「人間が蓄積した知識の中から正しい知識を選び出し、目的に応じてそれらを統合すれば今の難題を克服できる」─。小宮山氏はこう強調する。米新興企業のオープンAIが開発したAI(人工知能)を使ったチャットボット「ChatGPT(チャットGPT)」を巡り、世の中の意見は賛否両論。人間を助け、業務を効率化する一面もあれば、雇用を奪う一面もある。そういった中で、改めて人とは何か、また人と最先端テクノロジーの関係はどうあるべきか、考え直すべきときを迎えている。
三菱マテリアル・小野直樹社長に直撃!「安全保障、環境問題が重くのしかかる中、『循環をデザインする』をキーワードにした理由」
「STSフォーラム」にも変化
─ チャットGPTという新しい技術をどう取り込むかが産業界の課題になっています。大学でも東京大学が「生成AIのみのレポートはNG」といった見解を打ち出しました。どう向き合うべきだと考えますか。
小宮山 東京大学もチャットGPTなどの生成AIの回答に不正確な部分が含まれる可能性を指摘しつつも、技術発展に対し、傍観や拒絶ではなく積極的な態度で接していくと、ポジティブに使うというメッセージでした。実は私自身も、チャットGPTを使っています。
先日、私が理事長を務める「STSフォーラム(科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム)」の今年のプログラムを議論するために米国に行ってきました。そこでもチャットGPTで話題が沸騰したのです。毎年、2日目に2つのセッションが同時並行で開催されるのですが、これが今年は大きく変わりました。
具体的には議題として「Lights and Shadows of AI」、つまりは「人工知能の光と影」というテーマ1つだけのセッションとし、しかも2日目ではなく1日目に設定しました。創設以来、このフォーラムの中核には気候変動問題があるのですが、それと並んで今回の中核となったのが生成AIです。これに関しては参加者の意見が一致しました。
─ それだけ誰もが問題意識を持っていると。
小宮山 そうです。そもそもチャットGPTは文献やメールなどのインターネット上に載っている、あるいは載ったことのある情報をデータにし、それを自然言語処理しています。そして、それをあたかも通常の人間と会話するような形態にした技術になるわけです。この影響を直接受けるのが米グーグルのビジネスモデルになります。
グーグルの肝は検索エンジンです。キーワードを入れて出てきたURLの中から自分が探している情報を見つけ出すわけですね。ただ自分の探している情報が載っているサイトを見つけるためのキーワードを選ぶだけでも大変ですし、サイトも人気の順番に出てくる。なかなか最適な情報に辿り着かない。
ところがチャットGPTを使うと、言葉で質問して答えが出てくる。遥かに便利になるわけです。チャットGPTが行う検索と自然言語化でグーグルがいらなくなるわけです。使ってみると本当に便利です。探している情報も非常に分かりやすい言葉で出てきますからね。
─ 精度も高いのですか。
小宮山 例えば、国際科学技術財団の2023年の日本国際賞に、半導体レーザー励起光増幅器を開発して光ファイバー網の長距離大容量化に貢献した東北大学の中沢正隆・卓越教授と情報通信研究機構の萩本和男・主席研究員の表彰が決まったのですが、光ファイバーの中を光が通過中にどれくらい減衰するのか、増幅器がどれくらい増幅できるかを尋ねたら、見事に正解を答えていました。
ところが、もう少し一般的な少子化問題にどう対応するべきかと尋ねると、正しい答えが出てくるのですが、表面的なことに過ぎないものでした。誰もが考えつくような答えです。例えていうと、学生のようやく合格のレポートのようなものでした。
─ なぜそのような差が出てきてしまうのですか。
小宮山 中沢さんのような取り組みは具体的に書かれた文献がネット上にいくつも存在するからでしょう。チャットGPTはそれを見ているのです。ところが少子化問題といった誰もが様々な発言をしているテーマでは、そんなにシャープなものがありません。
そうすると、チャットGPTは出現頻度の高いものを探り当てようとするので、皆が言う一般的な意見や、あるいは逆に、そんなこと言っても意味がないのではないかといった内容が出てくるのです。しかし既に少なからずAIの影響は出てきています。
