「渋谷らしさを維持するような仕掛け、仕組みづくりを」─。東急不動産新社長の星野浩明氏はこう話す。東急グループの渋谷再開発が「第2フェーズ」に入っている。渋谷駅から半径2.5キロを「広域渋谷圏」として、開発エリアを拡大しているのだ。その中で、東急不動産は東京・原宿を舞台にクリエイターなど「人」とともに街や施設の形をつくっていく新たな手法への取り組みを始めた。その中身とは。
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今後の不動産市場はどうなる?
「現状は、心配ではないが、注視していきたいという状況」と今の不動産業界の状況を表現するのは、東急不動産新社長の星野浩明氏。
欧米を中心とする金利上昇を受けて、低金利が続いてきた日本の金利環境がどうなるかは、不動産業界にとっては注目の的だった。なぜなら「この数年の不動産業界は低金利による販売好調が大きかった」(星野氏)から。その意味で金利上昇を警戒していたが、日本銀行の政策は当面緩和政策を維持する方針で、まだ低金利が続きそう。
だが、一方でロシア・ウクライナ戦争などを受けたエネルギーコスト上昇、輸入インフレによって、建設関連コストの高騰が続く。かといって、すでにマンション価格などは高水準となっており、簡単に価格を上げることは難しい。
「オフィスは入居率、賃料とも安心できる内容。マンションも販売状況は非常に好調。この1、2年は見えているが、その先の開発ではコストを注意する必要がある」
東急不動産、そして東急グループは近年、渋谷再開発に注力しているが、星野氏は「今年、いくつか竣工するプロジェクトがあるが、『広域渋谷圏』に腰を据えて取り組んでいきたい」と話す。
東急グループの渋谷再開発は「第2フェーズ」に入っている。駅周辺のビル開発、基盤整備が第1フェーズ、渋谷駅を中心とした半径2.5キロ圏内の「広域渋谷圏」に開発エリアを広げていくのが第2フェーズとなる。
その中で星野氏は「渋谷の『多様性』を大事にしていきたい」と強調。街を訪れるのは若い世代だけではなく年齢層の幅が広がっており、外国人の流入も多い。そうした多様な人々を受け入れる開発が求められている。
その象徴とも言えるのが、24年春に開業を予定している「東急プラザ原宿」、通称「ハラカド」。現在、神宮前交差点には「東急プラザ表参道原宿」(東急プラザ表参道に改称、通称「オモカド」)が立つが、ハラカドはその対角線上に立地する。
この施設では「コミュニケーション、文化の再生産を企図している」(星野氏)。多様な人々が集まり、新たなトレンドを発信し、集まる人達がさらに新しい文化を生み出してきたのが渋谷の魅力。「渋谷らしさを維持するような仕掛け、仕組みづくりを街としてやっていきたい」
今回、東急不動産は、この広域渋谷圏のコンセプトを「人と、はじめよう。」とした。最近の再開発では、どうしても「ビルが何本できた」、「面積が何倍になった」といった「ハード面」が注目されることが多かった。
それを今回の開発ではクリエイターなど「人」とともに、文化や街の雰囲気など「ソフト面」の取り組みを強化している。
例えば、東京・高円寺で今、若者に人気の老舗銭湯「小杉湯」が今回、ハラカドの地下に入る。また、クリエイターが集うラウンジも用意。そしてクリエイターなど施設入居者も施設運営のコミュニティに参加するなど、新たな商業施設運営のあり方に挑戦しようとしている。
こうした取り組みによって「我々も制御できないような文化が発生してくることを楽しみにしている」と星野氏。
今後の商業施設のあり方について、東急不動産ホールディングス社長の西川弘典氏は、かねてから「多くの方に『出かけてみよう』と思っていただけるコンテンツを用意しなければ、都心の商業施設は生き残っていけない」という問題意識を持ってきた。
今回の東急不動産の取り組みは、その一つの形を示したと言える。「我々は『コンテンツ型』にシフトしようとしている。全てが当たるわけではないがトライをして、新たな収益モデルを築いていきたい」と星野氏。
土地を開発して賃料を得るというデベロッパーとしてのモデルだけでなく、開発した施設にコンテンツを用意して人を集め、その「入場料」で収益を得るといった考え方。
23年10月開業予定で、代官山駅前に位置する「フォレストゲート代官山」は商業施設に加え、建築家の隈研吾氏や、造園家、フードエッセイストといった3名のパートナーとサステナブルなライフスタイルを提案する住戸も企画。ここも「コンテンツ」、「ソフト」を重視する。
東急不動産HDでは21年に10年先を見据えた「GROUP VISION 2030」を打ち出したが、星野氏は西川氏とともに策定に携わった。スローガンは「ウィー・アー・グリーン」で、再生エネルギー開発など環境事業に取り組む決意を示すものとなった。
加えて星野氏は「『ウィー・アー』という部分が大事だと思っている」と話す。前述の広域渋谷圏開発でも、提供するハード、ソフトが複合化し、「境目がなくなってきている」。そこに対して、グループ全体で一緒に動いていこうという思いを込めた。
星野氏は1965年埼玉県生まれ。89年慶應義塾大学経済学部卒業後、東急不動産入社。執行役員、常務執行役員などを経て、22年取締役専務執行役員、23年4月に代表取締役社長に就任した。東急不動産HD取締役執行役員も兼務。
「東急不動産は東急不動産HDの中核企業。グループの他社との協力体制をリードし、新たな価値を生み出していきたい」と抱負を語る。
4月に社長に就任後、社内に「UNITE」(団結)という言葉で訴えてきた。事業領域が広い会社だけに、その力を結集できるかが問われる。先行き不透明な市場にあって、新たな取り組みに踏み出した東急不動産。まずは今年、新施設開業でその成否が問われる。
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今後の不動産市場はどうなる?
