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ヒューリック会長・西浦三郎「社員を路頭に迷わせないために、常に戦略的な『ストーリーづくり』を!」

財界オンライン 2023年5月15日 11時0分

自分独自の生き方とは何か─。「不動産業界の大手と同じことはしない」として、海外、マンション、地方、そして大きなビルという4つの「やらないこと」を決めた。その代わり、駅前立地で200―300坪程度の耐震性の優れたビルを軸に成長。さらには「RE100」に加盟し、環境性能の高さでも先を走る。2006年に旧富士銀行副頭取から日本橋興業(現ヒューリック)に転じて以降、新領域を開拓。西浦氏が考えることは─。

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企業である以上収益を上げるのは必須

 ─ 西浦さんはヒューリックの前身である日本橋興業の再建から手掛け、今日の姿を築いたわけですが、常に会社の姿を変化させてきましたね。

 西浦 事業に特徴がない企業はもたない時代になってきたのではないかと思います。以前であれば、銀行でも「護送船団方式」と言われましたが、その後には3メガバンクを中心とした体制となり、今や3メガの中でも差がつく時代になっている。

 その意味では「無難に行く」時代ではなくなったわけですが、なぜかというと日本に成長がなくなったからではないかと。成長している時にはシェアを分けていけば、小さい会社もそれなりに成長ができました。

 ところが「失われた30年」で成長が止まったこともあり、世の中が厳しくなっている。安倍晋三元首相の「アベノミクス」以降、改めて成長を模索していますが、一部の企業は非常にいいけれども、多くの企業は成長戦略に乗り切れていないというのが現状ではないでしょうか。

 ─ 賃上げ、製品値上げという当面の課題でも大企業と中小企業とが分断されていますね。格差が付く時代に入っている。

 西浦 各家庭の所得、企業間格差も広がっています。ただ、資本主義の中で「みんな平等に」と言ってしまうと社会主義的なものになってしまいますから、その最低限のバランスを取るのが政府の仕事だと思います。

 ─ 改めて、経済人の役割をどう捉えていますか。

 西浦 やはり利益を上げて、国に税金を多く納めるのが基本です。社会貢献などもありますが、税金を納めることで経済を回していくと。

 ─ ヒューリックの業績は最高益を更新していますね。

 西浦 ええ。当社は上場して15年、私がこの会社に来てから17年は増益、増配を続けています。やはり、利益を上げないと社会貢献もできません。

 例えば今、課題となっている脱炭素の実現のために事業用電力を100%再生可能エネルギー由来にすることを目指す国際イニシアチブ「RE100」に加盟するにしても、やはり資金が必要です。

 ─ 先程お話した賃上げも原資がなければできませんね。

 西浦 そうです。国として企業に賃上げが求められる中、当社も賃上げを実施しますが、これも収益がなければできない話です。ですから、企業である以上は、収益を上げることはマストだと思うんです。

 その資金の使い道をどうしていくかという時に、私は「バランス経営」とよく言っています。バランスというと特徴がないように聞こえますが、成長性、安定性、収益性、生産性、SDGsなどの社会貢献などがある中で、何かは100点だけど、何かは0点というのは企業として問題ではないかと。

 絶対的に収益は上げていく。それをどのように分配していくか、同時に会社の安全性という意味で自己資本をどれだけ厚くしていくかというバランスが経営として最も大事なことだと考えています。


会社の将来像を描く「ストーリー」づくり

 ─ 振り返って、西浦さんが2006年にこの会社に来て、まず感じたことは何でしたか。

 西浦 この会社は元々、富士銀行(現みずほ銀行)の店舗ビル管理の会社でしたが、銀行が不良債権を処理するために売った銀行店舗や寮・社宅などを当時の時価で買い取ったのです。

 資金は銀行借入で賄っていましたが借入過多になって、それ以上は借りられず、格付けも投資不適格の一歩手前という状態。資金調達をする手段は新規上場しか残っていなかったのです。