─ それは企業の雇用の面で、AIが人に成り代わったといったものですか。
小宮山 ええ。AIが出てきて若い弁護士の採用数がものすごく減りました。これまで弁護士事務所では若い弁護士に判例を調べさせていたのですが、それがAIにとって代わりつつあるのです。判例のデータベースは限られていますから、すぐにAIで見つけ出せるのです。
─ 業務を補助するスタッフもいらなくなりますね。
小宮山 そうですね。経営者と話をしていても、米国では既に人員削減の話が出てきていると言います。また考えてみると、早速生成AIの影響を受けるのが大学の先生ではないかと。学生のレポートがチャットGPTで書かれてしまうと困ってしまう。課題になりませんからね。
したがって、生成AIがもたらす問題の大きなものとしては、1つは教育。そしてもう1つがジョブ、仕事が減るということです。ただ後者については、日本は労働力不足ですから、うまく人財を移転させることができれば、もしかしたら逆にうまくいく可能性もあると思います。
─ そういった活用方法も考えられますね。
小宮山 そう思います。ですから教育が大切になります。例えば、小学校の子どもに生成AIを使わせてしまえば、頭の訓練ができなくなってしまいます。
─ 自分で考えることが教育の一番の役割ですからね。
小宮山 ええ。考えさせるという点で言えば、米国でこんなことがありました。まずレポートの課題をチャットGPTに答えさせる。そしてそれを大学生に与えて間違いを見つけなさい、あるいは不十分なところを指摘しなさいという問題を出した人がいます。これは学生に考えさせるテーマです。さらに言うと、チャットGPTの出力をもとに各自のレポートを作成させるというのが良いかもしれません。
先ほど申し上げたように、チャットGPTはインターネット上にある情報のうち、出現頻度の高い情報を抜き出してきます。だけどそうすると、皆が間違ったことを言っていることも多いわけです。要は多数決で決まった情報になります。
─ 時の世論が多数決で決まったからと言って、それが正論とは限りませんね。教育の現場で生成AIを取り入れる際に気を付けるべきこととは。
小宮山 あくまで人間の頭を育てるということを基本にしなければなりません。そのためにチャットGPTを使うということはあり得ます。あくまでも補助的な使い方ですね。今までのグーグルや参考書と同じように、補助的に使いながらも、あくまで人の頭を育てることを軸に置いておくと。それが学習の基本です。その基本をしっかり確認しなければなりません。
─ 今は答えのない時代と言われます。そういう時代にあって、生成AIにはどんな役割を期待できると考えますか。
小宮山 今までの人たちが何を考えてきたかが分かるということではないでしょうか。私は以前から、もし人間が蓄積した知識の中から正しい知識を選び出し、目的に応じてそれらを統合すれば、今の難題を克服できると訴えてきました。そうすれば、少子化も含めて今の課題は全て解決できるのではないかと思うのです。
科学技術の知識、社会科学の知識、人文科学の知識、哲学の知識といったものの最も正しいと思われるものを統合することができれば、今の社会課題、あるいは人類の難題と言われている問題は解決できると、本気で思っているのです。今のチャットGPTがそうなっているとは思いませんが、生成AIはその入口のような技術として世の中に出てきたのかもしれません。
しかし今のチャットGPTは確率で選び出しているだけに過ぎません。そう考えると、まだ何段階か、革命的な進歩と言えるようなものが出てこないと、人間の創造性が心配になるようなことは起こらないのではないかと思っています。
─ まだまだ試行錯誤が必要だということですか。
小宮山 まだまだ必要ではないでしょうか。ただ、今申し上げたような意味での集合知や総合知といったものは、できれば出てきて欲しくありませんね。やはりここは人間がやりたい。人間しかできないと思いたいですね。ただ、「たかが」という言い方もできないことは確かです。
─ 「たかがAI」といった言い方ですか。