「現状は、心配ではないが、注視していきたいという状況」と今の不動産業界の状況を表現するのは、東急不動産新社長の星野浩明氏。
欧米を中心とする金利上昇を受けて、低金利が続いてきた日本の金利環境がどうなるかは、不動産業界にとっては注目の的だった。なぜなら「この数年の不動産業界は低金利による販売好調が大きかった」(星野氏)から。その意味で金利上昇を警戒していたが、日本銀行の政策は当面緩和政策を維持する方針で、まだ低金利が続きそう。
だが、一方でロシア・ウクライナ戦争などを受けたエネルギーコスト上昇、輸入インフレによって、建設関連コストの高騰が続く。かといって、すでにマンション価格などは高水準となっており、簡単に価格を上げることは難しい。
「オフィスは入居率、賃料とも安心できる内容。マンションも販売状況は非常に好調。この1、2年は見えているが、その先の開発ではコストを注意する必要がある」
東急不動産、そして東急グループは近年、渋谷再開発に注力しているが、星野氏は「今年、いくつか竣工するプロジェクトがあるが、『広域渋谷圏』に腰を据えて取り組んでいきたい」と話す。
東急グループの渋谷再開発は「第2フェーズ」に入っている。駅周辺のビル開発、基盤整備が第1フェーズ、渋谷駅を中心とした半径2.5キロ圏内の「広域渋谷圏」に開発エリアを広げていくのが第2フェーズとなる。
その中で星野氏は「渋谷の『多様性』を大事にしていきたい」と強調。街を訪れるのは若い世代だけではなく年齢層の幅が広がっており、外国人の流入も多い。そうした多様な人々を受け入れる開発が求められている。
その象徴とも言えるのが、24年春に開業を予定している「東急プラザ原宿」、通称「ハラカド」。現在、神宮前交差点には「東急プラザ表参道原宿」(東急プラザ表参道に改称、通称「オモカド」)が立つが、ハラカドはその対角線上に立地する。
この施設では「コミュニケーション、文化の再生産を企図している」(星野氏)。多様な人々が集まり、新たなトレンドを発信し、集まる人達がさらに新しい文化を生み出してきたのが渋谷の魅力。「渋谷らしさを維持するような仕掛け、仕組みづくりを街としてやっていきたい」
今回、東急不動産は、この広域渋谷圏のコンセプトを「人と、はじめよう。」とした。最近の再開発では、どうしても「ビルが何本できた」、「面積が何倍になった」といった「ハード面」が注目されることが多かった。
それを今回の開発ではクリエイターなど「人」とともに、文化や街の雰囲気など「ソフト面」の取り組みを強化している。
例えば、東京・高円寺で今、若者に人気の老舗銭湯「小杉湯」が今回、ハラカドの地下に入る。また、クリエイターが集うラウンジも用意。そしてクリエイターなど施設入居者も施設運営のコミュニティに参加するなど、新たな商業施設運営のあり方に挑戦しようとしている。
こうした取り組みによって「我々も制御できないような文化が発生してくることを楽しみにしている」と星野氏。
今後の商業施設のあり方について、東急不動産ホールディングス社長の西川弘典氏は、かねてから「多くの方に『出かけてみよう』と思っていただけるコンテンツを用意しなければ、都心の商業施設は生き残っていけない」という問題意識を持ってきた。
今回の東急不動産の取り組みは、その一つの形を示したと言える。「我々は『コンテンツ型』にシフトしようとしている。全てが当たるわけではないがトライをして、新たな収益モデルを築いていきたい」と星野氏。
土地を開発して賃料を得るというデベロッパーとしてのモデルだけでなく、開発した施設にコンテンツを用意して人を集め、その「入場料」で収益を得るといった考え方。
23年10月開業予定で、代官山駅前に位置する「フォレストゲート代官山」は商業施設に加え、建築家の隈研吾氏や、造園家、フードエッセイストといった3名のパートナーとサステナブルなライフスタイルを提案する住戸も企画。ここも「コンテンツ」、「ソフト」を重視する。
東急不動産HDでは21年に10年先を見据えた「GROUP VISION 2030」を打ち出したが、星野氏は西川氏とともに策定に携わった。スローガンは「ウィー・アー・グリーン」で、再生エネルギー開発など環境事業に取り組む決意を示すものとなった。
加えて星野氏は「『ウィー・アー』という部分が大事だと思っている」と話す。前述の広域渋谷圏開発でも、提供するハード、ソフトが複合化し、「境目がなくなってきている」。そこに対して、グループ全体で一緒に動いていこうという思いを込めた。
星野氏は1965年埼玉県生まれ。89年慶應義塾大学経済学部卒業後、東急不動産入社。執行役員、常務執行役員などを経て、22年取締役専務執行役員、23年4月に代表取締役社長に就任した。東急不動産HD取締役執行役員も兼務。
「東急不動産は東急不動産HDの中核企業。グループの他社との協力体制をリードし、新たな価値を生み出していきたい」と抱負を語る。
4月に社長に就任後、社内に「UNITE」(団結)という言葉で訴えてきた。事業領域が広い会社だけに、その力を結集できるかが問われる。先行き不透明な市場にあって、新たな取り組みに踏み出した東急不動産。まずは今年、新施設開業でその成否が問われる。