井住友信託銀行とSBIホールディングスが共同出資するインターネット銀行・住信SBIネット銀行が東京証券取引所のスタンダード市場に上場した。
ネット銀行の上場は国内で初めてのこと。初値は公開価格である1200円を1.8%上回る1222円を付けた。4月10日現在の時価総額は約2400億円となっている。
23年3月期の業績見通しは、経常利益が290億円(前年同期比24.6%増)、純利益が194億円(同13.4%増)。ROE(株主資本利益率)は16.2%で、メガバンクが6%前後であることを考えると高い数字。
本来は1年前の22年3月24日に上場を予定していたが、同年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻を受けた市場環境の悪化で延期を余儀なくされていた。1年前の上場申請の際には時価総額3000億円を想定していたが、今回は下回る結果となった。
ただ今回も、冒頭の円山氏の言葉にあるように、米国でSVBなど銀行2行が破綻、欧州ではクレディ・スイスが経営危機に陥りUBSに救済買収されるなど、俄に金融危機の様相を呈する中での上場。
「毎週、毎日のように目まぐるしく状況が変わり、心休まる暇はなかった。ウクライナ侵攻で苦しい、悔しい思いをした1年前のことが頭をよぎったが、何としてもやり遂げようという思いで取り組んだ。ほっとしたという一言に尽きる」と円山氏。
同社の事業は、デジタルバンク、モーゲージ(住宅ローン)、そしてBaaS(Banking as a Service)という大きく3つで構成される。
このうちBaaSとはどういうものか。それは銀行が持つ決済や預金、貸出などの機能を、クラウドを経由して他の企業にインフラとして提供するサービスのこと。事業会社のサービスの中に自然と組み込まれることから「埋め込み型金融」とも呼ばれている。住信SBIは2年前から、日本でいち早くこのビジネスを始めたが「すでに黒字化している」(円山氏)。
すでに日本航空、ヤマダデンキ、髙島屋、第一生命保険、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)など10社がサービスを導入済みで、準備中を含めれば15社が採用している。
住信SBIでは、このBaaSの収益が、将来的にはデジタルバンクの収益と同等以上の規模になると見込んでいる。その特徴はシステムの利用料で稼ぐ「フィービジネス」であること。「アセットに依存しない、テック企業的発想によるビジネスモデルで利益率が高い」(円山氏)という特徴がある。
今後の課題は、様々な企業との連携で得られた膨大なビッグデータを、「次」の新たなビジネスに生かすことができるか。その第1弾は「ID広告エコシステム事業」。同意を得た顧客のデータを匿名化した上で、企業が最適な広告を効率的に配信できるというもの。
さらには様々な分野のサプライチェーンのDX(デジタルトランスフォーメーション)事業に進出することも決めている。まずは農業や林業といった第1次産業を手掛ける予定。
銀行のインフラを使いながら、新たなマーケットに進出していくという事業展開。円山氏は「銀行業を超えたビジネスに進化させていきたい」と意気込む。
ただ、成長の柱と位置づける前述のBaaSにしても、すでに他のネット銀行、さらにはメガバンクも手掛け始めており、今後はさらなる競争の激化が予想される。それはつまり価格低下圧力が強まるということ。
すでに、住信SBIがサービスを提供している第一生命は、同時に楽天銀行のサービスも採用。楽天銀行はJR東日本にも採用されるなど攻勢を強める。さらにメガバンクでも三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がNTTドコモに機能を提供、「dスマートバンク」の提供が始まっている。
4月21日には楽天銀行が上場予定。仮条件は1株1300円〜1400円で時価総額約2380億円を見込む。3月の上場承認時から条件が低下している。
この競争環境を、住信SBIはどう乗り越えていくのか。円山氏は「これまでの15社の採用は、ほぼ全てコンペで選ばれている」として「我々が提供する銀行機能が、常にお客様から高い評価が得られるように努力し続けること。システムの先進性、柔軟性などあらゆる面で他社より優れていることが大事。そのために投資し続ける」と語る。
ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏は「デジタルバンクは、顧客数を増やせなければ利益が少なくなる。その意味で大きな経済圏の中で活動することは重要。またBaaSについては、顧客企業にとって替えが効かない存在になることができるか。銀行機能のコモディティ化を避けることができるかが問われる」と指摘する。
「当社の人材の約5割はテクノロジー人材。いわば我々はテックカンパニー」と話す円山氏。テックカンパニーは「収穫逓増の法則」の法則がよく言われる。常に新しいもの、他社に先駆けて開発することが求められるということ。その「茨の道」を歩み続けることができるかが、今後問われている。