小宮山 そうです。画像解析などをするディープラーニングという技術はとてもすごい。それが意味あるようになるほど、コンピュータの処理速度が速くなったわけです。それからインターネット上に載っている膨大なデータベースを必要なデータにすることができるようになったのも、コンピュータの処理のスピードが速くなったからです。
しかしそこではまだ確率でやっている。それは本質的な創造性においては矛盾になります。ですから、それを解決する方法があるかどうかですね。先ほどのフォーラムでの議論でも、創造性とは何なのかがテーマとなり、とても考えさせられました。
─ 人類はこれまで新しいテクノロジーを取り込んできましたが、これほど戸惑いが大きかったことはなかったですね。
小宮山 もしかすると産業革命で機械が導入されたことと同じぐらいに大きなことかもしれないと思います。ただ、産業革命で機械が入り出したときには、経済が膨張していました。だからラッダイト運動などが起こって大変でしたが、少し長期で見れば機械で人がいらなくなった雇用の減少を成長が吸収しました。
しかし今は地球の有限性によって、いろいろなものが飽和しつつあります。そうした状況で生成AIが入ってきた。それによって経済が膨らんでいって雇用問題が解決されるということはおそらくないでしょう。
もしかしたら、労働の有無にかかわらず、政府が全ての国民に一律の現金を無条件かつ定期的に支給するベーシックインカム、あるいはその弊害、酒や麻薬にふけってしまうかもしれないからと、食べ物と教育と健康保険といった必要不可欠なものだけを支給し、あとは自由に競争させるという「ベーシックサプライ」のような考え方も出てきています。そうした時代が案外早く訪れるのかもしれませんね。
─ チャットGPTの登場で、人とは何かという根本哲学に戻ってきますね。
小宮山 そうだと思います。人の生き方や社会のあり方をもう一回考え直すということです。
─ リーダーはどう振る舞うべきだと考えますか。
小宮山 リーダーは発言をして議論する、その中核になることが大事ではないでしょうか。これについて答えを出せる人はいません。リーダーが「これはこういうものだ」と言っても意味がありません。答えは分からなくても議論していくことが大切です。
とにかく今は技術の発達が速すぎます。AIも少しずつゆっくり進化してくれればいいのですが、そうではありません。私もそのスピードに戸惑っています。米国でもそういう議論になりました。そういった時代をどのように生きていくべきか。一人ひとりが考えていかねばなりません。
三菱マテリアル・小野直樹社長に直撃!「安全保障、環境問題が重くのしかかる中、『循環をデザインする』をキーワードにした理由」
「STSフォーラム」にも変化
─ チャットGPTという新しい技術をどう取り込むかが産業界の課題になっています。大学でも東京大学が「生成AIのみのレポートはNG」といった見解を打ち出しました。どう向き合うべきだと考えますか。
小宮山 東京大学もチャットGPTなどの生成AIの回答に不正確な部分が含まれる可能性を指摘しつつも、技術発展に対し、傍観や拒絶ではなく積極的な態度で接していくと、ポジティブに使うというメッセージでした。実は私自身も、チャットGPTを使っています。
先日、私が理事長を務める「STSフォーラム(科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム)」の今年のプログラムを議論するために米国に行ってきました。そこでもチャットGPTで話題が沸騰したのです。毎年、2日目に2つのセッションが同時並行で開催されるのですが、これが今年は大きく変わりました。
具体的には議題として「Lights and Shadows of AI」、つまりは「人工知能の光と影」というテーマ1つだけのセッションとし、しかも2日目ではなく1日目に設定しました。創設以来、このフォーラムの中核には気候変動問題があるのですが、それと並んで今回の中核となったのが生成AIです。これに関しては参加者の意見が一致しました。
─ それだけ誰もが問題意識を持っていると。
小宮山 そうです。そもそもチャットGPTは文献やメールなどのインターネット上に載っている、あるいは載ったことのある情報をデータにし、それを自然言語処理しています。そして、それをあたかも通常の人間と会話するような形態にした技術になるわけです。この影響を直接受けるのが米グーグルのビジネスモデルになります。
