日本はなぜソフトではなくハードを追い続けるのか?
─ 人口減少により、ほぼ全ての産業で人手不足が顕著になっている一方で、「チャットGPT」のような生成AI(人工知能)も登場しています。これからの人とAI、人と機械の関係を含めて、日本の可能性をどのように考えていますか。
金丸 今、政府は経済安全保障という観点から、半導体分野にもう一度挑戦しようとしています。高性能なCPU(中央演算処理装置)などのロジック半導体の製造では、日本は台湾や韓国の後塵を拝しています。そのため、日本政府はソニーグループやトヨタ自動車など、大手8社が出資した半導体の新会社、ラピダスに巨額の補助金を投じています。
「日米欧の国際連携で最先端の半導体を」ラピダス・小池淳義の決意
こうした動きを見ていて思うのは、日本はやはり、設計やデザインといったソフトウェアではなく、製造などのハードウェアに注力する傾向にあるということです。
もちろん、ものづくりも重要ですし、製造業が日本の高度経済成長を支えてきましたが、米国ではインターネットの登場によって、産業構造が製造から設計やソフトウェアにシフトしました。その結果、世界の時価総額上位は米国発の巨大IT企業が占めています。
AIビジネスが注目されている今、グローバル競争から取り残されないためにも、日本はもっとソフトウェアやデザインに関心を持つべきではないか、と思います。
チャットGPTや生成AIについても、政府は戦略的に取り組もうとしていますが、この分野こそソフトウェアで世界と勝負しなくてはなりません。政府がコンピュータサイエンスを強化して、真剣にAI立国を目指すのであれば、まずは教育のあり方、特に大学改革に取り組むべきでしょう。
デジタル人材の不足は、国の発展を左右する問題です。絶対的に不足している理系人材を増やすためにも、現在の理系3割・文系7割という比率を見直し、特に情報系の学部を増やしていくことが不可欠です。教育のあり方を含めた戦略の見直しと再構築に向けたロードマップの作製を政府主導で行っていただきたいと思っています。
─ そこは企業人が引っ張っていくことはできませんか。
金丸 もちろん企業人も協力すべきですし、大学も、大学を所管する文部科学省も変わらないといけません。今こそ日本をどうするかというトータルなデザインが必要です。
日本人は自分たちの可能性を否定している
─ 製造業以外の可能性について思うところを聞かせてください。
金丸 日本は今まで工業製品の輸出に注力してきましたが、これからは日本各地の伝統的な工芸品や農産物、そしてサービス産業をもっと輸出すべきだと思います。
昨年末のサッカー・ワールドカップで活躍した田中碧選手が、岩手県の伝統的工芸品「南部鉄器」を愛用していることが話題になりました。不足しがちな鉄分が効率的にとれるということで、10万円以上もする商品を特に中国の富裕層がこぞって購入しているそうです。
また、海外では日本のフルーツは、甘くて美味しいと非常に人気です。タイやシンガポールでは、1パック1400円のイチゴが入荷と同時に売り切れると聞きます。冷凍技術が進化しているので、付加価値の高い農作物の輸出により力を入れてほしいですね。
『ドン・キホーテ創業者』安田隆夫の「現場主義と顧客最優先主義に徹して」
─ まだまだ日本にはポテンシャルがあると。
金丸 もちろんです。残念ながら、日本人は自分たちの可能性に気づいていないだけでなく、可能性を自己否定しているようにも感じます。
日本はこれだけおもてなしやサービスのクオリティーが高いのに、海外のようにお客様からチップを取らないですよね。どこのレストランや居酒屋に行っても、店員さんが笑顔で迎えてくれて、料理も素早く運んでくれる。しかし、米国ではサービスの良し悪しにかかわらず、チップは食事代の2割以上払わないといけない。だから、日本に来た外国人は、感動して帰るわけです。
だったら、会計時のレシートにチップ欄を設けて、おもてなしやサービスに感動してくれた人からサービス料をもらえばいいのではないでしょうか。1割、2割の売上アップはすぐに達成できるはずです。
─ こうした仕組みをつくらなかったのは、日本の国民性ですか。
金丸 国民性というか、提供するサービスに見合った対価を得るという発想がなく、また時代のニーズに合ったサービスの仕組みをデザインしてこなかったのだと思います。
先日、郷里の鹿児島に帰ったのですが、空港で乗ったタクシーは現金でしか支払いができませんでした。
こうしたキャッシュレス対応の遅れは、特に地方が顕著です。海外では今やキャッシュレスが当たり前で、米国人も中国人もヨーロッパ人も、当然、現金は不要だと思っています。だから、タクシーを降りる時に支払いでトラブルになったという話をよく聞きます。
コロナ禍の3年間で外国人観光客は激減しましたが、コロナの収束と円安が追い風となり、訪日観光客が一気に増えています。それなのにキャッシュレスに対応できないのは、大きなビジネスチャンスを逃していることと同じです。日本人は可能性を自己否定していると言ったのは、そういう意味です。
