「飛び越えないと先がない」─。三菱UFJ銀行が日本初の「LBOローンファンド」を立ち上げた。すでにLBOローンでは実績があるが、メガバンクを始め、手掛けられる企業が限定していたこともあり、広く投資家の参加を目指す仕組みを開発。特に今、大企業は事業構造転換、中小企業は事業承継と、日本企業が自らの先行きを見つめ直す中、より一層重要性が高まっている。
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「M&A(企業の合併・買収)、そこにおけるLBO(借入金を活用した企業・事業買収)ローンは日本の産業力強化の上で重要。ただ、案件数が拡大する中で今のマーケット参加者だけで十分な資金を提供できるか?という問題意識を強く持っていた」と話すのは、三菱UFJ銀行ソリューションプロダクツ部部長(M&Aファイナンス担当)の加藤晶弘氏。
2023年4月7日、三菱UFJ銀行は「LBOローンファンド」を立ち上げたことを発表した。LBOローンファンドの立ち上げは日本で初めてのこと。
LBOとは、買収先企業の資産を担保に融資する手法。ここ数年の日本のM&A件数は年間5000件前後で推移しているが、この中で金額が50億円以上の案件は2百数十件程度。LBOローンは、このうち4割で活用されている主要な調達手段。三菱UFJ銀行は、日本におけるトッププレーヤー。
LBOローンは金額ベースで言えば足元では年1~2兆円の案件が組成される。今後数年で2~3兆円、10年後には5~6兆円という規模に成長すると見込まれている。特にファンドは様々な投資家からの資金を集めてM&Aを実行するが、ここにLBOローンを活用することで調達金額を増やすことができるというメリットがある。
これまで、日本ではLBOローンは主として3メガバンク、地方銀行、生命保険会社が提供してきた。米国ではローンをアレンジする銀行がほとんど引き取らず、機関投資家に売却するのに対して、日本ではメガなどアレンジした銀行が相当部分を引き取り、長期的に企業の支援に関わり続けることでM&Aした側、された側の安心感を生んできた。
だが、このモデルではどうしてもプレーヤーの顔ぶれが限られてしまうことは否めない。それが冒頭の加藤氏の問題意識につながるが、今回は「ファンドを介して、これまで参加していなかった方々の資金を集めていくことを念頭に置いている」(加藤氏)とファンド組成の狙いを語る。いわば日本型と米国型の「ハイブリッド」を狙う。
近年は大企業が自らの経営を見直す中で不採算事業を切り出す「カーブアウト」や、後継者難の中堅・中小企業が事業承継に向けて自社を売却するといった事例が増加。
その流れを受けてのLBOローンファンドの立ち上げだが、「新たなリスク」を避ける傾向がある日本企業として、「日本初」に取り組むのは易しいことではなかったのではないか。
「これを飛び越えないと先がないという問題意識が大きかった」と加藤氏。案件によっては、ファンドではなく単にローンを出す方が利益が大きいケースもあるが、一時的に機会損失があったとしても、投資家に重要性を浸透させ、マーケットを大きくしていかないと、どこかでこのマーケットが行き詰まるのではないかという危機感があった。
M&Aへの意識は変わったか?
「M&Aは日本にとって重要」と加藤氏は強調。バブル経済が崩壊した後の日本は「失われた30年」と言われ賃金、物価は低迷が続いてきた。その要因として産業力、企業力が高まってこなかったことが指摘される。
日本人は「変化」を避ける傾向が強いと言われ、これが産業力、企業力が高まってこなかった要因と見られている。そのため終身雇用的傾向は今も根強い。
M&Aは「変化」の最たるもの。近年こそ、事業承継の1手段などとして注目されているが、日本の金融危機後の一部の外資系ファンドの行動から「ハゲタカ」イメージが根強かった。
ただ、日本のM&A市場は2008年のリーマンショック後に一時減少したが、その後はコロナ禍の期間中も含め拡大。その中ではファンドの動きが活発化。「こうした動きをサポートしていくことが、日本の産業力強化の上でも重要」(加藤氏)
欧米では、急激な金利上昇と信用リスクの高まりもあり、LBOローンによる調達が厳しくなった他、M&A自体も停滞している。日本はまだ低金利環境が続くが、いずれ「金利が付く時代」が訪れる。
「今、この状況で日本の金利が急激に上がるとリスクだが、徐々に金利上昇に向かい、企業が強くなっていくというシナリオはあると思う」(加藤氏)
また、日本では事業承継における「2025年問題」が叫ばれている。これは70歳以上の経営者245万人のうち、半数で後継者が未決定であり、そのまま放置すると650万人の雇用、22兆円のGDPが失われる恐れがあるという問題を言う。
三菱UFJ銀行ではLBOローンファンドのみならず、自らの顧客企業とファンドをつなぐサービスも展開し、事業承継の活性化も目指していく。
実際にLBOローンを活用したM&Aで事業が好転したケースもある。愛知県を中心に「コメダ珈琲店」などを展開するコメダホールディングスは、三菱UFJ銀行のLBOローンも活用したPEファンドが買収して再生し、上場も実現。今や全国に店舗を展開する存在となった。
また日立製作所が行ったグループ再編はカーブアウトに属するが、このいくつかの案件で三菱UFJ銀行のLBOローンが活用された。
LBOローンファンドは第1号で約160億円、今後24年度までに第3号のファンドまで立ち上げる予定で、累計1000億円規模までの成長を見込む。