グーグルの肝は検索エンジンです。キーワードを入れて出てきたURLの中から自分が探している情報を見つけ出すわけですね。ただ自分の探している情報が載っているサイトを見つけるためのキーワードを選ぶだけでも大変ですし、サイトも人気の順番に出てくる。なかなか最適な情報に辿り着かない。
ところがチャットGPTを使うと、言葉で質問して答えが出てくる。遥かに便利になるわけです。チャットGPTが行う検索と自然言語化でグーグルがいらなくなるわけです。使ってみると本当に便利です。探している情報も非常に分かりやすい言葉で出てきますからね。
─ 精度も高いのですか。
小宮山 例えば、国際科学技術財団の2023年の日本国際賞に、半導体レーザー励起光増幅器を開発して光ファイバー網の長距離大容量化に貢献した東北大学の中沢正隆・卓越教授と情報通信研究機構の萩本和男・主席研究員の表彰が決まったのですが、光ファイバーの中を光が通過中にどれくらい減衰するのか、増幅器がどれくらい増幅できるかを尋ねたら、見事に正解を答えていました。
ところが、もう少し一般的な少子化問題にどう対応するべきかと尋ねると、正しい答えが出てくるのですが、表面的なことに過ぎないものでした。誰もが考えつくような答えです。例えていうと、学生のようやく合格のレポートのようなものでした。
─ なぜそのような差が出てきてしまうのですか。
小宮山 中沢さんのような取り組みは具体的に書かれた文献がネット上にいくつも存在するからでしょう。チャットGPTはそれを見ているのです。ところが少子化問題といった誰もが様々な発言をしているテーマでは、そんなにシャープなものがありません。
そうすると、チャットGPTは出現頻度の高いものを探り当てようとするので、皆が言う一般的な意見や、あるいは逆に、そんなこと言っても意味がないのではないかといった内容が出てくるのです。しかし既に少なからずAIの影響は出てきています。
─ それは企業の雇用の面で、AIが人に成り代わったといったものですか。
小宮山 ええ。AIが出てきて若い弁護士の採用数がものすごく減りました。これまで弁護士事務所では若い弁護士に判例を調べさせていたのですが、それがAIにとって代わりつつあるのです。判例のデータベースは限られていますから、すぐにAIで見つけ出せるのです。
─ 業務を補助するスタッフもいらなくなりますね。
小宮山 そうですね。経営者と話をしていても、米国では既に人員削減の話が出てきていると言います。また考えてみると、早速生成AIの影響を受けるのが大学の先生ではないかと。学生のレポートがチャットGPTで書かれてしまうと困ってしまう。課題になりませんからね。
したがって、生成AIがもたらす問題の大きなものとしては、1つは教育。そしてもう1つがジョブ、仕事が減るということです。ただ後者については、日本は労働力不足ですから、うまく人財を移転させることができれば、もしかしたら逆にうまくいく可能性もあると思います。
─ そういった活用方法も考えられますね。
小宮山 そう思います。ですから教育が大切になります。例えば、小学校の子どもに生成AIを使わせてしまえば、頭の訓練ができなくなってしまいます。
─ 自分で考えることが教育の一番の役割ですからね。
小宮山 ええ。考えさせるという点で言えば、米国でこんなことがありました。まずレポートの課題をチャットGPTに答えさせる。そしてそれを大学生に与えて間違いを見つけなさい、あるいは不十分なところを指摘しなさいという問題を出した人がいます。これは学生に考えさせるテーマです。さらに言うと、チャットGPTの出力をもとに各自のレポートを作成させるというのが良いかもしれません。
先ほど申し上げたように、チャットGPTはインターネット上にある情報のうち、出現頻度の高い情報を抜き出してきます。だけどそうすると、皆が間違ったことを言っていることも多いわけです。要は多数決で決まった情報になります。
─ 時の世論が多数決で決まったからと言って、それが正論とは限りませんね。教育の現場で生成AIを取り入れる際に気を付けるべきこととは。
