生成AIと人の関係は
ChatGPT(生成AI)の登場にはさまざまな反応があるが、比較的冷静に受け止められていると思う。
知の拠点であり、教育の拠点でもある大学でも、前向きな所と否定的な所があるが、状況を見ながら自分たちの態度を決めていく所が多い。
19世紀初めの機械打ち壊し運動が起きて以来、人と技術・機械の間には、幾度も摩擦が起きているが、人類はそれを〝昇華〟させ〝共存〟させてきた。
今回は、人とそうした知のシステムとの摩擦もさることながら、生成AI(人工知能)の登場が、検索エンジンGoogle(グーグル)の領域を冒しているということがある。
知りたいこと、聞きたいことが言語処理で出てくるのだから、「便利だ!」ということになる。
もっとも、完璧な正確性を伴うかというと、そうでもないということらしい。
そこは、人が利用する場合に一定程度は念頭に入れておかないといけない。
だから、教育が大事に…
本誌では、前号(5月24日号)で『人と生成AIの関係』について、小宮山宏・三菱総合研究所理事長(東京大学元総長)のお話を掲載したが、小宮山さんもその時のインタビューで、生成AIがもたらす問題点を2つ挙げておられた。
1つは『教育』、もう1つが『仕事』である。生成AIの伸長で後者の仕事(ジョブ)が減るという点については、日本は労働者不足だから、「うまく人材を移転させることができれば、うまく行く可能性もあると思います」ということ。
『教育』のほうはどうか?
「例えば、小学校の子どもに生成AIを使わせてしまえば、頭の訓練ができなくなってしまいます」と小宮山さんが危惧される面もある。
「ですから、教育が大切になります」(小宮山さん)ということになる。生成AIの登場は改めて、「人とは何か」を考えさせる契機となっている。
監査のデジタル化に
「AIだとか、抽出するアルゴリズムをもっとソフィスティケート(洗練)させてノイズの少ないサンプルアウトができるようにできませんかと言われるんですけれど、僕らができることは、僕ら(監査法人)の作業の標準化。データが元々悪いと、これは難しいんですよ。お客様とわれわれは一緒に進んでいく関係ですよ」とはPwCあらた有限責任監査法人 代表執行役の井野貴章さんの話。
『監査のデジタル化』が言われるようになったが、それは〝自動的〟に進むものではなくて、監査人と当該企業が『共に』の精神で臨まないとならないというもの。
監査技術の進展と共に監査人の仕事も進化していく。
例えば、監査以外のアドバイザー業務も増えそうだ。
「監査法人が監査以外のことをやることはどうか」という議論も出てくるが、「われわれは、両方をやらないと監査法人は強くなれないと思っています」と井野さん。
これからの監査について、企業側もそうしたアドバイザリーを求めるところが少なくない。テクノロジーの進展と共に、法人及び人のなすべき事も増えている。
機械の進歩は人類を豊かにしてきたことは間違いない。
今、日本も人口減、少子化・高齢化の流れの中にある。機械・システムや生成AIとの共存の中で、新たに登場してくる課題を解決していくという姿は今後も変わらないであろう。
永田良一さんの人生観
永遠に時が流れる中に、今、自分がこの瞬間を生きている。この事を考えると、ものすごく貴重な〝時〟に自分は存在しているということ。
CRO(医薬品開発受託機関)の大手、新日本科学会長兼社長の永田良一さん(1958年=昭和33年8月生まれ)が興味深い事を言っておられる。
『而二不二(ににふに)』─。仏教用語で、わたしもあなたも同じ所から生まれてきて、同じ所に死んでいくということで、共存・共生につながる考え。
米国でも事業を展開する永田さんは、この事を日米間を往復する飛行機の席でずっと考えてきた。
「アメリカと日本の往復で、年間800時間ぐらい飛行機に乗っていた時に、『えっ?』と思ったんですよ」
永田さんは目が覚めるような思いだったという。
未来、現在、過去をつなぐ
永田さんには子供が2人いる。この2人の子供が2人ずつ孫を産んだら、4人の孫になる。
「今のところ、3人ですけどね。4人産んでくれって一応言ってあります」
子供が2人ずつ孫を産んで4人になる。
「その4人の孫がまた2人ずつ子供を作ったら、掛けると8人になるんですよ。1世代、2世代、3世代、4世代ってなると、じゃあ千年経ったら、僕の子孫は何人になるんだと思ったんです」
永田さんはこういう問題意識から計算をしてみた。するとどうなるか?「(30世代の間に)アッという間に1兆人ですよ。僕の子孫が1兆人もいるんだと。中に産まなかったり、もっとたくさん産む子もいるかもしれないけれども」
これから、自分の直系が30世代、40世代と登場してくるけれども、「その間には1兆人の子孫がいる。僕は30代前の先祖様は1対1で見えるけれども、この先祖様から僕は1兆分の1にしか見えないんです。これに気づいたんです。而二不二ってこういうことなんだと」
未来、過去、現在という時間軸でそう考えてどうなったのか?
