分断という方向にはっきりとアクセルを踏んでしまった
─ 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)が閉幕しましたが、今回のサミットをどう総括しますか。
寺島 わたしは日本が21世紀の世界秩序の中で、どういう主体的な役割を果たすのかという意味において、今回のサミットは非常に注目していました。
しかし、残念ながら、政治への期待が低くなっていることで、何となくうまくいったということになっていますが、実際は大きな展開ができなかったように思います。
まず一つは、「ゼレンスキー・サミット」になったということです。ウクライナのゼレンスキー大統領が出てきたことによって、G7で結束してロシアと向き合うというメッセージを発信すると意気込んでいることでは、確かにG7の結束とロシアの締め上げという方向を示せたように見えます。しかし、例えば、この戦争を停戦させて和平に持ち込んでいく方向づけができたかというと、そうではない。
世界を分断してはいけないという重大な時に、敵対し合っている同士の片方に全面的に加担し、そのことによって分断のリスクを高め、分断という方向にはっきりとアクセルを踏んだという意味において、大きな課題を残したと思います。
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─ では、どうすべきだったのか。今後の日本がとるべき行動とは何ですか。
寺島 一番重要なのは、今回のウクライナ戦争が、スラブ民族間の地域紛争なのか、第三次世界大戦の入口なのか、現時点で大変重大な局面にきています。
日本人として一番しっかり腹に持ちこたえなければいけないのは、これを第三次世界大戦にしてはならないということ。そうした問題意識をしっかりと腹にくくりながら、何としてでもこのスラブ民族間の地域紛争を、世界的な視点から停戦・和平に持ち込んでいくという方向づけは全くできませんでした。
わたしがなぜ、ゼレンスキー・サミットと言ったのか、それはゼレンスキー大統領自身がユダヤ人であり、この戦争には世界中のユダヤネットワークが彼をサポートしているような構図になっているからです。
─ そこにユダヤという視点が出てくるのはなぜですか。
寺島 わたしがユダヤ人と長年向き合ってきて感じることなのですが、例えば、「マサダコンプレックス」という言葉があります。
ユダヤ人の間では、かつてローマ軍に追い詰められて、イスラエルにあるマサダの砦で全滅したという歴史の悲話を子々孫々まで語り継いでいます。油断していると民族の滅亡に至らしめられるかもしれないという切迫した状況に常にあり、ユダヤ人は皆で結束して、難局を乗り越えていかなければいけないという、ある種の被害者意識を共有していることを理解しておくことが重要です。
その「マサダコンプレックス」と似たような構図に、世界中が引き込まれているとも言える状況になりつつあると思います。「ロシアのプーチン大統領という存在がもたらしている今の悲劇に対して、皆で力を合わせて、わたしを支援してください」というようなものです。
─ これは何もゼレンスキー大統領が仕掛けたことではないですよね。
寺島 もちろんそうですが、そういう構図になりつつあるということです。ゼレンスキー大統領が原爆資料館を視察した姿を見ていて、ある出来事を思い出しました。かつてわたしが米ワシントンに駐在していた時、ユダヤ人ネットワークの人たちにホロコースト(ユダヤ人の大虐殺)ミュージアムをつくるから協力してほしいと、頼まれたことがありました。
この時、わたしは戦争被害というのは、ユダヤ人のホロコーストだけではなく、日本人も広島、長崎という不条理な核兵器の被害を受けている。だから、世界の戦争被害に関するミュージアムのようなものをつくるなら、日本人も大いに協力しやすいという類のことをユダヤ関係者に提案しました。
すると、彼らは「とんでもない。あなたは何もわかってない」と返してきました。「われわれこそ、本当の戦争の被害者で、ホロコーストやヒトラーの被害者なのだ」と。激しい議論になると必ず出てくるのが、「日本人はヒトラーと手を組んで戦争をしたことを忘れてはならない」ということなのです。
─ なるほど。彼らはそういう文脈で日本を見ている。
