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みずほ証券・上野泰也氏の警鐘「『あまりにもあまりにも大きな出遅れ感』が否めない日本の人口対策」

財界オンライン 2023年5月14日 11時30分

総務省は4月12日、2022年の人口推計(10月1日現在)を発表した。日本の総人口は1億2494万7千人。12年連続の減少で、1年前と比べた場合のマイナス幅(55万人6千人)は過去最大である。人口構成は高齢化してきており、経済・社会活動の中心である15~64歳の「生産年齢人口」が全体に占める比率は59.4%にとどまった。

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 人口減・少子高齢化の着実な進行は、日本経済の潜在成長率を押し下げる方向に寄与し続けている。国内需要の先細り見通しが定着してしまったことは、日本企業が生き残りをかけて海外に進出する動きを後押しするのみならず、生産能力を増強する目的から国内で行う設備投資の総額を抑制する。過疎化が一段と進行すると、社会インフラや交通網をどのように維持するかで、地方行政は一層の苦難に直面する。1人当たりGDP(国内総生産)さえ伸びればよいという発想は、現実に起きていることとの間にギャップがある。

 人口面の危機があらためて意識される中で、政府に動きが出ている。岸田文雄首相は1月23日召集の通常国会冒頭で行った施政方針演説で、「わが国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれています」「こどもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければなりません」「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと思います」と述べた。いわゆる「異次元の少子化対策」である。

 けれども、最近議論されている内容は、児童手当拡充やフランスの「n分n乗方式の所得税制度」など、筆者が15年ほど前に著書で展開した主張と重なり合うものが少なくない。出産に伴う金銭負担をタダにすることは、もっと早くに実現しているべき話である。

 少子化対策のツボは、「おカネとインフラ」の両面を中心とする、強力な支援措置である。子どもを産んでも生活が苦しくならないと思わせる前提条件を整えることが必要不可欠である。その上で、労働との両立支援、メンタル面のサポートなども拡充する必要がある。

 人口問題の関連ではもう一つ、政策面で動きがあった。政府の有識者会議は4月10日、外国人が働きながら技術を学ぶ「技能実習」制度を廃止すべきだと提言した上で、新たな制度のたたき台を示した。人材の育成だけでなく、労働現場の人手不足を解消する外国人材の確保を主な目的とした上で、勤務先の企業の変更を認めるなど、これまでよりも現実に即した、「人口対策」としての性格が名実ともに濃い制度へと、替えする方向である。

 このタイミングでこうした話が出てくるのは、少子化対策の強化だけでは立ち行かないという政府の危機感の表れでもあるのだろう。日本経済が課されている人口面のくびきを少しでも軽くする、前向きで強力な政策展開が期待される。

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