「そういう風な考え方をすると、今同じ時間と空間を共有しているなんて奇跡的ですよ。すごい奇跡的じゃないですか。この地球上でわれわれが今、同じ時間と空間を共有している」
永田さんは「なのに、お互いに殺し合うなんて、ものすごく馬鹿げている」と世界の現状を嘆く。
人々の幸せと自らの…
永田さんは仕事柄、国境をまたぐことが多い。飛行機の中でそんな事を考えながら、人間社会の出来事と自分の生き方をじっと考え抜く。
般若理趣経─。人間の〝大欲〟について説く経典。大欲の考え方とは、「衆生の幸せのために自己犠牲にして、そこを自分の幸せと感じ取ること」だという。
多くの人がそういう気持ちになれば、世の中に平和が訪れると筆者は思う。
ウクライナ危機はまだ続く。道理の通りにくい現実の中で諦めずに生き抜いていかねばならない。
サイエンスの世界に生きる永田さんが仏典の奥義と絡めて、真理を追求し続けておられる姿が印象的である。
ChatGPT(生成AI)の登場にはさまざまな反応があるが、比較的冷静に受け止められていると思う。
知の拠点であり、教育の拠点でもある大学でも、前向きな所と否定的な所があるが、状況を見ながら自分たちの態度を決めていく所が多い。
19世紀初めの機械打ち壊し運動が起きて以来、人と技術・機械の間には、幾度も摩擦が起きているが、人類はそれを〝昇華〟させ〝共存〟させてきた。
今回は、人とそうした知のシステムとの摩擦もさることながら、生成AI(人工知能)の登場が、検索エンジンGoogle(グーグル)の領域を冒しているということがある。
知りたいこと、聞きたいことが言語処理で出てくるのだから、「便利だ!」ということになる。
もっとも、完璧な正確性を伴うかというと、そうでもないということらしい。
そこは、人が利用する場合に一定程度は念頭に入れておかないといけない。
だから、教育が大事に…
本誌では、前号(5月24日号)で『人と生成AIの関係』について、小宮山宏・三菱総合研究所理事長(東京大学元総長)のお話を掲載したが、小宮山さんもその時のインタビューで、生成AIがもたらす問題点を2つ挙げておられた。
1つは『教育』、もう1つが『仕事』である。生成AIの伸長で後者の仕事(ジョブ)が減るという点については、日本は労働者不足だから、「うまく人材を移転させることができれば、うまく行く可能性もあると思います」ということ。
『教育』のほうはどうか?