今後、三菱UFJ銀行だけでなく、他の2メガを始め、他のプレーヤーが取り組みを活発化し、M&Aが企業が成長を目指す際の選択肢として常にあることが日本企業の再生につながる。
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「M&A(企業の合併・買収)、そこにおけるLBO(借入金を活用した企業・事業買収)ローンは日本の産業力強化の上で重要。ただ、案件数が拡大する中で今のマーケット参加者だけで十分な資金を提供できるか?という問題意識を強く持っていた」と話すのは、三菱UFJ銀行ソリューションプロダクツ部部長(M&Aファイナンス担当)の加藤晶弘氏。
2023年4月7日、三菱UFJ銀行は「LBOローンファンド」を立ち上げたことを発表した。LBOローンファンドの立ち上げは日本で初めてのこと。
LBOとは、買収先企業の資産を担保に融資する手法。ここ数年の日本のM&A件数は年間5000件前後で推移しているが、この中で金額が50億円以上の案件は2百数十件程度。LBOローンは、このうち4割で活用されている主要な調達手段。三菱UFJ銀行は、日本におけるトッププレーヤー。
LBOローンは金額ベースで言えば足元では年1~2兆円の案件が組成される。今後数年で2~3兆円、10年後には5~6兆円という規模に成長すると見込まれている。特にファンドは様々な投資家からの資金を集めてM&Aを実行するが、ここにLBOローンを活用することで調達金額を増やすことができるというメリットがある。
これまで、日本ではLBOローンは主として3メガバンク、地方銀行、生命保険会社が提供してきた。米国ではローンをアレンジする銀行がほとんど引き取らず、機関投資家に売却するのに対して、日本ではメガなどアレンジした銀行が相当部分を引き取り、長期的に企業の支援に関わり続けることでM&Aした側、された側の安心感を生んできた。
だが、このモデルではどうしてもプレーヤーの顔ぶれが限られてしまうことは否めない。それが冒頭の加藤氏の問題意識につながるが、今回は「ファンドを介して、これまで参加していなかった方々の資金を集めていくことを念頭に置いている」(加藤氏)とファンド組成の狙いを語る。いわば日本型と米国型の「ハイブリッド」を狙う。
近年は大企業が自らの経営を見直す中で不採算事業を切り出す「カーブアウト」や、後継者難の中堅・中小企業が事業承継に向けて自社を売却するといった事例が増加。
その流れを受けてのLBOローンファンドの立ち上げだが、「新たなリスク」を避ける傾向がある日本企業として、「日本初」に取り組むのは易しいことではなかったのではないか。
「これを飛び越えないと先がないという問題意識が大きかった」と加藤氏。案件によっては、ファンドではなく単にローンを出す方が利益が大きいケースもあるが、一時的に機会損失があったとしても、投資家に重要性を浸透させ、マーケットを大きくしていかないと、どこかでこのマーケットが行き詰まるのではないかという危機感があった。
M&Aへの意識は変わったか?
「M&Aは日本にとって重要」と加藤氏は強調。バブル経済が崩壊した後の日本は「失われた30年」と言われ賃金、物価は低迷が続いてきた。その要因として産業力、企業力が高まってこなかったことが指摘される。
日本人は「変化」を避ける傾向が強いと言われ、これが産業力、企業力が高まってこなかった要因と見られている。そのため終身雇用的傾向は今も根強い。
M&Aは「変化」の最たるもの。近年こそ、事業承継の1手段などとして注目されているが、日本の金融危機後の一部の外資系ファンドの行動から「ハゲタカ」イメージが根強かった。
ただ、日本のM&A市場は2008年のリーマンショック後に一時減少したが、その後はコロナ禍の期間中も含め拡大。その中ではファンドの動きが活発化。「こうした動きをサポートしていくことが、日本の産業力強化の上でも重要」(加藤氏)
欧米では、急激な金利上昇と信用リスクの高まりもあり、LBOローンによる調達が厳しくなった他、M&A自体も停滞している。日本はまだ低金利環境が続くが、いずれ「金利が付く時代」が訪れる。
「今、この状況で日本の金利が急激に上がるとリスクだが、徐々に金利上昇に向かい、企業が強くなっていくというシナリオはあると思う」(加藤氏)
また、日本では事業承継における「2025年問題」が叫ばれている。これは70歳以上の経営者245万人のうち、半数で後継者が未決定であり、そのまま放置すると650万人の雇用、22兆円のGDPが失われる恐れがあるという問題を言う。
三菱UFJ銀行ではLBOローンファンドのみならず、自らの顧客企業とファンドをつなぐサービスも展開し、事業承継の活性化も目指していく。
実際にLBOローンを活用したM&Aで事業が好転したケースもある。愛知県を中心に「コメダ珈琲店」などを展開するコメダホールディングスは、三菱UFJ銀行のLBOローンも活用したPEファンドが買収して再生し、上場も実現。今や全国に店舗を展開する存在となった。
また日立製作所が行ったグループ再編はカーブアウトに属するが、このいくつかの案件で三菱UFJ銀行のLBOローンが活用された。
LBOローンファンドは第1号で約160億円、今後24年度までに第3号のファンドまで立ち上げる予定で、累計1000億円規模までの成長を見込む。
今後、三菱UFJ銀行だけでなく、他の2メガを始め、他のプレーヤーが取り組みを活発化し、M&Aが企業が成長を目指す際の選択肢として常にあることが日本企業の再生につながる。