車載電池がプラズマ・液晶の二の舞になる懸念はないか?
「この2年間は誰にも負けない競争力の獲得を目指してきた。今後、人手不足や物価の高騰、地政学リスクに起因するサプライチェーン(供給網)の分断など、これまで以上に企業を取り巻く環境は急激に変化していくことが予想されるが、それでも手綱を緩めることなく競争力を徹底して強化していく」
こう語るのは、パナソニック ホールディングス(HD)社長グループCEO(最高経営責任者)の楠見雄規氏。
バフェットの「日本買い」、次に注目される銘柄は何か?
2021年に社長へ就任し、自ら「競争力強化の2年」と位置付けた2年間が経った今、楠見氏は「成長ステージへ、ギアを上げる」と宣言。新たなグループ戦略を発表した。
具体的な今後の投資領域として、車載電池、空質空調、サプライチェーンマネジメント(SCM)ソフトウェアの3つを設定。中でも、重点領域に据えるのが車載電池。グループ全体で24年度までの3年で1兆8千億円を投資するうち、6千億円を車載電池に投じる計画だ。
これまでも米電気自動車(EV)メーカー・テスラ向けに車載電池を生産してきたパナソニックHD。同社では世界的な脱炭素の流れを受けて、EV市場がグローバルで拡大すると判断。現在は米国政府が米国内のサプライチェーン構築を支援していることもあり、2030年までの10年間に北米市場では年平均35%の成長を見込んでいる。
すでに稼働している米ネバダ工場に続き、昨年10月にはカンザス州にも新工場の建設を決定。前述した戦略投資の6千億円のほとんどをカンザス工場に投じる考えで、24年度中の量産開始を目指している。
この他、24年には国内の大阪・住之江に車載電池の生産技術開発拠点、25年には同・門真に新機種・材料の開発拠点を新設。2030年までに和歌山工場を含めて、グローバルでの生産体制を200ギガ(ギガは10億)ワット時、現在の約4倍の生産能力に引き上げる計画だ。
ただ、パナソニックはかつてプラズマや液晶パネルに巨額投資をして、後に2期連続で7千億円超の最終赤字に陥った過去がある。車載電池がプラズマ・液晶の二の舞になる懸念はないのだろうか。
楠見氏は「ディスプレイパネルは、ガラスのサイズをどんどん大きくしていかなければならない。そこに投資が発生し、以前のものが使えなくなってしまう。しかし、半導体や液晶パネルの世界と違って、電池は別の工場を建てる必要もないし、とにかくシェアを取らないといけないわけでもない」と指摘。
あくまで高容量化やレアメタルの少なさ、安全性などの技術優位性で差が出るとし、「きちんとお客さんを取りに行って、そのお客さんにしっかりお役立ちをしていけば、シェアだけでコスト競争力がなくなるかといえば、そういうことでもない。技術で勝っていく」と語る。
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営業利益率や時価総額ではソニーの後塵を拝する状況
パナソニックHDの2023年3月期の業績は、売上高8兆3789億円(前年同期比13.4%)、営業利益2885億円(同19.3%減)、純利益2805億円(同5.7%増)。楠見氏が競争力強化と位置付けた2年間が経ったが、売上高営業利益率は3.4%にとどまった。
ソニーグループの売上高営業利益率は10.5%、日立製作所の6.9%(売上収益調整後利益率)に比べて、まだまだ低い。時価総額(5月26日時点)もソニーグループの16兆8543億円に対し、パナソニックHDは3兆5362億円にすぎない。
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もっとも、24年3月期は純利益が3500億円(同31.8億円)と、5年ぶりの過去最高益となる見通し。ただ、これは車載電池の工場が米インフレ抑制法(IRA)の補助金支給対象となることで、純利益を1千億円押し上げるという。
「そもそもの収益性が競合に比べて低い状態では、株価も上がってこない。それも含めて、いかに収益性を高めていくかに集中する。競争力強化と言い続けているのも、結果として収益性が付いていくべきものであると考えているから」(楠見氏)
市場で「ここ数年、パナソニックの元気がない」という声を拭うことができないのは、収益力が他社に比べて劣っているからだ。稼ぐ力を取り戻すには、まだまだ改革も道半ばである。
この2年間の改革の手応えについて、「例えば、リードタイムを半減したとか、改革ができているところはできているけど、同じことが全ての拠点でできていたわけではない。一つでもできた拠点があるのであれば、それを広めていく。やるべきことをやってここまで来たが、(改革は)終わりでもない。理想に向けてやっていこうという機運が高まり、現場が変わっていけばいい」と語る楠見氏。
同社の課題は一つひとつの事業の収益力をいかに高めるかに尽きる。持ち株会社制への移行で仕組みづくりを整えた今、グループの潜在力を掘り起こすことはできるのか。楠見氏の覚悟と実行力が問われている。
【わたしの一冊】『選択できる未来をつくる』パナソニックのスーパーウーマン
「この2年間は誰にも負けない競争力の獲得を目指してきた。今後、人手不足や物価の高騰、地政学リスクに起因するサプライチェーン(供給網)の分断など、これまで以上に企業を取り巻く環境は急激に変化していくことが予想されるが、それでも手綱を緩めることなく競争力を徹底して強化していく」
こう語るのは、パナソニック ホールディングス(HD)社長グループCEO(最高経営責任者)の楠見雄規氏。
バフェットの「日本買い」、次に注目される銘柄は何か?
