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【マテハン世界首位】ダイフク社長・下代博「機械にできることは機械に任せ、人にしかできない仕事は人が担う時代になった」

財界オンライン 2023年7月4日 18時0分

工場や倉庫内のマテリアルハンドリング(マテハン)システムを手掛けるダイフク。社長の下代博氏は「お客さまがもう一段の自動化を求めれば、我々も、もう一段進んだ自動化を提供していかなければならない」と語る。同社はマテハンシステム業界で、9年連続で売上高世界一を獲得。インドへの投資を加速させるなど、次の手を打ち始めている。全ての産業で人手不足が喫緊の経営課題となる中、縁の下の黒子として物流領域でどのように存在感を示していくのか。

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人を減らすための自動化ではない!

 ─ 産業界全般で人手不足が課題になっています。

 下代 はい。当社は、人手不足にどう対応するかという点で、いろいろな形でお手伝いをしています。今は工場や物流センターなどを構築する際には、必ず自動化が検討される時代になりました。

 しかし、マテハンシステム・機器を導入する際の投資に対する考え方は、大きく変化しています。以前であれば、投資を何年で回収できるか、人手で作業する場合と比べて、どれだけのコストメリットがあるかが判断の決め手でした。しかし、これは「人手」という選択肢があった当時の考え方です。

 今は究極の人手不足で、費用対効果が高い、低い、という以前に、とにかく自動化をするしかないという流れになっています。自動化できる作業は、自動化することが前提となり、貴重な人員は自動化ができない作業に振り向ける。

 過去にマテハンを導入済みのお客さまも、工程を見直し、更なる自動化を図り始めました。従来型の自動化投資が一巡して、もう一段高い新たなステージの自動化投資が始まっているのです。

 慢性化する人手不足によって、可能な限り自動化して、機械にできることは機械に任せる。そして、人にしかできないクリエイティブな仕事は人が担う。そういう時代になったと思います。

 ─ 下代さんが入社された当時のマテハンに関する市場環境はいかがでしたか?

 下代 私が入社した頃は、まだ荷物はフォークリフトを使って人が運ぶ時代でした。当時、重宝されていたのは工作機械やプレス機械で、「この機械はお金を生む機械だ」とよく言われました。一方でマテハンシステムはお金を生まない贅沢な機械だと見られていたわけです。

 ところが、工場の生産プロセスにおいては、加工する前に材料を投入しなければなりませんし、加工が終われば、仕掛品を次の工程に運ばなければなりません。更に、完成品は、倉庫に保管しなければならない。そういった工程にも人手が掛かっていました。

 しかし、マテハンシステムを使えば、こうした一連の流れをすべて自動化できます。私は、その重要性を説いていきました。人を減らすよりも1日にできる作業量などを平準化し、品質を安定させれば、生産性を上げることができるのです。

 ─ そこがマテハンシステムの魅力だということですね。

 下代 はい。機械は、夜中でも働きます。あらかじめ加工対象物(ワーク)を段取りし、自動倉庫に保管しておけば、プログラム通りに工作機械に運ばれて、すべてのプロセスを終えることができるのです。工場設備の主役は工作機械などですが、その前後にマテハンシステムを活用することで、最大限に効率化することができます。



取引先の先には消費者がいる

 ─ そういったことが注目されたのは、いつ頃ですか。

 下代 1990年代ですね。その後、流通業でもマテハンシステムが使われるようになりました。スーパーマーケットやショッピングモールが登場し、食品卸などの配送センターが全国につくられ、店舗に出荷するようになり、こうした業界からも当社のマテハンシステムが求められるようになりました。

 ─ 技術開発への取り組み状況を聞かせてください。

 下代 我々が単独で行う技術開発には限界があります。例えば、基本的な物流システムやエンジニアリングは、当社が自ら手掛けることができますが、センシング技術などを一から開発することは、到底できません。そういった取り組みは、外部との協業が必要だと考えています。

 現在、産学協同では、大阪大学と連携し、「ダイフク物流自動化技術共同研究講座」を開設し、多様なニーズに応える次世代物流自動化技術を開発するための共同研究を進めています。

 今後、物流業界でもDXの導入・活用が進んでいくでしょう。しかし、そうした状況においても、人の役割は引き続き重要になります。というのも、機械ですから絶対にトラブルが起こらないとは言い切れません。もし当社が納入したシステムが止まってしまえば、お客さまの事業に多大なる影響を及ぼしてしまいます。

 したがって、故障は必ず起こることを前提に考える必要があり、24時間365日、お客さまの元に直ぐに駆けつけることができるようにスタッフを配置したサービス拠点をたくさん構えています。「お客さまの物流を止めない」そして「もし、止まっても可能な限り早く復旧させる」ことが当社の使命です。

 そのために、当社では、お客さまの現場の稼働状況を遠隔監視システムでモニタリングして、故障が発生した際の原因をいち早く特定できるようにしたり、AIを用いて寿命に近づいた部品を事前に予知して、交換できるようにしたりしています。

 我々の仕事はB to Bではありますが、お客さまのその先は、一般のお客さまと直結しています。ですから、我々はB to Cの仕事をさせていただいているのと同じ意識を持たなければなりません。