続きは本誌で
─ 人口減少により、ほぼ全ての産業で人手不足が顕著になっている一方で、「チャットGPT」のような生成AI(人工知能)も登場しています。これからの人とAI、人と機械の関係を含めて、日本の可能性をどのように考えていますか。
金丸 今、政府は経済安全保障という観点から、半導体分野にもう一度挑戦しようとしています。高性能なCPU(中央演算処理装置)などのロジック半導体の製造では、日本は台湾や韓国の後塵を拝しています。そのため、日本政府はソニーグループやトヨタ自動車など、大手8社が出資した半導体の新会社、ラピダスに巨額の補助金を投じています。
「日米欧の国際連携で最先端の半導体を」ラピダス・小池淳義の決意
こうした動きを見ていて思うのは、日本はやはり、設計やデザインといったソフトウェアではなく、製造などのハードウェアに注力する傾向にあるということです。
もちろん、ものづくりも重要ですし、製造業が日本の高度経済成長を支えてきましたが、米国ではインターネットの登場によって、産業構造が製造から設計やソフトウェアにシフトしました。その結果、世界の時価総額上位は米国発の巨大IT企業が占めています。
AIビジネスが注目されている今、グローバル競争から取り残されないためにも、日本はもっとソフトウェアやデザインに関心を持つべきではないか、と思います。
チャットGPTや生成AIについても、政府は戦略的に取り組もうとしていますが、この分野こそソフトウェアで世界と勝負しなくてはなりません。政府がコンピュータサイエンスを強化して、真剣にAI立国を目指すのであれば、まずは教育のあり方、特に大学改革に取り組むべきでしょう。
デジタル人材の不足は、国の発展を左右する問題です。絶対的に不足している理系人材を増やすためにも、現在の理系3割・文系7割という比率を見直し、特に情報系の学部を増やしていくことが不可欠です。教育のあり方を含めた戦略の見直しと再構築に向けたロードマップの作製を政府主導で行っていただきたいと思っています。
─ そこは企業人が引っ張っていくことはできませんか。
金丸 もちろん企業人も協力すべきですし、大学も、大学を所管する文部科学省も変わらないといけません。今こそ日本をどうするかというトータルなデザインが必要です。
日本人は自分たちの可能性を否定している
─ 製造業以外の可能性について思うところを聞かせてください。
金丸 日本は今まで工業製品の輸出に注力してきましたが、これからは日本各地の伝統的な工芸品や農産物、そしてサービス産業をもっと輸出すべきだと思います。
昨年末のサッカー・ワールドカップで活躍した田中碧選手が、岩手県の伝統的工芸品「南部鉄器」を愛用していることが話題になりました。不足しがちな鉄分が効率的にとれるということで、10万円以上もする商品を特に中国の富裕層がこぞって購入しているそうです。
また、海外では日本のフルーツは、甘くて美味しいと非常に人気です。タイやシンガポールでは、1パック1400円のイチゴが入荷と同時に売り切れると聞きます。冷凍技術が進化しているので、付加価値の高い農作物の輸出により力を入れてほしいですね。
『ドン・キホーテ創業者』安田隆夫の「現場主義と顧客最優先主義に徹して」
─ まだまだ日本にはポテンシャルがあると。
金丸 もちろんです。残念ながら、日本人は自分たちの可能性に気づいていないだけでなく、可能性を自己否定しているようにも感じます。
日本はこれだけおもてなしやサービスのクオリティーが高いのに、海外のようにお客様からチップを取らないですよね。どこのレストランや居酒屋に行っても、店員さんが笑顔で迎えてくれて、料理も素早く運んでくれる。しかし、米国ではサービスの良し悪しにかかわらず、チップは食事代の2割以上払わないといけない。だから、日本に来た外国人は、感動して帰るわけです。
だったら、会計時のレシートにチップ欄を設けて、おもてなしやサービスに感動してくれた人からサービス料をもらえばいいのではないでしょうか。1割、2割の売上アップはすぐに達成できるはずです。
─ こうした仕組みをつくらなかったのは、日本の国民性ですか。
金丸 国民性というか、提供するサービスに見合った対価を得るという発想がなく、また時代のニーズに合ったサービスの仕組みをデザインしてこなかったのだと思います。
先日、郷里の鹿児島に帰ったのですが、空港で乗ったタクシーは現金でしか支払いができませんでした。
こうしたキャッシュレス対応の遅れは、特に地方が顕著です。海外では今やキャッシュレスが当たり前で、米国人も中国人もヨーロッパ人も、当然、現金は不要だと思っています。だから、タクシーを降りる時に支払いでトラブルになったという話をよく聞きます。
コロナ禍の3年間で外国人観光客は激減しましたが、コロナの収束と円安が追い風となり、訪日観光客が一気に増えています。それなのにキャッシュレスに対応できないのは、大きなビジネスチャンスを逃していることと同じです。日本人は可能性を自己否定していると言ったのは、そういう意味です。
続きは本誌で