小宮山 あくまで人間の頭を育てるということを基本にしなければなりません。そのためにチャットGPTを使うということはあり得ます。あくまでも補助的な使い方ですね。今までのグーグルや参考書と同じように、補助的に使いながらも、あくまで人の頭を育てることを軸に置いておくと。それが学習の基本です。その基本をしっかり確認しなければなりません。
─ 今は答えのない時代と言われます。そういう時代にあって、生成AIにはどんな役割を期待できると考えますか。
小宮山 今までの人たちが何を考えてきたかが分かるということではないでしょうか。私は以前から、もし人間が蓄積した知識の中から正しい知識を選び出し、目的に応じてそれらを統合すれば、今の難題を克服できると訴えてきました。そうすれば、少子化も含めて今の課題は全て解決できるのではないかと思うのです。
科学技術の知識、社会科学の知識、人文科学の知識、哲学の知識といったものの最も正しいと思われるものを統合することができれば、今の社会課題、あるいは人類の難題と言われている問題は解決できると、本気で思っているのです。今のチャットGPTがそうなっているとは思いませんが、生成AIはその入口のような技術として世の中に出てきたのかもしれません。
しかし今のチャットGPTは確率で選び出しているだけに過ぎません。そう考えると、まだ何段階か、革命的な進歩と言えるようなものが出てこないと、人間の創造性が心配になるようなことは起こらないのではないかと思っています。
─ まだまだ試行錯誤が必要だということですか。
小宮山 まだまだ必要ではないでしょうか。ただ、今申し上げたような意味での集合知や総合知といったものは、できれば出てきて欲しくありませんね。やはりここは人間がやりたい。人間しかできないと思いたいですね。ただ、「たかが」という言い方もできないことは確かです。
─ 「たかがAI」といった言い方ですか。
小宮山 そうです。画像解析などをするディープラーニングという技術はとてもすごい。それが意味あるようになるほど、コンピュータの処理速度が速くなったわけです。それからインターネット上に載っている膨大なデータベースを必要なデータにすることができるようになったのも、コンピュータの処理のスピードが速くなったからです。
しかしそこではまだ確率でやっている。それは本質的な創造性においては矛盾になります。ですから、それを解決する方法があるかどうかですね。先ほどのフォーラムでの議論でも、創造性とは何なのかがテーマとなり、とても考えさせられました。
─ 人類はこれまで新しいテクノロジーを取り込んできましたが、これほど戸惑いが大きかったことはなかったですね。
小宮山 もしかすると産業革命で機械が導入されたことと同じぐらいに大きなことかもしれないと思います。ただ、産業革命で機械が入り出したときには、経済が膨張していました。だからラッダイト運動などが起こって大変でしたが、少し長期で見れば機械で人がいらなくなった雇用の減少を成長が吸収しました。
しかし今は地球の有限性によって、いろいろなものが飽和しつつあります。そうした状況で生成AIが入ってきた。それによって経済が膨らんでいって雇用問題が解決されるということはおそらくないでしょう。
もしかしたら、労働の有無にかかわらず、政府が全ての国民に一律の現金を無条件かつ定期的に支給するベーシックインカム、あるいはその弊害、酒や麻薬にふけってしまうかもしれないからと、食べ物と教育と健康保険といった必要不可欠なものだけを支給し、あとは自由に競争させるという「ベーシックサプライ」のような考え方も出てきています。そうした時代が案外早く訪れるのかもしれませんね。
─ チャットGPTの登場で、人とは何かという根本哲学に戻ってきますね。
小宮山 そうだと思います。人の生き方や社会のあり方をもう一回考え直すということです。
─ リーダーはどう振る舞うべきだと考えますか。
小宮山 リーダーは発言をして議論する、その中核になることが大事ではないでしょうか。これについて答えを出せる人はいません。リーダーが「これはこういうものだ」と言っても意味がありません。答えは分からなくても議論していくことが大切です。
とにかく今は技術の発達が速すぎます。AIも少しずつゆっくり進化してくれればいいのですが、そうではありません。私もそのスピードに戸惑っています。米国でもそういう議論になりました。そういった時代をどのように生きていくべきか。一人ひとりが考えていかねばなりません。