「例えば、小学校の子どもに生成AIを使わせてしまえば、頭の訓練ができなくなってしまいます」と小宮山さんが危惧される面もある。
「ですから、教育が大切になります」(小宮山さん)ということになる。生成AIの登場は改めて、「人とは何か」を考えさせる契機となっている。
監査のデジタル化に
「AIだとか、抽出するアルゴリズムをもっとソフィスティケート(洗練)させてノイズの少ないサンプルアウトができるようにできませんかと言われるんですけれど、僕らができることは、僕ら(監査法人)の作業の標準化。データが元々悪いと、これは難しいんですよ。お客様とわれわれは一緒に進んでいく関係ですよ」とはPwCあらた有限責任監査法人 代表執行役の井野貴章さんの話。
『監査のデジタル化』が言われるようになったが、それは〝自動的〟に進むものではなくて、監査人と当該企業が『共に』の精神で臨まないとならないというもの。
監査技術の進展と共に監査人の仕事も進化していく。
例えば、監査以外のアドバイザー業務も増えそうだ。
「監査法人が監査以外のことをやることはどうか」という議論も出てくるが、「われわれは、両方をやらないと監査法人は強くなれないと思っています」と井野さん。
これからの監査について、企業側もそうしたアドバイザリーを求めるところが少なくない。テクノロジーの進展と共に、法人及び人のなすべき事も増えている。
機械の進歩は人類を豊かにしてきたことは間違いない。
今、日本も人口減、少子化・高齢化の流れの中にある。機械・システムや生成AIとの共存の中で、新たに登場してくる課題を解決していくという姿は今後も変わらないであろう。
永田良一さんの人生観
永遠に時が流れる中に、今、自分がこの瞬間を生きている。この事を考えると、ものすごく貴重な〝時〟に自分は存在しているということ。
CRO(医薬品開発受託機関)の大手、新日本科学会長兼社長の永田良一さん(1958年=昭和33年8月生まれ)が興味深い事を言っておられる。
『而二不二(ににふに)』─。仏教用語で、わたしもあなたも同じ所から生まれてきて、同じ所に死んでいくということで、共存・共生につながる考え。
米国でも事業を展開する永田さんは、この事を日米間を往復する飛行機の席でずっと考えてきた。
「アメリカと日本の往復で、年間800時間ぐらい飛行機に乗っていた時に、『えっ?』と思ったんですよ」
永田さんは目が覚めるような思いだったという。
未来、現在、過去をつなぐ
永田さんには子供が2人いる。この2人の子供が2人ずつ孫を産んだら、4人の孫になる。
「今のところ、3人ですけどね。4人産んでくれって一応言ってあります」
子供が2人ずつ孫を産んで4人になる。
「その4人の孫がまた2人ずつ子供を作ったら、掛けると8人になるんですよ。1世代、2世代、3世代、4世代ってなると、じゃあ千年経ったら、僕の子孫は何人になるんだと思ったんです」
永田さんはこういう問題意識から計算をしてみた。するとどうなるか?「(30世代の間に)アッという間に1兆人ですよ。僕の子孫が1兆人もいるんだと。中に産まなかったり、もっとたくさん産む子もいるかもしれないけれども」
これから、自分の直系が30世代、40世代と登場してくるけれども、「その間には1兆人の子孫がいる。僕は30代前の先祖様は1対1で見えるけれども、この先祖様から僕は1兆分の1にしか見えないんです。これに気づいたんです。而二不二ってこういうことなんだと」
未来、過去、現在という時間軸でそう考えてどうなったのか?
「そういう風な考え方をすると、今同じ時間と空間を共有しているなんて奇跡的ですよ。すごい奇跡的じゃないですか。この地球上でわれわれが今、同じ時間と空間を共有している」
永田さんは「なのに、お互いに殺し合うなんて、ものすごく馬鹿げている」と世界の現状を嘆く。
人々の幸せと自らの…
永田さんは仕事柄、国境をまたぐことが多い。飛行機の中でそんな事を考えながら、人間社会の出来事と自分の生き方をじっと考え抜く。
般若理趣経─。人間の〝大欲〟について説く経典。大欲の考え方とは、「衆生の幸せのために自己犠牲にして、そこを自分の幸せと感じ取ること」だという。
多くの人がそういう気持ちになれば、世の中に平和が訪れると筆者は思う。
ウクライナ危機はまだ続く。道理の通りにくい現実の中で諦めずに生き抜いていかねばならない。
サイエンスの世界に生きる永田さんが仏典の奥義と絡めて、真理を追求し続けておられる姿が印象的である。