 そうして上場準備を始めたのですが、格付けを取らないと起債などもできないことから、上場前にムーディーズと日本格付研究所から格付けを取りました。

 この会社がどういう方向に向かうかという「絵」を描くことが必要でした。そして何よりも、経営者として何が大事かというと、社員を路頭に迷わせないことです。そのために何をしなければいけないかを考えていくと、ある程度の収益が必要だというところに行き着きます。そこで、そのためのストーリーをどうつくるかを考えたのです。

 ─ 会社が厳しい状態だっただけに、このストーリーづくりは大変だったのでは?

 西浦 そうですね。会社には資産はありましたが、それ以上に負債がありました。しかし、私が何のために、この会社に来たかといえば、答えが2つしかないような方程式に3つの答えを用意するような仕事をするためにです。

 まず、最初の2年は上場の準備に取り掛かりました。そして2年経った後に10年後のヒューリックを描いた長期計画を作り出していきました。

 ─ 社員に対してはどうやって語りかけていましたか。

 西浦 最初の頃、社員達には「この会社は上場するよ」と伝えましたが、当初は誰も信じませんでしたね。しかし、一歩一歩着実に進めていきました。

 企業はやはり「人」です。当初は採用説明会を開催しても、なかなか人が来てくれませんでした。ある時、出席者から「どんな人を採用したいんですか?」と質問があった時に「厳しい時に頑張れる人に来て欲しい」と答えたことを覚えています。

 ─ 今、社内を見て伸びているのはどういう人材ですか。

 西浦 やはりチャレンジ精神がある人だと思います。ただ、当社だけではありませんが、最近の若い世代は考える力が弱くなっていると感じます。言われたことはしっかりやる人が多いのですが、自分で考えて何かをやっていくのが難しい。

 ─ 要因をどう考えますか。

 西浦 日本が成長している時に多くの企業で「考える」ことをしていなくて、従来と同じことをやっていけばいいという形で来てしまったのが、いつの間にか成長しなくなってしまった。これをどうしていけばいいのかについて、経営者自身もあまり考えてこなかったのかもしれません。大事なのは経営者が、この会社をどういう会社にしたいのかということを、常に社員達に言っていくことです。

 ─ 西浦さん自身はどういう言葉を使っていますか。

 西浦 今、私は何も言わず、社長(前田隆也氏)がやっていますが、当社は「変革とスピード」が合言葉になっています。世の中が大きく変わる中、それ以上のスピードで変革をしていかなければいけません。

 もう一つ、自分で手を動かす人です。銀行であれば、例えば支店長は部下にボールを投げれば、ある程度は形にしてくれます。しかし当社では、ただ命令しているだけの人間は必要としていません。

 私自身にしても、銀行時代に会社全体の数字を見ていましたが、例えば10年後のヒューリックで、どのくらいの経常利益を目標にしようかという時に、ある程度自分で計算ができるわけです。もちろん、最終的には財務部や経営企画部で詰めてはいますが、自分で手を動かして、解決の糸口を見つけ出していく。

 ですから経営者の仕事は、大きな方向感を出すこと、意思決定をすること、そしてその意思決定が失敗したら、責任を取って辞めることという3つが大事だと思うんです。この意思決定を無難に無難にやっていくと、一気には沈まないかもしれませんが、会社は徐々に沈んでいってしまいます。


大手3社と戦うために「やらないこと」

 ─ 今、不動産業界では大手3社(三井不動産、三菱地所、住友不動産)に次ぐ時価総額となっていますね。大手との違いをどう意識してきましたか。

 西浦 経常利益なども含め、業績面では4番手ですが、まだまだ差はありますね。

 最初に私は当社として「やらないこと」を4つ言いました。海外、マンション、地方、そして大きいビルです。理由は巨大な自己資本を持つ大手3社と正面から戦っても勝てないからです。