寺島 そうなんです。ユダヤ人の原爆に対しての見方は、もちろん原爆被害の悲惨さに対しての同情はありますが、一部には原爆が落とされた理由について、ヒトラーと手を組んだ日本をアメリカが懲らしめたというような感覚で見ている部分があるのも事実です。
日本人が原爆の悲劇を世界と共有していくプロセスの中で、世界の人たちは様々な目線で見ているということも、冷静に見ておかなければならないということです。ゼレンスキー・サミットになったというのは、そういった文脈からです。
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─ では、今後われわれはロシアにどう向き合っていくべきなのか。
寺島 もちろん、ロシアが国際法や国連憲章を無視して、主権国家に武力攻撃を仕掛けている状況を看過することはできません。しかし、われわれに必要なことは、今の状況をエスカレートさせないための知恵もいるということです。
しかも、このロシアという国が一番厄介なところは、世界に1万2700発あると言われている戦略核弾頭のうちの約6千発近くを持っているということです。中国はわずか350発です。ロシアはGDP(国内総生産)で見れば、世界11位まで落ちてきていますが、いまだに核大国だという現実です。
ですから、今後、プーチン大統領がますます追い詰められて、いきなり核のボタンを押すことはないとは思いますが、小さな戦術核のようなものを使ってくる可能性は否定できません。
─ ここは西側諸国も難しい選択を迫られますね。
寺島 これは、日本はウクライナを支援してはいけないという意味ではありません。
ただ、ロシアの無謀な戦争に対して制裁を科すということは間違った方向ではありませんが、G7で結束して、一方のウクライナだけに武器や弾薬を与え、資金を援助して、後ろから応援団のように装って戦い続けさせるということが、本当に正しいのか、一度立ち止まって冷静に考えるべきです。
つまり、これをエスカレートさせて、第三次大戦に自ら踏み込んでいくような流れをつくっているのだとしたら、それは愚かなことであり、気をつけなければいけないということです。
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─ 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)が閉幕しましたが、今回のサミットをどう総括しますか。
寺島 わたしは日本が21世紀の世界秩序の中で、どういう主体的な役割を果たすのかという意味において、今回のサミットは非常に注目していました。
しかし、残念ながら、政治への期待が低くなっていることで、何となくうまくいったということになっていますが、実際は大きな展開ができなかったように思います。
まず一つは、「ゼレンスキー・サミット」になったということです。ウクライナのゼレンスキー大統領が出てきたことによって、G7で結束してロシアと向き合うというメッセージを発信すると意気込んでいることでは、確かにG7の結束とロシアの締め上げという方向を示せたように見えます。しかし、例えば、この戦争を停戦させて和平に持ち込んでいく方向づけができたかというと、そうではない。
世界を分断してはいけないという重大な時に、敵対し合っている同士の片方に全面的に加担し、そのことによって分断のリスクを高め、分断という方向にはっきりとアクセルを踏んだという意味において、大きな課題を残したと思います。
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─ では、どうすべきだったのか。今後の日本がとるべき行動とは何ですか。
寺島 一番重要なのは、今回のウクライナ戦争が、スラブ民族間の地域紛争なのか、第三次世界大戦の入口なのか、現時点で大変重大な局面にきています。
日本人として一番しっかり腹に持ちこたえなければいけないのは、これを第三次世界大戦にしてはならないということ。そうした問題意識をしっかりと腹にくくりながら、何としてでもこのスラブ民族間の地域紛争を、世界的な視点から停戦・和平に持ち込んでいくという方向づけは全くできませんでした。
わたしがなぜ、ゼレンスキー・サミットと言ったのか、それはゼレンスキー大統領自身がユダヤ人であり、この戦争には世界中のユダヤネットワークが彼をサポートしているような構図になっているからです。