2021年に社長へ就任し、自ら「競争力強化の2年」と位置付けた2年間が経った今、楠見氏は「成長ステージへ、ギアを上げる」と宣言。新たなグループ戦略を発表した。
具体的な今後の投資領域として、車載電池、空質空調、サプライチェーンマネジメント(SCM)ソフトウェアの3つを設定。中でも、重点領域に据えるのが車載電池。グループ全体で24年度までの3年で1兆8千億円を投資するうち、6千億円を車載電池に投じる計画だ。
これまでも米電気自動車(EV)メーカー・テスラ向けに車載電池を生産してきたパナソニックHD。同社では世界的な脱炭素の流れを受けて、EV市場がグローバルで拡大すると判断。現在は米国政府が米国内のサプライチェーン構築を支援していることもあり、2030年までの10年間に北米市場では年平均35%の成長を見込んでいる。
すでに稼働している米ネバダ工場に続き、昨年10月にはカンザス州にも新工場の建設を決定。前述した戦略投資の6千億円のほとんどをカンザス工場に投じる考えで、24年度中の量産開始を目指している。
この他、24年には国内の大阪・住之江に車載電池の生産技術開発拠点、25年には同・門真に新機種・材料の開発拠点を新設。2030年までに和歌山工場を含めて、グローバルでの生産体制を200ギガ(ギガは10億)ワット時、現在の約4倍の生産能力に引き上げる計画だ。
ただ、パナソニックはかつてプラズマや液晶パネルに巨額投資をして、後に2期連続で7千億円超の最終赤字に陥った過去がある。車載電池がプラズマ・液晶の二の舞になる懸念はないのだろうか。
楠見氏は「ディスプレイパネルは、ガラスのサイズをどんどん大きくしていかなければならない。そこに投資が発生し、以前のものが使えなくなってしまう。しかし、半導体や液晶パネルの世界と違って、電池は別の工場を建てる必要もないし、とにかくシェアを取らないといけないわけでもない」と指摘。
あくまで高容量化やレアメタルの少なさ、安全性などの技術優位性で差が出るとし、「きちんとお客さんを取りに行って、そのお客さんにしっかりお役立ちをしていけば、シェアだけでコスト競争力がなくなるかといえば、そういうことでもない。技術で勝っていく」と語る。
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パナソニックHDの2023年3月期の業績は、売上高8兆3789億円(前年同期比13.4%)、営業利益2885億円(同19.3%減)、純利益2805億円(同5.7%増)。楠見氏が競争力強化と位置付けた2年間が経ったが、売上高営業利益率は3.4%にとどまった。
ソニーグループの売上高営業利益率は10.5%、日立製作所の6.9%(売上収益調整後利益率)に比べて、まだまだ低い。時価総額(5月26日時点)もソニーグループの16兆8543億円に対し、パナソニックHDは3兆5362億円にすぎない。
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もっとも、24年3月期は純利益が3500億円(同31.8億円)と、5年ぶりの過去最高益となる見通し。ただ、これは車載電池の工場が米インフレ抑制法(IRA)の補助金支給対象となることで、純利益を1千億円押し上げるという。
「そもそもの収益性が競合に比べて低い状態では、株価も上がってこない。それも含めて、いかに収益性を高めていくかに集中する。競争力強化と言い続けているのも、結果として収益性が付いていくべきものであると考えているから」(楠見氏)
市場で「ここ数年、パナソニックの元気がない」という声を拭うことができないのは、収益力が他社に比べて劣っているからだ。稼ぐ力を取り戻すには、まだまだ改革も道半ばである。
この2年間の改革の手応えについて、「例えば、リードタイムを半減したとか、改革ができているところはできているけど、同じことが全ての拠点でできていたわけではない。一つでもできた拠点があるのであれば、それを広めていく。やるべきことをやってここまで来たが、(改革は)終わりでもない。理想に向けてやっていこうという機運が高まり、現場が変わっていけばいい」と語る楠見氏。
同社の課題は一つひとつの事業の収益力をいかに高めるかに尽きる。持ち株会社制への移行で仕組みづくりを整えた今、グループの潜在力を掘り起こすことはできるのか。楠見氏の覚悟と実行力が問われている。
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