 ─ コロナ禍3年で業績は堅調に推移しました。

 下代 お陰さまでコロナ禍の3年間は増収増益でした。2023年3月期も売上高、利益共に過去最高を達成し、受注高も過去最高になっています。当社の事業は、1つの業種のお客さまに偏っておらず、グローバルで多種多様なお客さまとのお付き合いがあり、多岐にわたる事業ポートフォリオを有している強みがあります。

 よって、ある業種の景況が悪くても、その他の業種で補うことができ、日本国内の市場が停滞していても、海外の市場で事業を拡大することができるのです。



日本初や世界初の製品開発

 ─ これまでダイフクは、日本初、世界初を創出してきました。これはソフトの力と言って良いでしょうか。

 下代 システム開発力と言えるのではないかと思います。

 そもそもマテハンシステムは、日本発ではありません。例えば、ドイツのメーカーが有していた天井を走行する「テレリフト」を病院における事務管理の省力化のために、カルテや検体を搬送するシステムとして提案・納入したのは当社です。

 現在、半導体工場向けのウエハ搬送システムとして活用されている当社の主力製品「クリーンウェイ」は、このテレリフトを発展させたものです。

 ─ 既存のものでも、それを進化させてきたわけですね。

 下代 ええ。我々は海外や日本にある技術を持ち込んで、ブラッシュアップし、更に他の事業部門に水平展開したりする開発を続けてきました。

 その他、半導体・液晶向けシステムには欠かせない非接触給電技術があります。クリーンルームの中で、トロリーで集電をすると、塵や粉など目に見えない小さなゴミが発生してしまいます。そこでコイルを使って磁界をつくり、非接触で電気を供給できるシステムをニュージーランドのオークランド大学と提携して開発しました。

 今では、自動車業界や半導体・液晶業界だけでなく、食品・製薬など、さまざまな業界のお客さまに採用され、世界中で活用いただいています。

 ─ ソリューションの提供を創業以来やってきたと。

 下代 そうです。今までとは違うものを開発すると同時に、できるだけ標準化を図りながら、共通のパーツを使うことで生産性も上げています。いかに簡単に、手間をかけずにつくれるか。そういう生産技術を高めていくことが重要になります。

 ─ 売上比率では海外が大きくなっていますね。

 下代 はい、グループの海外売上高比率は67%です。当社は、世界最適地での生産・調達体制の整備に努めており、世界25の国と地域に現地法人を展開し、連結子会社は国内外合わせて69社に及びます。



今後はインドに注力

 ─ 新たな市場としてインドにも注力していますね。

 下代 当社は2005年に日系自動車メーカーの生産ラインを手掛けるためにインドに進出しました。その後、一般製造業・流通業向けシステムの高まる需要に対応するため、19年に同業のVega社にグループに加わってもらいました。

 同社はハイテク都市として知られているハイデラバードに拠点を構えており、一昨年に同社の敷地内に新工場を建設しましたが、近年、インドの経済は急成長しており、今は製造業が中心であるものの、これからは流通業も増え、eコマースの普及も期待できることから、先般、近郊の工場団地に新たな敷地を取得し、新工場を建設する予定です。

 これまでは、中国が世界の成長を牽引していましたが、これからは投資も含めて、インド市場に期待しています。そして、これを機にVega社の社名を「Daifuku Intralogistics India」に変更し、インドにおける「DAIFUKU」のプレゼンスを発揮していきます。

 ─ 昨年、滋賀事業所内にある世界最大級のマテハン・ロジスティクス体験型総合展示場をリニューアルしています。

 下代 はい。「日に新た館」は、1994年の開館以来、世界約90の国と地域から、延べ約50万人のお客さまにご来館いただいています。しかし、コロナ禍の中で、一般見学受入れを中止しなければならなくなり、その間に館内の展示品を全て最新のシステムに入れ替え、昨年の6月にリニューアルオープンをしました。

 ダイフクグループのマザー工場があるこの場所で、実際に当社のマテハンシステムが稼働する様子をご覧いただき、我々のソリューションを体感いただくことができます。

 滋賀事業所は、約120万平米の敷地を有し、地域社会に愛され、従業員の幸福を満たす工場という「インダストリアル・パーク構想」のもと、1970年に開所しました。敷地内には、絶滅危惧種のヤマトサンショウウオなどの希少生物が生息し、「生物多様性保全」を宣言しています。

 2013年には、当時、滋賀県内で最大規模の4.4メガワットの太陽光発電システムを設置し、現在は、事業所内で使用する電力は再生エネルギー100%で賄っています。

 また、周辺地域の歴史や植生を考慮した緑化の推進、無農薬による緑地管理を積極的に推進したことから、周辺地域の環境向上に顕著な功績があったとして、2017年度の「緑化優良工場等経済産業大臣表彰」の受賞工場に選定されました。

 当社グループは、10年先、20年先といった未来においても社会から必要とされる会社であり続けるため、お客さまをはじめとするステークホルダーに対する提供価値を変革すると共に、前例にとらわれない柔軟で創造性豊かな発想力と既存の枠組みを変革していく実行力により、更なる飛躍を目指します。

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