 三菱地所は明治政府から丸の内一帯の土地の払い下げを受けて事業を進めていますし、上場したのも70年前ですから、彼らにはその蓄積があります。そうした会社と競わずに勝負することを考えました。

 その考えの下、駅前の立地で200~300坪以下のビルで、新しく耐震性のしっかりしたビルを開発する。そして、当社のビルに入れば「RE100」の達成に近づけるといった特徴を出してきました。

 耐震性や環境性能を高めるためには資金が必要です。この資金を物件購入に充てれば、その物件が収益を生むという考え方もありますが、それは経営者として、いつ来るかわからない災害への備え、収益だけでなく社会的評価を得るためにSDGsにもしっかり取り組む。先程お話したようにバランスを取って、80点を85点にしていくことが、経営者としては絶対に必要なことだと思います。

 ─ 長期的視点で取り組むことが大事だと。

 西浦 そう思います。私は後輩達に、会社を潰すことだけは、多くの皆様にご迷惑をおかけするので、絶対にしてはいけないと言っています。

 もう一つ、「信用」は非常に大事だと。大手と違って、当社は本体で200人程度の「中小企業」です。当社は一度も業績予想の下方修正はしていませんが、それは1回でも信用を失ったら、それを取り戻すのは大変だからです。お金がかかっても、お約束したことはきちんと守らなくてはいけないのです。


「隙間」を狙って新しいことをやっていく

 ─ 世界では米国のシリコンバレーバンク(SVB)が破綻するなど、先行きが非常に不透明になってきました。どう捉えていますか。

 西浦 SVBを見ていると、貸出先が非常に偏っていたことに問題があったと思います。借りる側としては、いかにメイン銀行だったとしても、比率は35%前後にしておかなければいけないということもあります。

 やはり、これもバランスです。あらゆることを気にしていくことは経営として大事です。しかし、それは1人ではできません。役員の他、スタッフを育てて取り組んでいくことが重要です。

 給与や報酬にしても、たくさん考えることができる人の給与や報酬が高く、それが肩書として付いてきているということだと思います。

 先程もお話しましたが、全体のことを考えずに、言われたことしかできない組織、国では駄目だと思うのです。

 ─ 改めてヒューリックの社名は「HUMAN・LIFE・CREATE」の頭文字を取ったものですが、名前が表す通りの存在になっていますね。

 西浦 例えば、富士銀行と第一勧業銀行、日本興業銀行が統合して「みずほフィナンシャルグループ」ができた時、その名前がいろいろ言われましたが、今となってみれば何も言われなくなりました。社名が決まったら、それはいい名前なのだと思うことが大事なんだと思います。

 ─ 世間に浸透するかは、こちらの努力次第ということですね。「見上げたらヒューリック」という標語も、ある程度浸透したのでは?

 西浦 あの標語はいくつかの広告会社に案を出してもらったものですが、そうしたアイデアは若い人達、女性などに考えてもらった方がいいと思います。

 2030年に女性役員比率を3割にすることを目指しています。足元では23~24%ですが、無理して上げることはしません。男性でも女性でも誰も文句が言えない能力を示した人が役員になるべきです。

 ─ 新しい事業にも次々に取り組んでいますね。

 西浦 例えば、幅広い意味での子供教育に関わっていきます。例えば今度、キャンプ場の運営にも携わっていきます。子供の教育と同時に、PPP(Public Private Partnership=官民連携)的な市町村活性化にもつながると思っています。

 他にも高齢者施設にも取り組んでいますが、今後3年間で5000室まで増やそうとしています。人手不足も言われますが、センサーで入所者の見守りを行う技術を持ったベンチャー企業に出資するなど、課題解決を模索しています。

 ─ 変革が続きますね。

 西浦 我々のような企業は「隙間」を狙っていかなければいけません。

 そして私自身、新しいことをやるのが好きですから。決められたことをやるのは面白くないですよね。

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