─ そこにユダヤという視点が出てくるのはなぜですか。
寺島 わたしがユダヤ人と長年向き合ってきて感じることなのですが、例えば、「マサダコンプレックス」という言葉があります。
ユダヤ人の間では、かつてローマ軍に追い詰められて、イスラエルにあるマサダの砦で全滅したという歴史の悲話を子々孫々まで語り継いでいます。油断していると民族の滅亡に至らしめられるかもしれないという切迫した状況に常にあり、ユダヤ人は皆で結束して、難局を乗り越えていかなければいけないという、ある種の被害者意識を共有していることを理解しておくことが重要です。
その「マサダコンプレックス」と似たような構図に、世界中が引き込まれているとも言える状況になりつつあると思います。「ロシアのプーチン大統領という存在がもたらしている今の悲劇に対して、皆で力を合わせて、わたしを支援してください」というようなものです。
─ これは何もゼレンスキー大統領が仕掛けたことではないですよね。
寺島 もちろんそうですが、そういう構図になりつつあるということです。ゼレンスキー大統領が原爆資料館を視察した姿を見ていて、ある出来事を思い出しました。かつてわたしが米ワシントンに駐在していた時、ユダヤ人ネットワークの人たちにホロコースト(ユダヤ人の大虐殺)ミュージアムをつくるから協力してほしいと、頼まれたことがありました。
この時、わたしは戦争被害というのは、ユダヤ人のホロコーストだけではなく、日本人も広島、長崎という不条理な核兵器の被害を受けている。だから、世界の戦争被害に関するミュージアムのようなものをつくるなら、日本人も大いに協力しやすいという類のことをユダヤ関係者に提案しました。
すると、彼らは「とんでもない。あなたは何もわかってない」と返してきました。「われわれこそ、本当の戦争の被害者で、ホロコーストやヒトラーの被害者なのだ」と。激しい議論になると必ず出てくるのが、「日本人はヒトラーと手を組んで戦争をしたことを忘れてはならない」ということなのです。
─ なるほど。彼らはそういう文脈で日本を見ている。
寺島 そうなんです。ユダヤ人の原爆に対しての見方は、もちろん原爆被害の悲惨さに対しての同情はありますが、一部には原爆が落とされた理由について、ヒトラーと手を組んだ日本をアメリカが懲らしめたというような感覚で見ている部分があるのも事実です。
日本人が原爆の悲劇を世界と共有していくプロセスの中で、世界の人たちは様々な目線で見ているということも、冷静に見ておかなければならないということです。ゼレンスキー・サミットになったというのは、そういった文脈からです。
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─ では、今後われわれはロシアにどう向き合っていくべきなのか。
寺島 もちろん、ロシアが国際法や国連憲章を無視して、主権国家に武力攻撃を仕掛けている状況を看過することはできません。しかし、われわれに必要なことは、今の状況をエスカレートさせないための知恵もいるということです。
しかも、このロシアという国が一番厄介なところは、世界に1万2700発あると言われている戦略核弾頭のうちの約6千発近くを持っているということです。中国はわずか350発です。ロシアはGDP(国内総生産)で見れば、世界11位まで落ちてきていますが、いまだに核大国だという現実です。
ですから、今後、プーチン大統領がますます追い詰められて、いきなり核のボタンを押すことはないとは思いますが、小さな戦術核のようなものを使ってくる可能性は否定できません。
─ ここは西側諸国も難しい選択を迫られますね。
寺島 これは、日本はウクライナを支援してはいけないという意味ではありません。
ただ、ロシアの無謀な戦争に対して制裁を科すということは間違った方向ではありませんが、G7で結束して、一方のウクライナだけに武器や弾薬を与え、資金を援助して、後ろから応援団のように装って戦い続けさせるということが、本当に正しいのか、一度立ち止まって冷静に考えるべきです。
つまり、これをエスカレートさせて、第三次大戦に自ら踏み込んでいくような流れをつくっているのだとしたら、それは愚かなことであり、気をつけなければいけないということです。
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